『追放者達』、集合する
冒険者パーティー『追放者達』のパーティーハウスの食堂にて、首からタオルを掛けた状態の人影二つと、比較的ラフな格好をしている人影一つが言葉を交わして行く。
「……それで?そっちはどうなったんだい?」
「見た処、セレン嬢は無事に回収出来た様子であるし、こうしてここに居ると言う事はリーダーの方もどうにかなった、と見て間違いは無さそうであるな」
「…………まぁ、ギリギリだったのは否定しないけどな……。
でも、もう大丈夫じゃないのか?本人もそう言っていたし、万が一の場合と一応の介助の為に、二人にも頼んで在るから大丈夫だろう。多分。
そう言うそっちはどうなったんだ?移動中、結構派手に破壊音が聞こえた上に、火の手と思われる明かりと土煙だか何だか分からないモノが上がってるのが見えたけど、まさかお前さん達の所業じゃないだろうな?」
「…………なはははっ!いや~。まさか、首都一番の教会が、あそこまで脆いとは思って無くってさぁ~」
「……うむ。よもや、あの様に呆気無く、かつ見事な迄にぺしゃんこになるとは思ってもみなかった故な。
現地で目の当たりにしていた当方らも、暫し言葉を失ったモノよ!」
「……あ、もう良いっすわ。大体、お前さん達が何して来たのかは把握出来たから。
……しかし、俺とセレンが飛び込んで来た時に、二人揃って風呂上がりだったのって、ソレが原因かよ……」
別行動を取っていた間の事を報告し合い、それぞれで無事を喜ぶそれらの影こそ、『追放者達』に所属する冒険者であるアレス、ガリアン、ヒギンズの男性陣三人だ。
先の会話でも分かる通りに、ガリアンとヒギンズはアレスとセレンが無事に戻ってきた事から間に合ったのだと察して喜び、アレスはアレスで二人が口にした不穏な単語と、自らの目で見てしまった光景から事の成り行きを予測して若干引き気味に二人を見やる。
しかし、アレスが二人へと向ける視線に本当の意味で彼らを忌避している色は無く、彼らとここにはいない二人の無事を安堵する感情と、自らの不甲斐なさで無用な手間を掛けさせた事への罪悪感が込められていた。
しかし、この三人に於いては最も年若いアレスに対し、そんな感情を抱いて欲しい、等と欠片も思ってはいなかった二人は、口元に悪戯好きな子供の様な笑みを浮かべながら、彼の頭を乱雑にかき回し、今回はこれまでだ、と言う意思を言外に彼へと伝えて行く。
そして、アレスの方も、そんな二人の気遣いが自ずと伝わっていたのか、一瞬だけ済まなそうな表情を浮かべはしたものの、その後は暫しの間二人に弄られるがままにしていたのだが、流石に長々と遊ばれるのは不服であったのか、二人の手をはね除けて良い年した野郎三人ではあったが、ソレを感じさせない様な雰囲気にてワチャワチャとじゃれあい始めてしまう。
そんな中、彼らが居る食堂の方へと二組の足音が近付いて来るのが三人の耳へと届く。
何かと思って揃って視線を入り口へと向けると、そこにはセレンの世話を頼んでいたタチアナとナタリアが顔を出していた。
「…………あれ?どうしたんだ、二人とも?
俺が頼んで於いてアレだけど、セレンに着いてなくて大丈夫なのか?」
「…………う~ん、その事なんだけど……アタシ達はもう離れても大丈夫な様な……でもセレン自身は大丈夫じゃない様な……?」
「……うむ?何やら、要領を得ぬ返答であるな。
別段、ふざけている訳では無いのであろう?」
「それは、当然なのです!
……なのですが、もうボクらでは出来る事は無いと言うか……むしろボクらはもう着いていない方が良いと言うか……そんな感じなのですよ……」
「…………うん?それって、どう言う…………いや、待てよ?確か、彼女が食らってた乗って媚薬の類いで…………あっ、そう言う事?
……なら、うん……寧ろ二人はいない方が良さそうだねぇ……ご苦労様。後は、恋人であるリーダーに任せるのが吉と見たから、オジサン達は明日……いや、もう今日かな?とにかく、この後に備えて寝るとしようか?」
「「賛成」なのです!」
「…………うむ?二人に任せずにリーダーに任せて、もう寝てしまおうとは……あぁ、そう言う事か。
であれば、ここで口出しするのは野暮の極みと言うモノであろうな。なら、当方ももう寝るとしよう。
……ちなみにリーダー。当方、こう言う安全な場所にて寝るときには耳栓をして寝る派故に、多少騒がしくしても大丈夫であるから気遣いは無用であるぞ?」
「……ん?んん??はい???」
一人、頭の上に大量のハテナマークを浮かべながら首を傾げるアレスを置き去りにしながら、各員が口々に
「確りやんなさいよ(笑)」
だとか
「恥掻かせる事だけは止めておきなよぉ?」
だとかの忠告なのかからかいなのか、今一理解に苦しむ言葉を投げ掛けながら、各自の部屋へと向かってしまい、一人食堂にて残されてしまうアレス。
一瞬、自分も部屋に戻って寝ようか……と言った考えが彼の脳裏を過るが、それでも未だに苦しんでいるらしい恋人を放置してそんな事をする様な気分では無かったし、またそんな事をしたいとも思わなかったので、多少微妙な感じになりながらも、彼女の私室として割り振られている部屋へと向かって行く。
「(コンコンッ!)おーい、アレスだけど大丈夫か?二人に世話人任せられちゃったからこうして見に来たんだけど、大丈夫そうか?」
『……ア、アレス様……!?来て、頂けたのですね!?
……その、アレス様には『大切』な……『とても大切でアレス様にしか出来ないお話』がありますので、どうかそのまま中に入って来ては頂けませんか……?』
「まぁ、それは構わないけど……でも、良いのか?女性の部屋にこんな時間に入るのは躊躇われるんだが……。
それに、声色からして、結構元気になってないか……?」
『い、いえいえ!私一人ですと(はぁっはぁっ!)、ちょっと対応が難しい状態になっておりまして……!(……んぅ……♥️)』
「…………うん、まぁ、確かに?何かちょっとアレな声やら音やらが聞こえて来てる気がするんだけど、本当に入って良いのか?
さっきとは別の意味で、今俺が入ると不味そうな気がするんだけど……?」
『私が良いと言っているのですから、良いのです!(ジュルッ!)
さぁ、早く入って来て下さい♥️』
「…………お、おう。じゃあ、お邪魔させて貰うよ~…………って、うおっ!?」
仕切りに入室を促すセレンの声に、多少の戸惑いを覚えながら扉を開くアレスであったが、僅かに開かれた隙間から伸ばされて来た腕に手を唐突に掴まれ、抗う暇も無く部屋の内部へと引きずり込まれ、奥の方へと投げ飛ばされてしまう。
咄嗟に空中で姿勢を制御しようとするが、それよりも先に柔らかくて反発するベッドと思われる物体に中途半端な姿勢にて着地してしまい、尻餅こそ突く事は無かったが、咄嗟に飛び退いたりする事が出来ない程度にはバランスを崩してしまい、視線も自らの足元へと向けられるのみであった。
幸いにして、パーティーハウスは土足禁止(ナタリアの従魔達も上がる時には足を拭く様になっている)であった為にベッドのシーツを土足で汚す事は無かったが、突然すぎる事態と、自身を投げ飛ばせるだけの元気が在るのならもう大丈夫だったのでは無いのか!?との両方に対しての抗議を込めて、正面に居るであろうセレンへと視線を向けたのだが、とある理由から即座に逸らされる事となってしまう。
「……ちょっ!?ばっ!?お前!?!?なんて格好してやがる!早く服着て貰えませんかねぇ!?!?」
…………そう、その『とある理由』とは、視線の先にいたセレンが、まともに『衣服を着ている』とは言い難い、肌色が大半を占めている様な格好をしていたからだ。
普段からして、滅多な事では肌を露出させる事をせず、いつも修道服にも似た長袖長丈の衣服にて全身を覆っていた為に
その白磁の肌と表現するのが相応しいであろうシミ一つ無い透き通る様な肌や
辛うじて布地で支えられつつも柔らかさと存在感を周囲へと放つ二つの大きな膨らみ
視線を吸い付けて止まない深く深く刻まれた谷間
細く括れて抱き締めればそれだけで折れてしまいそうにも見える腰やすらりと伸びる美しい腕に
程よく肉が着いて適度な太さを持つ太腿にソコから繋がる安産型のヒップラインへの曲線と言った、男の欲情を誘わざるを得ない諸々が完全に露になってしまっていたのだ。
それにより、慌てて視線を逸らし、顔の前に両手を広げて『見てません!』と言うジェスチャーをしながら、彼女に服を着る様に促すアレス。
寸での処で自分が間に合ったから大丈夫であったけれど、それでも少し間違えば彼女があいつらの獣性に蹂躙されていてもおかしくは無かった、と言う事もあり、今は男性が関わらずにそっとしておく方が良いだろう……あと、そう言う姿を見てしまうとこちらとしても理性が危ないので!と言う理由からそう促したのだが、彼女の方はそんな男心に構ってはいられなかったらしく、アレスが翳した両手を掴むとベッドへと押し当て、アレスの上から覆い被ってしまう。
その段に至って、漸くアレスは彼女の瞳がギラギラと輝きながら血走り、頬が赤く染まって呼吸が荒々しくなっており、俗に言う処の『発情状態』とでも形容される状態となっていた事と、そう言えばあの聖女(笑)が『危ない薬を使う予定らしいから~』とか言っていた事に思い当たる。
…………あ、アレってコレの事かぁぁぁぁぁぁあああ!?!?!?
内心で絶叫しながらも、目の前にて揺れる大きくて柔らかそうな双丘や、それに挟まれる形で生じている深く長い谷間から目を離せなくなっていたアレスに対し、何故か『歓喜』や『愛しさ』と言った感情が感じられるクスクスとした笑声が頭の上から彼へと降り注いで来る。
それにより、視線を無理矢理目の前の絶景から引き剥がして上へと向けると、声から察せられた感情に加えてある種の『飢餓感』すらも感じられる瞳にて優しく彼を見下ろすセレンの顔が在った。
「……ふふふっ、すみません。貴方も、やはり男の子なのだな、と思いまして♪
……さて、説明は必要ないかも知れませんが、一応ご説明させて頂きますと、あの連中に嗅がされた媚香の効果がそろそろきつくなって来てしまいました。そして、嗅がされたその香の効果によって、私はいままともに魔法を行使する事が出来ません。
それに、その効果を一時抑える為に服用した、彼のダンジョンマスターから得たポーションを服用したのですが、アレは一時的に受けている効果を弱めるだけで解除する訳ではなく、その上服用後暫くしてからその効果がより強くなって襲ってくる、と言う副作用まで在った様なので、正直に申しまして私もう限界です。
なので、この衝動の解消をアレス様にお願いしたいのです。恋人ですので、別に構いませんよね♪と言う訳でさぁ致しましょう♥️さぁ♥️さぁさぁさぁ♥️♥️♥️」
「おいこらちょっと待て!?
何か良い話かと思ったら、流石にソレはどうなのよお前さん!?仮にも聖女様だろうが!?その言い方は流石にアレ過ぎるだろうが!?
それに、そう言うのは普通男側が言うモノじゃないのか!?!?」
「ふふふふふっ!ナニを今更!女性とて人間。そう言う欲も当然持ち合わせているのです!ソレを恋人相手に口にして何が悪いと言うのですか!!
さぁ、抵抗は無意味です♪善きに計らえ~♥️」
「こら、バカ、服に手を掛けるな!
服ぐらい自分で脱ぐ……って、バカ引っ張るな!破ける!!」
…………斯くしてその夜は過ぎて行き、パーティーハウスが揺れる程に大きくベッドを軋ませていた二人だったが、朝陽が射し込む頃合いにはどうにか彼女の衝動も収まって正気を取り戻したらしく、服の上からでは解り難かったがそれなり以上に鍛えられて厚みを帯びているアレスの胸板へと、首まで真っ赤に染め上げた顔を埋めながら頭から湯気を上げる羽目になったとかならなかったとか。
なお、コレを期として、ダンジョンマスターから譲られた(押し付けられた?)機能によって各部屋の防音や建物自体の免震構造を見直す事になったのだが、それはまた別のお話である。
…………前半と後半のギャップよ……(--;)
一応、次回からお仕置きパート2の予定です
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