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重戦士、過去の因縁と訣別する

 


 決闘の開始を宣言する声が挙げられる中、最初に動いて先手を取ったのはガリアンではなくグズレグの方であった。



 彼は知っていた。


 ガリアンは、『重戦士』として盾役に全能力を傾けている以上、初速を出す事を苦手としているが、かつて自らが口にしていた様に『鈍足』等と言える程に速度を出せない訳では無い。むしろ、最高速度まで加速出来たのであれば、『侍』である自らをも上回るだけの速度を叩き出す事が可能であると言う事を。



 故に、彼に加速する余裕を許してしまえば、自らを上回る速度にて、鎧や装備を含めた大質量かつ超重量の突撃を受けるリスクが常時付きまとい、ソレを警戒する事に多大な集中力を傾ける必要に駆られる事となってしまうのだ。それは、是が非でも避けたい展開だと言えるだろう。



 …………己だけであれば、過去の所業からしても負けて討ち取られることならば良しとしているが、自ら以外の命が賭けられてしまっている以上、無抵抗のままで討ち取られる事は絶対に出来ない。


 せめて、何かしらの足掻きを見せ、彼に心変わりを促す必要が在る。



 なんて事を内心で考えながら、兎に角距離を縮めなければ、との思いから必死に前へ前へと進んで行くグズレグ。



 そんなグズレグの姿を、何処か懐かしそうに、眩しそうに兜のスリットから覗くガリアン。


 以前の様に、自身に絶対の自信を抱き、取り敢えず接近さえすれば後は自分の力量さえあればどうにでも出来る、と言った傲慢さは鳴りを潜め、それが必要であるが故に、と言った鬼気迫る必死さが窺える空気を纏っているだけでなく、彼がどの様な手に出てきたとしても即座に反応出来る様に、と備えて構えられている様にも見てとれる。



 あからさまに以前とは異なるその姿に、兄である『ガリアン=ウル・ハウル』として弟の成長を喜ぶ感慨と、かつて追放された一人の『ガリアン』として因縁の相手が思慮深さを手にしてしまった事への面倒臭さに対して舌打ちをしたくなる気持ち、と言った相反する二つの感情が同時に発生し、思わず兜の中で苦い顔をしてしまう。


 ……しかし、この決闘自体が自ら言い出した事であり、以前から何かしらの形にてけじめを付ける事を密かに内心で希望していたガリアンは、自身でも不可思議な心の動きに辟易しながら盾を構えて突撃を開始する。



 当然、ソレを成されるのが最も厄介であると理解しているグズレグは、その突撃が勢いに乗り気ってしまう前に急速に踏み込みを仕掛けて彼我の距離を見失わせ、ギリギリの位置にまで自ら進み出てから勢いを殺す事無く腰を回転させて抜刀し、ガリアン目掛けて居合い抜きを放つ。



 ただ刃の煌めきのみが、斬られた相手の目には写る。



 そう形容され、別名を『唯閃』とも呼ばれる神速にて放たれる刀の抜き打ち。


 以前の力任せで天職によって与えられていた補正によってのみ放たれていたモノとは異なり、本人の資質を極限まで研いで自身の業へと昇華させたその一撃は、正しく噂に聞きし『唯閃』と呼ばれるソレその物であった。



 その刃の煌めきに半ば無意識的に反応し、スキルを発動させながら軌道に盾を滑り込ませるガリアン。



 半ば反射行動として差し出し、体勢もソレを受け止める為に整えられたモノでは無かった事もあり、放たれた一撃を弾き返す事も、受け流す事も出来ずにただただ受け止め防御するしか出来なかったが、金属同士がぶつかり合う事で発生した甲高い金属音と火花を散らしながらも防御した盾を弾かれる事は握力にて抑え込んでどうにか防ぎ、手の痺れを感じながらも反撃として反対の手で携えていた斧をグズレグ目掛けて振り下ろす。



 一方、盾を両断する位のつもりで『唯閃』を放ったグズレグは、ソレを体勢が悪いながらも防ぎきり、最悪でも、と立てていた目標である『盾を弾く』と言った事も達成出来なかった事に落胆と驚愕を覚えるも、ガリアンであればその程度やって当然、との思いも在って致命的な驚愕とはならなかった為に、自ら目掛けて振り下ろされた斧を紙一重の距離で慌てて回避する。



 そうして、最初の交差により、ガリアンはドヴェルグ謹製の盾の表面に薄くとは言え傷を付けられ、グズレグは回避しきれなかった為に頬を縦断する形で切り傷を負う事となってしまう。



 元より殺し合い上等なルールを設定しての決闘である為に、その程度の負傷で決着と見なされるハズも無く、当然の様に立会人からも特に言及される事も無かったので、再度盾を構えて突撃の姿勢へと移行するガリアン。



 ソレを目の当たりにしたグズレグは、その場から大きく飛び退き、先程自らが地面へと突き立てていた薙刀(グレイブ)を引き抜くと、片手で刀を持ち、もう片手にて薙刀(グレイブ)を構える、と言った変則的な二刀流へと構えを変えて行く。



 普通であれば、ただの苦し紛れな虚仮脅しにしかならないであろう異種二刀流だが、今回に限って言えば『侍』と言う特殊な天職がもたらす補正により、片方を極めた者がソレを扱う程の精度と練度は期待出来ないながらも、熟練者の扱うソレと遜色の無いレベルで扱う事を可能としており、おいそれと油断して接近する事を許さない状況へと変化していた。



 間合いに入った瞬間に薙刀(グレイブ)による下段脚払いで足を潰し、その後体勢の崩れた処に刀を差し出せば勝手に自ら刺さりに来る。そんな事を狙っているのだろう、との考えがガリアンの脳裏を過る。


 珍しく自ら攻めて先手を取りに行かず、敢えて受けに回るその作戦に驚きを禁じ得ない彼だったが、それらの企みを知った上で敢えてそうして待ち構えるグズレグへと向かって突撃を敢行して行く。



 自らが受けに回った以上、ガリアンの側が攻め手へと回らないと千日手になる、と言う事は理解していたハズのグズレグだったが、それでもカウンターの類いでも無く、そう言って頂けると役割を振られた訳でもないのに、自ら攻撃に打って出ている彼の姿が意外であったらしく、数瞬とは言え認識に空白が出来てしまっていた。


 だが、今は戦闘中なのだから、と意識を切り替えて左脇に抱える形で構えている薙刀(グレイブ)を絞め直し、右手に携えた刀を中段に突き出してガリアンが自らの刃圏に入ってくるのを待ち構える。



 そして、勢いのままに間合いへと踏み込んで来たガリアンの右脛と足首の関節部分目掛けて薙刀(グレイブ)の刃で切り裂かんとして振るって行く!



 そのまま切り裂ければ、別に良し。当初の狙い通りに右手の刀で詰めに行くだけなのだから。


 防御されたのならば、それも良し。そうなれば、厄介な盾はそちらに回される事になるのだから、刃を届かせる難易度は格段に下がる事となる。



 そんな、どちらに転んでも損の無かったハズの状況は、ガリアンによる想定外の行動にて容易く覆される事となる。




 ……そう、鎧に付随していた脚甲(グリーブ)の頑丈さにかまけた大胆な行動として、振るわれて来た薙刀(グレイブ)の刃が自らの足を切り裂く寸前にて、その刃をその場で踏みつける事で見事に止めて見せたのだ。





 その驚愕により、今度こそ本当に意識が驚愕で漂白されてしまい、続ける刃として用意していた右手の刃を振るうのが遅れてしまう。



 しかし、そんな絶好のチャンスを見逃すガリアンでは無く、突撃の際に構えたままであった盾を再度握り締め、驚愕から帰って来れていなかったグズレグの鼻先を手にした盾にて思い切りぶん殴る!



 流石にその寸前で意識が再起動を果たしたグズレグが慌てて対応しようとするものの、流石に寸前まで意識が飛んでいた為にまだ頭が回っていなかったらしく、突き出していた刀の切っ先を盾すら使わずに手甲(ガントレット)の丸みと装甲の厚さを利用して弾き、遠慮も呵責も何も無い!と言わんばかりの勢いにてグズレグの鼻頭を盾にて思い切り殴打してやる。




 ……ゴキャッ!メキメキッ、ミシッ!!!




 鼻だけでなく前歯や頭骨の一部を叩き砕いたその一撃により、その場で殴られた顔面を中心として勢いのままに空中にて一回転し、その後頭頂部から地面へと落下して更なるダメージを追加で発生させてしまう。



 すかさず得物の斧を手に、追撃の為に駆け寄り、頭上へと手にした斧を振り上げるガリアン。






「…………これで、そなたとの因縁に、これまでの一切合切の全てに、ケリを付ける!

 これが、そなたへと手向ける訣別の一撃だ!!!」






 そして、家族としての情をこの場で断ち斬らんとするかの様に、咆哮にも等しい声を挙げながら、手にした得物を振り下ろすのであった…………!




多分次でこの章は終わり

何時もの通りに閑話を挟んでから次章に移る予定です



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― 新着の感想 ―
[気になる点] 対人戦闘で取りあえず勝負になったと言えるは、今回が初めてでない? [一言] ヒギンズやアレスの古巣と戦闘になると今回以上の死闘になるのかな?
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