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『追放者達』、未踏破区域を覗き込む

 



「まずは一つ。さっきも言った通りに、ここに置いておいた番人を倒せた事のお祝いと、おめでとうの言葉を贈りに来た。

 まさか、俺としてもここまでこの関門が突破される事がなく、ここまでこの扉が開かれない事になるとは思っていなくてね。

 お陰で、自分から出向くでもしないと、他の連中みたいに定期的に誰かが遊びに来てくれる、なんて事にもならなかったから暇で暇でさぁ……」



「…………ん?ちょっと待った」




 アレスの言葉を呼び水にした『アンクベス』のダンジョンマスターが、それはそれは実感の籠りまくった言葉を並べ立てるが、違和感を覚えたアレスがソレに対して手を掲げて一旦止まる様に促す。



 ソレに対して当のダンジョンマスターは、特に気分を悪くした様な様子も見せずに、手振りで質問を促して来る。


 なので、アレスはアレスで遠慮無く疑問に思ったポイントを突っ込んで行く事にした。




「……さっき、『番人が倒されず扉が開かれない状態が~』って言ってたけど、ソレってどう言う事だ?

 聞いた話によれば、ここに居た例の四面八臂の動く骸骨(スケルトン)は少なくとも何度か倒されては居るハズだぞ?その度に、ソコの扉が開かなかった、って話も外で聞いた。

 そこら辺、さっきの物言いからだと矛盾しないか?」



「あぁ、その事?まぁ、確かに事実だけを見るのなら、これまで何度か『倒されて』いたのはその通りさ。

 でも、この扉の開く条件として設定されている、『全ての武具が揃った状態での打破』を成し遂げたのは以前その子がやった一回だけだし、その後のは武具の内の一つを喪って弱体化してる番人を倒しただけなんだから、そんなの『勝利した』なんてお世辞にも言える様な事じゃないだろう?

 だから、この扉も開かなかった、って訳さ!

 まぁ、とは言え今回はかなり特殊な事例だったし、今回みたいな『特定の人員しか絶対に達成出来ない』みたいな仕掛けをするつもりはもう無いし、この動く骸骨(スケルトン)も新しいヤツに変更しておくとしようかな?」



「……じゃあ、今回のアレはただ単に運の悪い偶然だっただけで、意図してやっていた訳じゃない、と……?」



「そりゃそうでしょう?

 突破させないだけなら他に幾らでも手があるのに、何でわざわざそんな事しなくちゃならないのさ!

 何か面白みが在るならともかく、何にも無いのにそんな事しやしないって!」



「…………まぁ、それもそう、なのか……?」



「そうそう!俺はダンジョンマスターだよ?そんな無駄な事してる余裕なんてナイナイ!」



「…………まぁ、それは良いとして、その次に配置する予定の番人ってどんなのを置くつもりなのか聞いても良いかい?

 このダンジョンの最奥に出てくる様なランクのヤツを、とか言うつもりなら、流石にソレはオジサン止めて欲しいんだけどなぁ?

 誰も討伐出来なくなっちゃうからさぁ」



「いやいや、流石にそんな鬼畜染みた事はしないからな?

 精々が、アレの全力程度、武具を奪われなかった状態のソレと同等程度に納める予定だから」



「…………それでも、十二分に鬼畜難易度だと思うんだけどなぁ」




 そう呟きを溢しながら釈然としない表情を浮かべるヒギンズに対し、君が言ったみたいな事を擦るよりは余程健全さ、と言う意味深な呟きを溢しつつ、浮かべていた笑みを背筋が震える類いのモノへと変えて行く。



 ソレにより、一瞬でその場が凍り付く事になったのだが、事態がよろしくない、と判断したガリアンが咄嗟に声を挙げて話題を変えて行く。




「……そ、そう言えば、先程は『まずはお祝いとおめでとうの言葉を贈りに来た』と言っていたのであるが、そのお祝いとは先程の情報と言う事で良いのであろうか?」



「……ん?まぁ、それで良い、って言うなら別に俺は構わないけど、本当にソレで良いの?

 何か欲しいなら、一人一つ位なら上げてもよいかな?とは思ってたんだけど?」



「…………いや、流石にそんなにホイホイ貰っていたら、他の連中に申し訳が立たないから俺は辞めておくよ。他に『欲しい』ってヤツがいるのなら、貰うのを止めはしないけど、俺個人としてはあまりオススメはしないかな。

 ソレよりも、俺としてはさっきの『まずは一つ』って着いてた事の方が気になるんだが?

 そう付くって事は、まだ何か在るんだろう?」



「あ、そっちに食い付く?

 まぁ、俺としてはこっちの方が本命だから良いけど、コレを聞いたらもう引き返せないよ?それでも聞く?」



「どうせ無理矢理にでも聞かせるつもりだろう?なら、さっさと話してくれよ。その方が、後腐れ無いだろう?」



「ふぅん?そんなモノかね?

 なら、言わせて貰おうかな?

 ……実は、君達にはこれ以上奥に行って貰いたくないんだよ。今は、ね。だから、ここでもう引き返してくれると俺としては有難いんだけど?」




 その言葉により、アレス達『追放者達(アウトレイジ)』のメンバー全員が凍り付く。



 取り様に寄らずとも、ソレは彼らの行動を縛る言葉に他ならなかった。


 故に、彼らの雰囲気がそれまでの、比較的温和なモノから一気に硬質的なモノへと変化して行く。



 ソレを察知したからか、ダンジョンマスターは不思議そうに首を傾げるが、彼ら冒険者の行動を縛り付ける様な事を口にしたのだ、と言う事に思い当たったのか、両手を打ち合わせてから何事も無かったかの様にして再び言葉を放ち始める。




「……あ~、その、なんだ……誤解させたみたいだから言い訳させて貰うけど、別段君達の事を見下している訳でも、君達の行動を制限したいから言ってる、って訳じゃないからな?

 ただ単に、今の君達にこれ以上奥に入られると都合が悪いって話だよ。だから、今は大人しく帰ってくれない?って話だよ。

 流石に、これよりも奥に入って来られるとは思っていなかったから、まだ難易度調整してないんだ。だから、今入られるのは不味いのさ」



「…………難易度、調整……?」




 訝しむ様な視線と声色にて、アレスが問い掛ける。



 ソレに追随するように、訝しむ視線を送るメンバー達の姿も見えていたからか、焦った様子で弁明を続けるダンジョンマスター。




「君らは知らないだろうけど、ダンジョンでポップする魔物ってある程度時間が経つと勝手にランクアップしたりして強くなったりするんだよ。

 ついでに言えば、基本的に魔物を間引くのは冒険者の仕事で、ここから先には冒険者は一度も入った事が無くて、まだ入られる事も無いだろうと高を括っていた俺も特に弄ったり掃除したりはまだしていない。

 ……これだけ言えば、分かって貰えないか?」



「……つまり、この先には強力な魔物がうじゃうじゃ居るから入らない方が良い。俺達でも死ぬから、って言いたいのか?」



「そう言う事。分かってくれたかな?」



「……ちなみに、なんだけどさぁ。

 そのうじゃうじゃ居る魔物って、どのくらいの強さが在るんだい?ここの番人と同じくらいかなぁ?」



「どのくらい、と言われても、一番弱いヤツでもここに置いておいた番人の全力を出せる状態のヤツと戦って負けない、って言えば基準の判定は出来るだろう?」



「……ふむ。で、あるのならば、当方らであれば戦闘自体は不可能ではない、と言う事にはならぬか?」



「…………いや、俺が言うのもアレだけど、よしといた方が良いよ?

 死ななくとも、戦えたとしても、勝てるかどうかって言うのはまた別の問題だろう?

 こんな処で君達が戦闘不能に、とかなられると、俺としてはあんまり面白く無いんだから辞めておけって、な?悪いことは言わないから!」



「そう言われて引き下がる様な殊勝な性格していたらぁ、オジサン達冒険者やってないと思うんだよねぇ」



「えぇ、その通りかと。

 それに、自身の目で確かめてみてこそ、初めて見えてくるモノも在ると思うのです」



「なのです!

 ボク自身は対して役に立てないとは思うのですが、それでもここで引き下がる様なら冒険者なんて辞めてしまえば良いのです!」



「……いや、でもさぁ……」



「……なら、さっき言ってた『贈り物』として、アタシ達にこの奥を覗いてくる権利を頂戴よ。

 アンタが危惧しているのって、アタシ達が調子に乗って引き際を誤って死ぬ事でしょ?なら、そこまで進まずに軽く覗いてくる程度に留めておくから、ソレの許可を頂戴よ。

 まぁ、これだけ言っても『ダメ』って言うつもりなら、強行突破に移らせて貰うけど、ね?」



「…………はぁ、もういいよ。分かったよ!行きたけりゃ行けば良いじゃないか!好きにしろよ!!

 でも、俺は止めたからな!?誰か死んでも、文句は受け付けないぞ!!」




 そう言い残し、以前と同じ様にフッと姿を消してしまうダンジョンマスター。



 必死に彼らを留めようとしていたその姿は真に迫っており、彼らをして一考の余地を与えるだけのモノであったが、彼らを押し留める事は終ぞ叶わず、結局匙を投げ出して言葉を残して撤退してしまったのだ。



 ソレを見送ったアレス達は、未だに気絶して地面へと横たわっていた『引き裂く鋭呀』の二人を叩き起こすと、諸々の準備を整えてから開かれている扉を潜り抜け、未だ誰も目の当たりにした事のない領域を目にするのであった。




もう少しでこの章も終わらせて次に行く予定です



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