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重戦士、過去の因縁にけじめを付ける

 



 ズドンッ!!!!




 ガリアンの手によって大上段に掲げられていた斧が振り下ろされ、訓練所全体へと轟音と振動が広がって行く。



 人の手による一撃とは思えない程の威力によって放たれたその一撃は、地面に倒れていたグズレグへと向けて放たれた関係上、必然的に地面にも干渉してしまい、その余波にて地面は揺れ動き所々にひび割れすら起こってしまう程のモノとなっていた。



 周辺にいた観客と化していた利用者や、たまたま訪れていた無関係な人々が何事か!?と言った視線を向けて行くが、ソコにはもうもうと立ち込める土煙が視界を遮っており、震源地にて何が行われていたのかを察する事が出来なくなっていた。



 否応なしに高まる注目の後、僅かに吹き込んできた風により、立ち込めていた土煙が晴らされ、震源地の様子が露になって行く。




 そしてソコには、地面に倒れ伏し、手にしていた得物を周囲へと散らばらせながら周囲を紅く染めるグズレグと、その頭部付近に手にしていた斧を根本まで地面に食い込ませた体勢のままでグズレグを見詰めるガリアンの姿が在った。





 誰が見ても、決闘の勝敗は明らかであり、かつその結果どうなったのか、すらも容易に判断出来る状態に、思わずそれまでセレンやナタリア達に抑えられて遠巻きに決闘を眺めさせられていたサラサが、様々な感情を決壊させた様子にて二人の処へと駆け寄って行く。




「……あぁ、あぁ!そんな!?

 グズレグ様、グズレグ様ーーーーっ!!!!

 ………………え……?」




 婚約者たるグズレグが死んだ悲しみと、殺されてしまった事への怒り、ソレを自らも良く知る兄であるガリアンにやらせてしまった事への慚愧と言った様々な感情が入り交じり、整った顔を涙やその他にてグシャグシャにしながら地に伏すグズレグへと目掛けて駆け寄ったサラサであったが、至近距離に至った段階で『何かがおかしい』と気が付いたらしく、肝心要なソレを目の当たりにしたお陰か気の抜けた声を挙げながらその場で固まってしまう。



 …………一見、ガリアンが繰り出した地割れすら起こす程の一撃を食らい、頭を割り砕かれて地面に脳漿をぶち撒いてグズレグが死んでいる、と言った構図に見える場面。



 しかし、それは、未だに斧を引き抜く事もせず、膝を突いた状態のままでいるガリアンの側へと近寄ってみれば、若干ながらも異なるモノである事が理解出来る様になる。



 そう。ガリアンは、返り血で頬を濡らしてはいる。それに、振り下ろした斧にも、血糊がベッタリとへばり付いている。


 更に言えば、グズレグは確かに斧によってその身を切り裂かれているし、今も勢い良くその身から赤い血潮を周囲へと溢し続けている。




 …………しかし、その頭部は未だに原型を留め、瞳には驚愕の色が見られるが確実に意思の光が宿っており、凄まじい威力にて()()()()()()()()()()()確かにまだ『生きている』事が窺えた。




 その事実に、当の本人であるグズレグも、駆け寄ったサラサも、思わずガリアンに向けて『何故?』と言った意味合いを込めた視線を送る。



 すると、ガリアンの方も、グズレグの物理的にグシャグシャになっている顔と、サラサの涙とその他でグシャグシャになっている顔へと視線を向けてから、誰に告げるでも無く言葉を放つ。




「…………これで、当方の弟である『グズレグ=ウル・ハウル』は死んだ。少なくとも、当方の中では、既に死んでいる」



「…………!」「……それ、は……!?」



「なれば、ここに居るのはただの『グズレグ』である。

 ……かつて、確かに当方は、一歩間違えば命を落としかねない様な状況へと一人で放り出された。故に、確かにかつての仲間二人に対して恨みも殺意も当然この胸には燻ったままであった」



「「………………」」



「……であったが、しかしこうして当方は五体満足にて仲間にも恵まれ、再度それなりの地位にも就く事が出来ている。

 なれば、その殺意によって無為に殺める事も、恨みのままにかつての地位に返り咲いて破滅させる事も、最早過ぎた事であろう。


 故に、当方はこの決闘にて、当方に纏わる全ての手打ちとするのである!


 …………それらの武具は、そなたらにくれてやる。国に戻り、それらを証として剥奪されし地位に戻るが良い。リーダーからも、そうする許可は得ている。遠慮などする間柄ではないであろうが、黙って持って行くが良い。

 ……とは言え、此度の負傷でそなたの腕は大きく上がらず、鼻もかつての様には利かなくなるであろう。それこそ、セレン嬢並みの腕前でも無ければ、完全快調は無理であろうが、それでも最低限の生活位は出来るであろうよ」



「…………兄、者……」「……ガリアン、様……」



「既に言ったであろう?当方にとって、既に弟とかつての婚約者は死んでいる、と。

 かつて弟であった者に取っては、むしろ当方こそ死んだモノとして扱うのが妥当と言うモノであろう。

 故に、もう一度だけ言う。

 当方に、弟は、もう、いない。

 既にこの身は、親類縁者無き天涯孤独の身の上であれば、そなたらとももう顔を合わせる事も無かろうよ」



「…………あ、兄、者……?」「……そんな、ガリアン様!?そんな、そんな事、あんまりです……!」



「………………既に当方にとっては縁の切れた事ではあるが、最後に一つだけ。

 ……達者に暮らせ。今のそなたらであれば、傲る事無く地に足を着けて生きて行く事も可能であろう。なれば、己の身一つでは明日をも知れぬ様な世界からは早急に足を洗い、明日を確かなモノとして生きて行くが良い。

 これは、かつてそなたらの兄役であり、そなたらを想っていた者からの、最後の手向けであると知れ」



「…………あ、兄者……兄者、兄者、兄者兄者兄者、兄者!!」

「…………最後のお情け、確かに承りてございます。

 ……今まで、大変お世話になりました……!

 どうか、どうか無病息災にて、お過ごし下さいませ……!!」




 斧を引き抜き、血糊を拭って鞘へと納めてから背中を向けるガリアンに対し、それまで確かに在ったハズの『何か』が決定的に損なわれたのだ、と言う事を受け入れられないのか、まるで親を求める迷い子の様に動く手を伸ばしてすがり付く様に慟哭の声を挙げるグズレグ。


 反対に、それまでの全ての縁が絶たれた事を理解しながらも、自分達への怨み辛みを全て呑み込んだ上で、尚且つ再起の道を示してくれた事、これまで様々な場面で守ってくれていた事への感謝の念を伝えると共に、もうそうやって祈る事すらも出来ない程に隔絶してしまってはいたが、彼が迎える新たな門出に対して寿ぐ言葉を贈るサラサ。



 しかし、それらの声に彼が足を止める事も、振り返って安心させる為に微笑みを投げ掛ける事は無く、新たに彼を愛する女性と彼を受け入れてくれた仲間達の元へと歩み寄って行くその姿こそ、自分たちと彼との間に確かに在った『繋がり』が断絶したのだ、と言う事を何よりも雄弁に語っており、ソレによってグズレグは、自らの行いの本当の意味を真に理解し、その場で慟哭の遠吠えを挙げるのであった……。




取り敢えず、この章での本編はここまで

次回に閑話を挟んでから次の章に移ります



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