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『追放者達』、痛い目を見る

 


 先へと進むことを渋っていたダンジョンマスターを少々強引に説き伏せ、半ば無理矢理開かれた扉を潜り抜けた『追放者達(アウトレイジ)』一行。



 散々、この先に行くのは辞めておいた方が良い、と脅されていた事もあり、眠らされていた二人を叩き起こし、予めしておける類いの準備は万全に済ませた上で突入した彼らも、別段最初から『このまま完全攻略出来るハズ!』と思っていた訳では無い。


 むしろ、ダンジョンマスターに対して言っていた様に、少し覗いてくるだけに留めるつもりであったし、現にそうしようとしていたのだ。彼らとて、幾ら相手の正体が知れないとは言え、向けられた忠告に全く耳を貸さない、と言う様な愚かしい事をするつもりは無い。それが、真摯なモノであったのならば、なおのこと、だ。



 そんな訳で、万全の準備を整えて突入した彼らだったのだが、彼らの眼前へと広がっていたのは予想を遥かに越える『地獄』であった。




「えぇい、くそったれ!?

『氷河よ!永久(とわ)に変わらざる原初の凍土を顕現せよ!『凍結する瀑布(アイシクルダウン)』』!!

 ……マジかよ!?半分解っちゃいた(・・・・・・)けど、これもこいつには効かないのかよ!?」




 短縮詠唱によってランクを落としつつも、高威力かつ発動時間も長く足留め効果も高い魔法である『凍結する瀑布(アイシクルダウン)』を放つアレス。


 ……仲間すらも半ば巻き込むつもりで放たれた魔法であったのだが、しかし対象とされた人形で全身を鎧で覆った魔物には効果が無かったらしく、真上に開けられた次元の穴から流れ出る極寒の激流をモノともせずに、それまでと同じペースにて彼らへと迫って来る。




「…………う、うわぁぁぁぁぁぁぁあ!?」



「なっ、グズレグ!?待て、そなた一人ではどうにもならぬと分かっているであろうが!?」




 遭遇した当初から変わらず、一定のペースにて接近して来るその相手に恐怖心が臨界点を超えたのか、先の戦闘にて得物を喪っていた彼に対して一時的に貸与されている、例の番人の使っていた刀を手にして悲鳴を挙げながら、無謀にも眼前の魔物へと突撃を仕掛けて行くグズレグと、その行動に思わず声を挙げながら、自身もソレに追随する形で駆け出すガリアン。


 ソレを、背後から自らの従魔達に支援する様に指示を出しながらも、自らは例の番人が使っていた武具の一つであり、魔力によって矢を作り出す能力を持っていると推測されている弓を使って矢を飛ばしながらナタリアも直接援護して行く。



 しかし、それらを全く持って警戒する事無く変わらないペースにて足を進めていたその魔物は、放たれた矢を無造作に払い落とし、至近距離に至ってから抜き放たれた『侍』による神速の域に近しい速度を持つ居合い抜きを放たれてから反応して難なく指先にて掴み取り、盾を構えて突撃してきたガリアンに対して手にしていた槍を、穂先が霞む程の速度にて彼目掛けて突き出した。



 咄嗟にその攻撃に盾を合わせるガリアン。



 どうにか攻撃に間に合わせる事には成功したし、防ぐ事にも成功はしたが、その攻撃の威力を受け止めきる事が出来なかったらしく、余人の目を欺く為に盾の表面へと施されていた真銀(ミスリル)によるコーティングを割り砕かれ、その残骸を周囲へと撒き散らしながら後方へと吹き飛ばされてしまう。


 その一撃を放った為に体勢が崩れたのを隙と見て従魔達が躍りかかるも、近付く個体から順に蹴り飛ばされたり殴り飛ばされたりして次々に排除されてしまう。



 そうして迫る驚異を排除したその魔物は、その驚異的な威力を秘めた槍を、未だに刃を掴まれたままとなっているグズレグへと向けて振るおうとしたのだが、その寸前に頭上から眩い光が魔物へと目掛けて降り注いで行く。




「流石に、これは効果が在るハズです!今の内に下がって!!」




 セレンによって放たれた、アンデッドに対して特効効果を持つ神聖魔法による魔法攻撃により、掴んでいた刃を離してその場に魔物が膝を突く。



 ソレを機と見たアレスが、得物を手にして様々なスキルを発動させながら一気に距離を詰め、身に付けていた鎧の隙間目掛けて刃を突き込んで行く。



 咄嗟に空いていた腕を掲げて防御しようとするも、ソレを掻い潜って進められた刃が魔物の兜とネックガードの隙間へと滑り込み、内部へと致命的なダメージをもたらす。



 ソレにより致命傷を負ったらしい魔物はそのまま崩れ落ち、魔核のみを残して身体を魔力へと霧散させてしまう。



 目の前の敵が消滅した事でホッと胸を撫で下ろしたアレス達であったが、その『現実逃避』は愉しさの中に隠しきれない疲労と苦痛の混ぜられたヒギンズの声によって無理矢理終了させられる事となってしまう。




「……お、お~い!?そっち、終わったのならもう良いかい!?

 なら、もう一体流しても良いよねぇ!?こっち、もう三体目(・・・)が溜まって来ちゃってるから、早くして欲しいんだけど!?」




 その声に釣られる形で視線を向ければ、ソコには彼らよりも通路の奥側へと行った処にて一人槍を振るうヒギンズが、先程彼らが倒したのと同じ見た目をした魔物三体(・・)を相手に大立回りを披露している姿があった。


 ……そして、更に間の悪い事に、そうして大立回りを続ける彼の向こう側、通路の奥側からは、更にもう一体同じ様な魔物がガシャガシャと音を立てながら通路を手前側へと向かって進んで来ているのすら見て取れた。



 その光景に、思わず再度現実逃避を図りたくなるアレス。



 しかし、新しく接近するソレをヒギンズが目の当たりにしてしまった為に、宣言通りにそれまで相手にしていた内の一体をわざと通して来てしまっているので、足元に転がる複数の魔核を拾い上げる事すら惜しんで、こちらも仕方無く得物を構えて魔力を練り上げて行く。



 …………そう、ここまで説明すれば言わずとも理解して頂けているとは思うが、彼らが対峙し、苦戦している相手は別段特別な存在と言う訳では無い。


 彼らが相手にしている魔物は、この未踏破区域に於いて、普遍的に出現する程度の存在であり、一般的に『雑魚敵』と呼ばれるポジションに存在する魔物であったのだ。



 最初、彼らがこの区域へと足を踏み入れて少ししてから当初に遭遇した時、彼らは全員で一体を袋叩きにする形で戦闘を開始した。


 当然の様に、誰も欠ける事は無いままに戦闘は終了し、その強さから徘徊型の中ボスの類いか?でもこうして勝てたのだからここでもどうにかなるんじゃないのか?と思ってしまった事が彼らの運の尽きであったのだ。



 ……そう、彼らは、そこで引き返す、と言う選択肢を自らの手で放棄し、更に奥へと足を踏み入れてしまい、ソコで新たに遭遇した同じ様な魔物を目にして違和感を抱き、ソレとの戦闘音を聞き付けて他の個体が合流してきた事で自分達の思い違いに気が付いた、と言う事なのだ。



 それから、どうにか撤退する隙を窺いながら、一人戦闘力が頭抜けているヒギンズが大半の足留めを担い、その間に他のメンバーで一体ずつ袋叩きにしながら有効な手立てを探る、と言った形に落ち着いたのだが、これがなかなか予想の通りに上手く行ってくれる事が無かった。



 何せ、一体一体の強さが先程倒した番人を遥かに超え、かつて『追放者達(アウトレイジ)』のメンバーにて倒した『不死之王(ノーライフキング)』(強化前)よりも若干劣る、と言った程度の戦闘力を携えているだけでなく、纏っている鎧の効果なのか頗る魔法の効きが悪くなっているのだ。それこそ、アレスやセレンの魔法ですら、下手なモノでは直撃させてもびくともしない程度には、効かなくなってしまっていた。



 それらも相まって、一体一体が非常に強力であるにも関わらず、アレスやセレンの手によって纏めて処分する、と言ったことも出来ず、ジリジリと追い詰められる様な形で必死に戦っていた、と言う訳なのだ。



 そんな事態であったが故に、メンバー達の疲労は肉体的にも精神的にも重くのし掛かって来ており、何より一人で奮戦してくれているヒギンズの負傷が目立ち始めていた事に気が付いたアレスは、ヒギンズが流してきた一体を他のメンバー達に任せてヒギンズの元へと急ぎつつ、通路の奥側へと手加減抜きで氷属性の魔法を放って物理的に通路を閉鎖し、味方全体へと号令を掛けるのであった。





「取り敢えず、今相手にしている奴等をどうにかしたら、全力で撤退するぞ!このままだと死人が出かねんから反論は認めない!

 絶対に、全員で生きて帰るぞ!!」





 …………その判断が効を制したのか、追加で来た魔物に氷を破壊される時には既に戦闘を終えていた彼らは足元の魔核を全て回収すると一目散に例の扉を目指して走り出し、結果的に全員がボロボロにされながらもどうにか無事に脱出する事に成功したのであった。



もう二三話程度でこの章も閉じる予定です

最後までお楽しみくださいませm(_ _)m



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