『追放者達』、嬉しくない再会を果たす
アレが再登場?
「…………勝った、か……?」
そう呟きを溢すのは、未だに得物を油断無く構えているアレス。
その視線は、つい先程四面八臂の動く骸骨がセレンの放った神聖魔法によって産み出された光の柱に呑み込まれた地点へと固定されたままであり、自らが負っている大小様々な傷を手当てすらせずにいるその様子は、未だに警戒を解いていない事がありありと伝わって来ていた。
そんな彼へと、それまでのソレとは打って変わって、普段通りの草臥れた様な微笑みを浮かべながら紙巻き煙草に火を付け、煙を噴かしながらヒギンズが声を掛ける。
「……ふぅ~、流石に、もう死んでる……って表現で合ってるか分からないけどぉ、多分オジサン達の勝ち、って事で良いんじゃないのかなぁ?
ほら、ソコにアイツの魔核が落ちてるし、何よりアイツが使ってた武具も散らばってるから、倒したと見ても間違いは無いと思うよぉ?」
「…………うむ?そう言われて見れば、確かにそうであるな。
ヒギンズ殿の槍が特殊であっただけで、基本的に手に入らぬモノかとも思っていたのであるが、そうでもないのであるか?」
「さぁ?どうなんだろうねぇ?
でも、あっちの扉が開いてるって事は、やっぱり条件としては『全ての武具が揃っている状態でアイツを倒す』って感じだったりするのかなぁ?」
「……ねぇ、ちょっと!その辺の考察は後にして、今は手当てするのがさきでしょう!?
アンタ達、自覚無いかもしれないけど、結構凄い見た目してるんだからね!?」
「なのです!
取り敢えず、ソコの諸々はボクが預かっておくのですから、早くセレンに治して貰って来るのです!
そうやって元気でいる、って事は傷自体は大したことは無いのかも知れないのですが、血塗れでいられるとこっちはあんまり心穏やかでは居られないのですよ!」
「そうです!
幾ら私が後衛だからとは言え、愛しい方がおぞましい魔物と死闘を繰り広げる光景を、心穏やかに見守る事なんて出来るハズが無いでは無いですか!
ほら、早くこちらに!」
そう言って、プリプリと怒った様子にてアレスを筆頭とした男性陣を手招くセレン。
そんな彼女の様子に苦笑しながら、幾分か重い足取りにて歩き出すアレス達とは異なり、ガリアンだけは先程から自らの手を見詰めているグズレグの方へと歩み寄って行く。
俯けられたその顔に宿っているのが、勝利への貢献として腕を斬り落とせた事への感慨なのか、それとも斬り結んだ者の中で唯一負傷らしい負傷を負う事も無い程に戦闘に関われなかった事への慚愧か、はたまた自身のみが得物を砕かれる醜態を晒した事への羞恥心かは不明だが、擦れ違い様にその肩を無言で軽く叩いて行くガリアン。
そうして叩かれた肩を押さえて身体を震わせるグズレグと、ソレに駆け寄って寄り添うサラサの姿を背景に、今の仲間達の元へと歩んで行くガリアンの顔には、本人は決して認めないだろうが、確かに微笑みが浮かべられているのであった……。
******
結局、セレンに促されるままに治療を受ける羽目となったアレス達男性陣。
見た目程に重傷な訳では無い、と言う抗議は受け入れて貰えず、治療と合わせて休憩を取る事にもなっていた。
しかし、休憩とは言っても話題は先程の戦闘か、もしくは目の前で口を開いて存在感をアピールしている扉が大半を締めており、その奥はどうなっているのだろうか?と言うモノが多くなっていた。
「……やっぱり、覗くだけでも行っておいた方が良いんじゃないか?少なくとも、俺達はそこまで疲弊してる訳じゃないんだから、行けなくは無いだろう?」
「……うむ。いつぞやのドラゴンや『不死之王』と戦う羽目になった後よりは、全然負傷も軽いであるし、まだまだ行けるのである。
むしろ、行かない、と言う選択肢が出る方が不思議であるのだが?」
「そうだよねぇ。一旦引き返してまた来たとしても、その時にまだ扉が開いてる保証は無い訳だし、最悪もう一回、って事になりかねないんだよぉ?なら、最低限覗く位はして行った方が良いんじゃないのかなぁ?ってオジサンは思うんだけどぉ?」
「……ですが、皆様既に先程の敵との戦闘で消耗しておりますし……」
「どんな罠が仕掛けられてるのか分かんないんだから、もうちょっと慎重になった方が良いんじゃないの?」
「なのです!
どんな魔物が出てくるのかも定かじゃないのですから、やっぱり慎重になる方が良いのです!」
「……うんうん、そうそう。何が飛び出すか分からないんだし、何が待ち受けてるのかも分からないんだから、本格的に攻略するつもりがないのなら引き返す事を俺はオススメするけどなぁ~。
あ、もちろん、ある程度覗くだけ、って言うならまぁ、止めはしないけどね?」
「「「「「「…………………………ん?」」」」」」
唐突に発せられた声に、思わず揃って不思議そうな声を挙げてしまう『追放者達』一行。
一瞬、最初から会話に加わっていなかったグズレグかサラサが放った言葉かな?とも思ったのだが、よく考えずとも二人の声はこんな男とも女とも取れない声では無かったハズだし、そもそも一人称も違えばこんな適当で第三者的であり、自身の立場を鑑みない様な発言をする事でどうなるのかを考えない程に阿呆では無かったハズ……と言う考えから即座に否定される。
では、今の発言は一体誰が!?と言う当然の疑問と共に、またしても動きをシンクロさせてしまう六人が声の聞こえて来た方向へと視線を向けると、ソコにはかつて遭遇した『とある存在』が地面へと倒れ伏すグズレグとサラサに手を伸ばしている光景が広がっていた。
「…………なっ、貴様!?」
その光景に暫し愕然とするガリアンであったが、次の瞬間には理解が及んだらしく、得物を抜いて怒号を挙げる。
しかし、ソレにたいして『ソイツ』は敵対の意思は無い、と言わんばかりの様子にて手を掲げると、その場から素直に立ち上がって二人から離れて行く。
「はいはい、俺は戦うつもりは無いよ。少なくとも『今は』ね?
それは、君達なら分かってる事だろう?ソレに、こいつらも傷付けた訳じゃないんだよ?ただ単に眠らせただけだから。
君達だって、俺とこうして話している場面を見られるのは不本意だろう?」
「…………得物を下ろせ、ガリアン」
「しかし!」
「……ヤツがそのつもりだったら、俺達は全滅してた。その位は分かるだろう?
そして、そうでないって事は、アイツには俺達をどうこうするつもりは無いって事だ。
……それで?何の用だ?わざわざ旧交を暖めに来た、って訳じゃないんだろう?
なぁ、ダンジョンマスターさんよ?」
その言葉を受けたソレは、かつて遭遇した時と同じく、男なのか女なのか、老人なのか子供なのかすらも杳として判断出来ない顔を、何故か『笑っている』と判別出来る状態へと変えながら、そちらも顔と同じく特徴の掴めない声にて返答する。
「……なに、用事、って言う程に何が在る訳じゃないさ。
ただ単に、顔見知りで『遊びに来てね?』と約束した相手が、その約束通りに遊びに来てくれた上に、今まで誰も達成してくれなかった課題を達成してくれたんだから、暇潰しついでに『ご褒美』を上げようかとこうして出てきたって訳さ!」
「…………出来れば、二度と会いたくなかったんだけど……?」
「まぁまぁ、そう言うなって!
と言うか、そんな事言っちゃってよいのかなぁ?
ソコの森人族の娘がまだこうしてここに居るって事は、俺が上げたアレが必要になった、って事だろう?
なら、感謝の一つもしてくれないとねぇ……?」
「………………ぐっ……!?」
その返しに、思わず言葉に詰まるアレス。
以前セレンが元所属していたパーティーメンバーに拉致され、薬を嗅がされて乱暴をされそうになった際、最後の一線として彼女の貞操を守り通す為に活躍してくれたポーション(の様なモノ)をかつて接触を持った際に彼女へと授けていたのは、確かに事実であった。
それがあった故に、彼女を無事に救出する事が出来たアレスとしては、ソレを引き合いに出されると実際感謝している事もあり、反対しきる事が難しくなり黙り込んでしまう。
しかし、相手に敵意は無い様子であり、かつこの場で意識が在るのは身内のみである事から、このダンジョンマスターと自分達とに繋がりがある、と言う事実が他に漏れる心配も無い。
おまけに、以前同じ様な状況になった際には確りと約束自体は守っていたと言う実績が在るのだから……。
そう考えたアレスは、自身も得物の柄に掛けていた手を下ろし、メンバー達にもそうする様に指示を出してからこう口にするのであった。
「……それで?用事は何だ?」
それに対してダンジョンマスターは、正体不明で焦点の合わない顔に浮かべた笑みを深めながら彼らへと告げるのであった。
ダンジョンマスターの用件とは一体……?
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