従魔士と重戦士、絆を深める
サジダリアの森にて存分に採取し、土産として配るつもりであった分の素材を送る為の手続きも終えた『追放者達』のメンバーは、ケンタウリの街に到着した初日に泊まったのと同じ宿に部屋を取っていた。
用事は終えたのだからもう旅立ってしまっても良かったのだが、既に陽は高く登ってしまっており、そのまま出立しても大して距離は稼げないであろう事は容易に判断出来た上に、貯蓄しているモノからすれば僅かな量とは言え食料も減っている事もあり、本来の目的地である『アンクベス』へと旅立つのは明日にしよう、と言う事でパーティー内部の意見が一致したから、と言うのが最大の理由だ。
ついでに言えば、値段はそれなりにするものの、それでも設備や対応からすれば安い位であった宿なのだから、もう一泊位して金を落としてやるのも一興か、と言う思考にアレスがなりかけていた、と言う事も一因では在るのかも知れないが、真相は闇の中、と言うヤツである。
そんな訳で宿を取り、各自で消費した物資等の補充を行ったり、サジダリアの森で得られた素材によって早速アイテムを作ったりしている内に日も沈み、辺りは暗闇に包まれる。
それ故に、と言う訳でもないが、夕食を共にした後は自然とメンバー達の足は、取っていた宿の部屋へと向いて行く。
宿が気を利かせたのか、メンバー全員で使えるだけの数の個室を宛がわれていたのだが、自然な素振りで言葉少なくヒギンズがタチアナの腰へと手を回して部屋へと誘い、セレンがその豊満な胸にアレスの腕を抱いて優しく、かつ逃れ様の無い程度の強引さにて部屋へと誘導して行く光景を目の当たりにしてしまった為に、唯一カップリングの成立していないガリアンとナタリアがポツンとその場に残される事となってしまう。
それにより、若干気まずい雰囲気が二人の間を過って行く。
……いや、より正確に言えば、ガリアンの手を引いて自らに振られている部屋へと誘導しようとしているナタリアと、その行動に対してどう反応したら良いのか頭を悩ませているガリアン、と言った、ある種正反対な反応を見せる二人に、周囲の空気が自ずと固まって行ってしまった、と言う方が正確に物事を例えられている可能性は、決して低くは無いだろう。
更に言えば、部屋へと入るまいとして抵抗しているガリアンも、彼の身体能力から鑑みれば本気で抵抗している訳ではなく、その瞳にも嫌悪感や拒絶の色は見られない。
そして、逆に部屋へと引き入れようとしていたハズのナタリアも、引っ張っている手の力はそこまで強くは無い上に、瞳には迷っている様な感情が浮かんでいる様にも見てとれた。
……誘っているハズなのに戸惑っている女と、拒んでいるハズなのに拒絶はしていない男の無言のままの攻防は、暫しそのまま続けられたが、環境に焦れたらしい誘った女が問いをその口に乗せる。
「…………あの、そろそろ受けるのか逃げるのかハッキリして貰っても良いのですか?
こうやって誘っているとは言え、ボクも女の子なので結構恥ずかしいのですが……」
「……うむ、まぁ、なんだ……当方としてはナタリア嬢の事は好いておらぬ訳でもない故に、受けるのも吝かでも無いのだが…………」
彼女からの問い掛けに、そう言いながら気まずそうに視線を逸らす彼の様子を不思議そうに眺めながら、じゃあどう言う事なのか?と視線で続きを促すナタリア。
そんな彼女に対し、本当に言っても大丈夫なのだろうか?と暫しの間躊躇いを見せるガリアンであったが、そんな様子を見てもなお続きを促す視線が絶えなかったが為に、躊躇から重くなっていた口を無理矢理開いて続きを口にする。
「………………吝かでは無いのだが、その……当方とナタリア嬢では、失礼ながら体格が、な…………。
それに、ナタリア嬢個人を当方は知っているが故に触れ合うのも吝かでは無いが、世間から見える絵として考えると、どうにも……」
二メルトを超す長身を誇るガリアンと、一メルト半にも届かないナタリアとでは、確かに体格差が在り過ぎるが故に、いざ事に及んだ場合にまともに『致せる』のか分からない、と言う事と、その体格差から世間から在らぬ疑いを掛けられる事を危惧しての彼の発言に、思わず砂漠に生息すると聞く狐の一種の様な顔をしながら呆れた様な雰囲気を醸し出し始める。
が、次の瞬間には表情を一変させて華の様な笑顔を浮かべながら、彼の大きくて毛に覆われた手へと、自身の小さな手を重ねながら口を開く。
「なら、良かったのです!
最悪、ボク自身が嫌われていたりするのかとも思っていたのですけど、そう言う訳でも無かったみたいなのですから、ガリアンさんの気持ちが落ち着くまで待つのです!
それに、体格差で『在らぬ性癖持ち』だと誤解される可能性を心配しているみたいなのですが、普段ボクが引っ付いているのを拒否していなかった時点でもう手遅れなのですよ?」
「………………そこは、ほら。
世間一般からは、親密な間柄、とは見られても、そう言う関係性に在る、とは見られてはいないハズである故に……」
「あんまり変わらないのですよ?
それとも、世間から『小児愛癖持ち』だと後ろ指を指されるのが怖いのです?まぁ、ボクはとうに成人しているので、あんまり関係無いのですけどね?」
「…………まぁ、そう言われてしまえばそこまででしか無いのだが、流石に当方も周囲の目と言うモノも気にはなるので、な……」
「そんな有象無象の言う事なんて、気にするだけ無駄なのですよ?
なら、極少数の気心の知れた相手とだけ真意を分かち合って、それ以外からの雑音は無視するに限るのです!違うのです?」
「……それも、そうであるか……?
……しかし、当方とナタリア嬢とでは、些か体格差が……」
「そうは言っても、ボク達小人族も普通に子供は産むのですし、別段大根みたいなサイズしている訳じゃないのです?
なら、多分どうにかなるのですよ!取り敢えず、コレから試してみるのです!さぁ、さぁさぁ!!」
「ちょっ!?何でそんなに乗り気なのであるか!?
そう言うのは、もっと段階を踏んでから、男側から誘い掛けるべきモノであって…………って、引っ張るで無い!自室へと引き込もうとするでないわ!?」
「ふはははっ!世間体ばかりを気にしていたガリアンさんは、恋する乙女の力を思い知ると良いのです!具体的には、その身体にて知るのです!!」
そんなやり取りを挟みつつ、怪力を誇るハズの巨体を徐々に部屋の方へと引き寄せられて行く事実に戦慄しながらも、この女性相手ならばまぁ良いか?と言った諦めにも似た境地になりつつあったガリアンと、少々強引に過ぎただろうか?嫌われたりはしていないだろうか?とアグレッシブに動いていながらも、その内心としては不安で仕方がないが、絶対にこの人を逃してなるものか!との思いも同時に抱いて行動に移していたナタリアだったが、そんな二人の間を引き裂く様に無粋極まる乱入者が、同じく無粋極まる知らせを抱えて飛び込んで来るのであった。
…………そう、彼の冒険者パーティー『森林の踏破者』を捕らえた、と言う冒険者ギルドからの使者が、丁度ガリアンがナタリアの部屋へと押し込まれようとしていたタイミングにて、彼らの元へと到着してしまったのであった。
惜しい!後少し!
次回、お仕置き回
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