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『追放者達』、出立する

 


 ギルドにて半ば強引にアルカンターラを離れる事を通達した翌日の早朝。



 未だに朝靄の晴れきらぬ未明の朝の最中、季節柄寒さを感じる程度に気温が下がって清廉な雰囲気のする空気の中、東の大街道に繋がる通用門にて手続きをする複数の影が在った。



 その影とは、言わずもがなでは在るが、大方の予想の通りに『追放者達(アウトレイジ)』のメンバー達。



 何故にそんな時間に出立しようとしているか、と言えば、ただ単に目的地まではソレなりに距離が在るために、と答える事も出来るが、理由の大部分を隠さず明かすのだとすれば、それは各方面からの追跡を振り払う為に、と言う事になる。



 何せ、ギルドにしろ、他の冒険者にしろ、アレだけ不愉快な諸々を、昇格した当日だけでなく、遠出する報告をしに行った昨日も仕掛けてくれたのだ。


 それ故に、遠出する事を聞き付けた連中が彼らの跡を着けて来る可能性も在れば、行き先で思い付きもしない様な妨害を仕掛けてくる可能性も在る。



 それに、そもそもの話として、厄介事からトンズラする為に遠出しようとしているのに、わざわざその手の輩に着いてきて欲しくない、と言うのが正直な話だ。



 なので、故意的に想定していないであろう時間帯を狙い、かつ追跡されているかどうかの判別を付けやすいタイミングを狙って行動を起こした、と言う訳である。



 そうこうしている内に、アレスが行っていた出立手続きが終了し、役人の欠伸に見送られながら無事にアルカンターラの外へと至る事に成功する『追放者達(アウトレイジ)』のメンバー達。



 その解放感たるや半端なモノでは無かったらしく、直接的に凄まじくうざったい気分にさせられていた面々は、晴れやかな表情を浮かべながらその場で大きく伸びをし、ナタリアの従魔達も橇に繋がれた状態で可能な限り身体を伸ばして心地良さそうにしていた。




「…………やべぇ。まだ外に出ただけなのに、解放感が半端無いんだけど……!」



「……えぇ、分かります。まるで、それまで着けていた窮屈な下着を脱ぎ去った様な…………いえ、忘れて下さい。良いですね……?」



「……まぁ、言いたくなる気分も分からんでも無い、な。

 こう……一日中着込んでいた鎧を脱ぎ去った時の爽快感に似ている、様な気がするのであるな」



「…………アタシは、あんまりそう言う経験無いから上手い例えが浮かばないけど、でもこの爽快感は良いわね……」



「……タチアナちゃん?そうやって、血涙を流しながら無理に取り繕わなくても良いのですよ?ここには仲間しかいないのですから、ね?」



「そうそう。それに、オジサンはタチアナちゃん位が丁度良くて可愛いから問題無いし、それにタチアナちゃんだから大好きなんだけど、もしかして伝わって無かったのかぃ……?」




 なんて会話を繰り広げながら、ここの処見せる事の無かった晴れやかな笑みを浮かべるメンバー達だったが、折角早く出てきたのだから、とアレスが促すままに橇へと乗り込み、出発の準備を整える。



 そして、全員が乗り込んだ事を確認してからナタリアに対して出発の指示を出す。




「よし、じゃあ、ナタリア頼んだ。もちろん、お前達もな?」



「では、行くのです!皆も、もうあっちの姿になって良いのですから、最初から飛ばして行くのです!!」



「「「「「「「「ウォン!!!」」」」」」」」


「ヴッ!!」




 彼女の号令に従い、普段街中に出る時は普通の森林狼や月紋熊と同じ様に振る舞っている彼らも、例のダンジョンマスターによって与えられた本当の姿へと立ち返り、その巨体を解放する。



 ブルブルと身体を揺すって感覚を確かめてから月紋熊のヴォイテクを先頭に橇の所定の位置へと着いて行き、自ら革紐の輪に身を通して具合を確認すると、示し合ったかの様に一斉に橇を引っ張って走り始める。



 通常の動物であった時は、初速はあまり出なかったし、そもそもの話として重量制限も有りはした為に、パーティーの何人かは荷物をアイテムボックスに入れた状態にて走る事を余儀無くされていたのだが、ダンジョンマスターによって進化(?)させられ、そのパワーもスタミナも超絶強化された彼らは全員乗せてもなお余裕綽々であるらしく、それはそれは楽しそうに尻尾を振り回しながら、そこらの馬車よりも余程速度を出しながら早朝の空気の中を爆走して行く。



 装備さえ外していれば、それこそ一日位は走り通しでもどうにかなる男性陣やセレン(回復しながら走れる)であっても、必要に駆られて走るのと、こうして旅をするために乗り物に乗るのとでは大分気分も異なる上に、こう言った直線での加速度等を走るよりも高い為に、あまり経験出来ない速度に内心では結構テンションが上がって居たりもする。


 ……とは言え、以前二日酔いの影響等も在ったとは言え、乗り物酔いの症状を発症した事の在るヒギンズに、周囲からのからかい混じりの言葉が投げ掛けられる。




「そう言えば、前にオッサンが酔ってたけど、他の皆は大丈夫か?あんまり急ぎの旅って訳でもないんだから、気分が悪くなったりしたらちゃんと言うんだぞ?」



「うむ、了承した。

 まぁ、当方はこの手の乗り物には滅法強い故に、余程体調が悪いか、もしくは二日酔いにでもなっていなければ心配は無用であるがな」



「ええ、私は大丈夫です。

 むしろ、どなたか気分が優れない方がおられるのでしたら、早めに仰って下さいね?」



「なのです!そう言う場合は早めに言ってほしいのです!

 仲間なのだから迷惑を掛けられても特には気にしないのですが、やっぱり橇を汚されるのは良い気分はしないのです!なので、吐きそうになったのなら一旦止めるから早く言うのです!」



「…………まぁ、ほら?そう言うのって体質が問題だ、って良く言うじゃない?だから、気にしてもあんまり意味無いんだから、ね?気にしない気にしない。

 それに、もしそうなっちゃったとしたら、ちゃんとアタシが看病してあげるから、ね?ほら、元気出しなさいよ!」



「………………そう言えば、今日は予定ではどの辺りまで行くつもりなんだい、リーダー?

 速度優先って訳じゃないなら、適当な町とかで泊まったりする予定だったりするのかい?」




 半ば……処では無い程に強引なその切り替えに、悪戯心から追撃してやろうか?とも思ったアレスだったが、隣にいたセレンがさも『止めて差し上げましょう?』と言わんばかりの視線にて首を振っていた為に、じゃあ止めといてやるか、と気分を切り替えてアイテムボックスに仕舞い込んでいた地図を取り出し、吹き付ける風を物ともせずにその場で広げて指で辿る。




「……取り敢えず、今の俺達は東の大街道に入ったばかりだ。

 この東側の大街道は、他のソレとは違ってカンタレラ王国の端まで繋がってる、って訳じゃあない。

 今でこそ他国との通商の大動脈になってるけど、元々は敵国で、かつ仲の悪かった国であったが為に、侵略された時の事を想定して中途半端にしか作らなかった、とか言う事情が在ったらしいが、今は関係無いから置いておくとして、取り敢えずはその大街道の端っこまではこのまま真っ直ぐで良いって話だったから、今日は街道沿いにある適当な宿場町で泊まる事になるんじゃないのか?」



「まぁ、最悪野宿になっても構うまいよ。

 それ相応にその手の装備も拡充させておるし、当方らも野宿を苦手とするモノは居るまい?なれば、どうとでもなろうて」



「…………まぁ、正直言えば、わざわざ硬い地面で寝るのはごめんだけどね?」



「私も、どちらかと言えばベッドで寝る方が好みです」



「……いや、ソコは当然なのですよ?

 取り敢えず、日が暮れる前に適当な宿場町に入っておくので良いのです?」



「まぁ、良いんじゃないかい?

 この大街道が終わってからは、多分オジサンが道先案内する事になるだろうけど、そこまでは基本的に道なりで良いから楽だよねぇ~」




 そうして、暢気に会話を交わしながら進む彼らは、その日一日のみで、東側の国土の半分まで延びている大街道の凡そ三分の一を踏破する事に成功するのであった。



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― 新着の感想 ―
[良い点] 「新緑」の面々はどういう仕掛けをしてくるかな? [気になる点] そろそろ「森林」の面々との対面かな?何か「闇を裂く」や「新緑」とおなじ『穴』な感じが・・。 [一言] 書いていて(オエッ)と…
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