『追放者達』、槍術士の因縁を撃破する
かつて自身に、仲間を喪い、自身もギリギリでどうにか生き延びる、と言った忸怩たる思いを味わわせてくれた因縁の相手と対峙し、死闘の喜悦をその草臥れた口許に浮かべたヒギンズは、今度こそは自分の番だ!と言いたげに、仲間達を背後に残して一人突撃を仕掛けて行く。
幾つかの魔法と投擲物、更にはタチアナによる妨害術がなけなしの支援や援護として飛ばされるが、前衛すらも置いてけぼりにして突き進むヒギンズの高速機動について行く事が出来ず、何とも頼りない弾幕となってしまう。
しかし、それがどうした、だったらなんだ!と言わんばかりの勢いにて突撃を続行するヒギンズを、目標とされている四面八臂の動く骸骨の方も放置出来ない脅威、として認識したらしく、左右にステップを踏んで生者以上に軽やかで滑らかな動作にて動き回って彼からの突撃を回避しつつ、手にした弓から魔力で精製したと思わしき矢を驟雨の如き勢いにて彼へと目掛けて連射して行く。
そうして怒濤の勢いにて殺到する無数の矢に対し、時に手にした得物を振り回す事で薙ぎ払い、時に自らの身体の一部を用いて魔法を構築する魔法陣を握り潰したり、と言った行動にてその全てを回避してなお距離を詰めるべく再度加速する。
対処しきれなかった矢を身体の所々に突き立てたままでなお、その命を刈り取らんとして前進を止めようとしないヒギンズの態度に何か感じ入ったのか、その表情も何も一切が無いハズの四面八臂の動く骸骨は笑う様なジェスチャーとしてまたしても顎をカタカタと言わせると、手にしていた刀の刃を迫り来るヒギンズへと目掛けて振るおう…………として直前で取り止め、何も無いハズの自身の背後へと肘関節の可動域を無視した動作にて斬撃を走らせる。
本来であれば、ただ単に空振りとなって体勢を崩すだけでなく、眼前に迫りつつ在るヒギンズに対して致命的な隙を晒す事となるだけの行為であったハズなのだが、その斬撃はとある場所にて不自然に停止し、今回の戦闘が始まって以来二度目の金属音を周囲へと響かせる事となる。
「………………まぁ、予想はしていたけど、やっぱり通用しないよなぁ……」
まるで何かを受け止めた様に停止する刃の向こう側、何も無かったハズの空間から、そんな呟きと共に滲み出る様にして得物を構えたアレスの姿が現れる。
そう、ヒギンズの突撃と、メンバー達による弾幕を隠れ蓑にした彼が『ハインド』等のスキルを駆使して無駄に広いこの部屋をグルリと大回りして背後へと回り込み、不意打ちを仕掛けていたのだ。
……しかし、その四方に対して常に視線を走らせる四面に対しては、幾らスキル等によって姿や気配を絶っていたとは言え、流石に攻撃に移る瞬間には察知されてしまったらしく、ヒギンズに対して抜き放たれるハズであった攻撃によって迎撃されてしまった、と言う訳だ。
その事実に苦虫を噛み潰した様な表情をしながらも、その場から退避する事もせず、四面八臂の動く骸骨の背後に張り付く形にて得物を振るい続けるアレス。
幾ら『王』級相当のスキルを持っていると推定されているとは言え、かなり無茶な体勢(背面に対して腕を回して戦っている状態)である上に、彼のスキルは既に『剣聖』級にまで昇格を果たしている為に、徐々に押されて行く四面八臂の動く骸骨。
しかし、だからと言ってその場から反転してアレスへと正対する、と言う選択肢もソレには取れずにいた。
何故なら、正面は正面で、突撃を仕掛けて来ていたヒギンズが肉薄し、その身体能力を最大限有効活用して大暴れしていたからだ。
「そら!そらそら!そらそらそら!!!
どうした!?その程度か!?お前って、そんなに弱かったか!?あぁ!!??」
素の状態でも『追放者達』のメンバーの中で頭一つ抜けて高い身体能力を持つにも関わらず、その上でタチアナによる支援術と、自身の龍闘法による強化によって更に爆発的に高まっているその力は、かつて自身も血塗れになりながらどうにかこうにか渡り合う羽目になった相手に対して、常に自身の優位を保ち続ける事を可能としていた。
もちろん、その優位性は彼一人で確立させたモノでは無い。
流石のヒギンズであれ、その老獪さの域にまで達している経験則から来る手管を駆使したとしても、彼一人で相手に出来る様な相手では無い。
そんな無茶をすれば、程無くして彼であっても物言わぬ骸と化す羽目になるのは必定だ。
しかし、現在相手は得物の一つを喪っていて万全では無く、その上刀はアレスの対応に、盾と弓は遠距離から仕掛けて来ているセレンを始めとした決して無視できない後衛組に対しての防御と牽制とに掛かりきりであり、彼への対応へと回せているのは薙刀ただ一つキリである。
一応、時折隙を見付けては空いている一組の腕にて拳打を繰り出したり防御に使用したりはしてはいるものの、それでも他の武具を操る手練よりも遥かに拙いそれらでは、幾ら隙を突いた処で彼へと有効打を与える事は出来ず、ただただ幾手か自らの『終焉』を遅らせる事しか出来ていなかった。
そんな最中、四面八臂の動く骸骨にとっては更に状況を悪化させる事態が発生する。
後衛の護衛として動かずにいたガリアンが、今こそが攻め時だと判断した為に、盾を構えた状態にて突撃を仕掛けて来たのだ。
突然の行動に、一瞬とは言え思わず固まる四面八臂の動く骸骨。
自身の攻撃でも砕けず、貫けなかった盾を構えられての突撃に、近付かれるのは不味い、と言う判断は出来ても、ソレを止める為には遠距離攻撃の手段である弓を使う必要が在る。
しかし、ソレをそちらに回してしまっては最後衛から自身にとって致命的な攻撃を繰り出す事を可能としている存在が自由に動ける様になってしまうし、長く準備を必要とする大火力の魔法を放って来る事になりかねない。
かと言って、自ら接近して迎撃する事は実質不可能だ。何せ、前後をアレスとヒギンズに挟まれて攻め立てられており、自由に動かせるのが盾位のモノであるし、何よりこの状態から自ら危うい拮抗を崩してしまえば、刹那の内に致命的な攻撃を喰らってしまう事は容易に想像出来てしまっていたからだ。
そうして、思考の袋小路へと追い込まれたが為に起きた一瞬の硬直を見逃す二人ではなく、それ幸いとばかりに攻め手を激しくして一気呵成に四面八臂の動く骸骨を攻め立てて行く。
最初こそ、どうにか凌いでいた動く骸骨だったが、徐々に二人の気迫や時折混ぜられるスキル等を駆使した攻撃によって攻撃を受ける様になってしまい、最終的には盾すらも駆使して二人への対処へと掛かりきりとならざるを得なくなる動く骸骨。
そんな中、とうとう突撃を仕掛けて来ていたガリアンが彼らの元へと到着し、それまで走って来ていた勢いと全重量を乗せたシールドアタックを仕掛けて来る。
当然の様に、その突撃を見る事すらせずに直前にて回避して見せるヒギンズ。
寸前まで彼の身体が目隠しとなり、タイミングを掴めなかった四面八臂の動く骸骨はなす術も無く直撃を受ける事に…………なりはしなかった。
元より、二メルトギリギリと言った身長のヒギンズでは、二メルトを軽く超えるガリアンを隠しきれなかった、と言う事も在るが、四面八臂の動く骸骨の身長はその二人を軽く上回る推定三メルト近い状態に在る為に、普通に上から接近されるのが見えていたからだ。
故に、ソレはヒギンズが身を翻して回避し、ガリアンが突撃を仕掛けて来たのと同時に、背後のアレスから攻撃を受ける事も厭わずに全力で盾による殴打を繰り出し、ガリアンによるシールドアタックへと真っ正面からぶつけてその勢いを殺いでしまう。
更に、そうして盾が打ち合わされた瞬間に、空いていた二本の腕にて打ち合わせた盾ごとガリアンの盾の縁を握り締めて固定し、その場から逃げられなくした状態にて大上段から弓を構えて引き絞る!
このまま、盾を捨てて逃げるのならば良し。そうなれば、厄介そうな後衛を守る盾が無くなる為に、そちらから先に片付ける事も可能となる。
逆に、このまま盾を捨てなくてもまた良し。そうなれば、このままこれまでよりも遥かに多くの魔力を注いだ必殺の矢が、厄介な盾役の急所を射抜いて脱落させる事が出来るのだから。
また、その矢も別段一撃死になら無くても構いはしない。当たりさえすれば、幾ら回復役が居るとは言え、暫し戦線へと復帰する事は出来なくなるし、厄介な神聖魔法使いも暫くはそこに縛り付けておける。その間に前衛のどちらかを落とせば十二分に全滅させる事も可能となる。
流石に、アンデッド故に明確に言語化して思考していた訳では無いだろうが、そんな絶好のタイミングへと誘い込み、自らの損傷すらも厭わずに必殺の一撃を解き放つ!
…………その瞬間、それまでソレが注意を払う事も無く、またアレス達からも特に期待はされていなかったとある人物が、その場にて抜き放った刃を一閃させて四面八臂の動く骸骨が放った必殺の矢を、ガリアンへと着弾する前に斬り飛ばしてしまう。
「…………グズ、レグ……?」
状況的にほぼ死んだか……と半ば自棄気味に覚悟を決めていたガリアンが、その有り得ないハズの光景に、呆然とした様に呟きを溢す。
しかし、ソレを成した当人はその呟きに応える程の余裕も無いのか、矢を斬り払った刃を翻し、返す刀で弓を構えていた腕へと渾身の力を込めて刃を走らせる。
通常であれば通じ得なかったであろうその一撃は、タチアナの支援術によって強化され、更に四面八臂の動く骸骨の防御力もタチアナによって劇的に低下させられた上に、『刀』と言う特殊な形態を持つ武具を扱う際に最もその切れ味を発揮させられる『腰による回転』と『引き斬る技法』により一時的に持ちうる力以上のモノを発揮したグズレグは、多少の拮抗の後に手にしていた得物と引き換えにする形になりはしたが、見事にその腕を斬り落として見せた!
その事実に、既に無手となってしまっているグズレグへと反撃する事も忘れて固まる動く骸骨。
予想だにしていなかった方面からの戦局を揺るがす一手に、動揺が収まらない、と言った様子を周囲へと晒してしまっていた。
当然、そんな姿を晒した状態を見逃すハズも無く、前後で挟みながら攻撃を仕掛けて行く男性陣。
その段に至って漸く正気を取り戻した様子の四面八臂の動く骸骨であったが、その対応へと動こうとした途端に自らに対して最も驚異的な魔力の高まりを感じ取り、半ば反射的にソレを阻止しようと動きかけるも、ソレを為す事を男性陣が見逃すハズも無く、その場へと釘付けにされてしまう。
咄嗟に弓を構えて狙撃を、と試みるが、つい先程頼りの得物は腕ごと落とされてしまっていた為に無駄な動作へと成り果て、ついにアレスによって刀を構えていた腕を、ヒギンズによって薙刀を構えていた腕の一本と胴体への大ダメージを、ガリアンによって盾を構えていた腕を破壊され、最終的には長い詠唱を終えたセレンによる神聖魔法によって止めを刺され、四面八臂の動く骸骨は最後を迎える事となったのであった。
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