『追放者達』、気になる情報を耳にする
『追放者達』がケンタウリの街を出立して大街道へと合流してから数日後。
通常であれば、半月は軽く掛かるであろう距離を異常なまでの速度にて踏破した彼らの姿は、目的地としていた交易辺境都市『ガルガンチュア』へと到着していた。
カンタレラ王国から出て行く品々と、カンタレラ王国へと持ち込まれた品々。
それらが一堂に介するこの場所は、必然的に双方から品物が集まる場所であり、互いに商人が品物を買い付けに来る場所でもある。
それ故に、と言う訳では無いが、この『ガルガンチュア』は首都であるアルカンターラと、カンタレラ第二の都市であるアルゴーを除けば最大の規模を誇る都市であり、辺境の名を冠してはいるものの、下手な大都市よりも余程発展していて人々にも活気が満ちている様に見てとれた。
そんな大都市であるガルガンチュアへと到着した彼ら『追放者達』だったが、特にここでないと果たせない用事や、目的地として設定した理由も無かった為に、特に急ぐこともせずに普通に通用門から街へと入り、街中を進んで行く。
馬車ではなく橇に乗っている事や、橇を牽いているのが狼だけでは無く熊も混じっている事から多少の注目を集めてしまった彼らだったが、既にそんな好奇の視線にも慣れた彼らがそんな事を気にするハズも無く、門番に聞いた従魔でも責任さえ取れるのならば問題無く宿泊出来る宿へと向かい、素直に部屋を人数割りで借り受けてから一息吐く。
流石の彼らであったとしても、通常では考えられない速度(普通の馬車を自動車とするのならば、常時防風ガラス無しの戦闘機で移動していた様なモノ)による移動を続け、必要最低限の休憩や宿場町等に立ち寄る程度しか停まる事をしていなかった為にその疲労は濃厚であり、立ち振舞いにも滲み出てしまう程に重くのし掛かっていた。
特に急ぎの旅路では無かったとは言え、彼らにとっては『悪しき前例』が存在している以上、やはり多少の無理で押し通れる範囲であればそうしてしまうのが良いだろう、と言う判断の元の行動であり、彼らも多少の疲労は在れどもその選択を後悔している様子は欠片も感じられはしなかった。
とは言え、疲れが溜まっていた事は厳然たる事実であった為に、到着して真っ先に宿の確保へと動き、そうして借り入れた部屋に上がってそれぞれで疲れを癒そうとしている、と言う訳だ。
だが、そんな彼らの部屋の扉をノックする影が一つ。
ソレは、このメンバーの中では名実ともに最年長(セレンの実年齢?はて、知らない子ですね)であり、最初に乗った時は酔ってグッタリしていたハズのヒギンズであった。
「…………それで?促されるままに出てきたけど、何の用ぞ?
我、シャワー浴びて一眠りでもしようかと思ってたんだけ
ど?」
「私は、その前にアレス様を襲げ……訪ねようかと思っていた処でしたので大丈夫でしたが、どの様なご用件でしょうか?」
「……やっぱり、森人族とは思えない程に肉食ね、アンタ。
まぁ、アタシも特に用事は無かったから別に良いけど、何か目的が在るんでしょう?なら、早く言ってくれないかしら?」
「……さては、タチアナちゃんもセレンさんと同じ様な事をしようと企んでいたのですね?それで、若干機嫌が悪い、と……。
ボクも、シャワー浴びようか、それともあの子達のお世話でもしようか、と言った処だったので、別に大丈夫なのですよ?」
「当方も、特に用は無かった故に大丈夫だ。
まぁ、他の面々は何だかんだ言って不満が溜まっていそう故に、少数で済ませられる用事であれば当方との二人で行ってみるのであるか?」
「あ、本当かい?
じゃあ、オジサンと二人でここのギルドでも行こうよぉ。道中で狩った分の魔物で依頼が出てる分の換金と、ついでに酒場で情報収集でもしに行かないかい?」
「…………あぁ、そう言う?だったら、俺も行こうか?
二人じゃアイテムボックスも使えないんだから、モノは橇に積みっぱなしとは言え運ぶの大変だろう?」
「…………いやぁ、リーダー疲れてるっぽいし、今回はオジサンとガリアン君の二人で行ってくるよぉ。
それなりに量は在るけど、ソレでもどうにかなる程度だしねぇ…………それに、セレンちゃんの笑顔が笑ってないんだから、リーダーに宥めておいて貰わないと、ねぇ……?」
「……あん?何の事だ……?」
若干引き吊った顔でそう告げるヒギンズに対し、未だに眠そうな顔をしながら首を傾げて見せるアレス。
確める事も兼ねて視線をセレンへと向ければ、そこには普段の通りに微笑みを浮かべている彼女の姿が在るのみであった事もあり、なおの事首を傾げて不思議そうにしていたが、そんな彼の背中をセレンが部屋の方へと優しく、それでいて抗い難い力加減にて押して行く。
「では、換金と情報収集はお願い致しますね?
アレス様はまだお疲れの御様子ですので、お部屋で私が『お世話』させて頂きますのでご心配無く。
……あぁ、ちなみに、羽目を外し過ぎる事だけは控えて下さいね?お二人には既に、泣かせる可能性の在る方が居られるのだと言う事をお忘れ無く」
「ちょっ!押さなくてもまだ一人で歩けるって!
……と言うか、こっちって俺の部屋じゃなかった気がするんだけど、気のせいか?俺の気のせいなのか?なぁ??」
「……さて、じゃあ、ガリアンさんも行っちゃうみたいなのですから、取り敢えずあの子達の様子でも見に行くのです」
「あ!なら、アタシも行って良いかな?
オッサンが行っちゃったから、予定してたつもりの事出来なくなってアタシ暇なんだよね」
「もちろんなのです!
ついでに、最近はどこまで行っててどんな事までしてるのか、丸っと吐いて貰うのですよ!」
そんな会話と共に離れて行くメンバーに、苦笑を浮かべながら背を向けた二人は、宣言通りに行動を開始すべく橇を預けた場所まで赴いてから山盛りになっている素材を背負えるだけ背負ってから、夕日が射し込みつつあるガルガンチュアの街を進んで行く。
幸いにして、大分昔とは言えヒギンズは以前このガルガンチュアを訪れた経験が在り、それ故にギルドの位置も把握していた。
更に言えば、その気になれば二人共に交渉事もお手の物(ヒギンズはその経験から、ガリアンはかつて受けていた貴族の後継としての教育故に)である為に、意気揚々と一路ギルドを目指して進んで行く。
彼らの思惑としては、さっさと換金を終わらせ、そのついで、と言う名目で酒場へと繰り出し、他のメンバーよりも一足先に一杯傾けつつ、目指す『アンクベク』やその周辺の状態等の情報を聞き出せれば、との思惑から足取りも軽く歩いていたその時であった。
「…………あれ?あんた、まだここに居たのかい?てっきり、何日か前に出立したモノだとばかり思っていたんだが?
旅程を遅らせたりしたのかね?」
唐突に、横合いから聞き覚えの無い声が掛けられたのは。
不思議に思った彼らが立ち止まり、その声の元へと視線を向けると、どうやら声を掛けて来た方も彼らへと向けて声を掛けて来ていたらしく、同じ様に不思議そうな顔をしながら立ち止まっていた。
声を掛けて来ていたのは、只人族で商人風の格好をした中年男性。
特にコレと言って特徴が在る訳でもないが、だからと言って顔まで合わせても記憶が浮かんで来ない、と言う程に印象が無い訳でもない相手であったが為に、確実に『知り合いではない』と言う事実を再確認し、困惑の表情を強める二人。
そんな二人の様子に違和感を覚えたのか、相手方も困惑の表情を浮かべながら、再度口を開く。
「……え?おいおい、あんた。あんただよ、獣人族のあんた。俺の事が分からないのかい?
この前も、一緒に呑んだじゃないか!
……でも、その時は『婚約者だ』って痩せぎすな美人さんと一緒に居たっきりだったけど、その隣にいる人は友達だったり仲間だったりするのかい?この辺りじゃあ、あんまりみたことの無いひとだけど……」
「……失礼。当方はそなたとは初めて顔を合わせると思うのだが……?
それに、この街には今しがた到着したばかりだ。それに、婚約者?と言う女性とは一体?当方は一応独り身なのだが??」
「……もしかして、誰かと彼を間違えてはいないかい?
それとも、極端に彼にそっくりな誰かさんと知り合いだったりするのかなぁ?」
「………………あ、あぁ、確かに、言われて見れば、あいつはあんた程、身長はともかくとして体格は良くなかったし、毛の色も違うみたいだ。それに、あいつは色んな処にハゲが出来てたし、本当に違うみたいだな……。
……でも、本当に、あんたそっくりだったんだよ。それこそ、この辺りじゃ珍しい、カタナ、とか言う片刃の武器を持っていたりすれば、そっくりで見分けが付かなさそうな位だよ」
「…………なに?それは、本当か?相違は無いか?
本当に、当方に似て刀を所持したフルフェイス型の獣人族がここに居たと、そう言うのか!?」
「……あ、ああ、本当だ!本当だよ!
俺の呑み友達だったんだから、本当だよ!行き付けにしていた酒場はそこだから、そこで直接聞いてくれれば本当の話だってわかるハズだよ!?」
「………………何と言う、事だ……」
突然詰め寄られた商人風の中年男性は、凄まじい勢いと気迫のガリアンに圧されながらも、丁寧に行き付けであったと言う酒場の場所まで教えてくれていたのだが、何かに気を取られているらしいガリアンの耳には一切が届いていない様子なのであった。
「………………まさか、来ていると言うのか?
あやつらも……グズレグとサラサの二人も、この地に……?」
おや?ガリアンの様子が……?




