『追放者達』、大迷宮を侵攻する
「…………クソッ!?さっきから、出てくる魔物が多過ぎる!?」
そう悪態を吐きながら、右手の得物で手にした得物を振り上げて迫る動く骸骨を薙ぎ払い、左手で展開した魔法によって見た目とは裏腹に軽やかな動作にて拳を振り上げて来た動く屍を蹴散らして行くアレス。
大迷宮にとっては普遍的にポップする『雑魚』と呼んでも差し支えは全く無いが、通常のダンジョンで言う処の深層域にて出現するモノと同等の強さを持つハズの魔物に対し、一方的に攻撃を当てて倒して行くその姿は正に『一騎当千』と言うに相応しいモノであったのだが、その表情はあまり晴れやかなモノとは言い難い状態に在った。
ソレを察して、と言う訳でも無いが、一時的にアレスよりも後方へと下がっていたガリアンが、グズレグとサラサを引き連れて前線へと上がり、すれ違い様にアレスへと下がっておく様に手振りで指示を出してくる。
時に盾を前面に押し出して突撃し敵を轢き飛ばし、時に手にした斧で豪快に相手を叩き潰す。
寸前までアレスが行っていた様な『一騎当千』とは些か赴きが異なる様相ではあったが、それでも相手の強力さを感じさせない程の堅実さと力強さにて確実に相手を蹴散らして行くその姿は、彼の両サイドにて刃を振るい、魔法を放って敵と戦う二人の本来であれば称賛されて然るべきであったであろう姿を、まるで場馴れしていない新人冒険者か凡百な兵士の類いである様に感じさせる程に落とし込んでしまっていた。
実際に位置を入れ替わったものの、やはりソレを断ろうかとも思ったアレスだったが、確かに疲労が蓄積し始めていた事と、至急ヒギンズに問い質したい事が在った為に素直に頷いて一旦戦列の中程へと下がっておく。
そして、前方から押し寄せる動く骸骨と動く屍の波に対して、下がり際に効果範囲の広い『奔流』系統の魔法を放って数を減らしてから、同じく後方の敵を一通り薙ぎ払って来たヒギンズへと、小声で怒鳴る、と言った器用な真似をしながら問い質す。
「……おい!コレは一体どうなってやがるんだ!?
なんで、毎日アレだけの数の冒険者が入っているハズのダンジョンで、低級とは言えコレだけの数が一気に押し寄せて来るんだよ!?」
「……まぁ、仕方無いんじゃないのかなぁ……この辺、多分あんまり人の手が入ってないんじゃないの?
だから、って訳でも無いだろうけど、それが一因となって湧いてきた分の魔物がこの辺に溜まっちゃってたんじゃないの?多分だけどねぇ」
「……いや、それなら俺達みたいに奥に潜ろうとしている連中が見逃さないんじゃないのか?金額的にも、物理的にも」
「……あ、あ~……その事何だけど、一つリーダーに伝え忘れてたよ。
基本この大迷宮に挑んでる連中って、極一部の冒険者を除くと、大体がその日の糧を得る為に浅層で潜るのを止めるか、もしくは一発逆転のダンジョン産のアイテムを狙って中層辺りまで足を伸ばすか、の二択でね?
今オジサン達が居る『中層深部』には、基本的にあんまり人が来ないんだよねぇ……」
「…………てことはアレか?あんまり討伐されてないから、湧くだけ湧いた連中が、溜まりに溜まってこの状態になっている、と?」
「…………多分?
まぁ、大体は頃合いを見て、ガス抜きがてら魔核を目当てにした高位の冒険者が間引きに来るハズなんだけど、ソレがまだ来てなかったみたいだねぇ。
オジサン達、本当にツイてないみたいだねぇ……まぁ、そう言う場合の方が、宝箱とか見付けた時により良いモノが入ってる可能性が高まるみたいだけど、ねぇ……」
「……あぁ、だからって、こんな物量で押し潰される様な戦い方はしたくなかった、よ!
『灼熱の波頭よ!全てを呑み込み、その焔にて等しく灰塵へと姿を変えよ!『深紅の奔流』!!』」
…………ゴゥッッッッッッ!!
アレスにしては珍しく、長く呪文詠唱を掛けた上で魔法を放つ。
ソレは、かつて彼が扱っていた大魔導級火炎魔法である『業火の奔流』よりも上の位階に在る魔法であり、彼をしても未だに詠唱破棄や短縮詠唱によって扱う事が出来ずにいる大魔法、魔奥級火炎魔法である『深紅の奔流』。
発動に必要な魔力や制御力は段違いに跳ね上がるが、ソレに呼応するだけの効果範囲、発動継続時間、破壊力を誇っており、費用対効果(『深紅の奔流』一発で概算にして『業火の奔流』三発分の魔力が必要だが、破壊力や持続時間や効果範囲等は五倍以上となっている)で見てもかなりの効率を誇る一撃であった。
そんな広範囲殲滅魔法を、視線を向ける事すらせず、何の合図も無いままに放たれると同時に効果範囲ギリギリにて回避し、無傷のままに遣り過ごして範囲から漏れた残敵を掃討し始めるガリアン。
特に取り決め等を事前にしていた訳でも無い……と言う訳でも無いが、綿密かつ精密な打ち合わせをしていた訳でも無いのにここまでタイミングがピッタリと合っているのは、やはりこれまでこなして来た数々の冒険と、二人の間に育まれた信頼と絆が故の結果、と言う事なのだろう。
その証拠に……と言う訳でも無いのだろうが、彼の行動を察知できていなかったグズレグは紙一重のタイミングにて回避に成功はしたものの、微妙に効果範囲の中に入ってしまっていたらしく、セレンによって回復したハズの毛並みを焦がし、尻尾の先には火が燃え移ってしまっていた。
最初こそ、必死にアレスの魔法を回避した先に残敵が居た為に気付いていなかった様子だったが、その敵をどうにか倒した後に自らの尻尾に着火している事に気が付いたのか、大慌てでその場で転がり回り、どうにか火を消そうと試行錯誤を繰り返す。
が、床に擦り付けたりした程度では魔法による炎は消えてくれなかったらしく、あわやズボンにまで燃え広がろうかと言うタイミングにてサラサが敵を片付けて合流し、こちらも状況を確認して大慌てになりながら発動させた水の魔法によってどうにか鎮火する事に成功した。
尻尾を半ばまで丸ハゲにし、下半身は鎮火の為に浴びせられた水によってびしょ濡れと化し、その姿はまるで小便でも漏らした様な雰囲気となってしまっており、直視するだけで嘲笑を巻き起こさんばかりの状態となっていた。
流石に、幾ら罪人とは言え嘲笑う様な趣味は持たない彼らが笑う様な事にはならなかったし、哀れに思ったのかセレンが回復魔法を掛けてくれた事によって尻尾の火傷とハゲは治りはしているが、その視線と雰囲気からはガリアンへと向けるソレとは異なり彼らを労る様な色は欠片も含まれてはいなかった。
まるで、死にかける様な戦闘も、味方のハズの彼らによる攻撃に巻き込まれる事も『当然の事』であり、そこには労うべき功績も、労るべき負傷も何も存在していない、と言わんばかりの態度であった。
そんな扱いを受ければ、例え戦略上そうせざるを得なかったとしても、恨み節の一つや二つは飛び出して来て当たり前であるし、普通はそうして蔑む視線を送る彼らへと反抗的な視線の一つも送るのが当然の反応だと言っても良いだろう。
……しかし、そうした扱いを受けている当のグズレグは特にその様な反応を見せる事もせず、さも『当たり前の扱いを受けている』と言わんばかりな目をしながらその場から立ち上がると、セレンへと治療に対する謝礼の言葉を口にしてから、若干悲しげな視線を自らの下半身に向けながらも特にアレス達に対しての文句を口にする訳でもなく、戦列の先頭に立ってアレスからの指示を求める視線を彼へと向けて来る。
そんな彼の視線を受けたアレスは、他のメンバー達をグルリと見回してから軽く肩を竦め、地面に広がる魔核の回収はナタリアへと任せて周囲を警戒しつつ、先程自身が放った炎が漸く収まりを見せつつある方の通路を指し示すのであった。
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「…………あれ?少し前まで、あそこの吹き溜まりで無限ポップが発生しかけてたと思ったんだけど、気のせいだったか……?
……いや、でもログは残ってるしなぁ……討伐でもされた、か……?
でも、あの辺ってぶっちゃけ不人気だからこそ吹き溜まりと化していた訳だし、下手なスタンピード程度なら押し潰して逆襲出来る程度の数は揃ってたハズなんだけど………………ん?この反応、もしかして……?
これは、もしかするともしかしたか!?
……ッハ!!これは、面白くなってきたかも!?」
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