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『追放者達』、大迷宮に突入する

 


追放者達(アウトレイジ)』が大迷宮の一つである『アンクベス』へと到着してから、既に二日間の時が過ぎていた。



 彼らはその間、それまでの移動にて僅かずつ蓄積していた疲労を払拭し体調を万全に整える為の休養兼、実際に『アンクベス』へと潜り、実地の最新の情報を握っているであろう冒険者達からの情報を集めたりしていた。



 とは言え、前者の方は、別段彼らも疲労困憊で青息吐息、と言う訳でもなかったし、そもそもからして柔らかなベッドで寝ないと疲れが~とか抜かす様な軟弱さとは無縁な連中であったが為に、丸一日も旨いもの(アレスとガリアンのお手製)を食べつつ休んでいれば、勝手に全員元気になっていた。


 後者に関しても、現地のルールを把握しつつ、矢鱈と社交的でコミュニケーション能力にも秀でているヒギンズと共に適当に周囲を回ったり、作っていた料理をお裾分けしたりしていれば勝手に色々と話してくれたりで集まってしまっていた為に、実質苦労らしきモノは全くしていなかった、と言っても良いだろう。



 何せ、自分達で集めた攻略情報は、例え定期的にダンジョン内部の構造が入れ替わる為に古いモノは欠片も役に立たなくなるとは言え、命を張って手に入れたモノだ。


 当然、知り合ったばかりの相手においそれと話してやる様なモノでは無いし、それが見ず知らずの相手であればなおの事、だ。



 しかし、彼は持ち前の愛想の良さとコミュニケーション能力の高さであっという間に彼らと打ち解け、更にアレスやガリアンと言った本職も顔負けな腕前を持つ二人の料理や、長い間滞在しているとどうしても不足する嗜好品である酒や煙草を手土産として持ち込んでいた為に、彼らの口もまるで油を注した様にスルスルと回り、本来なら私蔵していたであろう極秘の情報ですら自らの意思でヒギンズへと話してくれたのだった。



 そうして集めた情報に則り、突入の際に着ける装備や内部での陣形、作戦等を予め組み立てている内にもう一日時間が経過し、結果的に二日間の準備期間を設ける結果となった、と言う訳なのだ。



 とは言え、そうして情報を集めて休養を取った事により、彼らは万全の体制を整えた状態にてこうして『アンクベス』の前へと立つ事が出来ているので、決して無駄な時間では無かったと言っても良いだろう。



 現に、彼らとすれ違う冒険者の中で、一際装備が豪華な者や、立ち振舞いからして強者のソレとなっている様な者達が、彼らに対して時ににこやかに、時に激励する様に声を掛けつつ、決まって




『じゃあ、中でヤバかったら助けてやるから、俺達がヤバかったら助けてくれよな?』




 と口にする彼らに、アレス達も適当に返事をしながら神殿部分を間近に見上げる。



 神々しさの中に禍々しさを絶妙にブレンドした様な空気を放つその入り口部分の神殿を、これからここを攻略するのだ、必ず全員で生きて戻るのだ、との思いをメンバーで共有しながら、ある種の感慨に浸っていたのだが、そんな彼らを真後ろから畏怖する様な視線にて見詰める影が二つ存在していた。




「…………なぁ、今の、自分の見間違いで無ければ……確かAランクでも、上位の実力が在る、と聞く……『シャングリラ』のメンバーでは、無かったか……?」



「…………え、えぇ、確かに、私もその様に記憶しております。

 ですが……その少し前に、アレス様が随分と親しげに肩を組まれておりました方をご覧になられましたか?

 ……あのお方、私の記憶が正しければ、確か……」



「…………あぁ、自分の記憶違いで、無ければ……確か、個人でSランクを獲得する、間際だと噂の……『閃光剣』の二つ名を持つリヒテンシュタインだった、ハズだが……」



「……それに、向こうで手を振っておられる方々は、私の記憶が正しければ、確かあの揃いの紋章はSランクとして遇されているパーティー『撃竜隊』の方々だったハズなのですが……」



「……あぁ、それなれば、確か兄者の料理を、差し入れして……その後、一緒に酒を、呑んでいた姿を……見た、記憶が在る……。恐らく、その時に、親しく……なったのだろう、よ……」



「…………やはり冒険者とは、眼前の魔物を薙ぎ倒すだけではなく、様々な情報を仕入れる為の手練手管と、ソレを支えるだけの諸々を入手するルートの構築に、自然と相手の懐へと潜り込む会話力を併せ持つ事が、立身の為に必要な技量だったと言う事でございますね……」



「…………あぁ、そうだ、な……そう言う、意味合いに、於いても……自分達は、選択を誤った、と言う……事だろう、な……」



「……えぇ、その通りだった様ですね……」



「………………いや、なんだかしんみり話してたから黙って聞いてたけど、俺達別段お前らを許した訳じゃないって事忘れて無いだろうな?

 ガリアンだって、別にお前らの事は許していないと明言してたハズだけど、もしかして都合良く忘れて許された、とか思ってないだろうな?おぉん??」



「…………はい、当然、承知して……おります……。

 自分達の事は……使い捨ての、肉壁か、もしくは……勝手に着いてきて、勝手に攻撃する道具だと……思って、頂ければ、ソレで十分で御座います……」



「はい。あの時、私達の命を即座に奪う事を良しとせず、彼の延命を諾として下さっただけでなく、今回の攻略への参加を許可して頂けた事を、大変感謝しております……!」



「………………あっそ……まぁ、精々今の処は生かしておく、って判断を下したガリアンに感謝するこって。

 もっとも、ソレも慈悲の心からの判断、って訳でも無いかも知れないけど、ね……」




 半ば当て擦る様にして放たれた彼の言葉にも動じる事なく頭を下げる二人に対し、少々白けた様な様子にて適当に会話を打ち切るアレス。



 その様子を、ガリアンが何処か気まずそうな表情を浮かべながら見詰め、その他のメンバーは敵意を隠そうともせずに二人へと視線を向けている。



 ……そう、既に察しているとは思われるが故に語るまでも無いだろうが、先の人影二つとはこの二人、グズレグとサラサの事である。



 罪人である二人がこうしてまだ存命であり、かつ彼らの攻略に同行すると言った事を許されているのには、当然の様に理由が在る。



 と言っても、別段余所から何かしらの干渉が行われた、と言う訳ではもちろん無い。



 ただ単に、今はまだ命を奪う時でも、放逐する時でもない。



 そう、当事者であるガリアンがそう判断を下したから、と言うだけの話だ。



 基本的に、彼ら『追放者達(アウトレイジ)』の行動方針は、周囲やメンバーからの意見を取り入れたりはするものの、最終決定権はリーダーであるアレスに在る。


 これは、自然とそうなった、と言うだけであり、当然彼が強硬にそうする様に主張したから、と言う訳ではないし、彼もパーティーが結成される切っ掛けとなった出来事からその手の強要を良しとしてはいない為に、あまり強権として振るわれる事は無い。




 ……しかし、そのリーダーの決定権よりも優先して物事に決を取る事が出来る事象が、彼らには一つ存在している。



 そう、それこそ、かつて自身が所属していたパーティーが、今になって接触して来た場合の対応と処遇について、だ。




 最初こそ、今更用なんて無いだろうから考えるだけ無駄、と切り捨てていた事例だが、タチアナを始めとしたメンバーへの襲撃を機に彼らの中でも話し合いが持たれる事となったのだ。



 そして、その結果として


『何らかの形で接触が在れば即座に情報を共有する』


『被害が在れば反撃程度ならば可』


『最終的な裁定は当事者が下す』


『下された決定はリーダーの判断を上回る』


 と言うルールが新たに敷かれる事となったのだ。



 それ故に、と言う訳でも無いが、先のナタリアの一件は彼女の『基本被害が無ければ放置で』と言う方針に従って、彼らの方から探しだし、積極的に殲滅する様に動く事は無かった。



 そして今回は、当事者たるガリアンが




『赦す訳では無いが、今はまだ命を奪う時ではない。

 仲間として扱うつもりは無いが、大迷宮の攻略には同行させたい』




 と判断を下したために、こうして彼らの首は繋がったままの状態であり、かつある程度はセレンの手によって治療と毒抜きをされており、最低限最盛だった頃の戦闘力を取り戻している状態となっている、と言う訳なのである。



 当然、他のメンバー達はその決定に不服の意を示した。



 特に、最近はガリアンと良い仲になりつつ在ると見られているナタリアからの反発は、凄まじいの一言に尽きる程であった。



 他のメンバーも、ヒギンズが消極的反対(受け入れられない程ではないがあまり好ましい決定だとは思っていない、と言う状態)であり、後はリーダーであるアレスを含めた全員が積極的反対(何も聞かずには到底決定を受け入れる事は出来ない、と言う状態)であった為に、普通ならば意見を引っ込めるか、もしくは代替案を示すであろう場面となったのだが、珍しく彼は引く事なく強硬に自らの意見を押し通して見せた。



 一応、先も述べた通りの決まりが在ったが故に、そのまま彼の意見は通る事になったのだが、やはり彼らの中には不満が残っているし、ガリアンもソレについては苦々しく思っているのであろう事は容易に想像が出来る。



 しかし、彼も引くつもりは無いらしく、多少不穏な空気を残しながらの決定となってしまったが為に、こうして少々ギクシャクとした雰囲気となっている、と言う訳だ。



 とは言え、当事者であるガリアンが『今は殺さない』と決めた以上、彼らもその決定に従って彼らを害する事をするつもりは取り敢えず無い。


 だがしかし、ソレはあくまでも彼らからの直接の攻撃は無い、と言うだけの話であり、依然として彼ら『引き裂く鋭呀』に対しての危険性は去っていないのだが、どうも彼らもソレを承知でここに居る節が在る為に、アレス達としても彼らの真意を図りかねている、と言うのが正直な処であったりもするのだが。



 そんな彼らの意識が形つくってしまっていた暗い雰囲気を払拭するべく、リーダーであるアレスが号令を掛ける。




「…………さて、取り敢えず中に入ってみるか。

 あんまり長々と入り口で見てても仕方無いから、さっさと行くぞ!」



「「「「「応!!」」」」」




 ソレに呼応する形で、何処かホッとした表情を浮かべながら返答してくるメンバー達と共に、彼らは眼前の大迷宮へと一歩目を歩み入れるのであった。




次回から戦闘描写多くなる……予定です



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― 新着の感想 ―
[気になる点] グズレグに会った時アレスが即殺そうとしたのがすごく違和感がありました。 タチアナ、セレン、ナタリアの時は元パーティーメンバーが来たとき、不愉快に思っててもそれなりに会話してたのにガリ…
[良い点] 「眼前の魔物を薙ぎ倒すだけではなく、様々な情報を仕入れる為の手練手管と、ソレを支えるだけの諸々を入手するルートの構築に、自然と相手の懐へと潜り込む会話力を併せ持つ事」間違いなくビジネスマン…
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