暗殺者、呼び出しを受ける
『レライエス雪山』での魔物の討伐を終えた『追放者達』と『新緑の光』は、行き道に掛けた日数と同じだけの時間を掛けて首都アルカンターラへと帰還する。
……本来であれば、『追放者達』のメンバーだけであればその日の内に帰還する事も可能であったのだが、半ば無理矢理付けられた同行者達によってソレも叶わず、結局行き道と同じ様に歩いての帰り道となってしまった、と言う訳だ。
とは言え、全てが行きと同じ様に、と言う訳では無く。寧ろ、行きよりも悪化した、と言える様な状態となっていた、とも言える。
何せ、事在る事に
「ねぇ、アレス様!私、アレス様となら魔物を相手にしても怖くないと思うの!だから、私をアレス様のパーティーに入れてくれないでしょうか?
オバサンなら、彼らが引き取りたいって言ってるから、そっちの心配はしなくても大丈夫ですよ?
それに、私がアレス様に着いてますから、何の心配も要りません!それは、正式な聖女として認められている私が保証人しますから、大丈夫です!」
と、自分を持ち上げながらセレンを扱き下ろし、その上で彼の手を取ろうとしたり、自らの薄くて硬い胸元を押し付けたりと言う事を頻りにしてきたり。
そうやって、言っても聞かずに勝手にすり寄ってくる様子をわざわざ呼んでまで見せ付け、その隣に近寄って
「……ほら、ご覧なさい。アレが、貴女の言う処の『誠実な恋人』のする事でしょうか?
否!断じて否!あんな事を平然とする者が、誠実なる気性であるハズが無いでしょう?
なれば、もうご決断なさい。元より、私達は想いを通じ合っていたのです。些細な障害にて引き離されてしまいましたが、貴女の胸の内にも、俺の胸の内にも、未だに恋の焔が燃えているハズです!
さぁ、私の手を取って、あんな男の事なんて、忘れてしまいましょう!」
と囁き掛けようとしてスルリと逃げられ、その度にシズカを振り払って来たアレスによって迎えられる、と言った場面を幾度と無く繰り広げる事となってしまった。
おまけに、夜毎にアレスやセレンのテントに対してにじり寄る影が絶えなかった事もあり、それらによって無駄に疲労する羽目になった彼らは、さっさと面倒事を片付ける為に到着早々にギルドへと駆け込んでボルクル大司教へと渡りを付ける様に要請を出した。
「……確認致しました。これにて、提議されていた条件全てを達成した事を、当ギルドが中立的な立場に於いて保証する事を宣言致します。
異論は無いですよね?」
「…………ふん!仕方在るまい。そう言う約束であったからな。
……しかし、全く持って、我々敬虔なる神の僕に対し、以前結んだ契約を盾に迫るなぞ、何と言う罰当たりな……!
恥と言う感情が在るのであれば、それこそ今すぐ地に額を擦り付けて、私の麾下に加えて欲しい、と懇願するのが妥当であると言うのに、なんと嘆かわしい……!」
その結果、数時間は掛かったものの、その日の内、と言えるタイミングにてボルクル大司教がギルドを訪れ、依頼が終了した事を承認する事となった。
流石に、最初こそ取引の関係で彼らを援護する事の出来なかったシーラも、既に協定が終わった後であれば
ソレにより、十日近くも不本意に拘束されていたアレス達は、解放感からその場で歓声を挙げ、その流れで打ち上げを行う方向へと会話の流れが進んで行く。
しかし、もう既に商店が開いている様な時間帯ではなく、更に言えば開いていたとしてもまともな食材が売れ残っているかは大分部の悪い賭けとなる上に、純粋に肉体的・精神的にとてもつかれていた為に、パーティーハウスで自作する事を諦めて適当な店に入る事に決定する。
が、ソレを聞き付けたからか、シズカを始めとした『新緑の光』のメンバー達も、ソレに参加させろ!と言い出したのだ。
当然、彼らは間接的・直接的を問わずに
『身内のみで慰労の為に行う宴なのだから、参加は遠慮してくれ。むしろ何で、参加しても良い、って言葉が出ると思っていたんだ?』
とバッサリと断りを入れた。
だが、それでも尚しつこく食い下がって来る『新緑の光』。
「……既に身内ではない、等と悲しい事を仰らないで下さい、聖女様。
我々は、共に多くの冒険を乗り越えた仲間だったでは無いですか!ソレを、少しの行き違いでそんな風に言われるだなんて、私は……私は……!!」
「……少しの行き違い、ですって……?
良くもまぁ、ぬけぬけとそんな事を言えたモノですね!
貴方達にパーティーから追放するとの宣言を受けた時に、どれだけ私が悲しかったか、教会から『聖女』の称号を剥奪された時に、どれだけ私が悔しかったか、貴方達には分からないでしょうね、決して!」
「…………それは、我々にも、その……事情と言うモノが……」
「言い訳は結構。私も、最初から聞くつもりは在りませんでしたから。それに、貴方達は口では矢鱈と私を持ち上げる様な言葉を使いますが、その本心では私程度であれば幾らでも使い潰しても構わない、と思っていらっしゃるのでしょう?
何せ、最初に私に向かって掛けられた言葉は、今の恋人を貶す言葉ばかり。本来向けられて当然な『謝罪』は一言たりとも発せられていないことを見れば、自ずと察する事も出来ますので惚けるのは時間の無駄ですので、返答には気を付ける事をお薦めします」
「…………ぐっ……!?」
「…………まったく、呆れ果ててモノが言えない、とはこの事ですね。
さて、反論も無いと言う事は、無事に私の主張を理解して頂けた、と言う事だと勝手に判断させて頂きます。
よってこれより、偶然同じ店に入り、偶然近くの席へと通されたのだとしても、私は貴方達と同じテーブルに着いて同じものを口にするのだけは最早有り得ない、と言うことだけ覚えていて下されば、私が貴方達程度に参加を許すハズが無いでしょう?いい加減、お分かりになりましたか?」
そう言い放つと、彼女としては珍しく冷たい眼差しを彼らへと投げ掛ける。
基本的に微笑みを絶やさず、常に相手を気遣った言葉選びをし、視線には暖かなモノが含まれている彼女にしては珍しいその言動により、『新緑の光』のメンバー達の瞳の中に絶望の色が滲んで行く。
そんな彼女の今までに見た事の無い一面を新しく発見して、謎の充足感を覚えていたアレスの側へと、極自然な足取りにて近寄る影が一つ。
依頼の疲労によって集中力が落ちていたために、ソレに接触される寸前にて漸く気が付いたアレスが振り返ろうとした時には、既に肩口を抑えられて反転する事が出来ない状態にされており、そのまま耳元へとその場で一番聞きたくなかった声によって囁き掛けられてしまう。
「……ねぇ、アレス様?私、貴方とこれっきりだなんて耐えられないの。だから、『今後に関わる重要なお話』をしたいから、日が替わる頃に私達が最初に出会った公園まで来てくれませんか?
もちろん、一人っきりで、ね……?」
咄嗟に振り払おうとするものの、囁き掛けられたネットリとした粘り気すら感じさせる様な甘い声と疲労、そして『他の何かの要素』によって思考に霞が掛かり、抵抗する間も無く
「…………解った……」
と返答を溢し、緩慢な動作では在るものの明確に首肯して見せてしまう。
そして、確かに彼の心の中に、今回の提案を受け入れなければならない、と言う思考が書き込まれた事を確信したシズカは、彼の返答によって感極まった、と言う演技にて口許を隠すと、そこに歪な三日月にも似た醜悪な笑みを浮かべるのであった。
アレス、ピンチ!?
次辺りから物語を加速させる予定です
出来ると……良いなぁ……(  ̄- ̄)
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