『追放者達』、英気を養う・2
ナタリアが嘗ての別れた従魔達と再会してから数時間の後、彼らは森の中腹から奥側に寄った辺りのポイントにて夜営する事にしていた。
元より、一々戻るのは面倒なので一泊して採取を続行させる予定であったが故に、この夜営自体は予定通りのモノなのだが、一つだけ予定外のモノも同時に発生していた。
…………そう、その予定外こそ、彼女の嘗ての従魔達であり、現在は只の野生動物であるハズの彼等が、彼女との再会後も自らの塒に帰る事をせず、彼らと行動を共にしようとしていた、と言う事だ。
彼らとの再会を一頻り喜びと共に分かち合ったナタリアが彼らと別れようとしたのだが、せめて今だけは、この森に居る間だけは、と懇願されてしまったらしく、まるで捨て犬を拾って来た子供の様な様子にて、おどおどとしながらリーダーであるアレスにお伺いを立てて来たのだ。
当然、最初は『流石に無理でしょう!?』とアレスも断ろうとしたのだが、彼女曰く
『これだけの数がいれば、この森に限った話にはなるのですが、ほぼなんでも出来るのです!』
との発言により、各自で自身の食い扶持は確保する事(本当に確保してきた)、彼等が指定した素材を途中で発見した場合は回収して来る事(本当に回収(以下略))、糞等の始末は自分達でちゃんとやる事(既に自発的にやっていた)等の条件を守らせる事と引き換えに、今回に限って同行を許可されていた、と言う事なのである。
そうして行動を共にする事になった『追放者達』のメンバー達であったが、そこからの道中は常に驚きが共に在った、と言っても過言では無い状態となっていた。
何せ、薬草の類いは小動物の類いが丁寧な作業にて根まで千切らずに採取してくるだけでなく、予め伝えておいた必要量は必ず満たして持ってきてくれる。
果実の類いも、鳥や猿の仲間が木々の上の方から収穫してきてくれる為に、ある程度彼らにお裾分けする余裕すら生じる程度には数を揃える事が出来る様になっていた。
食材も、肉類こそ頼むのは憚られたが、魚の類いであれば月紋熊(実はナタリアの従魔であるヴォイテクの兄弟なのだとか)や水辺に棲む獣達が回収して来てくれた為に、帰りに寄って採り貯めておく必要性が無くなってしまった程であったのだ。
流石に、最初こそ渋っていたアレスも、彼女の今の仲間だから、ともたらされる数々の恩恵に加え、初対面であるにも関わらずに信頼して身を預けて来るモフモフ達に心射抜かれてしまい、最終的には彼等が同行する事を認めてしまっていた。
更に、その上で夜営に欠かせない不寝番を夜目の利く獣達が自ら買って出た上に、繁っている森の中では火を焚く事は出来ない(延焼防止のため。以前のアルドレアルフス大森林は広間並みに拓けていたので普通に焚いていたが)と言う理由から厚着してテントに入ろうとしていたアレス達と共にテントへと入り、その体温とモフモフの毛皮にて彼らを暖める事までしてくれたので、正しく頭の上がらない状況に至っていたりもするのだった。
そうして、一夜を森の中で明かした一行は、獣達が採ってきてくれた食材にて手早く朝食を拵えると、昨晩の礼としてソレを惜し気もなく彼らへと振る舞い、皆で和気藹々と食事を楽しんでから、当初の予定の通りに森の奥に在ると言う露天鉱床を目指して進んで行く。
当然、獣達も彼らへの同行を続けた状態である為に、中々に見られる事は無いであろう多種多様な動物が一同に会して行進する、と言った珍しい行列が出来ていたりもする。
とは言え、そんな珍しい光景でも、目撃する者がいなければ特に騒ぎも感嘆も起きるハズが無く、各自で懐いてくれた獣達と触れ合いながら、橇は一路目的地へと進んで行く。
「……それで、目的の鉱床は後どれくらい掛かる場所に在るんだ?」
鼬や狐と言った、知恵を凝らして狩りをする獣達に懐かれ、まるで襟巻きの様に首もとに巻き付かれたり、肩や腕からぶら下がられたりしながらアレスが問い掛けると、頭の上や肩等に色とりどりの小鳥を止まらせて大合唱を楽しんでいたセレンもソレに呼応する。
「……確か、そこまで深い場所には無い、とのお話でしたが、既に私達は森の中で一晩を明かしております。
それでも未だに到着していないと言う事は、やはりまだまだ時間は掛かると言う事でしょうか?」
「それは、どうなのであろうな?
当方の鼻には、未だにその手の『金臭さ』は感知出来ずにいるのであるが……」
「どうなんだろうねぇ?
オジサンも、一応『龍』だし金物の類いは好きでは在るけど、そう言うのを探知する様な事は今は出来ないからねぇ……」
彼らの発言に呼応する様に、尻尾をブンブンと振り回している狼の群れに揉みくちゃにされているガリアンと、蛇やトカゲと言った爬虫類系にまとわり付かれ、一部のモノからはガチで求愛されている様子のヒギンズが口を開く。
が、それらを否定する様に猿の類いに懐かれ、毛繕いされたり色々と貰ったりしていたタチアナが、先程手渡されたモノを手のひらの上に乗せて彼らへと示して見せる。
「いや、そうでも無いんじゃないの?
さっきコレを持ってきてくれた子がいたんだけど、その子ってあんまり長々と離れていた訳じゃなかったから、何処かに置いておいた宝物、って訳じゃなければ、多分もうそんなにしない内に着くんじゃないの?」
「コレは…………鉱石、の類いかな……?
あんまり見た覚えの無いモノだけど……成る程、確かにここにしか無さそうな素材だねぇ……」
「……ふむ?であるのならば、もうそこまで掛かりはしないかも知れぬな」
「その通りなのです!もう、直ぐそこまで来ているのです!
ほら、彼処なのです!」
そう言って橇を停めたナタリアの示す先へと視線を向けた彼らは、ソコに広がる崖や地面の亀裂から様々な色をした結晶が顔を覗かせている光景を目の当たりにし、思わず感嘆の声を挙げながらその光景に魅了されて行く。
とは言え、本来の目的から鑑みると、何時までもその光景を眺めている訳にも行かない為に、多少の名残惜しさを感じながらもその場で手を叩いて音を出し、皆の注目を強制的に集めるアレス。
「……そら!何時までも眺めていたい気持ちは分かるが、本来の目的を忘れてくれるなよ!
幾ら予定が在って無い様なモノとは言え、あんまり時間ばかり掛けても良いモノじゃあ無いからな!
取り敢えず、採るだけ先に採ってから、また眺めれば良いだろう?どうせ、この外観が変わる程に採り尽くす様な事態になんて、俺達だけじゃあやりようが無いんだから」
「…………うむ、まぁ、リーダーの言う通りか」「えぇ、そうですね」「まぁ、それもそうね」「じゃあ、先に採っちゃおうかねぇ~」「なのです!サクサク採るのです!」
そうして下されたアレスの号令により、全員でアイテムボックスから取り出したツルハシを振るって地表へと露出していた鉱床を掘り返し、月紋熊を始めとしたパワー型の獣による協力の元に作業を進め、最終的に得られた鉱石を大雑把に分類して纏められ程度には量を揃える事が出来たのであった。
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「…………あぁ、結局、夜中に魔物に襲撃されたお陰で、一睡も出来なかったぜ……それもこれも、全部、見張りの時にメラニアが居眠りしてくれたせいだぞ……!」
「……し、仕方無いじゃない!寒くて、暗くて回りも見えなかったんだから、寝ちゃっても仕方無いでしょう!?」
「…………なぁ、メラニア。
ソレをしないのが不寝番の役割だって、君だって知っていたハズだろう?なら、何故ソレをしなかったのかな?
なにか理由が在るのなら、言って見てくれないか?勿論、俺達が納得出来る理由を、ね……?」
「ひっ……!?」
「……お、おい、トッド……?
少し、圧を掛けすぎじゃ無いのか……?な、なぁ?」
「…………ふんっ、次は無い。そう思ってくれないと困るよ?」
「…………は、はひっ……!」
「……さて、俺達には時間が無い。
さっさと準備を片付けて、彼らを追うぞ。そうしないと、俺達に明日は来ないと思え。くれぐれも、脅しだと思うんじゃないぞ……?」
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