『追放者達』、鍛冶師から話を聞く
「だから、先程からも言うておるじゃろうが!
儂が出していたのは、儂自身をガンダルヴァまで送り届ける『護衛依頼』と、到着した先で発生の兆しを見せておるスタンピードを殲滅する為の『鎮圧要請』じゃと!
ソレを見て来たのじゃろうに、何を惚けておる!時は一刻を争うのじゃ!早よう準備せぬか!!」
そう、苛立ち混じりに怒声を上げるドヴェルグ。
その声色は、付き合いの無い者にとっては、ただ単に癇癪を炸裂させているだけにしか聞こえないかも知れないが、ソレなりに付き合いの在る、と自負しているアレス達『追放者達』からしてみれば、そこに確かな『焦燥』と『絶望』と『懇願』が込められている事に気が付けた。
普段からして傲岸不遜で、客を客とも見ていない様なドヴェルグの焦り散らすその姿に緊急事態だと察したアレスは、特に迷う様な様子を見せる事も無く、意味も無く怒なり散らしているドヴェルグの頬へと目掛けて固めた拳を振り抜く!
ドボォッ!!
『拳闘士』や『武闘家』と言った天職の持ち主の様に、その拳一つ在れば大概は事足りる、と言う程の凶器足り得ている訳でも、またアレス本人がそこまで殴り合いに慣れている、と言う訳でもないが、それでも日常的に魔物と死闘を繰り広げる冒険者の拳が軽く貧弱なモノであるハズが無く、石頭(物理的にも思想的にも)としても有名な岩人族であるドヴェルグの頬へと突き刺さり、小柄な身体を地面へと一メルト程吹き飛ばす。
「…………なっ……お主、一体何をする!?
緊急事態じゃと言っておるこの状況で、何をしくさってくれおる!?」
「うるせぇ!!一旦黙れ!!」
「…………っ!?!?」
突然の事態に、殴られた頬を抑えてアレスへと抗議するドヴェルグ。
現在、その一点集中する気質と手先の器用さにて『職人』としての認識が強い岩人族だが、その元来持ち合わせる本質は他種族と比較して『異常』と言わしめる程の密度を誇る筋肉によってもたらされる剛力と、それに付随して得られている頑丈さを生かした戦闘行為を生業とする戦闘民族でもある。
その例に漏れず、ドヴェルグも老齢に在れども頑丈さは健全であり、冒険者として現役バリバリであるアレスの拳を直撃しているにも関わらずに無事であり、かつ逆に彼の拳を痛めている事から、その異常な迄の頑健さを窺う事が出来るだろう。
そんなドヴェルグであっても、普段の付き合うからして怒りを見せる事すら無かったアレスが怒鳴り声を挙げ、更には突然殴り付けて来たのだ。
今まで経験した事の無い突然の事態に、流石の老職人も思考が驚愕に支配されたらしく、殴られた頬を抑えてアレスの事を無言で見上げる事しか出来なくなってしまっていたのだ。
他のメンバーも見守る中、半ば強制的かつ強硬な手段を取ったとは言えドヴェルグを落ち着かせる事に成功したアレスは、地面に直接座り込んでしまっているドヴェルグの前に膝を突き、目線を合わせて改めて話を聞こうと試みる。
「……落ち着いたな?
なら、もう一度言わせて貰う。俺達は、土産が来たかどうかを確認する為に、直接ここに来ただけだ。
だから、あんたが言っている様な説明をギルドで受けてはいないし、依頼の事も知らないんだよ。
だから、何で急いでいるのか、どうして俺達に依頼を出しているのか、落ち着いて一から説明してくれ。どうせ、そうするのが一番手っ取り早く事を進める事が出来るハズだから、な?」
「…………あ、あぁ、そう、じゃな……。
……うむ、済まなんだ。儂としたことが、事態の大きさに動揺して混乱しておったらしい。
しかし、一から説明する、となるとソレなりに長くなるし、そうして説明する時間も惜しいのだ。そこは、分かっておくれ」
「……なら、先に一つだけ。
俺達に依頼しようとしていた『護衛依頼』と『鎮圧要請』は、前者はともかく後者の方は俺達に現地での支援は受けられる見通しは立ってるのか?それとも、そんな余裕すらも無さそうな感じか?」
「…………残念ながら、あまりその手の余裕は無かろうよ……」
「……そうか。
なら、ナタリアとガリアン!今から市場で買えるだけ食料とその他の消耗必需品買い込んで来てくれ!」
「なのです?
なら、それらはボクのアイテムボックスにしまっておく感じで良いのですか?」
「構わんよ。流石に、行き道までは戦力としてお前さんまで数えるのは過剰だろうから、輸送に全力を注いでくれ。
ガリアンは、ナタリアの護衛ついでに、向こうで嘗められない様に目を光らせておいてくれ」
「うむ。了承した。では、行くとしようか」
そう言い残し、橇に乗り込んで詳細を聞くこともせずに出立する二人。
その迅速な行動には、リーダーであるアレスに対する確かな信頼が窺えるモノであり、それをドヴェルグとヒギンズが何故か眩しそうに眺めていたのが印象的であった。
出立した二人を見送ったアレスは、ドヴェルグへと視線で説明を促して行く。
ドヴェルグの方も、ソレを承知していたからか、それまでとは異なり落ち着いた様子にて事の成り行きを口にして行く。
「…………あれは、儂がお主らからの土産を受け取った頃、大体十日程前の事じゃった。
丁度、儂は受け取った事を伝えようと、ギルドへと伝言を預けようとしておったのじゃが、そこで儂が持っておった通信用の魔道具にガシャンダラから連絡が入ったのじゃよ」
「……ガシャンダラ『王』から、か?」
「うむ。お主は知っておるじゃろうが、儂と現国王たるガシャンダラとは遠縁ながらも血筋が繋がっておる。
ソレも在って、まだまだ青瓢箪じゃった頃から色々と世話してやった事も在るし、お主との縁もそのお陰で出来た様なモノであるからのぅ」
「あぁ、そうだな。
例の依頼、ガンダルヴァ最大規模の鉱山に、金属を貪り食らう『金属喰蟲』の変異種が発生してソレを討伐する、なんて依頼が無ければ、俺みたいな一介の冒険者程度がオッサンと知り合える訳も無かったからな」
「はっ!抜かせ!
どうせ、お主であれば放っておいても勝手に名を上げておったであろうに、何を白々しい!」
「…………ん、んんっ!!」
二人の過去話によって話が脱線し始めた事を察したからか、ヒギンズがわざとらしく咳払いをして二人からの注意を引き、強制的に話を本筋へと戻して行く。
「……んんっ、少々話がずれたの。
それで、そのガシャンダラから来た通信によれば、今ガンダルヴァの外周付近にて魔物の大量発生が確認されておって、その増加傾向から遠からぬ内に氾濫を起こしてスタンピードが発生する見込みなのだそうじゃ。今の処は近くの街から戦力を送って出来うる限りに間引きしておるそうじゃが、規模は一向におとろえぬ故に発生は間違い無いそうじゃ。
儂の処に連絡を寄越した理由なのじゃが、発生しつつ在る外周が王国とは正反対に在る故に、比較的こちらとは行き来が出来る状況であるらしい、と言う事で、今は一人でも戦力が欲しいから、と戻ってくる様にとの意味で寄越したのじゃそうだ」
「……まぁ、あんたなら、直接大槌振り回しても、後方で武具の整備に引き回されるにしても、引く手数多だろうからな」
「うむ。当然、儂もソレを受諾するのに否やは無い。直ぐに、こちらを出立しようか、とも思っておったのじゃが、ガシャンダラが言った一言で考えを改めてお主らを待っておったのよ」
「……あん?あの王様が、何か言ったってのか?」
「…………あぁ、あの阿呆め。よりにもよって『『連理の翼』に依頼を出した。アレスを含めたあの三人が味方としてこちらに付くのであれば、かなり勝ちの目が大きくなるハズだ』等と抜かしてくれおったのじゃぞ!?
あの阿呆、選りにも選って、お主の手柄を横取りしておったあの下衆共を、お主が追放されておる事も知らずに『救国の英雄』待遇にて迎える、等と抜かしおったのじゃ!!」
「…………あ、あ~、そう言えば、以前連絡した時も、何か俺がまだ『連理の翼』に居る、みたいな認識前提で話をしていた様な、気も……?」
「……うむ。それで、儂もお主の現状をあの阿呆に説明してやったのじゃが、あやつめは『そんなハズは無い。仮にそうだったとするのならば自分でこっちに連れて来い』何て事を抜かしおったのよ!
お主がおらねば、あの下衆共ではただ単に力押ししか出来ぬ故に、ガンダルヴァが大きな被害を受ける事は必至であろう。じゃから儂はお主を待っておったと言う訳よ」
「……ふぅん、成る程ねぇ。
ちなみに、俺が帰ってくるのがもっと遅くなってたら、どうするつもりだったんだ?別に、期限は切ってなかっただろう?」
「そこは、別に心配しとらんかったわぃ。
話を受けてから、直ぐにギルドでお主らに指名依頼を出した故な。何処でもギルドに寄っておれば、直ぐにお主らの耳には入ったであろう?なれば、お主らならば、直ぐに蜻蛉返りしてくるのは分かっておった故な」
「…………信頼どうも。
となると、やっぱり急いだ方が良い事態では在るみたいだな。取り敢えず、ギルドを通しておいた方が良さそうでは在るが……」
「じゃあ、オジサンと行って手続きだけでもぱっぱと済ませちゃおうかい?
その間に、セレンちゃんに荷物持って貰っておいて、二人が戻って来たら通用門まで移動しておいて貰う、って感じでどうだい?それなら、時間も無駄にしないで済むと思うけどぉ?」
「……なら、そうするか。
取り敢えず、ガンダルヴァに向かうなら南の通用門から出るのが一番手っ取り早い、か。
俺達も終わり次第そっちに向かうから、出た処で待機しておく様に伝えておいて貰っても良いか?」
「えぇ、了解しました」
「アタシも良いわよ。
まぁ、家に戻ってお風呂入りたかったけど、リーダーの知り合いがピンチなら仕方無いわよね」
「そいつは、悪いことをしたのぅ。
しかし、ガンダルヴァは火山も多く、それに伴って温泉も多く沸いておる。向こうで良い湯を確保する故に、今は我慢してくれぬか?」
「え、良いの!?
アタシ、前から温泉って入ってみたかったの!やった!!」
そんな、まるで只の旅行へと赴こうとしている様な会話を背にして、アレスはヒギンズと共にギルドへと目指して走り始めるのであった。
一応念のために
国王ガシャンダラにしても好感度としては
アレス>>>その他二人
位なので、そもそもアレスがもう居なかったと知っていたら『連理の翼』には依頼は出しませんでした
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