『追放者達』、未踏破区域へと足を踏み入れる
幾重にも仕掛けられたトラップを踏破し、数多の魔物の波を掻き分けて大迷宮『アンクベス』の奥へ奥へと進んで行く『追放者達』のメンバーとおまけの二人。
既に彼らは中層域を脱して深層域に達する程の位置にまで潜っており、それまでは時折擦れ違ったり見掛けたりしていた他の冒険者達の姿を目撃しなくなって久しく感じる程度には時間が経っていた。
入り口付近に出現する魔物ですら、他のダンジョンの中層域以降で出現するソレと変わらない強さを持つこの大迷宮で、そこまで深く潜る事は数々の命の危険に晒される、と言う事では在ったが、その分得られる魔核は上質なモノとなり、そこかしこに手付かずの宝箱(但し即死トラップ盛り沢山)が存在している、一攫千金を夢見る冒険者にとっては夢の様な状況を、彼らは更に奥へ奥へと進んで行った。
更に強くなる魔物、更に殺意を増してくるトラップ群に立ち向かい、どうにか誰も欠ける事無くそれらを乗り越えて、彼らは未だに到達した者が居ない、とされている深層域と思われる場所へと至る事に王手を掛けていた!
……とは言え、流石の彼らであったとしても、一切の休憩や補給をせずに深層域へと飛び込む事も、そこへと至る道を塞いでいる存在へと挑む事を良しとする訳も無く、その近辺にて見付けたセーフティエリア(大体のダンジョンには魔物がポップせず、侵入もして来ない場所が大なり小なり存在している。時折『存在していなかった』と言う例も報告されている)と思われる場所にて休憩を取って身体を休めていた。
各自で予め配布されていた水筒から瑞を口に含んだり、こちらも予め配布されていたアレスお手製のカロリーバーを齧ったり(主に女性陣が)、各自で購入しておいた干し肉を齧ったり(こちらは主に男性陣が)して栄養を補給して行く。
そんな中、ふとした事が疑問として脳裏を過ったアレスは、隣で同じく干し肉を『味はイマイチ』と言わんばかりの表情にて無心で噛み続け、腰に吊るしていた水筒で飲み下してから『コレがエールだったらなぁ……』と考えているであろう表情にて何処か悲しそうに水筒を見詰めるヒギンズへと、若干の呆れを含めた声色にて問い掛けた。
「…………なぁ、オッサン……」
「……な、何も考えて無いよぉ!?この水筒の中身がエールだったらなぁ、だとか、それならもっとキンキンに冷えてたならなぁ、だとかなんて、欠片も考えてないからねぇ!?」
「……俺の想像の一歩先を行ってくれちゃってる回答どうも。
だけど、今回はあんたの頭の中身についてのアレコレじゃないから安心しなよ」
「……えぇ~?『今回は』って事は、次回以降はあり得るって事じゃないの……?
……まぁ、良いか。その時になったらなったで考えれば良いよねぇ。
それで?何が聞きたいんだい?リーダーがわざわざ声を掛けてきたって事は、何かしらの用事が在った、って事でしょう?」
「……あぁ、その通りだ。
単刀直入に言おう。この先に待ち構えている『モノ』についてとその先に関して。あんた何かしら知ってるな。
さっさと吐いちまってくれ」
「…………何の事?と惚けたい処だけど、その様子だと確信を持ってるみたいだねぇ。
誰から聞いた?」
「いや、誰からも。
強いて言うなら、オッサン、あんた自身だよ」
アレスのその言葉を受けて一瞬ポカンとした表情を浮かべるヒギンズだったが、次の瞬間にはその言葉の意味を理解してか苦笑を浮かべながら後頭部を掻き始める。
「…………そっかぁ……オジサンが以前言ってた『詰んで撤退した』って言葉と、こっちで聞いた『未だに踏破者は出ていない』って情報からの推測かなぁ?」
「まぁ、そんな処だな。
ついでに言えば、この先に居るらしい最難関をどうにも倒せずに全滅するか撤退させられ続けるかしているって事と、一応別ルートならもっと奥には入れるけど、そんなに潜れずにどん詰まりの行き止まりになる、って話も聞いてたからな。
そこら辺から総合して、って感じさ」
「成る程、ねぇ……流石、って言っておいた方が良いのかなぁ?
それで?何が聞きたいんだい?」
「全部」
「…………と言われても、オジサンだってそこまで色々と知ってる訳じゃないんだよぉ?
精々が、その難関だって言われてる相手について幾らか知っていて、今のオジサン達なら倒せるだろうな、って程度に見切りを付けられる程度でしか無いんだけどぉ?」
「それでも構わないさ。
取り敢えず、話せるだけは話しておいてくれ。死人が出て後悔するのは嫌だろう?」
そう言い残して立ち上がり、他のメンバー達にそろそろ出発する、と言う旨を伝えて行くアレスの背中を目の当たりにしたヒギンズは、一つ肩を竦めて
「…………やれやれ、こう言う処は敵わないよなぁ……」
と呟きながら、頭の中で情報を整理して行くのであった。
******
「…………ついにここまで来た、かぁ……」
何処か万感の思いが込められている様な声色にて、目の前の扉を見上げながら呟きを溢すヒギンズ。
その視線は、扉を見詰めている様でいてそうではなく、その向こう側をこそ見通している様でもあった。
彼の瞳に宿る感情が、歓喜なのか、悲哀なのか、赫怒なのか、寂寥なのかは定かではないが、それでも何らかの強い感情と共に在るのはまず間違いは無いだろう。
そんな彼の視線の先では、パーティーのリーダーであり斥候職でもあるアレスが、扉にトラップが仕掛けられていないかどうか、鍵が掛かっているかどうかを丁寧に丹念に調べて行く。
大抵、この手の強敵の待ち構える部屋の入り口にはトラップは仕掛けられていない事が多いのだが、時たま仕掛けられている事も在る上に、そう言う時に限って凶悪なトラップが仕掛けられている事が多いために、絶対に無い、と断言出来る様に丁寧に調べている、と言う訳だ。
ここまで来て、トラップに引っ掛かって全滅、等と言う事は、彼も真っ平御免なのだろう。ソレだけの気迫が、彼の雰囲気からも伝わって来ていた。
そうして暫し扉を探っていたアレスだったが、どうやらトラップの類いは仕掛けられていない、と判断するに足る確証を得られたらしく、一つ頷いて一旦扉の前から離れて待機していた他のメンバー達の元へと移動する。
「……取り敢えず、トラップは仕掛けられていなかったから、これから突入する。
敵は、オッサンから聞いた話や聞き込みで得られた情報を統括すると、どうやら四面八臂でその手に様々な武具を携え、ソレを余す事無く使いこなす動く骸骨の一種…………の様な見た目をしているらしい。
幸い、魔法を使ってきた、と言う話は聞かないから初手範囲攻撃で全滅、と言う事は無さそうだが、使いこなす武具の中に弓も在るって話だから遠距離なら大丈夫、と思っていると即死する事になるとの事だ。
ついでに言えば、近接系の武具もスキルを習得していて、少なくとも『王』のランクに在るだろう、との話だから油断してるとこっちも即死する羽目になるから要注意だ」
「……では、魔法に対する耐性等は如何でしょうか?
神聖魔法が通じる様でしたら、私が大きな手助けに成れると思うのですが」
「一応、光魔法は普通に効いたそうだ。
もっとも、持ってる武具の内に盾が在って、そいつが魔法も防げる仕様になってるみたいだから、ただ単に放つだけだと普通に防がれる羽目になるんで、そこら辺は工夫が必要みたいだけどな」
「……では、『四面八臂』と言う事は、少なくとも視界に限っては死角が無く、その上で八種類の武具を携えている、と言う事であるのだろうか?」
「そこについては朗報だよぉ。
死角に関してはちょっとアレだけど、少なくとも『アイツ』が携えている得物は刀、弓矢、薙刀、盾の四種類で、使ってくる腕の数も六本のハズだよぉ。
まぁ、近付きすぎれば殴られる程度はされるかも知れないけど、ねぇ?」
「ん?なんでそんな事知ってる訳?」
「そりゃあ、もちろん、その残りの枠の『槍』を、オジサンが今持ってるからだよぉ」
「…………持っている、なのです?」
「そうそう。以前ここに挑んだ、って話はしたよね?
その時に、ここにいる『アイツ』と戦ったんだけど、その時に倒せはしたけどほぼ相討ちに近い形でねぇ。
結局その向こう側を探索する事も出来なかったし、ギリギリの処で『アイツ』からもぎ取ってきた、今も現役で得物として使ってる相棒位しか収穫が無かったから散々だったんだよねぇ……」
「……成る程、だから他の連中からも『八本腕なのに不自然に二本空いていた』なんて話を聞く訳だ。
それに、そんな状態のそいつを倒しても、何故か守られていた奥の扉は開かなかった、って話にも信憑性が高まってくるな……」
「……まぁ、そんな訳で、オジサンに因縁の在る相手だから、取り敢えず攻め手のメインはオジサンに任せてよ。
奥の扉を開かせる手立てにも、心当たりが無い訳じゃないから、ねぇ」
そう自信満々に言い放つヒギンズの姿に思わず呆れと信頼とが混ざった、何とも言えない感情の込められた吐息を漏らす『追放者達』のメンバー達。
そんな彼らへと、いつもの草臥れた笑みを見せたヒギンズは
「まぁ、取り敢えず気楽に行こうよぉ」
と声を投げ掛けると、そのまま何気無い足取りにて扉へと歩み寄り、無造作にも見える動作にて扉を押し開けるのであった。
次回、激戦回(予定)
面白い、かも?と思って頂けたのでしたら、ブックマークや評価等にて応援して頂けると励みになりますのでよろしくお願い致しますm(_ _)m




