『追放者達』、遠出を決意する
「…………お待たせ致しました。こちらが、皆様のギルドカードとパーティータグになります」
そう言って、受付のカウンターにてアレスが纏めて預けた全員分のギルドカードとパーティータグを返還してくるシーラ。
その表情は、純粋に罪悪感を抱いてか、もしくは只単に居心地が悪いだけなのかは定かではないが、普段顔を合わせる時の様な朗らかなモノとはとても言えない状態となっていた。
しかし、そんな状態の彼女に構う事も無く、あからさまに細工を疑っている事を窺わせる様子にて、渡されたカードやタグを叩いたり灯りに透かしたりして確認して行くアレス。
以前であれば、受け取り次第笑顔でお礼を口にしていたハズの彼が、まるで信用ならない相手から渡されたモノを探る様な行為をするのを悲しそうに寂しそうに見詰めながらも、ギルドの職員としてこなさなければならない職務を全うするべく口を開く。
「…………かねてより打診させて頂いていた、皆様のパーティーである『追放者達』のランクを『Aランク』へと昇格する事がこうして実現した事をお喜び申し上げます。
つきましては、皆さまのランクも合わせて一段階昇格する事になりますが、そちらもギルドカードを提出して頂いた際に合わせて行ってありますのでご安心下さい」
「……成る程。
教会関連のゴタゴタに関して口をつぐむ代わりに昇格させてやったのだから、黙ってギルドの為に馬車馬の如く働け、と。そう言う事ですね、分かります」
「…………っ!?その様な事は……!?」
「あぁ、言い訳は結構です。既に、先の一件にてそちら側の意図は理解しておりますので」
「だから!それは誤解だと!?」
「心配なさらずとも、こちらとしては公然とギルドに反旗を翻す様な事をするつもりは在りませんのでご安心を。
……ですが、あくまでも『反旗を翻すつもりは無い』と言うだけである事をお忘れ無く。都合良く動かせる駒の一つだと誤認するのは、双方共に良い結果にはならない、と覚えていて下さい。良いですね?」
「ですから、それは誤解だと!?
……あっ!?ちょっと、アレス様!?」
慌てた様子でシーラが反論してくるが、それに取り合う事も取り成す事もするつもりは無い、と言わんばかりの態度にて踵を返したアレスは、振り返る事もせずに彼女のブースから離れて行ってしまう。
そんな彼の様子と雰囲気から、確実に勘違いされている、と判断してカウンターに倒れ込む様にして項垂れるシーラだが、当たり前の様にアレスが引き返してきて慰める、なんて言う都合の良い事態が起きるハズも無い。
……それに、彼が口にした事は『全てがその通り』と言う訳ではないが、概ね真実を含んでいる為に、彼女としても言い繕うのを難しくしてたのだ。
とは言え、宣言した通りに、そんな事情を考慮するつもりが無いアレスは、沈んでいるシーラに構う事無く『追放者達』のメンバー達が待つテーブルへと一人戻って行く。
普段であれば、こうしてギルドに顔を出したのならば依頼の一つや二つは見繕って行くのだが、今回はソレをしていない為に普段よりも時間を掛ける事無く、メンバーが確保していたテーブルへと着きながらシーラから回収して来たカードとタグを皆へと配って行く。
そうしている間にも、彼らの周囲には彼らの昇格を聞き付けた有象無象の冒険者達が、彼らのおこぼれに預かろうと群がって来る。
やれ、パーティー同士で同盟を組もうだとか、やれ自分は有能だから加入させてくれだとか、やれ有望な自分のパーティーの下に付かせてやろうだとか、口々に下らない妄言を垂れ流してくれていた。
そんな塵芥共を、シーラとのやり取りで虫の居所がよろしく無かったアレスは、目に殺気を込める事で半ば無理矢理周囲へと散らして行く。
自らの一睨みによって有象無象が霧散した事を確認したアレスは、席に座り込んで深い溜め息を一つ吐き、近寄って来た給仕に適当に注文を出してから、疲れとやるせなさを滲ませた声色にて言葉を放つ。
「………………あぁ、超面倒臭い……。
どいつもこいつも、俺達の事を利用するつもりで近寄って来やがる。ギルドも、すっかり俺達の事を手駒にしたつもりで居やがるし、うざったくて心底嫌になってくる……」
「…………うむ。ご苦労であったな、リーダー。
毎度毎度、全て任せてしまって済まぬな……」
「私が代わって差し上げられれば良いのですが、如何せんその方面での経験も乏しい上に、私の外見では迫力に欠ける為か何故か相手方から強く出られてしまう事が多く……」
「まぁ、アンタが相手じゃあ、そうなるのも当然じゃない?
雰囲気からして怒鳴り声なんて挙げられそうにも無いし、女だから、ってだけで確実に舐め腐った対応してくれやがるクズも一定数いるんだから、そう言うのはリーダーに任せておけば良いのよ。
そう言う面倒なのの後は、その無駄にデカいので癒してやれば良いだけじゃないの」
「…………うぅむ、セレンの胸、また大きくなったのです?
もう、ボクの頭よりも一回り位大きくないですか?
……まぁ、取り敢えずソレは置いておくとしても、確かに最近周囲が煩くなってきたのです。ボク相手にすら、引き抜きの話が来ている位なのですから、皆はもっとうざったい気分だろうって事は容易に想像できるのです。
とは言え、この騒ぎもそこまで長続きしないだろうから、一層の事このアルカンターラから離れるのも一つの手だとは「「「「ソレだ!」」」」…………なのです?」
自らの発言に被せる様な形で放たれた言葉の数々に、思わずキョトンとした表情をしてしまうナタリア。
しかし、そんな彼女の反応を見る事も無いままに、正解を見付けたらしい四人はソレまでの陰気な雰囲気を一変させて議論を加熱させて行く。
「そうだ、そうだよ!最近はあんまり遠出して無かったから頭から抜け落ちていたけど、別に俺達ここでのみ活動しなきゃならない訳じゃないじゃないか!
なら、一時的で良いから活動拠点を変えるか、もしくは何処か遠くまで足を運んで見るのはどうだ!?」
「……うむ。良いのではないか?
当方らは、元より自由な冒険者。なれば、本来は気儘に西へ東へ旅をするモノだ。
故に、こうして一所に留まり、ギルドからのアレコレを言われるがままに聞き届けていた今の方が、どちらかと言えば異常な状態に在る、と言えるであろうよ」
「確かに、それも良さそうね!
よりを戻せと迫ってきたクズも出てきた処だし、それを見た上で引き抜きに来る阿呆も居る位なんだから、一時的に活動の拠点を移すのも良いんじゃないかしら!
どうせパーティーハウスはここに在るんだし、旅行ついでに行き先で依頼を片付ける程度のつもりでいれば、また厄介事を押し付けられる事も無いだろうし、今のアタシ達にはピッタリじゃない?」
「それは良い考えかと!
ここの処、様々な要因にて私達は常に緊張を強いられて来ました。それは、現状このアルカンターラに居ては解消される事は無いでしょう。
ですが、そうであるのならば私達が動いてしまえば良いのです!戻って来た時には、何かしらの小言を言われるかも知れませんが、ソレはソレとして覚悟しておけば良い事ですし、その程度で諸々の煩わしい雑事が解消されるのであれば、それでも良いのではないでしょうか?」
「…………ふぅん?なら、遠出する、って事で決まりかい?
なら、行き先に候補とか在ったりするのかなぁ?」
会話の流れが遠出をする事に完全に傾いた段階で、それまで彼らの会話を聞いているだけであったヒギンズが、唐突に会話に加わって来た。
アレス達としても、ソレ自体は別段構いはしない行為なのだが、突然に放り込まれた『行き先』と言う単語にて固まり、そう言えば、と皆一様に首を横に振る羽目になる。
てっきり何処ぞに目的地でも設定して話し合いしているとばかり……と言わんばかりの表情を見せるナタリアを尻目に、その何時も顔に張り付けている草臥れた表情を若干薄れさせ、彼をして『長く使い込んでいる』と言わしめる壁に立て掛けられた武骨な槍を軽く撫でると、彼らに対してこう提案するのであった。
「…………特に行き先が決まっていないって言うなら、少しばかりオジサンのワガママ聞いて貰っても良いかなぁ?
オジサン、このメンバーなら、昔オジサンがリタイヤしたあのダンジョンも、完全制覇……とは行かなくとも結構良い処まで行けると思うんだぁ。
だから、もし良ければなんだけど、ちょっと行って挑んでみない?
世界に十二個確認されている超高難易度を誇る通称『ゾディアック』と呼称されるダンジョンの一つ。
アンデッド犇めく死の世界。『死の坩堝』とも称される未踏破ダンジョン『アンクベス』。ここからなら、そこまで遠くも無いし、少し行ってみない?」
取り敢えず、次に何時もの通りに閑話を挟んでから次章に移る予定です
彼らが向かうは大迷宮
そこで待ち受けるモノとは一体!?
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