『追放者達』、呼び出しを受ける・2
多少因果な外的要因に後押しされたとは言え、無事にセレンを助け出せただけでなく、アレスとセレンが名実共に結ばれた事で晴れて押しも押されぬ恋人同士になってから数日の間、拍子抜けする程に穏やかに日々が過ぎて行った。
てっきり、即座に『新緑の光』の連中か、はたまた聖女(笑)か、もしくはヒギンズ達が潰した教会関連の誰かが怒鳴り込んで来るモノかと身構えていたアレスは初日こそ若干拍子抜けした様子を見せていたものの、翌日以降にてヒギンズやガリアンが各方面へとギルド経由で手紙を送ったり、希少な遠方との通信を可能にする魔道具(ダンジョンにて稀に産出される。基本的に国や大商会や巨大組織等が大枚を叩いて購入して行く)にて連絡を取ったりしているのを目の当たりにし、確実に必要になるだろうから、無駄になればそれに越した事は無いと、同じ様に各方面へと連絡したり手回ししたりと言う事を行っておく。
それらの合間にて寄り添いスキンシップを図る二人は、ヒギンズとタチアナの二人の様に、あからさまにイチャイチャしている、と言う程にベタベタとくっついている訳ではないが、確実にソレまでよりも互いの距離感が近くなっていた。
更に言うのであれば、多少の事であればまるで阿吽の呼吸の様に互いに求めているモノを指示も無しに行ってしまっており、結果的にそれらの様を指して、まるで夫婦のソレの様な雰囲気だ、とニヤニヤしながら他のメンバー達にからかわれる羽目になったが
「…………ふむ?なら、もう少しして色々と落ち着いたら、正式に結婚でもしますかね?」
「えぇ、喜んで♪
この際、多少言い方が雑なのは見過ごすとしましても、そう言って下さるのでしたら私としては異存は在りませんのでお受け致します♪」
と言ったやり取りすらも逆に彼らへと見せ付ける形となり、予想外の返し方と反応によって、彼らが浮かべた胸焼けした様な表情をしていたのは記憶に新しい事柄だ。
そんな風に穏やかに過ごした数日後、彼らのパーティーハウスの戸が早朝にも関わらず乱雑に叩かれ、ギルドからの使いだ、と言う者を迎える事となる。
普通であれば、そんな突然の事態に慌てふためくのだろうが、心当たりが在り過ぎる程に存在し、むしろ漸く呼ばれる事になったのか、と重い腰を上げて手際良く準備を進める彼らの姿に、寧ろ知らせを持ってきた使者の方が困惑の表情を浮かべていた。
そうして、諸々の準備を終えた彼らは、ギルドからの使者をパーティーハウスから追い出すと、厳重に戸締まりをしてから自分達の足でさっさとギルドへと向かって移動を開始し、然したる時間を掛ける事も無しに目的地であるギルドへと到着する。
自分達が使者として送った職員よりも早く到着した彼らに驚きを隠せない様子のギルドだったが、半ば彼らの担当となりつつ在るシーラが彼らの元へと向かった為に、自分達は関わりがない、と目を逸らして早朝の業務にそれぞれで戻って行く。
「…………お呼び立てして、申し訳在りません。
ですが、ボルクル大司教様から、数日前に起きた例の教会倒壊事件の犯人だ、との名指しでの告発が在ったモノでして……」
「……ふぅん?アレって、一応『事故』って事で片が着いたんじゃ無かったっけ?
少なくとも、オジサンはアレが『事件』だって言って捜査されているのは覚えが無いんだけどなぁ?」
「……えぇ、公的には、そうなっております。
ですが、このアルカンターラの教区を預かるボルクル大司教が、強硬にこの一件は『事件』であり、その下手人は『追放者達』の連中だ!と声高に主張しておられまして……当ギルドとしましても、皆様から聴取をしない訳には行かなくなってしまい……」
「こうして当方らが呼び出された、と言う訳であるか。
しかし、あくまでもそう主張しておるのは例の大司教だけなのであろう?なれば、無視しようと思えば出来たのでは無いか?」
「…………その件だけではなく、当日発生された聖女シズカ様の所属されている『新緑の光』に起こった暴行事件の犯人も、皆様であるとの証言が出ておりまして……そちらも合わさってしまいますと、どうしても当ギルドとしてはこうして聞き取りをするしか……」
「……ふぅん?普段から、随分と都合良く使ってくれていたのに、こう言う時に守ってくれる訳でも無いんですね、ギルドって。
まぁ、大分前からそうなんじゃないのか、と疑ってはいましたけど、ね……」
「そんな事は……!」
「でも、事実でしょう?
それに、これ以上言い訳を聞くつもりは無いんで、さっさと聴取だか尋問だかを終わらせましょうよ。どうせ、例の豚とクズ共も、こっちに来てるんでしょう?」
「…………っ!
……では、ご案内、させて頂きます……!」
何かを堪える様にして俯き、悔しげに唇を噛み締めながらもアレス達『追放者達』を誘導して行くシーラ。
その後ろ姿を、セレン達女性陣は悲しそうに、アレス達男性陣は特に感慨を抱いてはいない様子にて見送りながら、最早最近は歩き慣れつつ在る奥の小部屋へと続いている通路を進んで行く。
すると、進む先にて聞き覚えが在りつつ、かつ嫌悪感しか励起して来ない複数の声が、周囲に聞こえるのもお構い無し、と言った風に声高に互いの主張を擦り合わせしているのが聞こえて来た。
『……ほう?では、聖女様はかの者に乱暴されたが、その何よりも深い慈悲にて許す代わりに自らの活動に従事させる事で贖罪とする、と?』
『…………えぇ、そうする予定です。
彼は、私の魅力に負けてしまいはしましたが、それでも一流の冒険者である事は間違いは無いでしょう。
であるのならば、その力を世の人々の為に、引いては既に出現していると聞く魔王討伐の為に役立てるのが、彼にとって何よりの贖罪となるのではないでしょうか?』
『……うむ!素晴らしい!
それでこそ、追放された事を逆怨み、私が直轄する神聖なる教会を襲撃し、破壊した何処ぞの偽聖女とは異なる真なる聖女よ!
して、そなたらも、彼の者達によって多大なる被害を受けたとの事であったが、如何なる賠償を要求する段取りを組んでおるのかね?』
『…………我々としましては、直接暴力を行使してきた下手人本人からの謝罪と四肢の切断、並びに偽聖女セレンの身柄を我々に引き渡して頂ければ、それで十分です』
『……全く、そなたらも欲が無いのお。その程度で赦すとは、誠に心が深い者達よ。そなたらこそ、この世に舞い戻って来た魔王へと誅を下す、天から遣わされた神々の使途なのかもしれぬな!
しかし、私には公的な立場と言うモノが在る。故に、そなたらの様に、慈悲を持って贖罪を赦す、と言う訳にも行かぬのでな。
あやつらには残念な事ではあろうが、確実にあやつらでは払いきれぬであろう額の賠償を命ずる他には無いのだ。そこだけは、勘違いしてくれるでないぞ?』
『……承知しております。
ですが、それで発生する彼らの負債を、我々にまで支払いを押し付けない様にお願いしたいモノですな』
『ふっ!なぁに、それに着いては心配は要らぬよ。
あくまでも、あやつらが背負いしは咎を灌ぐ為が借財。であれば、ソレを支払い贖罪を行うのはあくまでも本人であらねらばならぬ。
なれば、多少を手伝いを善意にて自ら行うのであればまだしも、ソレをするように強要する等私にはとてもとても……』
『……成る程。では、仕方が在りませんね。
我々とて、悪魔では在りません。ですので、手空きになった場合は手伝う事も吝かでは在りません。ですが…………我々はあくまでも魔王に対する刃として力を蓄える事を至上とする身。
ですので、滅多な事ではそこまで手を貸す事が出来るだけの時間が空く事は少ないでしょうから、手助けするのはとても困難な事かと……』
『うむ。では、仕方の無い事であるな』
…………そんな、一切の反省も、アレスが施した脅しを気にした様子も無い彼らの会話が、扉越しに彼らの耳へと届いて来る。
ソレを聞いたセレンは常に浮かべている柔らかな微笑みをストンと消し去って無表情になり、先導する形で共に居たシーラもその瞳に怒りの感情を顕に宿して行く。
そして、それぞれで対抗する手段を確保していたガリアンとヒギンズと共に視線を交わらせたアレスは、二人と共に一つ頷いて見せると、懐に忍ばせた『切り札』を一つ叩いてから勢い良く扉を押し開けて部屋の内部へと踏み入って行くのであった。
……お仕置きまで行けなかったぜ○| ̄|_
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