『追放者達』、説明を受ける
「このガシャンダラと個人的に友人同士であって、こいつが俺の事を普通に通すように命令を出していたから、って訳なのさ。
納得して貰えたかな?」
その言葉により、ヒギンズとドヴェルグを除いた他のメンバー達が唖然としながら『ポカーン』とした表情を浮かべ、ドヴェルグが呆れた表情を、ヒギンズが腹を抱えて笑い声を挙げる中、部屋の奥から豪快な笑い声が周囲へと響き渡る。
「がははははっ!そう言う訳だ!
そこの我が友は極端な秘密主義でな!己で『言わぬでもどうにかなる』と判断しおった事は、決して己から口に上らせる事を良しとはせぬのよ!
その証拠に、己が『良し』としておるパーティーからの追放は我にも黙っておったし、諸君にも己と我の友宜についても『どうせ着けば分かる』として話さなかったのであろう?」
「……えぇ、そうですねぇ。
確かに、陛下と知り合いではある、と以前の事件の時には聞き及んでおりましたが、流石に此処までの仲であるとは思っておりませんでしたからねぇ。
あ、申し遅れました。わたくし、ヒギンズと申します。一介の冒険者に過ぎませんが、どうかお見知り置きを」
「おう、初めまして、だな。そして、一応だが君の事は知ってるよ。今の評判も、昔のソレも、な」
「……おやおや、ソレは中々に手厳しいですねぇ。
見た目に反して繊細で、怖いお人ですなぁ……」
「まぁ、当然君以外のメンバーの来歴も調べさせて貰ったがな!
何せ、我が友とパーティーを組んでいる連中だ、一癖も二癖も在ると決まっているからな!
もっとも、ソレによって何故我が友が諸君をパーティーに誘ったのか?と言った疑問も氷解した故に、後悔はしておらぬがな!がははははっ!」
そうやって再度豪快にヒギンズの言葉を笑い飛ばし、再び手にしていたジョッキを傾け中身を呷る。
……しかし、その目は酒精に巻かれて判断に迷う事も、彼の草臥れた外見に惑わされる事もせず、冷静に彼の実力を測っているのが窺えた。
ソレを挑発と取ったからか、もしくはガシャンダラ王から強者の佇まいを感じ取ったからかは不明だが、ヒギンズの方もそれまでが草臥れた雰囲気を霧散させて普段は見せない『強者』としての面を表に出し、その瞳にも好戦的な光を灯しながらガシャンダラ王と空中にて視線を交わらせ、周囲へとバチバチと火花を散らして行く。
そして、互いに視線を逸らす事無く、ガシャンダラ王が傍らに置いていた一目で業物だと理解出来る巨大で武骨な戦斧の柄へと手を伸ばし、ヒギンズが背負っていた得物を手に取ろうとした段階で、ヒギンズの後頭部に手刀を落としたアレスが二人の間に在る料理で溢れたテーブルへと向かって進み出る。
「……はい、二人ともそこまで!
ガシャンダラもヒギンズも、相手が強そうだからって喧嘩売らない!今はそんな状況じゃないなんて事は、お前さんが一番良く知ってるだろうが!
ヒギンズも、ここは抑えてくれよ。あいつ、ただ単にさっき俺が他人行儀でいた事で拗ねてるだけだから、本気で俺達の事をどうこうしようとしている訳じゃないから、そこは安心してくれ」
「…………いや、流石に、我もそんな子供染みた理由で暴れたりなぞ……」
「黙れ前科持ち!
良いから、さっさと話せよ。
ここに通した、って事は、俺達以外に聞かれちゃ不味い事を話したいんだろう?なら、状況的にあんまりグズグズしても居られないんだから、早い処吐いちまえよ。
それに、折角用意されてる料理や酒も、あんまりグズグズしてると温くなっちまう。ソレは勿体無いだろうよ?
それに、重大な話こそ、共に食卓に着いて酒を酌み交わしながら、ってのが岩人族の風習だ。俺達も無茶な旅路で疲労してるのは間違い無いんだから、ここはご馳走になろうや」
そう言って、さっさとガシャンダラ王の対面に位置する席に着いてしまうアレス。
そして、呆気に取られる他のメンバー達の姿を尻目に、用意されていたグラスを手に取ってソレを一息で飲み干すと、手近に置かれていた骨付き肉の皿から一つ掴み取り、豪快にかぶり付いて大きく肉を噛み千切り、他のメンバー達へも手で指し示して着席を促す。
その様子を見たガシャンダラ王は、懐かしさと友愛とが混ざり在った中に、僅かに闘争心を加えた様な不思議な瞳をしながら笑みを浮かべ、アレスと同じくさっさと席に着いて料理に手を伸ばしている(酒はもう当たり前の様に飲み干している)ドヴェルグは、そんな二人のやり取りを懐かしさと慈しみの交じり合った様な視線にて優しく見守っている様な様子を見せ、それに気が付いた二人が揃って嫌そうな顔を浮かべた段階で他のメンバー達も席に着き、アレスに習って早速手を出したヒギンズ以外は、本当にコレでよいのかなぁ……?と言わんばかりの様子で怖々と酒と料理へと手を伸ばして行く。
そうして、取り敢えず全員に酒と料理とが行き渡った事を確認したガシャンダラ王が、改めて口を開く。
「取り敢えず、改めてガシャンダラだ。
さっきまでは『王』としての我であったが、ここに居て同じ食卓を囲む間はただの『ガシャンダラ』であるから、そのつもりで接して欲しい。これは、円滑な情報共有の為の要請だ」
「分かってるとは思うが、個人的にそう言うへりくだられるのが嫌いだから、とか言う理由では無いハズだし、この部屋の外でも同じ態度でいられると互いに困った事になるだろうから、その辺は承知しておいてくれよ?良いな?」
その前置きに、ヒギンズとドヴェルグを除いたメンバー達が、若干ぎこちない表情と動作にて同意する。
ソレを見届けたガシャンダラ王の口から、ガンダルヴァの現状が語られ始める。
「……まず始めに、状況はあまりよろしくは無い。
少なくとも、大叔父殿に連絡を入れ、ギルドへと依頼を出した時よりも、事態は悪化していると言えるだろうな」
「具体的な状況と被害は?」
「おう、分かってる。
取り敢えず、依頼を出した時の状況は知っている前提で話を進めるが、まず基本的に国境付近はもうダメだな。村や町からの避難民が多い上に、襲ってくる魔物の数が多過ぎて、至近の砦でも対応しきれなくなってきている。そちらからの避難民をこっちに逃がすにしても、護衛に兵や物資を割かなきゃならないから、どこもかしこも手一杯だ。
近々、魔物を狩れるだけ狩ってから、施設を放棄してこのミョルニルまで待避してくる必要が出るだろうな。
とは言え、比較的カンタレラ方面はまだ弛い様子故に、いざとなったらそちらの方面へと、犠牲覚悟で民を逃す事になるかも知れん」
「…………被害状況は?」
「…………本当に聞きたいか?我でも、目を逸らして耳を塞ぎたくなる程の惨状だぞ?
少なくとも、この食卓が無駄なモノになるのは間違いないが、本当に聞きたいか?」
「……いや、お前がそこまで言うのだから、やはり止めておこう。
だが、これだけは聞かせてくれ。どのくらい残っている?」
「………………約、半数だ」
「…………そう、か……」
アレスからの最後の質問に、暫し沈黙していたガシャンダラ王であったが、その沈黙の後に重々しく答えを告げる。
それに対し、アレスも言葉少なに返答し、その場に重苦しい雰囲気が漂い始める。
……暫しの間、無言のままに料理や酒が消費されて行き、部屋の中には食器がテーブルへと置かれ擦れる際の音のみが響いて行く。
そして、その料理の殆んどが彼らの腹に収まる段階に至ってから、再びアレスが口を開く。
「……取り敢えず、状況は分かった。
それで?俺達は何をすれば良い?
一応、雇い主は未だにドヴェルグのオッサンって事になってるが、この段に至ってそんな事に固執する必要は無いだろう。
だから、王としてのお前に訪ねる。俺達は、何処で何をすれば良いんだ?」
様々な思いが込められている事を、聞く者に強制的に理解させる様なその問いに、ガシャンダラはそれまでの個人としての顔を引っ込め、王としての顔を前面に出してから、こう告げるのであった……。
「……では、冒険者アレスに命ずる。
そなたは、ガンダルヴァ各地を巡り、避難民の護衛として魔物を祓いつつ、此度のスタンピードの原因を明らかにせよ!
これは、王としての命である。心して掛かれ。良いな?」
その問い掛けにも似た命令に対し、アレスはその場で頭を下げる事のみを持って返答とするのであった。
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