『追放者達』、ギルドで手続きを終える
人波を掻き分け、通りを駆けるアレスとヒギンズ。
ドヴェルグからの話によれば、本当にもう時間が無い、と言う訳では無いにしても、これからガンダルヴァを目指して発つのであれば、そこまで余裕綽々とは言い難い。
であるが故に、こうして可能な限りの速度で事を起こそうと急いでいて、その一環としてギルドを目指している二人なのだが、このアルカンターラに於ける職人区域は比較的奥まった処に在り、逆に冒険者ギルドは比較的外周部に近しい場所に在る為にソレなりに離れている事もあり、こうして大通りを選んでいるとは言え大急ぎで走っている、と言う訳なのだ。
既にソレなりに顔の売れてしまっている二人が走っていれば、周囲は何事か!?と余計な注目を向けて来るが、鎧の類いまで外して軽量化して走っている彼らからすれば意識せねばならない程のモノでは無く、特に反応する事もせずに通り抜けて行く。
そうして暫し走っていると、目的地であった冒険者ギルドが見えて来る。
常人であれば、とっくの昔に息が上がっているであろう速度にて駆けていた二人だが、特に汗を流す事も息を荒げる様な事もせず、ギルド前の石畳に二本の線を刻みながら強制的に減速すると、少々乱暴な手付きにて扉を押し開けて中へと足早に入って行く。
久方ぶりに姿を現した『追放者達』の二人に、ギルドのロビーは俄に騒がしくなる。
しかし、そんな事に一々構っていられない二人は、顔見知りの冒険者に対してのみ手を掲げたりして軽く挨拶をする程度に納め、目的を果たす為に足早に受付へと向かって進んで行く。
近付いて受付ブースをグルリと見回す。
すると、少し前までは頻繁に顔を合わせていた間柄であり、かつここ最近はあまり良い関係とは言い難くなっていたとある受付嬢と、偶然にも視線がかち合ってしまう。
向こう側も何処か気不味く思っていたらしく、直ぐに視線を逸らして来たのだが、長く居座るつもりも無かったアレスは特に躊躇う事無くそのブースへと目指して進んで行く。
そして、そこに順番待ちをしている者も、現在何かしらの手続きをしている者もいない事を確認すると、少し苦い顔をしながらそのブースへと入って行く。
「…………久し振りですね。シーラさん。
俺達に対しての指名依頼が入ってるハズですけど、ソレお願い出来ますか?」
「…………お久し振りです、アレス様。
このアルカンターラへの無事のご帰還、お喜び申し上げます。
指名依頼、と言う事でしたら、コレの事でしょうか?ドヴェルグ師による、皆様方への護衛依頼と追加で討伐依頼となりますが、よろしかったでしょうか?」
「……えぇ、それです。
一応、念のために聞いておきますが、他に俺達に振られている依頼とかは無いですよね?また暫くここを空ける事になる見込みなんで」
「えぇ、存じております。
それと、ギルドの方からの依頼の割り振りですが、指名依頼は他にも在りましたが緊急性は無いと判断して他の方に割り振っておきました。緊急依頼も、恐らくは皆様が向かわれる先での一件以外は今の処は出されていないので、大丈夫かと思われます」
「…………意外ですね。
てっきり、コレ幸い、とばかりに、不良債権化している依頼を、山程押し付けて来るんじゃ在るまいか、と思っていたんですけどね。
一体、何を企んでいるんです?」
「…………確かに、上層部の考えとしましては、アレス様が仰った様な事をさせようと画策しておりました。現に、私にも『そうするように』と言う通達は来ていました」
「……じゃあ、何でそうしていないんだい?
今までみたいに、上に言われるがままにオジサン達に押し付けてれば良かったんじゃないのかい?」
そこで一旦言葉を切り、辛そうに顔を俯けて暫し黙り込んでしまったシーラであったが、再び顔を上げるとその瞳に強い光を宿して口を開く。
「……確かに、私は今まで上の意向に従って皆様方に無茶な依頼を振る事が多く在りました。それに、過去にも担当していたパーティーに、同じ様な事をしてきた経歴も在ります。
……ですが、あの時、皆様に言われた言葉が、私の胸に突き刺さったのです。
『何時までも、自分達を拘束・管理出来ると思わない方が良い』
……まさに、その通りだと、そう思ってしまったのです。
元来、自由で在るハズの冒険者を、自分達の思い通りに動かし、事態を操作する。そんな事に、嫌気が差してしまったのです。
ですので、こうして皆様へと振られるハズだった予定の依頼を、他の冒険者パーティーに振っているのは私の独断です。とは言え、私に与えられた権限の内で出来る範囲で、と言う事になりますが」
「…………ふぅん?まぁ、オジサンはその辺あんまり興味無いから、どうでも良いや。オジサン達に迷惑掛からないんなら、どうでも、ねぇ。
でも、それで良かったのかい?受付嬢と兼任って言っても、現場指揮官とかを任せられてた、ってことは幹部候補だったりするんでしょう?そんな独断専行しちゃったら、折角の将来が水の泡だよぉ?」
「……えぇ、ソレを考えれば惜しい気も正直します。ですが、やはりこの冒険者ギルドを支え、実際に命を張って人々を助けているのは現場で戦う冒険者の方々です。
薄暗い会議室に籠り、脂肪を蓄えた腹を揺らして陰気に嗤う、人を食い物にする様な連中では無く、皆様なのです。なら、どちらを優先すべきか、どちらと真摯に向き合うべきなのかは、言うまでも無い事ではないでしょうか?」
「……ふぅん?成る程、君も中々言う様になった、と言う事なんじゃないのかなぁ?
まぁ、オジサンは君みたいなタイプには意地悪したくなっちゃうから、精々その言葉の通りに出来るかどうか、見守るだけにさせて貰おうかなぁ」
「…………俺としては、今までが今までだったので、正直信じられない、と言うのが本音ですがね。
まぁ、そう言うなら、精々頑張ってサポートして下さいな。出来るなら、と付きますがね」
「…………あっ、お待ちを!」
最後に言い残し、ドヴェルグが出していた依頼書を回収しつつ受諾の書類を書き上げて席を立とうとしたアレスの背へと、シーラが声を掛ける。
以前であれば、ソレを無視してさっさとギルドを後にしていたであろうアレスも、先程の言葉を耳にしたからかその場に留まってシーラの言葉の続きを待つ。
ソレを確認してからシーラは、まるで重大な秘密を口にする様に重々しく言葉を並べて行く。
「……これは、その……通常でしたら、冒険者様の個人情報、と言う事でお教え出来ない規則なのですが……アレス様に直接関わってくるであろう事柄なので、お伝えしておきます。
……実は、十日程前に、この本部にアレス様がかつて所属なされていた冒険者パーティー、『連理の翼』がお目見えになりました。目的は、当然アレス様の所在について、でした」
「…………マジで?」
「……えぇ、マジです。
そして、こちらも可能性の話となりますが、詳しい内容は把握出来ておりませんが、『連理の翼』も皆様方がこれから向かうであろうガンダルヴァにて、強制力の高い依頼を受諾させられて出立しております。これも、私がその時受付にて対応しておりましたので、間違いは在りません」
「……自分で受付処理しておいて、内容が分からない、なんて事在る訳?」
「残念ながら、その時使っておりました通信用の魔道具を外して彼女達に渡す様に、との指示を受け、ソレをそのまま渡したので詳細は把握出来ませんでした。申し訳ありません……」
「…………マジかぁ……」
ソレを聞き、思わず頭を抱えるアレス。
ドヴェルグから、あの二人の方にも連絡が言っているらしい、と言う事は既に聞いていた。
だが、ソレもどうせ本拠地にしていたアルゴーで受けたのだろうし、現地でも余程の事が無い限りは顔を合わせる様な事態にはならないハズだ、と高を括っていたのは否定出来ない。
どうせ二人はもう俺には用事なんて無いハズだ。
新しく入れた奴とよろしくやっているのだから、追放した俺にわざわざ構いはしないだろう。
そんな風に思っていただけに、その情報がアレスへともたらした衝撃は、相当なモノとなっていたのであった……。
アレス、衝撃の事実を知る
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