『追放者達』、大迷宮に到着する
今回少々短めです
交易辺境都市ガルガンチュアにて懸念材料を意図せず仕入れてしまった『追放者達』だったが、その後もガルガンチュアに滞在していた間には特に何が起こる訳でも無く、何事も無く平穏無事に補給と休養を済ませて数日の滞在の後に出立する事を可能としていた。
とは言え、ソレはあくまでも彼ら基準での『平穏無事』であって、世間一般からしてみれば多少のイザコザ(女性陣を見掛けたナンパ野郎共を撃退した、撃退されたナンパ野郎共が仲間を引き連れて仕返ししに来た等々)に見舞われはしていたのだが、そこら辺の感覚は最早麻痺してしまっているのか、既に気にしない事にしているらしい。
そうして休養も十分に取って準備を整えた彼らは、例のガリアンの弟からの強襲を警戒しながらもガルガンチュアを出立し、隣国から伸ばされている『交易街道』(隣国側によって付けられた名称)を、その途中の宿場町に立ち寄って宿泊したり、街道の近くに出没した運の悪い魔物を討伐したりしながら、数日掛けてその半ばまで進んで行ったのだが、とある地点にて案内人にして発起人のヒギンズが街道から逸れる様にナタリアへと指示を出した。
その場所には、確かに街道から分岐する様に道が出来ていたが、人の手によって確りと整備されて均されている交易街道とは異なり、如何にも人や馬車の行き交いにて踏み固められた道です、と言った風な地面が続いているだけであった。
思わず、ナタリアやアレスも
『ここであっているのか?』
と問い掛けてしまったりもしたが、ソレに対して当のヒギンズは苦笑を浮かべながらもソコで合っている、と言っていた為に、橇を運転するナタリアも、一行のリーダーたるアレスもその言葉を信用してそちらの道へと橇の頭を差し向けて進めて行く。
当然の様に、それまでの旅程とは異なって道はデコボコなままで橇はガタガタと激しく揺れ動き、何処へと通じているのか定かでは無い道沿いに宿も宿場町も在るハズが無く、その道へと踏み入ってから野宿をする日々が続いた。
それまでとはガラリと変わった環境に、さしもの彼らも悲鳴や不満を挙げ…………る事は夜営に慣れ親しんだ彼らには特には無く、割りとケロッとした顔をしながら、時折見張りや料理番等のローテーションに文句を溢しつつ、概ね苦労する事もアクシデントに見舞われる事も無いままに、ほぼ獣道と変わらぬ様相をなしている道を突き進んで行く。
時折、小川や湖が近くに在る事をガリアンやナタリアの従魔達が察知して水の補給がてら寄り道したり、洗濯や水浴びをしたりしながら進んで行った為に、それなりに道中に時間が掛かりながらも(ソレでも基本速度が段違いなので普通に目指した場合と掛かった時間は大差無かったみたいだが)、その道の終着点であり、今回の目的地である場所へと到着する事に成功する『追放者達』。
そこは、周囲を深い森に囲まれた荘厳な遺跡の神殿、と言った趣を感じさせる造りの入り口が着いているものの、ポッカリと開けられて陽光の届かない暗闇に支配されている入り口の奥には確かに無数の気配が蠢いている事が感じ取れ、確実に祀っていたのは邪神の類いであったのだろう事を確信させられる様な外観であった。
入り口の上部に突き出た日差しの中央、正面から見た場合まず最初に目につき、確実に最も目立つ場所に掲げられし紋章は、何かを挟んでいる様にハサミを振りかざした蟹の意匠のソレであった。
人類に課されし試練の一つ。
十二列なると謳われるその内の一つ。
『死の坩堝』とも呼称される、死の世界。
未だに全貌の知れない『大迷宮』が一つ、『アンクベス』の偉容が彼らの目の前に広がっていた。
木々の間から射し込む木漏れ日に照らされて神秘的で神聖な雰囲気すら醸し出していながらも、その懐に内方した邪悪なアンデッドによる死の気配によって異様な雰囲気を醸し出しているソレに対し、生唾を呑み込みながらも近付いて行く『追放者達』。
そうして神殿の様な部分へと視線を吸い寄せられていた彼らの耳へと、この様な異様な雰囲気を醸し出す場所では聞こえて来るハズが、有り得ないハズの無いモノが聞こえ始める。
「らっしゃいらっしゃい!中級までのポーションと、毒消しに聖水も入荷してるよ!一本銀貨三枚からだ!安くは無いが、品質は保証するぜ!!」「高過ぎんだろうが!?相場は精々銀貨二枚だったハズだ!?」「だからどうした?それが嫌だって言うなら、他で買いな!売ってれば、の話だけどな!!」
「こっちはトレードの申し込みだ!
ダンジョン産の手甲を出すから、誰か同じくダンジョン産の戦斧を出す奴はいないか!
余程の呪いでも掛かったヤツで無ければ、大概のヤツなら交換に応じるぞ!!」「どれどれ?サイズは……良し、使えそうだ!こいつは貰った!ほら、お望み通りに戦斧だ!持ってけ!!」「まいどあり!よっしゃ!コレでまた一潜り行けるぜ!!」
「臨時パーティーの募集だ!こちらは剣士二、魔法使い一、斥候職一!回復役を一人と、出来れば運搬役を一人募集したい!条件と取り分は要交渉として受け付けるぞ!」「……ふむ?では、回復役としてワシでどうかの?取り分は純利益の一割と、ダンジョン中で得られたアイテムの内、無条件で一つ譲って頂こう。良いかな?」「…………あまり深く潜る予定ではないが、ソレでも構わないか?なら、よろしく頼んだ!」
そんな、居るハズの無い人々によるざわめきに釣られて視線を下げれば、そこには在るハズの無い人々が行き交う雑踏と、神殿へと繋がる石畳を埋め尽くさんばかりに広げられた露店によって形作るられたバザールを思わせる光景が広がっていた。
ソレだけではなく、神殿の部分も良く良く見てみれば、意気揚々と奥の暗闇へ歩んで行く一党や、逆にボロボロになりながら暗闇から姿を現す一行と言った、冒険者と思われる連中が少数ながらも確実に存在していた様子であった。
目の前に広がっていた予想外の光景に思わず絶句していた彼らへと、すぐ側から抑えられた笑い声が届いて来た為に、図らずともタイミングを揃えてそちらへと視線を向けるアレス達。
その視線の先には、口元に手を当てて声を抑えながらも、確実に『全部知っていた』が為に沸き起こる笑みを隠そうとしていないヒギンズの姿が在った。
「………ふ、ふふっ……もしかして、やっぱり無人だと思ってたりしたのかぃ?
流石に、ソレは無いって!
コレだけの規模で、枯れていないしまだ完全踏破もされていない生きている迷宮だよぉ?流石にギルドが情報規制を掛けてはいるけど、知ってる人は知ってる場所で、しかも質の良い魔核が出るだけじゃなくて、ソレなりの確率でアイテムも産出してくれるのだから、当然腕に自信の在る人は来るって!
それに、ダンジョンの攻略には物資の補給が必須になるんだよぉ。なら、必要とする人が居れば需要が産まれて、需要が在る場所には人が集まってくるんだから、こうなってるのは必然でしょう?」
「…………もしかしなくても、あんた知ってて黙ってたな?」
「そりゃあ、ねぇ?
オジサンも、君らと同じ様な事を最初に来た時にやったから、覚えは在るからねぇ。もっとも、この辺のルールやらはオジサンがちゃんと把握してあるから心配しなくても大丈夫だよぉ。
その辺では恥を掻かなくても済むだろうから、ソレで勘弁して頂戴よ」
「…………次は無いからな」
「はいはい、了解~」
そんな、丸っきり反省していない様子で返事をしながらも指示をナタリアへと飛ばし、雑踏を避けた場所へと橇を巧みに誘導して停めさせると、先頭に立って彼らをバザールの奥へと誘導して行くのであった。
「………………兄者……?」
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