『追放者達』と追放せし愚か者達・3
無事に決闘を終え、それまで己に絡み付いていた因縁にガリアンが一つのけじめを付け、仲間達に迎えられていたのと同じ頃。
カンタレラ王国の首都である『アルカンターラ』の冒険者ギルド本部は、とある有名人の来訪によって普段とは異なるざわめきに支配されていた。
「…………と言う事は、彼は……いや、彼らは暫くこの辺りには居ない、と言う事なのか?」
「……はい、そうなります」
「…………ちっ!タイミングが悪い……!」
しかし、そんな周囲のざわめきなんて知った事ではない、と言わんばかりの態度にて、何処かで見覚えの在るとある受付嬢へと詰め寄り、それでも自身の欲する情報を得られなかった事によって苛立たしげに舌打ちを溢すのは、外見だけならば青いショートカットと真っ赤なロングヘアーが印象的な美女二人組。
青髪の方は勝ち気で攻撃的な性格が顔に出ているが、その気の強そうな処が良い、と言う層からの人気は高いし、赤髪は表情が動かず感情が平坦そうだ、と見られがちだが、接する者に対する冷たく見下した視線が堪らない!とこれまた一部の界隈ではその整った顔立ちとスレンダーなスタイル(『男性用の鎧を買っても手直しの必要が無い』程の絶壁とも言い換えられる)によって一部の男女から大人気を得ており、その実力も相まってこの若さで二つ名を授けられてもいる。
そんな二人組。
『連理の翼』としても名の通っている、アリサとカレンが、普段ホームとして活動しているアルゴーからこのアルカンターラへとわざわざ移動して来たのには、ある『理由』が在った。
「…………くそっ!まさか、あの野郎オレ達が探している事を察知して、逃げたんじゃないだろうな……!?」
「…………可能性は無くはない。ただ、それはあまり高くは無い。現状出揃っている情報から推測するに、あくまでも偶然行き違っただけの可能性が高い」
「…………本当か、それ?お前のその言葉を信じていたせいで、オレ達はあいつを失ったんだぞ!?
その事実があっても、まだそう言えるのか?あぁ!?」
「…………流石に、以前の様に『絶対』とは言わない。でも、さっきも言った通りに現状では最も可能性の高い推測。確実に出会う事を狙うなら、このまま首都に滞在する方が良い」
「なんで!?追い掛ければ良いじゃないか!!」
「何処に?目的地も分からないのに?
それに、既に彼が出立してから一月近く経ってる。なら、追い掛けて擦れ違いになるよりも、待っていた方が再会は早い。確実に」
…………そう、かつては自分達と同じ孤児院で育ち、同じパーティーにも所属していた『彼』。
自分達が共に恋心を抱き、執着と表現してもなお足りない程のモノを注いでいた相手である『彼』。
自分達へと束縛する為に外部からの好意を遮断し、自分達へと依存させる為に時折気紛れに優しい言葉を投げ掛けていた『彼』。
自らの考えを持たせない様に事あるごとに叩きのめし、自分達の為にしていた努力を貶して僅かばかりの自尊心を折る事で強制的に停滞させていた『彼』。
……しかし、順調に自分達への依存を強めさせ、そろそろ次の段階へと関係を移行させ、少しは甘やかせてやっても良いかも知れない、でもその前に自分の立場と言うモノを理解させなければ、との考えから放たれた嘘。
『新しい雑用役を雇った。お前よりも余程優秀で見目も良い相手を』
その言葉により、彼は一瞬だけ泣きそうな、寄る辺を喪った迷子の様な表情を晒け出し、彼女らの背筋に背徳的なざわめきを発生させたが、次の瞬間には何かに気が付いた様な、何かが振り切れた様な晴々とした表情を見せ、微笑みすら浮かべながら訣別の言葉を口に登らせて来たのだ。
……あまりに突然の事態に、まさかその言葉が本気のモノであったとは思いもせず、引き留める事も、それまでの行為を謝罪する事もせずに、普段と同じく悪態を吐きながら去って行く背中を見送る羽目になった彼女ら。
そして、それから数日経過し、確実に『彼』が、兄弟同然に育ち、何時しか男女のソレとして認識するに至る感情を抱いていた相手であるアレスがアルゴーから退去してしまっていた事を知り、初めて悔恨と慚愧の念に駆られ、暫く定宿としている部屋にて泣き暮らす事となったのだ。
離別と後悔と喪失の感情から、枕を濡らさずにはいられない日々。
しかし、Aランクのパーティーとしてソレなりに名前が売れていた為に、何時までもそうして泣き暮らし、引き込もってもいられなかった彼女らは、約一月ぶりに冒険者ギルドへと顔を出す。
その窶れぶりに方々から心配する声が掛けられたのだが、以前はその手の気遣いに対して対応していたアレスが居なかったが為に、悪意が在るモノかどうか、からかい気味ながらも再起を促すモノであるかどうかを判断出来ず、その全てに刺々しい対応を取ってしまったが為に、それまで懇意にしていた相手からも距離を取られてしまう事となってしまう。
そして、それと同時に、自分達の過ちによって追放する形となっていたアレスが、別の都市にて自らのパーティーを設立し、活躍を始めていた事を漸く耳にしたのだ。
半ば反射的に、ソレを耳にすると同時に全てを投げ棄ててアレスを追おうとする二人。
……しかし、ソレを許せる程に『Aランクパーティー』と言う看板は軽くは無く、また彼女らを指名して発行された依頼は大きく重く彼女らの肩へとのし掛かっていた。
最初は、それらからも逃げ出して彼を追おうとしていたのだが、彼女らの専属の様な扱いとなっていた受付嬢からの
『そうですか、逃げるのですね?
なら、そうやって逃げた先でまだ周りの人達に多大な迷惑を掛けた上で、徹底的にアレスさんに嫌われれば良いんじゃないですか?
貴女方を良く見ていて、かつ彼と一定の交流の在った私の予想だと、ほぼ確実にそうなると思いますけど?』
との言葉により、血涙を流し赫怒に燃えながらもアルゴーに留まり、溜まった依頼をひたすらに消化して行く事となった。
そうしている間にも、アレスは自らが率いたパーティーによって順調に依頼をこなし、着実にランクを上げ、彼女らの耳に届く程の数々の活躍を見せて行く。
直ぐにでも駆け付け、余計な虫が付く前に自分達の想いを打ち明けて結ばれたい、との思いを圧し殺して依頼を捌き、漸く追加された分も含めて指名依頼を終え、飛び出す様にしてアルゴーを後にする。
その頃には、最初と比べれば多少頭も冷えて来ており、再会したらまずはどう謝ろうか、二人ともに貰ってもらえればそれに越した事は無いが、どちらかしか選ばれなかったらどうするか、と言った、比較的前向きにして自分達が受け入れられる事を疑わず、既に相手が居る事を全く考えていない会話を繰り広げていたのだが、実際にアルカンターラを訪れてみれば既に彼は出立した後だった、と言うのが現在までの流れだ。
彼のパーティーの専属に近い形で業務を行っている受付嬢曰く、彼らが出立したのは一月近く前の話であり、その行き先は流石に元パーティーメンバー程度の間柄では教える事は出来ない、と断られてしまっている。
であれば、これから目的地も分からず無為に追い掛けるよりも、この周辺の依頼を片付けながら待っている方が確実だろう、との結論に至った訳だ。何せ、彼はこの都市にパーティーホームとは言え家を持っている。ならば、ここを帰るべき拠点だと認識しているハズだ。確実に帰ってくる事になる。
本来なら、既に結ばれる事が確定している自分達(自分達に都合の良い根拠の無い妄想ではそうなっている)が今は無人となっている建物を管理し、真っ先に彼を出迎えるべき(注※違います)なのだが、入る為に必要な鍵その他が無い為に、他に宿を取るしかない、と言う現状に、不満を隠そうともせずに溜め息を吐く二人。
外見だけは整っている二人(但し胸は無い)であった為に、方々から自分の処に来いよ、等の声が主に男性冒険者から多数掛けられて行く。
しかし、それらの下卑た声を、アリサは抑えていた殺気を放ち、カレンもその身に蓄えた魔力を少しだけ放出する。
本来であれば、何が変わる訳でもないハズの、たったソレだけの誰でも日常的に行っている威嚇行動。
ソレにより、それまで騒がしかったハズのギルドのロビーは沈黙に支配され、空気すら物理的に凍り付いた様に思わせる雰囲気が立ち込める。
「…………あ゛?なんで、オレ達が、お前らみたいな雑魚に、宿の世話なんてされなけりゃならないんだ?おら、言ってみろよ!!」
「……ハッキリ言って、至極不快。
私達に触れられるのは、触れて良いのは、この世界にただ一人だけ。少なくとも、この程度の威圧で竦む様な雑魚じゃあ、話にもならない。出直して」
そんな二人の言葉に反論出来ずにいる冒険者達と、その光景を目の当たりにして溜め息を吐く受付嬢。
一人平然としているその姿に二人が内心で感心していると、受付嬢の耳に掛けられていた通信用の魔道具から何か報せが入ったらしく、ピクリと反応してから表情を苦いものへと変えて行く。
そして、ソレを見ていた二人に対して、こう言葉を切り出すのであった……。
「…………大変残念なお知らせですが、お二人に指名での緊急依頼が入りました。
断る事は許されない、危急の事態だそうです。早急に、お二人には岩人族主導国家である『ガンダルヴァ』へと向かって頂きます。宜しいですね?」
……そうして、到着早々に目当ての人物であるアレスとの再会も叶わぬままに、二人はかつて依頼で訪れ、彼と協力して国家の危機を救った事も在る思い出の地である『ガンダルヴァ』へと赴く事になるのであった……。
ちょっと章タイトル変えてみました
こんなのどう?やっぱり変!って意見が在ったら送って貰えるとありがたいですm(_ _)m
面白い、かも?と思って頂けたのでしたら、ブックマークや評価等にて応援して頂けると励みになりますのでよろしくお願い致しますm(_ _)m




