『追放者達』、愚かな生臭坊主達に鉄槌を下す
今回こそ、本当にお仕置きパートになります……多分
「…………ふん!良くも、そうぬけぬけと顔を出せたモノだな!
この、全能なる神に楯突く不信心者にして、神の裁きを恐れぬ愚か者共め!」
部屋へと入ってきたアレス達『追放者達』を目の当たりにした瞬間、その無駄な脂肪にて弛んだ身体を振るわせながら、何故か自信満々に彼らを指差しつつそう吐き捨てるボルクル大司教。
そうして部屋に備えられたソファーにふんぞり返っている彼の背後にて控えながらも、彼らに対し(主にアレスに対して)敵意の滲んでいる視線を向ける『新緑の光』のメンバーと、何故か未だにアレスに対して執着心を見せているらしい聖女を自称するシズカ。
そんな彼らの姿を目にしても、一切の動揺を見せず、かつ感情の揺らぎすらも見せずに温度の無い視線をボルクル大司教に向けるアレス達と、自らが予想していた、慌てふためいて許しを乞う彼らの姿とは異なる彼らの様子に、戸惑いを隠せないボルクル大司教ご一行。
……何故、こやつらはそんなに余裕綽々なのだ?
……何故、我々に対して平伏して慈悲を乞わない?
……何故、一言の釈明すらもしていないのだ?
まるで、我々がこうして来る事を予め知っていた、とでも言わんばかりの落ち着き様ではないか!?
そうした疑問がボルクル大司教を筆頭とした彼らの脳裏を駆け巡るが、じっくりとその問題について精査するだけの時間を与えるつもりは毛頭無い、と言わんばかりに彼らの正面にアレスが乱暴に着席し、彼の隣にはセレンが寄り添い、その逆側にガリアンとヒギンズが控えつつも彼らに対して威圧を掛ける様に睨み付けながら立ち、最後にアレスの背後にタチアナとナタリアが得物の短剣を手元で弄りながら控える陣形に落ち着いて行く。
そして、席に着いたアレスに対し、額に青筋を浮かべたボルクル大司教が応接机に対して拳を叩き付けながら口を開くよりも先に、ヒギンズが懐から取り出した丸められた一本の書簡を彼の前へと転がし出して行く。
突然転がされて来たその書簡に、思わず戸惑いの表情を顕にしてしまうボルクル大司教ご一行。
しかし、その書簡の回転が止まり、封として押された羊飼いの杖とそれに絡み付くヤドリギの意匠が施された蝋印を目にした途端にその表情は驚愕に染まり、半ば反射で伸ばされていたボルクル大司教の手は目に見えて震えを帯びて行く。
「…………おや?見ないのかい?
オジサン経由では在るけれど、それでも確実に君に向けて出されたモノだよ?
……それとも、まさか読まないつもりじゃないよねぇ?何せ、君が事在る毎に口にして居た、神からの言葉を伝える地上代行者の頂き、君達の最上位に存在する教皇からのお手紙だよ?
それって確か、同じ『ヴァイツァーシュバイン宣教会』の教徒にとって、神からのお言葉と同じだけの重みの在るモノだったハズだけど、君にとってはそうでもないのかなぁ?」
「…………え、えぇい!煩い!余りの畏れ多さに、私の手が戸惑って居ただけだ!
今は、取り敢えず何故貴様の様な下餞なモノが、彼の貴き御方から間接的に私に渡す為とは言え書簡を預けられる様な繋がりが在るのか、と言った疑問は後回しにしておいてやる!
だから、私が彼の貴き御方からの御言葉に感涙するのを黙って待っているが良いわ!!」
そう、あからさまに動揺した様を見せつつ、震える指にて書簡を封している蝋印に触れ、着ていた法衣の下から取り出した小型のナイフを拙い手際にて扱いながら、どうにか蝋印に施された意匠を崩す事無く書簡を開封する事に成功し、丸められていた本文を手で伸ばして目を通して行く。
幾ら金と権力に傾倒しているとは言え、自らの所属する宗教組織のトップから直接向けられた手紙を前に、最初は言葉の通りに感動した様な様子で読み進めて行くボルクル大司教。
しかし、中盤頃からはその表情は怪訝そうなモノへと変化して行き、終盤に差し掛かる頃合いにはその額には大量の脂汗が滴っていた。
顔には狼狽や動揺の色が強く現れており、手の震えも書簡を受け取った時よりも大袈裟な程に大きくなっている事が容易に見てとれる。
最早白に近い程に血の気の引いた顔色や、頭頂部に生えている耳がペタリと寝かされている様子からは、何らかの体調不良である様にも見えるが、ほぼ確実に原因はそちらでは無いだろう。
そうして皆に見守られる中で、長い時間を掛けて書簡を読み終えたらしいボルクル大司教は、青ざめさせた顔色のまま、精一杯の虚飾として表情を怒りのソレへと似せながら、本人は何時もの通りに怒鳴り声を挙げているつもりなのだろう声色にて言葉を放ち、手にしていた書簡をビリビリに破り捨てようとする。
「…………こ、この様な贋作にて、我らが教皇様の名を騙るとは、無礼千万なるぞ……神をも恐れぬその所業、如何にして裁けば良いのか、最早私には判断がつかぬ……。
よ、よって、私よりも高位の神官に判断を仰ぐべく、私はこれよりこの教区から離れなくてはならぬ……故に、この場は一旦見逃してやろう……!貴様らの悪運に、精々感謝するのだな……!」
「……あのさぁ。いい加減、認めたらどうなんだい?
ソレが本物で、書かれていた内容も本人からの直筆だった、って事にさぁ」
「……そ、そんな訳が在るか!これが、こんなモノが本物であるハズが無かろうが!!
でなければ、他の大司教よりも多くの奉仕を本部へと捧げ、更に多くの上納金を納めていた私が、教皇様より直々に『教会に於ける全ての地位・財産を剥奪し破門とする』等と言う内容の書簡を賜る様な事態になるハズが無い!!ハズが無いのだ!!!」
「……でも、君ももう分かってるだろう?
その蝋印は、代々教皇が受け継ぐ特殊な加工が施された印章によって付けられたモノで、偽造も複製も出来ないモノだ。
それに、さっきから破こうと試みてるけど、教皇から直接的に下賜される書簡の類いには強力な状態保存の魔法が施される慣例になっているから、破壊出来ない事こそが特徴だ、って事もさぁ?
…………それってつまり、君が今手にしているソレは本物で、同時に中に書かれていた内容も本物だ、って事になるんじゃないのかなぁ?何か、間違った事言ってたら、教えて欲しいんだけど、ねぇ?」
そう言いながら黒い笑みを浮かべて迫るヒギンズに、結局破る処かシワの一つすら付ける事が出来ず綺麗なままの状態である手紙を握り締めながら、力無くソファーに崩れ落ちるボルクル大司教。
正しく真っ白に燃え尽きてしまったらしく、頭髪や耳や尻尾と言った部分からはハラハラと抜け毛が周囲へと散って行き、身体も一回り小さくなってしまっている様にも見える。
そんな彼を横目にしながら、自らの目の前に転がって着ていた書簡を回収し、丁寧な手付きで巻き戻してから懐へと仕舞い込んでいるヒギンズへと、小声にてアレスが問い掛ける。
「…………なぁ、ソレってどうやって手に入れたんだ?
俺としては、オッサンとその『教皇様』とやらに繋がりが在りそうには思えないんだが……?」
「……いや、なぁに。
少し前……まぁ、君達只人族からすれば大分前になるかも知れないけど、当時から中々敬虔で信心深い神官を一人助けた事があってねぇ」
「…………まさか、その神官が……とか言うオチじゃないだろうな?」
「正解。
彼とはソレ以降の仲でね、定期的に手紙のやり取りをしていたんだけど、例の事情で少しばかり途切れていたのを、今回のイザコザを切っ掛けにして再開させてみた、ってだけさぁ。
まぁ、その時に?大分熱心に活動されている大司教様の事を書面に乗せてみたり?彼によってオジサン達がどんな事をされたのか、って事を愚痴ってみたりしただけなんだけどねぇ?」
「…………いや、ソレって十二分にコネクションになってるからな……?」
「そんなモノかなぁ?
……あ!ちなみに、彼女の聖女指定は例の『教皇様』が知らない内に、彼の下に居る腐った宗教屋共がやった事みたいだから、その内大々的に処分される手筈になってるみたいだよ?一応、彼女の能力についての考察も載せておいたから、多分問題無く処分してくれるハズだ。良かったね?」
「…………oh……となると、わざわざ用意した、岩人族の国からの国交を開いて、定期的に細工品を最優先で納品する、って権利を餌に引き出した、この宗教の邪教疑惑による強制捜査と、聖女が人心を操る禁忌の魔法を行使して人々を操っている可能性からの強制収容、って手は無駄になったって訳かな……?」
「…………いや、ソレって、オジサンがしたことよりも余程えげつなくて、かつ余程の処に繋がりが無いと出来ない手段のハズなんだけど……?」
「……なん、だと……!?では、我々はどうなると言うのだ……!?
……せ、聖女様!どうか我々をお救い下さい!お願い致します!」
「……そ、そんな!?私、そんなルートなんて知らない!?嘘でしょう!?
ね、ねぇアレス様!?私が貴方の恋人になって上げるし、私の処女も上げるから、私だけは見逃して下さい!そちらのステキなおじ様も、私みたいな美少女を囲えるのだから、快く協力してくれますよね?ね、良いでしょう?」
後半はわざと聞こえる様にしていたからか、野郎共は何を血迷ってかセレンにすがり付こうとし、聖女(笑)は自分だけは助かろうとしてか、この場で権力の行使が可能だと見たアレスとヒギンズに媚びを売り始める。
しかし、そんなモノに靡く彼らでは無く、セレンはアレスに寄り添って微笑みを浮かべ、アレスはそんなセレンを抱き寄せて腰に腕を回し、ヒギンズは我関せずとばかりに余所見していたタチアナを片手で抱き上げると、図らずとも声を揃えて彼らに告げるのであった。
「「「残念!お断りさせて頂くよ!!」」」
……斯くして、彼らに不当な干渉をしようと企んでいたボルクル大司教は失脚し、彼の権力を後ろ楯としていた『新緑の光』は、彼らの積み重ねて来た行いによって犯罪を犯した冒険者達が収容される監獄に送られる事が決定、聖女シズカは国の機関によって貴重な『稀人』の生体サンプルとして厳重な管理の元に実験台として扱われる事になるのであった。
…………一応、公的には犯罪者って扱いになってるし、ダイジェスト気味だけどお仕置きにはなっている……ハズ!多分。
なお、ガリアンが用意していたモノは、かつて国での仕事の際に知り合っていたカンタレラ国の警察機構担当かつソレなりに発言力を持っていて『教会』の事をあまり良く思っていなかった貴族に対して『新緑の光』の行っていた諸々について情報を流し、そちらから芋ずる式に、と言うのを狙っていたって感じです
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