『追放者達』、現状を把握する
「いや、助かった!貴殿らが駆け付けてくれなければ、このベルーダもどうなっていたか分からんからな!
貴殿らの協力に感謝する!」
そう言って豪快に笑いながらアレスへと手を差し出して握手を求めるのは、このベルーダの領主にして、防備を固めるべく派遣されていたガンダルヴァ軍の将軍でもあるガルガノンと名乗った岩人族だ。
岩人族の種族的特徴のままに低身長で髭もじゃである故に一見見分けが付きにくそうではあるのだが、その燃える様な赤毛と鮮血で真っ赤に染められた様な髭は否応無しに人目を引くし、何より傷だらけになりながらも風格と存在感の輝きを失わない業物の鎧と大斧を手にされていれば、嫌でも判別が出来てしまうと言うモノだろう。
現に、ベルーダが城門を開いた時には真っ先に魔物の大群へと突撃し、彼らの処まで血路を開いたのはガルガノンなのだから、流石に似た見た目が多いからと言っても見間違える事はそうそう無いだろう。
そんな彼の差し出して来た手を力強く握り返し、アレスも言葉を返す。
「何、これもガシャンダラ王からの依頼の内さ。気にしなさるな。どうしても、と言うのなら、後でギルドを経由して幾らか振り込んでくれればソレで良いよ」
「そんな事でよいのか?
まぁ、貴殿らは冒険者故に、その様なモノかも知れぬが……」
「そんなモノだよ。
ガシャンダラ王から補給物資も預かってきているし、必要なら人員輸送の護衛も引き受けてあるけど、どうする?何処に置けば良い?」
「そうか!そいつは大助かりだ!
取り敢えず、まだベルーダからは避難民を逃がさなきゃならない状態には無いから、他の処に行ってやってくれ。
物資に関しては、後で場所を指示するからソコで下ろして貰えると助かる!」
「了解だ。
……処で、一つ尋ねたいんだが、良いか?」
「うむ、良いぞ!
貴殿らはベルーダ全体の命の恩人故に、このガンダルヴァの機密以外であれば何でも聞いてくれ!」
「……なら、聞かせてくれないか?
何で、あんなに手間取っていたんだ?確かに数は多かったが、貴方達ならばどうにでも出来たんじゃないのか?」
「…………うむ、それについてなのだが……」
痛いところを突かれた、と言わんばかりの表情にて唸り声を挙げながら考え込んでしまうガルガノン。
これは、恐らくは別段答えを考えている、と言う訳ではなく、応えるべきか考えている、と言った処なのだろうとアレスは思考する。
…………そもそもの話、彼らが今回薙ぎ払った魔物の大群は、数こそは多かったが、個体個体で見ればそこまで厄介なモノは多くなかったし、強さから計ったランクとしても精々がBランクの中位程度から、高くともAランクの下位に相当する程度のモノでしか無かった。
であれば、数こそは多かったが、精強で知られ個人個人が冒険者で言う処のBランクと同等であると聞く彼ら岩人族の精鋭達であるのならば、多少苦しい盤面が在りはしただろうが十二分に対処出来ていたハズだし、強力な個体に関してもガルガノンの様なエース級が当たれば十分に処理出来ていたハズなのだ。
なので、端から見ているだけとは言えスペックから鑑みるに、少なくともここまで彼らが追い込まれ、悪戦苦闘するハズが無い、と言う疑問から、アレスはその様な問いを投げ掛けたのだ。
そんなアレスからの問い掛けにガルガノンが悩む事暫し。
漸く、彼の内部でどう答えるべきなのかの整理が着いたのか、真剣な表情を浮かべながら言葉を口にする。
「…………うむ、そうだな。混乱や恐慌を恐れて秘していた情報だが、この段に至っては寧ろ抱えている方が被害が大きくなる、と言うモノか。
……貴殿は、こう問われたな?何故打って出ないで被害を広めたのか、と」
「……まぁ、意訳すればそうなるのは、否定はしませんよ」
「……ふっ、まぁ、そう考えるのが当然、と言うモノか。実際に、某も最初はそう考えていたし、実際にそうしようとしてもいた。
……しかし、そうはならなかった。何故だか分かるか?」
「いや?分からないから、聞いている訳なんだが?」
「くははっ!違いない!正しくその通りよ!
……だが、そうはならなかった。当然、そうならなかったのにはそれなりに理由が在る。コイツが、その理由だ」
そう言って、アレスからの失礼な程に正直すぎる程に正直な返答を豪快に笑い飛ばしたガルガノンは、付近に散らばる魔物の死体の中へと視線を向けると、とある死体へと向けて指差した。
それは、一見生物には見えない様な見た目をした、毒々しい赤色に染まったゼリー状の物体であった。
その体積は多く見積もっても大人一人分在るかどうか、と言った処であり、他には中心部と思わしき場所に魔核と見られる結晶が入っている程度だが、かなり重量自体は在るらしく、そのゼリー状の魔物の死体に押し潰される様な形で死んでいる魔物も見受けられる程だ。
そうして指摘されて良く良く見てみれば、周囲の地面に転がる魔物の死体の内、半数……とまでは行かなさそうだが、ソレなりの割合をそのゼリー状の魔物が占めているらしい事が見て取れた。
ソレを表情にも浮かんでいる苛立ちのままにガルガノンが蹴り飛ばすと、その衝撃をゼリー状の身体が全て吸収しただけでなく、歪められた形状が戻る際の反発力で蹴り飛ばしたガルガノンの足が弾き返されてしまう。
「…………見ての通り、コイツには打撃が通じ無い。
打撃処か、下手な斬撃も通じ無い。
某ら岩人族の主兵装は、専ら斧や鎚だ。お陰で、コイツらが多く出ている場所では、某らでは手が出なかった、と言う訳よ。
おまけに、コイツら以外の魔物を間引こうモノなら、その死体を喰らってコイツらが増えやがったのでな。そうそうに出撃して撃破する、と言う手が使え無かったのだよ」
「…………でも、俺達は普通に物理で斬ったり貫いたりして倒せてたみたいだけど?」
「それは、貴殿らが魔法を使っていたからよ。
コイツらは、そのままだと極端に物理の攻撃が通りにくいが、一度魔力に当てられると、途端に攻撃が通る様になる性質が在るらしくてな。
まぁ、とは言っても、普通に魔法を直撃させる位の事をしないと、そうはなってくれないのだがな」
「……まぁ、だとしたら大問題だな。特に、この国だと余計に」
「……あぁ、そうだ。
種族的な特色として、獣人族程では無いにしても高い身体能力と比類無き頑強さを誇る代わりに、戦闘での実用レベルに達する程の魔力量を持たないのが某ら岩人族だ。
ここにも、その中でも数少ない魔術師系統の天職を持つ者達を集めた部隊が配置されてはいたが、他の種族の魔術師と比較すると全くもって魔力が足りないが為に、連続して投入する事すらも出来ない文字通りの『奥の手』だったからな。今回もギリギリまで投入する事が出来なかったのだよ」
「成る程、ねぇ……確かにそんな事情が在ったのなら、あそこまで押し込まれもする、ってモノか」
「そう言う事だ。
こうして、取り敢えず某の処は貴殿らの協力のお陰でお陰で今回はどうにかなったが、もしコイツが他の処にも出現していると言うのだとすれば、どれだけの被害が出る事になるのか、考えたくも無いと言うモノよ……」
そう、重々しく言い切ったガルガノンの表情は、髭に隠されていてもハッキリと解る程に苦々しくしかめられていたのであった……。
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