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『追放者達』、大迷宮の洗礼を受ける

 


 リーダーたるアレスが掛けた号令により、神殿の様にも見える様式の建築物へと足を踏み入れて行く『追放者達(アウトレイジ)』と『引き裂く鋭呀』。



 外からは、内部は真っ暗な闇に包まれている様にも見えていたのだが、実際に内部へと足を踏み入れるとそうでも無いらしく、光源の類いは見当たらないにも関わらず、うっすらと隣同士の互いの顔や自らの手足が視認できる程度の暗さに収まって行く。



 不思議に思いつつ、光源を確保する為に取り敢えず松明を取り出して着火しようとするアレスを苦笑しながら手振りで抑え、視線で更に奥へと進むように促すヒギンズ。



 そう促されたのならば、と素直にアイテムボックスへと松明を仕舞い直し、光源を浮かべようとしていたセレンにも仕草で『準備だけはしておいて』と指示を出してから、このダンジョンの経験者であるヒギンズが促すままに奥へと進んで行く。



 すると、何故か次第に暗さが薄れて行き、最終的にはある程度離れた位置に居るメンバーであっても互いに姿を確認しつつ、入り口とは大分印象の異なる造りとなっている壁や、所々に置かれている瓦礫の様な遮蔽物が薄暗がりの向こう側にその姿を顕にする程度の暗さへと変化していた。



 その事に驚いていると、何の事は無い、と言わんばかりの表情にてニヤニヤとした笑みを浮かべながらヒギンズが口を開く。




「ほぅら。だから言ったでしょ、リーダー?

 中はそれなりに明るいから照明の類いは不要だ、って。言った通りだったでしょう?」



「…………いや、まぁ、確かにその通りなんだが……せめて事前にもう少し説明しておいてくれよ……流石に途中がアレで、その奥に行けばまた明るくなる、なんて普通は信じられんぞ?」



「まぁ、そうだろうねぇ!

 オジサンも、最初にここに入った時は、リーダーと同じ様な事をした覚えが在るからねぇ。ほら、あっちの方を見てみなよぉ」




 そう言われて示された方へと視線を向ければ、そこには彼らと同じく周囲へとキョロキョロと視線を配りながら、その手に火の付けられた松明を持っている冒険者一行の姿が在った。



 暫し呆然としながら手にした松明によって煙を放ちつつ立ち尽くすその姿は、この大迷宮に通い慣れた者にとっては大分滑稽に写っているらしく、方々からはクスクスとした失笑が耳に届く様になってしまっていた。


 その為か、気まずそうで恥ずかしげな表情を浮かべながら手にしていた松明を投げ捨て、良く確認もせずに奥の方へと駆け出して行ってしまった。



 周囲には燃え広がりそうなモノは見当たらないとは言え、未だに火の着いたままの状態で捨てられた松明に眉を顰めていると、慌てて駆け込んで行った冒険者達の方を悼ましそうに眺めていたヒギンズが、これまた苦笑を浮かべながら口を開く。




「…………ね?あぁならなくて良かったでしょう?

 流石にオジサンも、ド新人扱いされて失笑を買うのはゴメンだったし、その後の展開(・・・・・・)もちょっと遠慮しておきたかったから止めさせて貰ったんだよぉ」



「…………その後の、展開……?

 精々が馬鹿にされたり、笑われたりする程度だろう?

 一体、何を言って……?」



「まぁ、見ててよぉ。

 ……皆も、良く見てなよぉ?コレが、ここが難攻不落の大迷宮って呼ばれる理由だから、さぁ」



「…………コレ?一体、さっきから何を……!?」





「……う、うわぁぁぁぁぁぁああああ!?!?」





 訝しむアレス達の耳へと、ダンジョンに響き渡る悲鳴が届く。



 咄嗟にその叫びに釣られて視線を向けると、そちらは先程の冒険者達が駆け込んで行った方向であり、挙げられた悲鳴に続く様な形にて、周囲にはやけに軽く乾いたカタカタと言う音と、妙に重く湿ったビチャッと言う音が反響して聞こえ始めてきた。



 それらを耳にしたアレスは、もしや……と思ってヒギンズへと視線を戻すと、そこには普段と異なり真剣な表情を浮かべて首を横に振る彼の姿が在った。




「……残念だけどリーダー。ここでは、少なくともこの辺ではソレは『無し』だよぉ。オジサンも、自分と仲間達の命の方が惜しいからねぇ」



「……別段、無関係な奴等であっても助けなければ、とか言うつもりは無いさ。だが、知ってるなら説明して貰うぞ?

 あれは、一体どう言う事だ?何らかのトラップの類いか?」



「………まぁ、トラップと言えばトラップなんだけど、ちょっと違うんだよねぇ」



「…………?どう言う事だ?」



「……いや、リーダーなら分かると思うんだけどさぁ?本当にトラップの類いなら、練度を満たしている必要は在るけど、基本的にスキルで看破したりする事は出来るでしょう?」



「……まぁ、一応は」



「……でも、アレってスキルじゃ看破も察知も出来ないんだよねぇ。

 何せ、そう言う意味合いの『トラップ』じゃないから。

 アレって単純に、この薄暗い状況で、そこらに転がってる瓦礫何かの遮蔽物の影に隠れてた魔物を見逃して強襲されたり、そうして位置を把握された上で周囲から魔物が集まって来て袋叩きにされて、ってだけだからさぁ」



「…………言ってしまえば何だが、その程度であるか?

 ここに来る者は、それ相応に腕に覚えの在る者であるハズ。なれば、まだまだ入り口付近に出てくる程度の魔物であれば、モノの数では無いのでは無いか?」



「う~ん、やっぱり無理じゃないかなぁ?

 モノの数じゃあないって言うけど、大迷宮って初っぱなから普通のダンジョンの中層域程度の強さの魔物がワラワラ沸いてくるからねぇ。普通にあの状況を切り抜けようと思ったら、平気な顔をしてダンジョンの深層域で無双出来るだけの実力は必要になるんじゃないかなぁ?オジサンの体感上のお話、だけどねぇ?」



「……では、入り口の一件からあの悲鳴に至るまでの道筋は、この大迷宮の主によって仕組まれていた、と言う事でよろしいのでしょうか?」



「……う~ん、そこはどうなんだろうねぇ?

 勝手に条件が整って自然発生した、とも見れなくも無いけど、実際に仕掛けとして発動しちゃってる事を鑑みると、やっぱりダンジョンの主が意図的に仕込んでいた、とも思えなくも無いんだよねぇ」




 そんな会話を繰り広げている間に惨劇は終えられたらしく、それまで聞こえていた悲鳴や怒号と言った物音や、魔物が動くことで発せられる足音等が収まり、後にはそれらの後始末、とでも言いたげに下衆なヤジを飛ばしながらそちらへと向かって行く冒険者達の足音がするのみであった。



 それらを微妙そうな視線で見送りながら、表情の方も微妙なモノへと変化させたヒギンズが再度口を開く。




「…………まぁ、見ていて分かったとは思うけど、ああ言った事ってここでは良くある事だし、むしろ一部の連中はそうやってわざと魔物に冒険者を始末させて、持ち物等を外に持ち出して高額で売り捌く、なんて事もやってるんだよねぇ。

 だから、って訳じゃないけど、ああ言った事になら無い様に、常に瓦礫何かの影には気を配って、音にも気を付けておかなきゃならないから注意してよぉ?

 ……あと、あくまでも『助けちゃならない』って言うのは、さっきみたいなあからさまに手後れで現場が遠い場合だけで、間近で起きてたなら、助けてあげた方がこっちの危険も少なくなる、かも知れないって事だけは覚えておいてねぇ」



「…………そうか。じゃあ、こう言う場面には気を付けなきゃならない、って訳だ!」




 言い終わるや否や、手首のスナップのみを使った動作を見せない投擲方法にて短剣を擲ち、近くの遮蔽物の後ろから姿を現そうとしていた、アンデッドの一種である動く骸骨(スケルトン)の額を狙撃するアレス。



 流石に、入り口の真ん前と言っても良い場所から魔物に強襲され掛けるとは思っていなかったのか、経験者であるヒギンズすらも碌に反応を示せなかった中でのその攻撃に、周囲から向けられていた視線の意味合いが一瞬で変化して行く。



 とは言え、それが良い意味での変化であろうと悪い意味での変化であろうと気にする彼らであるハズが無く、瞬時に感覚器官を失ってしまったが為に彼らを見失ってその場でウロウロとするのみとなってしまっている動く骸骨(スケルトン)を手早く始末して魔核へと変えてしまうと、それまでとは雰囲気を一変させて手振りのみで隊列を変更させ、無言のままでダンジョンの奥へと向かって足を進めて行くのであった。





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