『追放者達』、制裁を下す
「…………それで?この様な時間帯にわざわざ押し掛けて来たと言う事は、既に片は着いていると言う事なのでしょうね?」
眼光鋭く、不機嫌さを隠そうともせずに例の名も知らぬ受付嬢へと言葉を投げ掛けるのは、人をやってまで呼び出された『追放者達』のリーダーであるアレス…………ではなく、その恋人であり、普段は人同士でのいさかいを良しとはしていないハズのセレンと、そんな彼女を筆頭とした女性陣であった。
彼女らが揃って不機嫌であったのは、真夜中に突然訪問を受けて呼び出されたから、と言うだけでは当然無い。
その程度では、普段から浮かべられているセレンの穏やかな微笑みを掻き消し、底冷えのする様な眼光を浮かべさせるに至るには、全く持って足りていない。
では、何故そうなっているのか?
ソレを説明するのは至極単純。
恋人であるアレスと二人きりで部屋におり、『そう言うムード』にて『そう言う気分』が昂った状態にていざ事に及ぼうとした段階にて無慈悲にも呼び出しを受けてしまった為、と言うのが最大の理由だ。
気分も高まり、かつ身体もソレを欲する状態にまで高まっていたタイミングでの呼び出しに、最初はその声かけを無視して続行しようとしたのだが、どうにか鋼の意思を総動員して行為を中断し、こうして呼び出しに応じているのだ。
別段、その手の欲求が人一倍強い、と言う訳では無いし、長命種である以上むしろ他の種族よりも欲求自体は薄いハズ(少なくとも『追放者達』に参加する以前は碌に自らを慰める様な事も必要無かった)なのだが、恋人たるアレスと共に居る場合はその限りでは無いらしく、かなり積極的に求めてしまったりする事も多い。
それ故に、彼女としては突然『恋人達の秘め事』を邪魔してくれたのだから、それ相応の事態なのだろうな?と不機嫌さを隠さずに問い詰めて居る、と言う事なのだ。
ちなみに、残るタチアナとナタリアが不機嫌であった理由は、タチアナはセレンと同じ様な理由から、ナタリアはあのまま行けば上手いこと行ってくれたのではないか?と言う希望を打ち砕かれた事に起因している。
その為に、原因たるギルドの受付嬢へと迫る際に、必要以上に圧力を掛ける様な事になったとしても、ある意味『仕方の無い事』だと言えるだろう。
とは言え、そのまま放置していては進む話も進まない為に、女性陣の背後にて待機していたアレス達が、それぞれのパートナーを宥めながら前へと出て行く。
「……そう怯えるな。こちとら、ただ単にさっさと用事を終わらせたいだけだ。
それで?結局何の用なんだ?」
「あいつら捕まえた、って話だったけど、ソレってオジサン達あんまり関係無いよねぇ?そっちで裁く、って話だったし?
あと、恋人同士で過ごしていた夜に、無粋な乱入者が来たら誰でも不機嫌に位はなるんだから、この子達の事は見過ごそうか?良いよねぇ?」
「……うむ。そなたであれ、恋人と共に過ごしていた夜に行為の直前まで行ってからギルドによる『緊急の呼び出し』とやらを受ければ、殺意の一つや二つは沸いてきて当然と言うモノであろう?
それと、当方らが呼ばれた理由の説明を求める。当方らに関しては、既に証言等は集まっていたと記憶しているが?」
「…………その、そう言う場面でお呼び立てした事を、まず謝罪させて頂きます。申し訳在りませんでした!
それで、ですね。こうして皆様をお呼び立てした理由なのですが、『森林の踏破者』達の証言が食い違っておりまして……当然、皆様のお言葉と、周囲からの証言の方が確度が高いと判断しては居るのですが、如何せん片方だけ精査する、と言う訳にも行きませんので……しかも、皆様明日の早朝には旅立たれるとのお話でしたし……」
「…………ふぅん?成る程、ねぇ……。
と言う事は、もしかしてオジサン達は証言の整合性を確かめる為に呼ばれた、って事でよいのかなぁ?」
「……建前としましては、そうなります……」
「……建前としては、って事は、その裏の真意が別に在るって事だよな。そっちは?」
「………………その、あくまでも『森林の踏破者』達がそう言っているだけで、ギルドとしては信じている訳では無いのですが……彼らは皆様『追放者達』の傘下に入る様に要請された下部組織である為にその様な事はするハズが無い、ソレは全て只の手違いだ、と言っておりまして……」
「「「「「「………………良し、殺そう」」」」」」
受付嬢からの衝撃の一言を受けた彼らは、特に躊躇う事なくアイテムボックスから得物を取り出すと、柄に手を掛ける、等と言う段階を優に通り越してその場で鞘を払って抜き身の刀身を灯りの元に晒すと、どうせそちらだろう、と見当をつけた建物の奥へと殺意も顕に押し入って行こうとする。
最初こそ、それを呆然と見詰めるだけであったギルドに雇われているギルド付きの冒険者達であったが、流石に雰囲気や表情の類いからして冗談では無い、と判断出来たらしく、慌てて『追放者達』の前へと割り込んで彼らをそれ以上進めない様に押し留めようと試みる。
が、そんな彼らの事を黙視する事もせずにガリアンが振り払い、アレスは触れさせる事すらせずにすり抜け、ヒギンズはわざとそうされているかの様に不自然に彼らを床へと転がして行き、そうして空いた道を女性陣が悠々と歩いて行く。
その光景を目の当たりにしたからか、慌てた様子で受付嬢が彼らの元へと飛び出して来ると同時に、誰かが知らせたのか上階から上質な衣服を纏った貫禄の在る中年が慌てて現れた。
「お、お待ち下さい!?
それ以上進まれると、私達としても、皆様が敵対の意思在り、と判断せざるを得なくなってしまいます!お願いですから止まって下さい!!」
「そうだ!頼むから、そこで止まってくれ!
君達のその態度で、あいつらが嘘を言っているのだと言う事は容易に判断出来たから、あいつらは我々で確実に断罪する!
それは、このギルド支部長である私が確約するから、ここはソレで止まってくれ!頼む!!」
二人掛かりでの必死の説得に、取り敢えず、と足を止めるだけはする『追放者達』のメンバー達。
しかし、その手には未だに抜き身の刃が握られている上に、表情や視線からは未だに殺意や怒気が抜けてはいない様に見てとれただけでなく、瞳には確実に猜疑心の類いの色が浮かび上がって来ているのを見てとった支部長は、慌てて言葉を続けて行く。
「……あやつらは冒険者登録の剥奪は確定として、今回のAランクパーティーに対しての詐称、書類の偽造、審議に対しての虚偽の証言等から鑑みても、最低でも奴隷落ちか、もしくは鉱山での強制重労働となるハズだが、何か希望が在るのなら遠慮無く言ってくれ!叶えられる範囲でなら、確実に叶えて見せよう!だから、今回はソレでどうか納めてくれはしないか?頼む!!」
「…………なら、野郎共は一番危険で消費が激しい場所に奴隷に落としてから送れ。
女の方は、最低ランクの娼館に落とせ。それが、俺達と『敵対していない』と判断する最低限のラインだ。そこからは、譲歩するつもりは欠片もない」
「…………分かった。ソレで手続きを進める。
……だが、ソレで良いのか?戦闘用の奴隷に落とすのなら、連れて行って肉壁にしたりだとか、娼婦に落とすのならそれ用の奴隷として連れて行くだとかする位は……」
「……あの程度の連中じゃあ、最低限の壁にもなれやしない。
俺達が求めるとしたら、最低限がガリアンと同じレベルだ。そうでないと役に立たん。それに……」
「えぇ、その手の役割は間に合っておりますので、不要です。
……もし、万が一そうして押し付けて負債を返したつもりになろうとしているのでしたら、適当に手足を雑に落とした状態で発情した馬小屋にでも放り込んでおきますので、どうぞそこに広がる地獄絵図をお楽しみ下さい」
そう言い放つ二人の圧に、思わず顔色を青ざめさせる支部長であったが、その言葉に嘘偽りが欠片も込められていない事を悟ると、必死に首を縦に振り、彼らへと敵対の意志が無い事を全身でアピールすると、確実に彼らの言葉が実行される様にその場で指示を飛ばし始めるのであった。
そして、最後の最後まで、それこそ最速で断罪され、翌日には既に彼らの望み通りに奴隷としてバラバラに送られる時まで、最後の拠り所として望んでいた『追放者達』のメンバーとの面談を叶えられる事が無いままに、『森林の踏破者』達は制裁を受ける事になるのであった。
取り敢えず、ナタリア編了?
阿呆共の末路はまた後日、と言う感じで
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