『追放者達』、懸念する
ガルガンチュアの街に夜の帳が降りてから少し経った頃合い。
周囲が酒場や料理店に繰り出す中、彼ら『追放者達』のメンバーも、それに漏れずにとある酒場に集まっていた。
先に出ていたガリアンとヒギンズが、情報収集も兼ねて見付けて来ていた酒場であった事もあり、一旦戻ってきた彼らの先導によってそこに入る事が提案され、他のメンバーもそれに反対する理由は特に無かった為に、そこに入ることにしたと言う訳だ。
そうして、先導されるがままに酒場『フレイアリース』へと入店した彼らは、取り敢えず、とばかりにメニューを開いて各自で思い思いに注文を付けて行く。
それは、休んだハズなのに何故か窶れた様な雰囲気を漂わせているアレス(但し何故か肌艶は悪くない)も、宿に到着した当初よりも格段に機嫌が良く、更に言えば肌艶が段違いに良くなって周囲へと色気の様なモノを振り撒いている(但し当人は一人にしか向けているつもりは無い)セレンも、従魔達を『お世話する』と言う名目で遊んでいた為に疲れは見えるが充実している様にも見える二人も等しく同じであったのだが、このフレイアリースへと案内してきた二人だけは、何故か何とも言えない様な表情を浮かべた状態で腕を組み、黙り込んでしまっていた。
最初こそ、何かしら在るのならばその内放置していても口を開くだろう、と特に言及する事もしていなかったアレス達であったが、各自で注文が済み、料理や酒が運ばれて一通り揃い、後は乾杯するだけ、と言う状態になっても未だにそうしていたが為に、痺れを切らしたアレスがリーダーとして二人のソレを指摘する。
「…………なぁ、何かしら在ったのは言わなくても分かってるから、言いたいこと、言わなくちゃならない事が在るのならさっさと吐いちまえ。
でないと、折角の料理や酒が温くなるし、何より空気が悪くなりすぎる。なら、一思いに今吐いちまえよ。ほれ、ほれほれ」
「………………いや、流石に何時までも黙りを決め込むつもりは毛頭無かったのであるが、そこまで軽いノリで来られるとは思っていなかったのであるが……?」
「でも、あんまり重々しい雰囲気を醸し出されて詰問される、とか言うシチュエーションよりは大分マシじゃないのかなぁ?
リーダーもそこまで怒ってる……って表現であってるかは知らないけど、少なくとも気分を悪くしている訳じゃないみたいなんだし、コレを機に話しちゃいなよぉ。流石に、君の事情をオジサンが話すのはマズイでしょう?」
「…………まぁ、それもそう、であるな……」
とうとう観念したらしいガリアンがジョッキを手に取った事を合図として、取り敢えずこれまでの道中お疲れ様、と乾杯の音頭をアレスが取って乾杯し、それぞれで口を付けて行く。
相当言い難い事なのか、それとも自身の中にて整理が付けられていないのか、早速ジョッキを一杯空にしたガリアンが手を上げてウェイターを呼び、次のジョッキを注文すると、何かを思いきった様な表情にて再度口を開く。
「…………さて、では当方も長々と前置きを語るのは得意ではない為に、些か急に過ぎる話ではあるが本題に入らせて頂く。
……どうやら、当かつて当方を冒険者パーティー『引き裂く鋭呀』から追放してくれた当方の愚弟、グズレグとその婚約者の地位に収まっている元婚約者のサラサが、少し前までこのガルガンチュアに滞在していた…………らしい」
「「「「………………はぁ!?」」」」
「……うん、まぁ、そう言う反応になるよねぇ……」
かなり衝撃的なガリアンの発言に、驚きの声を挙げるアレス達四人と、ソレを予想していたヒギンズの苦笑混じりの声が挙がる。
しかし、周囲も似た様なざわめきに支配されている事もあり、幸いにして周囲からの注目を集める様な事にもならなかった為に特に気にする素振りも見せず、運ばれて来た次のジョッキに手を着けながら続きをガリアンは口にする。
「うむ。当方としても寝耳に水の事態で驚いているのであるよ。
偶々、ギルドへの行き道にて、当方の愚弟と思われる人物と呑み友達であった、と言う方と遭遇してな。あやつと当方とを見間違えて声を掛けて来た、と言うのが事が発覚した原因であるよ」
「その人から色々と聞いてみたんだけどさぁ、ソレを統合するとどうやら本当に少し前までこの辺に居たらしいんだよねぇ。
もっとも、『何処に行く』だとか『何を目的にしている』だとかまでは、その人も知らなかったらしくねぇ。結局なんでここに居たのか、までは分からなかったよ」
「あやつらの事だ。どうせ碌な理由では在るまい。
……とは言え、その目的さえ知れていれば、不用意な接触をして不快な思いをする事も、面倒な事になる可能性も減らせると思っていたのであるが、流石にそこまでは判別出来なかったのである……」
「……何か、心当たりになりそうな事とか無いか?
俺達は、その弟について何も知らないに等しいからな。そう言う点では、お前さんに頼るしか無いんだが、どうだ?」
「……もしくは、ですが、その方も何かヒントになりそうな事を仰られてはおりませんでしたか?
例えば……何かしら特別な道具を求めていた、とか、特定の何かについて知りたがっていた、だとか」
「…………そう、であるな……」
会話の内容を思い出そうとするかの様に、額に皺を寄せながらジョッキを煽り、つまみとして注文していた骨付き肉に齧り付くガリアン。
大きく肉を噛み千切り、口腔に収めた分を咀嚼しながら記憶を辿っているのか、視線を左横へと流して行く。
暫くそうして黙りを決め込んでいたのだが、再度ジョッキを傾けて肉を流し込んだその時に何かを思い出したのか、そう言えば、と言った感じで視線を正面へと戻して来る。
「…………そう言えば、何やらあやつらはあまり状態が良くなかった、みたいな事を聞いた気がするであるな……」
「…………状態が、良くなかった?」
「うむ。なんでも、愚弟の方は聞いた話だけでも大分痩せて筋肉が落ちている様子であるし、所々毛も抜け落ちてハゲが出来ていた、とも聞いたな。
あやつの方も、彼の商人殿の話によれば『窶れている』と言っても間違いでは無い状態に在った、との話であった。
……もし、それらが何らかのモノによってもたらされた結果であり、かつソレを治療せんとしているが為にここに来た、と言う事であれば、幾らか見当が…………付く、か?」
「…………いや、逆に無理じゃないか?
その手の治療に必要なモノを求めていたにしても、それに関連するモノを求めていたにしても、流石に候補が多すぎて予測が立てられんぞ?
まぁ、まだ近くにいて接触される可能性が在るって事と、いざ襲われても万全の状態よりも撃退はし易そうだ、って点が分かってるだけ大分マシじゃないのか?少なくとも、何の心構えも無い状態で襲われるよりは、全然良いだろうよ」
「……まぁ、それもそうね。
考えても分からない事は分からないのだし、取り敢えず襲撃される可能性が在る、程度に覚えておけば良いんじゃない?
確か、アンタって例の弟とは仲悪かったんでしょう?なら、問答無用で殺しに来るだろう程度には考えても良いんでしょう?」
「なのです?なら、その時は手加減無しに返り討ちにしても大丈夫なのです!
向こうがそのつもりなら、こっちだって黙って殺られてやらなければならない理由は無いのです!」
「まぁ、ソレで良いんじゃないの?
少なくとも、向こうが殺る気を起こしてくれちゃっているのなら、こっちも手加減してあげなきゃならない理由は無いからねぇ」
「じゃあ、取り敢えずそう言う感じで」
そうして、取り敢えずパーティーとして意思の統一を果たした彼らは、問題は片付いた、と言わんばかりの様子にて目の前の料理や酒のジョッキに手を伸ばすペースを上げて行く。
しかし、そんな一行とは裏腹に、浮かばない表情をしたままで考え込むガリアンと、そんな彼を心配そうに見詰めるナタリアの二人は、互いに考え込んでいたが為に、敢えて気が付かないフリをされている事を知る事は無かったのであった。
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