『追放者達』、準備を整える
予定通りに今回から新章に入ります
お楽しみ下さいませm(_ _)m
――――世界に十二個のみ確認されてる大迷宮、通称『ゾディアック』の一つ、『死の坩堝』とも呼称されるアンデッド犇めく『アンクベス』に挑んでみない?
そんなヒギンズからのお誘いを嬉々として承諾した『追放者達』のメンバー達は、複数の組に別れて同時に行動を開始した。
まず、アレスとセレンの二人組による、冒険者ギルドへの遠出の通達。
これは、一応ギルドの会則として『拠点として登録している街から一定期間以上離れる場合はギルドへと報告する義務を持つ』と明記されており、それは冒険者として登録する際の最初期に受ける講習でも、確実に教えられている事柄の一つであった。
「と言う訳で、俺達は暫く遠出しますんで、そこの処よろしくどうぞ。
どうせ、元より指名されての依頼なんて入っていないのだし、何時までもグダグダとここに居ると、今度は何をされるのか定かでは無いのでね。なので暫くの間、このアルカンターラを離れる事にしました。
パーティーハウスには、誰も近付けない様にしておいて下さいね。でないと、戻って来た際に死体が幾つか転がってた、なんて事態になりかねないので」
「…………ちょ、ちょっと待って下さい!?
突然そんな事を言われても困ります!?今や『追放者達』の皆さんはこのアルカンターラ本支部でもトップランクの冒険者です!それを、期間も行き先も分からないのに、そう簡単に外に出す訳には行きません!
もし万が一、皆さんが出掛けている間に、このアルカンターラに超級の魔物でも出現したらどうするのですか!?」
「いや、どうもせんけど?」
「えぇ、右に同じく、です」
「………………え?」
彼らの返答が余程予想外だったのか、間抜け面を晒しながらシーラが気の抜けた返答をしてくる。
それに対し、若干の苛立ちと共に酷く冷たい声色にて彼らは告げながら、セレンと共に勝手に席を立ってしまう。
「……だから、どうにもしない、と言っているんだよ。
そもそも、このアルカンターラは王都なのだから、俺達程度が居なくとも、それこそ騎士団やら他の高位冒険者やらがどうにかするだろう?ソレでどうにも出来なかった、と言うのであれば、その場に俺達が居ても結果は変わらないハズだ。
なら、極論俺達は何処に居ても良い、と言う事になるハズだが?」
「それに、そう言った『万が一の事態』が発生しうる場合、確実に何かしらの前兆が在り、それを察知した誰かが対処すべき案件です。
幾ら、自分達で好きに動かせて、その手の動乱で手柄を挙げさせてギルドの名声を高めたいから、と言って、私達を意思無き道具として拘束・使役出来ると思わない方がよろしいですよ?
……そうでないと、私達もソレなりに恩義を感じているのでやりたくは無いですが、ギルドと敵対する羽目になるやも知れませんので、ね……?」
「……なっ!?その様な事は、決して……!!」
「じゃあ、取り敢えずそう言う事なんで、あとよろしく~」
「よしなに、お願い致しますね?」
そう言い残して二人がギルドを後にし、セレンが遠慮がちながらも、確実に逃すつもりは無い、と言う意思を感じさせる手つきにてアレスの腕をその深い谷間に抱き込んでいるのと同じ頃、彼らと同じく二人組を作って行動していたガリアンとナタリアは、道中やダンジョン攻略に当たって必要とされるであろう食料や消耗品の類いを買い出しするべく、商業区画へと赴いていた。
当然、各自で必要不可欠とする類いのモノや、個人個人で使い勝手が異なったり、お気に入りの銘柄や店と言った拘りが在るモノに関しては手を出さずに本人が後で買いに行く予定となっているが、ソレ以外のモノに関しては、先んじてこうして買い出しに来ている、と言う事だ。
ある程度のリクエストを聞きながらも、二人で思い付く限りにリストを作成し、かつ道中の料理番となるであろうガリアンが目利きをして運搬役たるナタリアの操る橇に積み込む、と言う流れを作り、寄る商店にて次々に買い物を進めて行く。
「…………ふむ。取り敢えず、大方は買えたであろうか?」
「なのです!必需品の類いは、大体買えたと思うのです!
後は…………嗜好品の類いだとか、各自で好みが別れる様な類いのモノだとかになるのです?」
「うむ、そうなるか。
一応、セレン嬢からは出先で作らなくとも良い様に野菜ジュースを大瓶で何本か、ヒギンズ殿からは道中に軽食として口にする為のジャーキーの類いを頼まれているが、今の処はその程度であるな。
ナタリア嬢は如何なさる?」
「ボクは、そうなのですねぇ…………あの子達に旅先でのオヤツとして何か買っていこうかな?とも思ったのですが、どうやら最近はリーダーが作ってくれたモノの方がお気に入りになってしまったみたいなのです。
なので、どちらかと言うと素材を買っていってリーダーにお願いする方が良さそうなのですが…………流石に時間が足らないのですよねぇ……」
「まぁ、そこは店売りのモノで我慢させるしか在るまいよ。
可愛いが故に甘やかしたくなる気持ちも理解出来るが、だからと言って欲しがるがままに与えるだけ、と言うモノは『愛』とは到底呼べまいよ。
ソレだけは、何処かで覚えていてくれると有難いのである」
「…………なのです……。
では、コレを機会に、この子達には我慢を覚えて貰うとするのです。
まぁ、とは言っても、この子達が大好きなリーダーお手製のオヤツは特別な時限定で、って事だけ覚えてくれればソレで良いと思うのですけど、ね?」
「うむ。それならば、良いのではないか?」
そう言って、橇の先頭に繋がれていた口元が白く染まっている森林狼の頭を撫でるガリアン。
基本的にテイムした従魔士以外から触られる事を良しとはしない彼らには珍しく、撫でられるがままになっているだけでなく、むしろもっともっと!とねだる様に自ら頭を擦り付ける様な素振りすらも見せ始める。
そして、それと連動する形で、まるで『ズルい!』『こっちも撫でて!』と言わんばかりに鳴いたり立ち上がったりし始める他の従魔達を宥めてから、残りの品物を求めて移動を始めるのと同じ頃合い。
残る一組たるタチアナとヒギンズは、パーティーハウスを閉める為の作業に追われていた。
とは言え、ソコは『閉める』との表現を使いはしたものの、そこまで本格的な事をしようとしている訳でもない。
ただ単に、各自が持っていくとして食堂に出しておいた諸々を軽く纏め、各所の戸締まりを確認し、アレスから託された『内部を操作する権限』によって非致死性・致死性問わずに罠を仕掛けて行き、この建物に対して強行突破を図った者を排除する為の防御機構を仕込んで行く、簡単なお仕事であった。
そうしてひたすらに手を動かしながら、時折彼らには分かる様に罠を仕掛けていたタチアナが、屈めていた腰を伸ばしながら愚痴る様に言葉を溢す。
「…………ねぇ。流石に、コレはやり過ぎじゃない?
ここまで堅牢にする必要なんて在るの?下手なダンジョンよりも、余程踏破難易度が高くなっちゃってる気がするんだけど?」
わざと不満気に漏らす彼女に、苦笑を浮かべながら今回の事の発起人であるヒギンズが言葉を並べる。
「なははっ、確かにそうかもねぇ。
でも、用心って言うモノは、し過ぎて悪いモノじゃあ無いからねぇ。
タチアナちゃんだって、必死に『アンクベス』攻略して、くたくたになりながらここに帰って来た時に、何処ぞの誰とも知れない輩がここを占拠して『ここは俺様達が頂いた!』とか抜かしてくれたら、流石に腹立たしいでしょう?
後は、ギルドの連中が『やっぱりこの建物は接収させて頂きます。文句は在りませんよね?』とか抜かしてくれたりする可能性もゼロじゃあ無いんだから、やっぱりやっておく必要は在ると思った方がよいんじゃないのかなぁ?」
「…………いや、でも、仮にそうだったとしても、よ?ここまでする必要は無いんじゃないのかなぁ、って、ね?
だって、下手をしなくても、帰ってきたら家の前には死体の山が!とか言う事態になりかねないんじゃ……?」
「………………まぁ、その辺はリーダーがギルドを脅し付けてくれているハズだから、多分大丈夫じゃない?
それに、冒険者なんて生きるも死ぬもお好きにどうぞ?な職業なんだから、それで死んだとしても何処からも文句なんてでないんじゃないの?多分だけど」
「……ねぇ、その間は何な訳?すっごく意味深に聞こえるんだけだ?ねぇ!?」
「…………なっはっはっはっ!聞こえんなぁ~!」
「ちょっと!?笑って誤魔化さないでよ!?」
そんな、恋人同士のワチャワチャとしたじゃれ合いを挟みながらも手を動かし続けたタチアナとヒギンズの二人は、他の二組が帰還する迄に纏める様に頼まれていた分の荷物を纏め、パーティーハウスを難攻不落の要塞へと変貌させる事に成功するのであった。
そうして諸々の準備を整えた彼らは、翌日首都アルカンターラを出立すると、一路『アンクベス』を目指して東の大街道を突き進んで行くのであった。
面白い、かも?と思って頂けたのでしたら、ブックマークや評価等にて応援して頂けると励みになりますのでよろしくお願い致しますm(_ _)m




