『追放者達』、岩人族の国へと急ぐ
「…………まぁ、良い。今は、あいつらが何を考えて俺を探していたのか、なんて事は、至極細やかな事だ。
極論言ってしまえば、現状には関係無い。
……だが、知らずに不意に接触する羽目になるのと、ある程度知っていて心構えが出来るのとじゃあ大分違うから、その点は感謝しておきます。お礼の方はガンダルヴァから戻り次第、と言う事で、先を急ぐのでコレにて失礼します」
「そう言う訳だから、じゃあねぇ~」
「あの……お気をつけて!!」
シーラからの言葉を受け、暫し頭を抱えていたアレスだったが、どうせ今考えても解りはしないのだから、と不意打ちされる危険が少なくなった事を無理矢理ポジティブに捕らえて彼女への礼を口にし、ヒギンズがふざけた様な気の抜けた様な別れの言葉を投げ掛けて背中を向ける。
そして、そんな二人に対して案じる言葉を放つシーラに対して手を掲げて別れの挨拶の代わりとした二人は、来た時と同じ様に足早にギルドの建物を後にすると、行き道と同じ様に南の通用門を目指して道を駆け抜けて行く。
またしても、道行く人々に『何事か!?』と言った目で見られる羽目になってしまったが、やはりそんな事を気にしていてはどうにもなりはしないので、無視してさっさと南の通用門を目指して走り抜けて行く。
ギルドを出てから走る事暫し。
漸く、二人の視界に四つ在る内で南側に在る通用門が見えて来る。
幸いにして、南側は他の三方とは異なり基本的に穀倉地帯が広がっているだけであり、あまり人通りが多い門では無い。
なので、特に待たされる事も、出立の理由を誰何される事も無く、ただただ多少訝しむ様な視線を受ける程度でスムーズにアルカンターラの外へと出る事に成功する。
門から少し離れた場所にて周囲を見回すと、アレスとヒギンズよりも街道寄りの場所にて彼らへと向けて手を振る集団の影が目に入り、そちらへと向かって進んで行く。
すると、そこに居たのは案の定『追放者達』のメンバー達とドヴェルグであった為に、軽く手を挙げて合図をしてから橇へと乗り込んで行く。
そして、大街道を他の馬車とは比較にもならない程の速度で爆走して行く。
「取り敢えず、可能な限りの速度で飛ばすのです!
整備されてるとは言え、確実に揺れるハズなのですから、舌を噛まない様にするのですよ!」
「……いや、流石にそんな阿呆みたいな真似は「イヂッ!?」……おい」
「……ひ、ひかたないひゃない!!」
ナタリアからの警告虚しく、早速振動によって舌を噛むタチアナ。
相当強かに噛んだらしく、涙目で呂律が回っていない様子であった。
かなり痛かったらしく、アレスによる突っ込みに対して反論した直後にセレンに頼んで回復魔法を掛けて貰い、口腔内部を治療して貰っているタチアナの姿を呆れ交じりの視線で横目に見ながら、ギルドにて得られた情報を皆へと共有するべく伝達して行く。
「取り敢えず、ギルドを経由している以上、ソレなりに今回の成り行きの情報は拡散されるハズだ!なら、名を挙げたい冒険者は勝手に集まってくる事になる!
……ただ、一つだけ承知しておいて欲しい懸念事項が在る。特に、セレンには予め知っておいて欲しい」
「…………何やら、嫌な予感が致しますね……。
そう言えば、アレス様の『元』所属パーティーにも声が掛けられている、とのお話でしたが、そちら関連で何か在りましたか……?」
「……あ、あぁ、その通りだ。
どうやらあいつら、俺の事を探しにアルカンターラまで来ていたみたいなんだ。
それで、本部の方で俺達の情報を引き出そうとしていた処で、今回の依頼で強制召集が掛かったらしいから、下手をしなくてももしかしたら向こうで遭遇する羽目になる……かも知れない」
「……あらあら、それは大変ですねぇ……」
アレスからの懸念を聞いたセレンだったが、その表情は普段からして浮かべられている微笑みのソレのままであり、一見どうとも思っていない様にも窺える。
しかし、彼女と共にそれなりの時間を過ごした者であれば、その微笑みが目の笑っていない形だけのモノへと変化し、纏う雰囲気もそれまでの朗らかなモノから殺伐として暗澹としたモノへと一瞬で変化した事に嫌でも気が付いた事だろう。
現に、相対していたアレスはその変化に僅かながらとは言え言葉を詰まらせてしまっていたし、至近距離で治療を受けていたタチアナはその雰囲気に当てられてか、恐怖心から脅えて立ち竦んでしまっており、涙目でアレスへと『なんて話題を出してくれたんだ!』と言わんばかりの形相にて訴え掛けていた。
他のメンバーとドヴェルグも、そんな彼女の変貌ぶりに一瞬だけ驚いた様な表情を見せるが、仲間とは言え他人の恋愛事情に首を突っ込む事はよろしくない、と自らにわざわざ言い聞かせてまで無理矢理視線を逸らして行った為に、その誰もがアレスとセレンの二人と視線を合わせる事が出来ず、何名かは更に首を痛める羽目となってしまっていた。
その中でもヒギンズだけは、囚われているのが自らの恋人であり、かつ本人からも救助要請が視線によって訴え掛けられていて、更に言えば自ら年長者を自負して空気を和ませるのは自分の仕事である、と認識していた為に、どうにか囚われの姫を救出出来ないだろうか?と画策するも、ソレを実行に移す前に事態の元凶であるセレンがアレスに向かって口を開く。
「…………一つだけ、確認させて頂きたいのですが、その例の元パーティーメンバーに対して、アレス様は未だに好意を持ち続けておられるのでしょうか?」
「………………家族や友人に向けるソレらを『好意』に含めるのであれば、確かに俺はまだ『好意』を持っている、と言っても間違いでは無い、ハズだ。多分。
でも、俺が今お前さん相手にしている以上、ソレよりも上の、所謂『男女の間の好意』ってモノを抱いている訳が無い、って事くらいはもう分かってるだろう?」
「…………ですが、まだその『家族としての情』は残っていらっしゃるのでしょう?
なら、向こうが『その気』で、遭遇し次第復縁とソレ以上を要求されたらどうなさるおつもりなのですか?
この程度、仮にも恋人となっている私には、聞く権利位は在ると思うのですが……?」
「……いや、それこそ有り得ないでしょうよ?俺を追い出す際にも、新しく入れる雑用係と『思う存分恋人らしいことしてやる!』とか二人揃って宣言して来た位だし。
それに、仮にそうなったとしても、そこで『はい、よろしくお願いします』なんて言う訳が無いでしょうが。
こちらとら、連日連夜の嫌がらせや依頼中の誤射等で何回あいつらに殺されかけたと思っているんで?そんな相手から撚りを戻そう、なんて言われたとしても、そう軽々と頷けるハズも無いし、俺には既にセレンが居るんだからもう要らんよ」
「………………そのお言葉、信じてもよろしいのでしょうか……?」
「……いや、信じてもらわんと困るんだが……それに、俺が何人も相手にして平然としてられる程、器用でも面の皮が厚い訳でもない何て事は、お前さんが一番良く知ってるでしょうに……」
「………………ふふっ、そうですね。それも、そうでしたね」
それまでの雰囲気を霧散させ、普段のソレと同じ柔らかで優しげな微笑みを浮かべてアレスの胸元へと身体を預けるセレン。
普段であれば、ガリアン程ではないにしても鎧を着けているアレスだが、今回は街中を駆け抜けて来た、と言う事もあってソレを着けておらず、人肌の暖かさと柔らかさが直接互いに感じられる状態となっており、自然と両者の手が互いの背中へと回されて行く。
そうして人目も憚らずにイチャイチャとし始めた二人の姿を、決して広いとは言い難い橇の荷台にて、他のメンバー達は砂糖を吐き出しそうな表情にて見せ付けられ続けるのであった……。
…………どうしてこうなった?(血涙)
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