『追放者達』、英気を養う
「まずは、この辺りから採ってみるのです!」
そう言ってナタリアに案内されたのは、森に入ってから橇で少し中へと入った程度の処であった。
木々の隙間に目を凝らせば、まだ外の様子もギリギリ見えなくは無い、と言った程度の場所であった為に、思わずアレスの事前に怪訝そうな色が混ざる。
が、当のナタリアは苦笑を浮かべながら橇から降りると、もう少し奥側へと進んでから地面へと屈み込み、近くに生えていた草むらから一房の草束を引き抜いて見せる。
「実は、採るだけならばこの辺でも結構採れるのですよ?
まぁ、地味に先入観が在って、もっと奥まで行かないと採れない!とばかり思われているのです。
なので、逆にこう言う浅い場所の方が、結構残ってたりするモノなのです!」
「…………本当だ。確かに、コレは薬草の類いだな。
詳しく観てみないと効能やら使い方やらまでは分からないけど、ポーションの素材としては使えるっぽいな」
「なのです!
ちなみに、そこの草むらは大体がソレなのですが、どうするのです?半分位残して貰えるのなら、採っても大丈夫なのですよ?」
「では、遠慮せずに採ってしまいましょうか!
穴場だと言う事でしたら、他の方は滅多に訪れない場所と言う事でしょうから、少し位多めに採っても大丈夫でしょうしね♪」
そう言って、早速、とばかりに鼻歌混じりに草むらへと手を伸ばすセレン。
その繊手にはちゃっかりと採取用の頑丈な革で出来た手袋が嵌められており、ある程度の数を採っては纏めて細縄にて縛り付け、袋に詰めてからアイテムボックスへと放り込んで行く。
流石に、採り過ぎると言う事は無いのだろうが、それでも採れる分は全て採ってしまいそうな彼女の勢いに、同じくポーションの自作を行うアレスも少々慌てた様子を見せながらセレンの隣に屈み込み、可能な限り根や葉を傷付け無い様に採取して行く。
そんな彼らの脇では、近くの木に成っていた果物を発見したタチアナが、器用にスルスルと木を登って行き、特に危なげも無しに枝まで到達すると、手頃な場所に成っていたモノを一つもぎ取って軽く表面を拭い、そのまま皮ごと齧り付く。
が、次の瞬間には、まるで顔のパーツを無理矢理顔面の中心へと集めたかの様に縮め、口にした果実を吐き出してしまう。
「…………酸っっっっっっっっっぱ!?ナニコレ!?
色も良いし、香りも良かったのに、何でこんなに酸っぱいのよ!?」
「あぁ、もしかして、ソレを生のまま齧っちゃったのです?
ソレ、生のままだと完熟しても凄く酸っぱいので、あんまりそのまま食べる人はいないのですよ?」
「……そう言う事は、もっと早く言ってよ!?」
「……いや、止める間も無く食べちゃったのですよ?
それに、生のままだと凄く酸っぱいだけなのですが、不思議と熱を通すと凄く濃厚な甘味と蕩ける様な食感に変わるので、とても美味しいモノなのですよ?」
「………………えぇ、本当に……?」
「なのです!そんな事で、わざわざ嘘なんて吐かないのです!
そんなに疑うのなら、この後にでも試してみれば良いのです!
あ、そうやって成っている処にいるのですから、ついでに幾つかもいで来て欲しいのです」
「…………いや、それは別に良いけど……えぇ……?」
凄く不本意かつ、凄まじく疑っている様な視線と声色にてナタリアへと返答したタチアナだったが、その加工後の『美味しくなった状態』には興味が在るらしく、渋々と言った体で幾つか枝からもぎ取って腰のポーチから取り出した袋に詰めて行く。
そんな彼女の様子を、恋人に向けるソレとしては些か生暖かく、優しさの込められた視線を向けながらその口許を緩めるヒギンズと、従魔達と共に鼻をヒクヒクと動かして何かの臭いを辿っている様子のガリアン。
暫しそうして周囲を探っていた彼だったが、探していた『何か』を見付けたのかとある方向へと視線を固定させ、その方向へと向かって藪を掻き分けて押し入って行く。
特にヤバそうな気配はしないから、とソレを黙って見送ったヒギンズだったが、アレスとセレンが薬草を採取し終え、タチアナも採るだけ採って満足したのか行きと同じ様に器用に木から降りて来てもなお戻って来なかった為に、もしかして何かあったのかなぁ?と若干心配になってきたので、探しに行くべきかどうするべきか……と頭を悩ませる。
が、そうこうしている内に、ガリアンが突っ込んで行った藪がガサガサと音を立てて揺れ始め、何事か!?と皆が反応する中、反対側から彼らの方へと向けて見慣れた狼の頭が藪の中から突き出されて来た。
敵襲の類いでなかった事にホッと胸を撫で下ろしながらも、先に一声掛けてくれてさえいれば、との思いからヒギンズが口を開く。
「ちょっと、ガリアン君?あんまりそう言う事はしないで貰えないかい?
せめて一声掛けるとかしてくれないと、オジサン間違えて突く処だったんだからねぇ?」
「いや、悪い悪い。近くで警戒をしている気配だけは感じられた故に、逃げられる前に、と思っていたのでな。
まぁ、そのお陰、と言うのも少しアレだが、中々に大物が捕れたぞ?」
そう言って、それまでは肩に背負っていた何かを地面へと下ろすガリアン。
軽く二メルト近く在るソレは、外見相応の重量が在るらしく、彼が地面へと下ろしただけであったにも関わらず、重く水気を多く含んだ様な音を立てていた。
「…………やけに馬鹿デカイから確証は無いけど、コレってもしかして鱒の類いかい?」
「うむ、恐らくはそうであろう。
水の臭いがしていた故に、近くに川でも流れているのだろう、と当たりを着けて探してみれば、少し行った処にちょっとした湖らしきモノが在ってな。
事前に用意しておいた糸と針を使って試しに、と釣ってみれば、案の定大物が掛かった、と言う訳である」
「……おーおー、この毛むくじゃらめ。
姿が見えないと思ったら、そんな事やってた訳か?
まぁ、大分デカい上に丸々太って脂も乗ってそうだから、かなり食い手もありそうだな」
「うむ。あまり日持ちするモノでも無かろうし、昼か夜にでも食ってしまうのが良かろう。
まぁ、当方らにはアイテムボックスが使える者も多い故に、あまり気にしなくてはならない事項でも無いかも知れぬがな」
「なら、もう少し進んだ先に、丁度良い感じに小川が流れているのです。
その川原で焚き火でも興しながら、昼食にするのはどうなのです?」
「あぁ、ならソレで行こうか。
どの道調理するのは俺とガリアンだろうから、早めについて早めに休憩も兼ねて昼にするのも悪くないだろうさ」
「うむ。では、その様に」
そうして和気藹々としながらも、決して周囲への警戒を怠る事をしない彼らは、ナタリアの案内によって更に森の奥へと足を踏み入れて行くのであった。
******
「…………くそ、わざわざ馬車まで借りて先に出たってのに、もうこんなにも日が高くなってやがる。
随分前に追い抜かれたって事も在るし、あいつら何処まで潜ってるか分からんぞ!?」
「……あぁ、幾ら『役立たず』とは言え、かつてはこの森で活動していた彼女が着いている以上、効率的に動いていれば、ソレなりに深く潜っていても不思議では無いだろう。
なら、今は手早く補給を済ませてから、その後は休憩無しで追い掛けるしか無いだろうね」
「……えぇ~?ソレマジで言ってるの?
こんな処で火も焚かずにって事は、固くて味もしない携帯食料齧ってろ、って事でしょう?アレ、美味しく無いんだけど……?」
「仕方がないでしょう?
最低でも、ここで俺達の有用性を彼らへと見せ付けて俺達の評価を覆さないと、俺達にこの先明るい未来は待っていません。
ですが、上手く行けば取り敢えず以前と同じ状態には戻れますし、もしかすればAランクのパーティーの傘下に収まれるか、もしくはAランクのパーティーに加われるかも知れないのですよ?
そうなれば、後はこちらのモノ。幾らでもやり様は在ります」
「……そうだ、そうだな!俺達は、こんな片田舎で燻っていて良いような器じゃ無いからな!
今さえ堪え忍べば、俺達の未来は約束されてるぞ!」
「…………そうね、そうよね!私達が、こんな処で終わる器なハズが無いものね!
今さえ我慢していれば、直ぐに栄光が私達の手に転がり込んで来るのは約束されているものね!」
「……あぁ、そう言う事だ。
さて、取り敢えず補給も終えた事だし、急いで追い掛けるぞ!俺達の栄光は、ここで追い付けるかどうかに掛かっているんだからな!」
「応!」「えぇ!行きましょう!」
…………さてさて、追い付けるのかなぁ?(にちゃぁ)←(ねちっこい笑みを浮かべる作者)
面白い、かも?と思って頂けたのでしたら、ブックマークや評価等にて応援して頂けると励みになりますのでよろしくお願い致しますm(_ _)m




