『追放者達』、付きまとわれる
未だに早朝の空気が晴れやらぬ時間帯に、ケンタウリの街を歩く『追放者達』のメンバー達。
結局あの後は目的であった宿『セイロン』に宿泊する事に成功し、高級宿と言われるだけは在る諸々の設備によって英気を養ってから、このケンタウリに立ち寄った大元の目的であるサジダリアの森を探索するべく、こうして早朝に連れ立って歩いている、と言う訳だ。
とは言え、昨日の騒動に思う処が無かった訳でも無いらしく、一人雰囲気を暗くしていたガリアンが他のメンバーへと向けて頭を下げる。
「…………誠に、申し訳無く……」
「……まったく。殺意が湧くのは理解は出来るが、あそこまで急速に沸騰しなくても良かっただろうに」
「まぁまぁ、そう言わずに、ねぇ?
自分にとって『特別な相手』を馬鹿にされれば、ああなっても仕方無いってモノじゃないのかなぁ?少なくとも、リーダーが同じ様な状況になったら、激昂して相手に斬りかかるだろう光景を、オジサン容易に想像出来るんだけどなぁ?」
「……まぁ!まぁまぁまぁ!それは、乙女としては中々にそそられるシチュエーションですね!
私、実際にそんな場面になってしまったら、一体どれだけアレス様を好きになってしまうのか予想出来ません♪」
「…………まぁ、そこの頭の中にお花畑が出来ちゃった聖女様じゃないけど、女としてはその手のシチュエーションには憧れない……事も無い、かも……?」
「…………あ、あはは……でも、あそこでガリアンさんが怒ってくれて、リーダーが断言してくれたのは正直嬉しかったのです。
二人とも、ありがとうございますなのです!」
そう言って、今度は二人に向けてペコリと頭を下げるナタリア。
そんな彼女の頭頂部を眺め、気不味そうに頬を掻くアレスとガリアンと言う珍しい光景に、思わず微笑みを浮かべる他のメンバー達。
そうしている内に、人通りが増え始める地域に入り始めるのだが、何故か周囲から彼らに向けて不躾な視線が向けられたり、ヒソヒソとした噂話の囁きが交わされている様に思えた。
昨日到着したばかりであり、かつそうやって悪意の在る噂話を飛ばされなくてはならない理由に心当たりが全く無い彼らは首を傾げるしか無かったのだが、取り敢えず例のサジダリアの森へと入る際に、ギルドへと一声掛ける事が規定されているらしいので、ソレをこなしてしまう為に到着したギルドと思わしき建物の扉を押し開ける。
建物の造り自体はアルカンターラや他の都市に在るそれらと相違は無いが、やはりここ最近で一番良く利用していた首都であるアルカンターラのソレと比べてしまうと、些か見劣りしてしまうのは仕方の無い事だろう。
そんな、多少失礼な感想を抱きながら受付のカウンターを目指して進んで行くアレス達。
普段であれば、アレス一人かもしくはそこにセレンが帯同する程度で、一人でも構わない事を何人も引き連れて行う意味はない、との考えから他のメンバーは適当に併設されている酒場で待機しているモノなのだが、流石にいつもの場所では無いのでそうも行かず、こうして全員で固まって行動する事になっていた。
とは言え、やる事にそう大きな違いが在る訳でもなく、普段依頼を受ける時と同じ様にギルドカードとパーティータグを提出したアレスは、メンバー達からも同じ様に回収しながら受付嬢に声を掛ける。
「失礼。ここでは、例のサジダリアの森に踏み入る際に必要な手続きが出来る、と聞いて来たのだけれど、取り敢えずどうすれば良いのか教えて貰っても?
後、コレが全員分のタグとカードね」
「…………失礼、拝見させて頂きます。
………………コレは!?Aランクのカードとタグ!?
…………失礼致しました。確認出来ましたので、お返しさせて頂きます。
それで、例のサジダリアの森へ入る際の手続きを御所望でしたか?では、こちらに皆さんのパーティーネームとランク、個人名、それと同行する予定の現地にある程度精通している人物か、もしくはパーティーネームの記入をお願い致します」
「…………同行する予定の現地人……?」
唐突に現れた新ワードに困惑しながらも、取り敢えず受付嬢に聞き返すアレス。
彼らと同じ様に、外部からやって来て一時的に滞在する冒険者達に対し、地元の貴重な生活の糧でもある森を好き勝手に荒らされるのは、住民としては困るのを通り越して文字通りの『死活問題』に直結する事になる。
故に、ケンタウリの街で一定期間活動している実績を持つ冒険者を探索に同行させ、どの程度までならば採取しても問題ないのか、どの辺りに危険地帯が在るのか等を現地にてレクチャーする、と言うのがあの森に入るに当たって定められている規定の一つなのだそうだ。
そんな、完全に外部の人間に向けての規定であり、かつ地元民であったハズのナタリアですら知らなかったモノに驚きはしたものの、それでも彼らには元とは言え地元民であったナタリアが居るので不要だ、と受付嬢に告げようとした時、彼女の口から衝撃的な言葉が飛び出して来た。
「……ですが、どうやら『追放者達』の皆様の付き添いする現地人は既に登録されている様子なので、他の部分の手続きさえして頂ければそれで大丈夫ですね。
しかも、同行者はあの森での活動を専門にしているパーティーですので、必要な素材が在っての事でも、遊興が目的でも、比較的満足の頂ける終わりになるかと思いますよ。良かったですね!」
「「「「「「………………は……?」」」」」」
「…………え?皆様が事前に登録なされたのでしょう?
同行者の欄には、確りと『森林の踏破者』の名前が書かれておりますけれど……?」
「「「「「「………………あ゛ぁ゛!?」」」」」」
全く身に覚えの無かった事に驚愕し、思わず揃って間の抜けた声を挙げてしまった彼ら。
そんな彼らに、またしても身に覚えの無い事実が告げられ、またしても思わずドスの効いた声を揃えて発してしまう。
「ひぃっ!?
……あ、あの、ですが、既に昨日書類は提出されて受理されていまして……」
「…………その地元民の定義とは何だ?
ここで一定以上活動していればよいのであるか?」
「…………え、えぇ、一応規定の上ではそうなっています。
……ですが、今から変更となるとキャンセル料が発生する上に、前払いで支払っていた分の料金は返って来ませんよ?
少なくない額を先払いして、どうしてもと頼まれたから先に入っていた仕事をキャンセルしてまで同行する事を許可したんだ、と昨晩は彼らも周囲へと言っておりましたが……?」
「残念ながら、その辺の戯言は全部嘘だ。
そもそも俺達は、あいつらになんて依頼してないしする必要も無い。何せ、暫く離れていたとは言え、ここで活動していた経歴の在るメンバーがいるからな。
そもそもの話として、俺達にはそんな事をあの程度の連中に頼み込んで迄する必要が無い。だから、それは虚偽の申告だ。即座に破棄した上に、ソレを申請してくれた連中に対して制裁を下す事を要請する」
「……で、ですが!仮にそうだったとしても制裁は行き過ぎです!それに、皆様の証言だけしか証拠が無い以上、直ぐ様、と言う訳にも……!?」
「…………へぇ、じゃあ、この支部は、オジサン達Aランクに至っているパーティーの言葉よりも、本人達がいない間にコソコソ動いていた地元の小物を優先する、って事で良いんだよねぇ?」
「そ、そう言う訳では!?」
「じゃあ、何の問題も無いよねぇ?
取り敢えず、あの連中には制裁の準備をするのと、後はその書類をちゃんと書き換えて置いて頂戴よ?
後から、ソレが在ったのだから制裁は不当だ!とか騒がれても面倒臭いでしょう?
ギルド側も、オジサン達も、ねぇ?」
三人が三人共に瞳が笑っていない笑顔で迫られる事になった受付嬢は、最終的には滝の様に滴る冷や汗にて化粧をグズグズに崩しながら、必死に首を縦に振る事で肯定の意思を伝える事になってしまう。
ソレを目の当たりにし、かつその瞳に嘘を吐いている色が見えなかった為に満足した彼らはその場で一つ頷くと、必要な書類を手にとって記入する為に受付を離れるのであった。
随分と小癪な真似を……(-_-#)
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