『追放者達』、従魔士の古巣に足を向ける
『追放者達』が首都アルカンターラを出立してから、特筆する事なく一日が過ぎた。
出立当初の予定通り、適当なタイミングで発見した宿場町にて宿を取り、そこに宿泊した彼ら。
当然、資金にあかせて個室を使う事も出来たが、それはそれで味気無いと言う事で、男女で部屋割りをして二部屋に別れて宿泊した。
その際に、宿の食堂にて食事をしていた際に女性陣に対して馴れ馴れしい態度を取ってくれた連中が、女性陣に対して『地元の風習だから~』とか抜かしながら夜這いを仕掛けようとしたのだが、扉の鍵を突破した段階で女性陣に犯行が発覚し、各自のスキルを最大限発揮した迎撃によってボコボコにされ、更に隣の部屋にいた男性陣もそれらの物音によって事に気付き、彼らの手によって不埒者は半死半生の目に合う事となった。
最終的に、その宿場町の自警団にその連中をそのまま突き出し(多少アレス達にも嫌疑が向いたが、彼らがAランクのパーティーであると知った途端に手の平を返して解放された)、不機嫌になっていた女性陣をそれぞれで宥めて一夜を明かした次の日の朝。
宿側も彼らに気を使ってか、他の客に出されているソレよりも豪勢な朝食を提供された彼らがソレを採る中、昨日も広げていた地図をテーブルの上に広げたアレスは、アルカンターラと記された地点から東側に伸ばされていた線の半ばよりも手前側を指で示す。
「食いながらで良いから、少し聞いてくれ。
取り敢えず、今俺達が居るのがこの辺り。この宿場町の名前から察するに、大街道の真ん中よりも少しアルカンターラ側の位置に居る……ハズだ。
そして、予定としては、今日はこの辺まで進んで、その先で何泊かしようかと思ってるんだが、どうだろう?」
そう言って、アレスは指で示していた部分から大街道を示す線の上を進めると、真ん中から少し進んだ程度の処を指し示す。
ソレにより、ヒギンズを含めた四人は不思議そうな表情を浮かべながら首を傾げる。
「…………あの、アレス様?
何故、そこまで、なのでしょうか?」
「……うむ。昨日とは出立の時間が異なる故に、丸っきり同じ程度とは行かぬのは理解出来るが、進もうと思えばもっと進めるのでは無いか?」
「そうそう。なんで、そんな中途半端な場所を目標にする訳?
幾ら急ぎじゃない旅路の上って事だとしても、そんな変な場所を目指す理由は無いと思うんだけど?」
「…………う~ん。オジサンも皆と同じ意見だけど、そんな中途半端な地点を示すって事は、何だかまるでそこに用事が在るみたいに聞こえたけど、ソコってなにが在るんだい?」
「あぁ、良いぞ。
別段急ぎの旅、って訳じゃないんだから、ちょっと寄り道をば、と思ってさ?
丁度、その辺りにとある街が在るらしくてさ?そこの近くには、そこでしか採取出来ない素材だとかが豊富に在る森が存在しているらしくってね?だから、そこで何か使えそうなモノだとか、他で高値で取引されてる様なモノだとかをドヴェルグとかへのお土産として持って行ければ、と思ってね」
「まぁ!そうだったのですか?」
「そうだったのです。まぁ、俺達で使ったりしても別に良いんだし、行ければ良いかな?って程度のノリだから、嫌だ、って人が居れば止めるけど、どうする?」
そう言ってメンバー達をぐるりと見回すアレス。
先に声を挙げた四人は、各自で納得したらしく頷いたり、何が採れるのかを予想したりする様子を見せていたが、只一人だけはその表情を強張らせながら視線をテーブルへと落として俯いてしまっていた。
当然、ソレを容易に見逃すアレスではなく、何事か、との思いも込め、出来る限り柔らかい口調と声色を意識して『彼女』へと問い掛ける。
「…………その様子だと、何かしらの訳在りっぽいけど、どうする?
さっきも言ったけど、ただ単に俺が案として出したってだけで、別に必ずしもそこに行かなきゃならない用事が在ったり、理由が在る訳じゃない。
だから、嫌なら嫌と言ってくれ。誰も恨みやしないから。
それと、話せる様なら話してみてくれないか?ここに居るメンバーは仲間だ。なら、そうやってる原因の問題を解決するのに、手を貸す事に躊躇う理由は何もないさ。
もちろん、話せない内容だ、って言うなら仕方無い。その場合は諦めるけど、さ。出来るのなら、話してはくれないか?」
「うむ、それは当然の話であろう。
当方らは、同じ傷を負いし同志だ。なれば、その同志が傷付き踞っていたのであれば、ソレをどうにかする為に手助けする事の何が悪いと言うのか!」
「……そこまで言われては、ボクも話さないといけないみたいなのですね。
……でも、リーダーやガリアンさんが思っている様な、そんな大層な理由が在る訳じゃあないのですよ?」
そう言って、一旦言葉を切ったナタリアは、その小さな手にて先程アレスが指差していた場所から少し離れた地点を指し示しながら、再度言葉を紡いで行く。
「……恐らく、リーダーが目指したい、と言っていた街はここに在るのです。その名前も『ケンタウリ』なのです。
そして、その『ケンタウリ』の程近くに存在する、そこ固有の素材や資源を多く抱える森は、正式には『サジダリア深森林』と言うのですが、付近の住民は専ら『賢者の森』と呼ぶのです」
「…………ふぅん?やけに詳しいんだねぇ?
オジサンも、そんな感じの街と森が在る、って話は聞いたことが在ったけど、それでも詳しい名称と位置は今初めて知ったよ。そこまで詳しく知ってる事と、その話さなきゃならない事って、何か関係が在ったりするのかい?」
「……まぁ、無関係では無いのです。
で、何でボクがそこに関してそんなに詳しいのか、なのですよね?
その理由は簡単なのです。その『ケンタウリ』が、アルカンターラに出てくるまでボクが活動していた街だったから、と言うだけなのです。
地元民で、かつ生活の基盤となっていた場所なら、詳しくなっていても不思議は無いのですよ?」
「…………ふむ?と言う事は、先程まで渋っていた理由はとはもしや……?」
「なのです。
あそこは古巣で、かつ『かつて所属していたパーティー』はあの森での活動に特化した……と言うよりも、あの森での活動しか知らない様な連中だったのですから、まだ死んだり引退していなければ、多分あそこで冒険者を続けているハズなのです」
「…………ふぅん、成る程、ねぇ……。
確かに、そんな事情があるなら、あんな浮かない顔にもなるってモノね。
アタシだったら、そんな顔を合わせれば何をされるか分からない元パーティーの連中が居る古巣が行き先だなんて、断固として反対させて貰う場面だわ」
「…………あはは……まぁ、気まずいのは気まずいのですが、皆とは違ってボクは完全に縁が切れているのですし、そこまで拒否反応が在る訳でもないのです。
……まぁ、別れの際のアレコレがちょっとアレだっただけに、あんまり顔は合わせたく無い、と言うのは本音と言えば本音なのですけどね?」
「……では、止しておきましょうか?
リーダーも言っておられる通り、今回の遠出は目的こそ定まってはいるものの、その実旅行と大差在りません。
ですので、メンバーが『否』と言うのであれば、ソレを聞き届けない程に彼は狭量では無いでしょうし、ナタリア様もソレを知っておられますよね?」
「……なのです。
ですが、ボクの個人的な事情で行程を変えるのも気分は良くないのですし、何よりリーダー達が楽しみにしているのを取り上げるのは可哀想なのです。
……まぁ、それに、幾ら同じ街とは言っても、そうそう遭遇する様な事にはならない可能性も在るのですから、そこまで難しく考える必要は無さそうなのです。仮に遭遇したとしても、ボクが多少気まずい状態になるだけなのですから、皆は気にせずに『ケンタウリ』を目指すのです!」
「…………本当に、良いんだな?」
「なのです!!」
未だに表情は晴れやかなモノとはなっていないながらも、取り敢えず彼女からの許可が出た為に、彼らはアレスの提案の通りに一時大街道を逸れて『ケンタウリ』へと寄る事に決定するのであった。
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