暗殺者、過去の因縁と遭遇する
「ようこそお出で下さいました。
わたくし、当宿の支配人を務めるレイーラと申します。
皆様がご不満無くお過ごし頂ける様に努めさせて頂きますので、どうか如何様にもお申し付け下さいませ」
そう言って、宿の入り口にて靴を脱がされた(土足禁止らしい)アレス達『追放者達』のメンバーへと、深々と頭を下げて来たのは、パッと見は年の頃が十になろうか、と言った幼い女児であった。
外見も声も揃って幼く見えるレイーラ支配人であったが、岩人族の種族特性によってそう見えるだけであり、その胸部は同じ年頃の他の種族では有り得ない程の盛り上がりを見せており、良く良く見てみればボディラインは大人のソレと等しい曲線を描いている様にも見えた。
ソレにより、似たような背丈でありながら自らの平らな胸部をペソペソと叩いて絶望する者や、努力して育てているがそれでも自らのソレよりもボリュームの在るソレを見て血涙を流して床を叩く者と言った、一部メンバーによる地獄絵図が繰り広げられる事となってしまっていたが、それらのカバーはそれぞれのパートナーに投げる事にして、アレスは支配人に部屋への案内を願い出る。
「……取り敢えず、休みたいので部屋までの案内をお願い出来ますか?」
「畏まりました。では、こちらにどうぞ」
そう言って彼らへと背を向け、建物の奥へと向かって歩き出すレイーラ支配人。
胸部装甲だけでなく、下半身の曲線も目を見張るモノがあり、嫌な予感がして咄嗟に視線を逸らしたアレスは満面の笑みを浮かべながらセレンに腕を絡められるだけで済んだが、割りとオープンスケベを地で行っているヒギンズや、お堅そうに見えて意外とムッツリスケベなガリアンは、半ば釣られる形でそちらへも視線を注いでしまっていた事が各自のパートナーにバレたらしく、つねられたり足を踏まれたりして苦痛の呻きや小さな叫びを挙げていた。
そうしてレイーラ支配人の先導によってロビーを抜けた処で一旦止まり、横手の通路を腕を差し伸べて施設の説明を始める。
「こちらに見えます右手側の通路を進んだ先が、当宿自慢の大浴場となっております。
そちらは、基本的には男女別となっておりますが、一部カップルの方々等にて使って頂ける『貸し切り湯』もございます。
もちろん、これからご案内させて頂く予定のお部屋にも、個別に小さな浴場を付けさせて頂いておりますので、そちらで入浴して頂く事も可能でございます。
次いで、左手側の通路ですが、大人数で使用する事を前提としております宴会場へと繋がっております。
もちろん、皆様にもご使用頂けますが、これからご案内致しますお部屋の方でもお食事は召し上がって頂けます。如何致しましょう?」
「…………いや、今回は部屋の方でお願いします」
「承知致しました。
では、引き続きお部屋の方にご案内させて頂きます」
再度軽く頭を下げてから、通路を奥へと進んで行くレイーラ支配人と、その背中に続いて歩いて行くアレス達。
幾つかの通路を通り過ぎ、幾つもの部屋を通り過ぎて奥へと進んで行くと、別館、と呼んでも差し支えは無いであろう、渡り廊下にて繋がっている建物へと到着する。
案内されて到着したその別館には、大雑把に言って部屋が四つ。
一つは、広々としていて全員で集まって過ごす為のモノであろう事が見て取れた。
そして、他の三つは、支配人の説明の通りに小さい浴場(それでも十分広い)がそれぞれに備え付けられており、寝室と思わしき草を編んで作られたモノで床が敷設され、ベッドでは無く直接その上に布団が敷かれている部屋が繋がっていた。
……しかし、その床に直接敷かれていた布団は、三つの部屋に二つずつくっ付けて敷かれており、まるでパートナー同士でお使い下さい、と言わんばかりの様相を挺していた為に、同行していたレイーラ支配人に対して抗議の意味合いも込めて視線を送る。
すると、彼女は涼しい顔をしながら、さもなんて事は無い、と言わんばかりの様子で口を開く。
「おや?てっきり、皆様既にパートナーが出来上がっているモノだとばかり思っておりましたが、わたくしめの早とちりだったでしょうか?
もしそうなのでしたら、別の部屋を手配致しますが……」
「「「いえ、このままで大丈夫です(なのです)!」」」
「で、ごさいましたら、他にご用命はございますか?
もし、ございません様でしたら、わたくしめはこれにて下がらせて頂きます。
お食事は、この『時計』が七の数字を示す頃にお持ち致しますので、もしお出掛けになられるようでしたら、ソレまでに誰かお一人はお戻りになって頂けると有り難く存じます。
では、これにて失礼致します」
そして、何故か女性陣による強烈なプッシュによってそのまま部屋を使う事が確定した彼らに対し、岩人族達が独自に開発・使用している『時計』と呼ばれる時間を測る道具を部屋へと置くと、最後にもう一回頭を下げてから部屋を退出して行くレイーラ支配人と、気を利かせたのかいつの間にか姿が見えなくなっているドヴェルグ。
部外者が居なくなり、かつ女性陣がはしゃぎ始めた事もあって、取り敢えず武装を解除して身軽になり、部屋に備え付けられている道具の類いを確認し始める男性陣。
それにより、入浴時に使うと思われるタオルの類いと、寝間着の類いと思わしき前合わせの衣服を発見したが、それで既に手持ち無沙汰となってしまう。
未だに置かれた時計の針が示すのは数字の五よりの四であり、まだまだ夕食が供される時刻よりも大分早いのは間違いないし、そもそもガシャンダラ王に振る舞われた食事がまだ腹に溜まっているので、特に空腹を感じてもいなかった。
「…………いかん。暇だ」
「…………うむ、暇だな」
「…………ねぇ~、暇だねぇ~」
「……女性陣の方は、沈静化したか?」
「……恐らくは?だが、未だに何かしている様子である故に、下手に声を掛けるのは止めて置く方が良さそうであるぞ?」
「……じゃあ、どうしよっか?
こうも暇だと、オジサン眠くなって来ちゃうんだよねぇ。このまま昼寝でもするかい?それとも、野郎共で先に風呂にでも行ってみるかい?」
「あら、でしたら、アレス様は私と行きませんか?
恋人同士で入れるモノも在るとのお話でしたから、丁度良いですよね?」
「なら、ボクはあの子達の様子を見に行って、こっちに連れてくるのです!暇してるなら、ガリアンさんも一緒に来るのです?」
「じゃあ、アタシはオジサンと一緒にゴロゴロしてようかしら?結構疲れちゃってるから、お風呂はもう少し後で良いし」
「…………いや、別に『嫌だ』と言うつもりは欠片も無いけど、俺達に選択肢って「在ると思いましたか?」……いえ、大丈夫です」
女性陣によってトントン拍子に行動が決められそうになり、思わず抗議しようとしたアレスを凄みを感じさせる微笑みにて封殺するセレン。
ソレを目の当たりにした二人も、特に抗議する事無くそれぞれのパートナーと共に行動を開始した為に、アレスもセレンと共に入浴道具を手に持って部屋を後にする。
二人きりになった途端に腕を組み、艶やかな表情を浮かべながらその豊満な胸部にて抱え込んだアレスの腕を撫で擦る動作に背筋をゾクリとさせながらも、特に拒む様な事はせず彼女のしたい様にさせて共に通路を進んで行く。
暫しそうして進んでいると、先程説明を受けたロビーへと向かう通路と、浴場へと向かう通路の分岐点へと到着する。
当然、ロビーの方ではなく浴場の方へと向かおうとしたアレスとセレンであったのだが、何やらロビーの方が騒がしい事になっていて、その喧騒が耳へと届いて来ている事に気が付く。
「……ですから!何度も仰っております様に、今回当宿に於けるその離れは貸し切りになっております!
ですので、どなたであろうと、ご案内する事は叶いません!」
「……良いから、さっさと案内する!そこに泊まっているのは、私達の幼馴染みにして、同じパーティーを組んでいた仲!
だから、絶対に私達を拒否しないし、寧ろ、こうして進むのを拒んでいるのを知れば、貴女達の評価は著しく落ちる事になる。それでも構わない?」
「それによ、あんただって今この国がどんな状況にあって、似たような状況にあった時に誰がどうやって救ってやったのか知らねぇとは言わせねえぞ?
悪いことは言わねぇから、今すぐあいつの処にオレ達を案内しな!でないと、この国の救世主が、ヘソを曲げて出て行っちまうかも知れねぇぜ?」
…………その、嫌に聞き覚えの在る口調と声に思わず過去のトラウマが励起され、一瞬だけとは言え表情と身体が強張るアレス。
しかし、その強張りも、隣に居るセレンの温もりと彼女による
「……大丈夫です。貴方なら、大丈夫ですよ」
との囁きにより氷解し、混乱しかけていた脳内も波が引くようにして静まりかえって行く。
それにより、気力を取り戻したアレスは、セレンに一つ視線を送り、彼女もソレに同意する様に視線を送り返した事により行動を決定し、未だに騒がしくなっているロビーへと足を踏み出し声を掛ける。
「……何が、幼馴染みで仲間だ、あ?
他のヤツを入れたからもう要らない、と俺を追放しくさった張本人様方が、今更何抜かしてくれてるんだ、おい。
そもそも、こんな場所にわざわざ押し掛けやがって、今更何の用事が俺に在るって言うつもりだ?俺には、そんなモノ最早欠片も無いんだがね?」
そう、レイーラ支配人に向かって詰め寄り、自身の優位を信じて疑わない、と言った様子を見せていた青い短髪と赤い長髪の女性二人に対し、横で聞いていたセレンが驚く程に冷淡な言葉をアレスは唖然としている二人に投げ掛けるのであった……。
とうとう遭遇してしまいました
はたしてどうなる?
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