『追放者達』、攻略の進捗を報告する
『追放者達』のメンバー達が『アンクベス』からボロボロになりつつどうにか脱出してから早数日。
彼らの姿は、かの交易辺境都市ガルガンチュアへと至っていた。
「…………確認が取れました!
これで、正式に『追放者達』の皆様方が、『アンクベス』に於ける現行での最深攻略者として登録されました!おめでとうございます!」
「……まぁ、そのお陰で死にかけたけどね」
「いやぁ、やっぱり無理はするモノじゃないねぇ。
これからは、やっぱり当初の方針の通りに『無茶・無謀はしないで堅実に事を運ぶ』って事を徹底した方が良さそうだねぇ」
そんなやり取りを挟みつつ、彼らが証拠として提示していた魔核や途中の宝箱からちょろまかして来た魔道具を、カウンターへと顔を出しているアレスとヒギンズへと向けて返還して来る受付嬢。
ソレを受け取ったアレスは、直ぐに換金する予定ではあってもあまり余人の目に晒しておくのはよろしく無いだろう、との判断から即座にアイテムボックスへと収納してしまう。
ソレを何故か残念そうに見詰める名も知らぬ受付嬢に対し、確認する様にしてアレスが口を開く。
「……それで、こうして正式に俺達が攻略の記録を更新した訳だけど、俺達の扱いってどうなったりするのか分かるか?
一応、既に話せる分の情報は全部話したつもりなんだけど……?」
「…………どう、と言われましても……?
流石に、完全攻略を成し遂げられた訳でもないので、今すぐランクを昇格させる、等と言う事は難しいかと……」
「いや、流石にそんな事言うつもりは無いよ?
無いけど、今後の攻略をスムーズにする為に強制的に連行されたり、調子に乗ったギルドが大々的に攻略に乗り出すからと無理矢理先見隊として使い潰されたりする、なんて事は無いだろううね?って聞いてるのさ」
「…………いや、流石にソレは無いのでは?
私も人間ですし、上層部の意向にも詳しい訳では無いですが、流石にそんな事はしないと思いますよ?
まぁ、本格的に攻略して~とか言う事態になったのでしたら、もしかしたら皆様方にも召集が掛かったりするかも知れませんが、それも依頼として出される事になるハズですし、先に現地の有名な冒険者達の方が召集される事になるかと。
それに何より、ギルドにそんな事を強制させられる様な強権は有りませんから、心配するだけ無駄かと思いますよ?」
「……ふぅん?
まぁ、それでも用心して於いて無駄にはならないでしょう?
なら、オジサン達としては、考えうる可能性は一つだけでも潰しておきたいんだよねぇ」
「…………はぁ、そう言うモノ、なのでしょうか?」
「そうそう、そう言うモノ、なのさぁ。
まぁ、取り敢えずは『無さそう』って事で良いんだよねぇ?」
「えぇ、断言はしかねますが、概ね間違いは無いハズです」
「そ。なら、良かったよぉ。
あ、それと、ここの訓練所って少し貸して貰っても良いかなぁ?ちゃんと料金は支払うからさぁ」
「え?えぇ、まぁ、それは構いません。
訓練所は広く開かれている施設ですし、料金さえ支払って頂けるのでしたら、ソコに殺傷が伴わない使用方法に限りますが誰であれ使用は可能な施設では在ります。
在りますが……その、一体何を……?」
「ん?なに、そんな大した事をするつもりは無いよぉ。
ただ……」
ソコで意味深に言葉を切ったヒギンズが、苦笑を浮かべつつ咥えたタバコに火を着けながら、受付嬢へと告げるのであった。
「…………ただ、ウチのメンバーが、最初で最後で最大の兄弟喧嘩をする予定だから、その場所として貸して貰いたい、って話なのさぁ」
その言葉に名も知らぬ受付嬢は、ポカーンとした表情を浮かべながら、苦笑いの浮かべられたヒギンズと、何処か呆れた様な視線を向けるアレスの二人を、ただただ眺める事しか出来ずにいたのであった…………。
******
ガルガンチュアは、辺境でありながらも交易都市として多くの異なる価値観を持つ人々が日常的に行き交う都市である。
故に、ちょっとした価値観や文化的な擦れ違いと言ったモノから、喧嘩に発展してしまう事がまま見受けられる土地となっている。
ソレは、商人や一般人だけではなく、冒険者達にとっても等しく同じ事である。
当然、人々を守る側の存在である冒険者が、人通りが多く、衆目に晒される真昼の道中にて殴り合い、斬り合いの殺し合いにまで発展するであろう行為を行う様な事は、人々を不安にさせる、と言う観点から固く禁止されている。
しかし、そうして押し付けるだけでは、元々自由な気風が売りであり、かつ堅苦しい規律を厭っているからこそ冒険者になった経歴の在る者に取っては、大いに不満が残る事となってしまう。
おまけに、本当に些細な事柄によるいさかいすらもそうして押さえ付けてしまっては、人々が互いに本音を口にする事すらもままならない事になってしまうのは目に見えていた。
そこで、ギルドが内外へと向けて提案したのが『決闘』のシステムだ。
以前、望む望まないに関わらず、アレス達が受ける経験をする事になった決闘のシステムは、本来は『戦うのならルールを決めて特定の場所で死なない様にやりましょう』と言う事が根幹となっている。
互いの意見を賭け、勝った方の意見や主張を優先させる。
更に言えば事前に申請を行えば、腕に自信が無い場合は自身以外の者を代役として立てる事も出来る為に、そこまで不公平さが如実に露になる事態にも陥っていない為に、比較的平等なシステムである、との評判をされている程度には人気・知名度共に優れるモノとなっている。
そんな決闘のシステムを利用し、また行使場所として幾つか指定されている場の一つである訓練所を借りて実行しようとしている影が二つ。
どちらも、このガルガンチュアをしても『珍しい』と形容出来るフルフェイス型の獣人族であり、毛並みの色や体格、装備と言った相違点は数多く見受けられたが、その顔立ちは何処か似通っており、何となくではあるが、どの様な間柄なのかを周囲で彼らを窺っていた者達に知らしめる事となっていた。
……言わずもがなだとは思うが、ご想像の通りにこうして対峙している二人は、『追放者達』所属のガリアンと、『切り裂く鋭呀』所属のグズレグの二人だ。
鎧を着込んだガリアンにより、『アンクベス』の激戦によって本体に傷こそ及んでいないながらも、表面に施されていた真銀の鈍い銀色のコーティングが剥がされ、その下に隠されていた神鉄鋼と猛焔紅竜の素材によって産み出された、黄金色とも紅蓮色とも取れない不思議な輝きを宿す盾と斧とが衆目の元に晒されながら構えられて行く。
それに相対するグズレグは、『追放者達』から貸与されたままとなっていた番人の使っていた刀と、ついでに、と薙刀も渡されて特に説明もされずにこの場に引き出されており、イマイチ事態を理解しきれていないのか頻りに周囲へと視線を走らせていた。
そんなグズレグの事なぞ知った事ではない、と言わんばかりの大雑把さにて、ガリアンがグズレグへと言葉を投げ掛ける。
「……さて、これから当方とそなたとで決闘を行って貰う。
そなたが勝てば、此度の功績の全てをくれてやる。それを手に故郷へと凱旋すれば良い。ただし、負ければその時は、これまでの当方の恨みをその身で受けて貰う。
ちなみに、そなたに拒否権は無い」
「…………決闘を、受けることに否やは、無い……無いが、その場合……サラサは、彼女は、どうなる……?」
「……ふむ?既に負ける気であるそなたに教える義理は最早当方には無いが、大方なぶるだけなぶってから無惨に殺して死体を打ち捨てる事になるのであるかな?それが、どうかしたか?」
「…………そうされるに、値するだけの……罪状が、自分達に在る、のは……承知して、いる……しかし、彼女まで……その様な、罰を受けるのならば、流石に、黙って誅される訳には、行かぬ。行かぬのだ!」
そんなやり取りを最後に挟み、それまでの萎んですら見えていた身体に気力を漲らせ、その場に薙刀を突き立てると腰に刺していた刀の柄へと手を掛けるグズレグ。
その姿を確認してから、兜のフェイスガードを下ろして得物を構え、腰を落として体勢を整えるガリアン。
そんな二人の間に、ギルドから差し向けられた立会人が進み出て、両者共に準備を終えている事を確認してから、掲げていた手を振り下ろして決闘の開始を宣言するのであった。
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