『追放者達』、ほぼ独力で依頼を片付ける
道中、あれから幾度も同じ様な事を飽きず学ばずに繰り返した一行も、確実に道程を踏破して目的地である白銀に沈む『レライエス雪山』へと到着する。
この程度の距離であれば日常的に移動している為に、未だにスタミナにも余裕の在る『追放者達』のメンバー達は、不本意な依頼であった事もあり、到着して早々に依頼を達成するべく戦闘用の装備に換装し、さっさと山へと踏み行ってしまう。
ソレを、今回の依頼を受注した立場であり、かつ教会から彼らを監督する立場を与えられた(押し付けられたとも言う)『新緑の光』のメンバー達が、慌てて装備を整えながら、無警戒にも見える気安さにてサクサクと進んで行く背中を派手に音を立てながら追い掛けて行く。
当然、そうやって無防備に移動していれば、嘆願と言った形にて要請が送られる程度には蔓延っている魔物に勘付かれ無いハズが無く、当たり前の様に強襲を受ける事となる。
とは言え、元々『追放者達』のメンバー達はさっさと依頼を片付ける為にソレを狙っていた為に、当然油断や気の緩み等が在るハズも無く、即座に反撃に移って行く。
「……ふつ!…………あっ!?
すまんヒギンズ、一体抜けられた!そっち行ったぞ!」
「はいはい、了解~」
「リーダー、新手である!十時の方向から、複数の足音と臭いがする!」
「なら、ナタリア!従魔達を向かわせてくれ!
少しの間なら、後衛の護衛は居なくてもどうにかなる!」
「了解なのです!
ほら、皆!頑張って来るのです!」
「「「「「「「「グォン!!」」」」」」」」
「ヴッ!!」
「タチアナは、あんまり強い個体はいないみたいだから、取り敢えず妨害術よりも支援術の方を優先で!俺達はともかく、アッチの方は切らしたら多分死ぬぞ!!」
「そんなの、アタシだって分かってるわよ!
……全く、なんで最低限抵抗する程度しか出来ないのに、こんな高難易度な依頼を受けたのよ、コイツら!?」
「……まぁ、所詮は『聖女は聖戦に備えて力を蓄えている』と言うお題目を世間に示す為のお飾りパーティーでしたからね。
私が所属していた時も、前衛に常に回復魔法を掛けて耐久し、削れるだけ相手の体力を削ってから後衛が大火力で押し切る、と言った事ばかりしていたので、こう言う前衛の防御力を上回るだけの攻撃力を持った相手と戦うと、途端に『こうなる』のは目に見えていたかと……」
そうして、難無く襲撃を捌いて行く彼らとは裏腹に、油断しきっている状態にて襲撃を受けた『新緑の光』のメンバー達は、咄嗟に反応する事が出来ず、今回の依頼の対象である豪雪熊(バカみたいにデカくて力が強くてひたすらタフな熊型の魔物。要するにデカい白熊。単体ならCランクだが群れるとBランク指定される程度には強い)を前衛で盾役も兼ねているブレットと、後衛で弓手でもあるロビンが受けてしまい、戦闘が始まる前に戦列が崩壊しかけてしまう。
ソレだけでなく……
「ダメ!止めて!カレルもデビットも、そんな酷いことをするのは止めて!魔物だって、必死に生きている一つの命なんだよ!?」
「……だったら、どうしろって言うんだよ!?
向こうはこっちを殺すつもりでやってるって言うのに、俺達だけ傷付けるなとか、無理難題に過ぎるんだけど!?」
「これで殺すな、って言う事は、ソレって即ち手の込んだ自殺がしたかったって事だよねぇ?
だったら僕達を巻き込まないで一人で死んでくれないかなぁ?
そうでないなら、さっさと二人を回復させて戦線に復帰させてくれない?早くしてくれないと、皆で揃って仲良く魔物の腹に納まる羽目になるんだけどぉ?」
「それなら大丈夫!私が直ぐに二人を治してみせるし、何より私がピンチになったのならアレス様が助けて「おしっ!こっちは終わったな!なら、向こうで次の群れを潰しに行くか!」くれる、ハズ……」
「………………助けてはくれないみたいだけどぉ?」
「……い、いやぁぁぁぁぁぁぁっ!?助けて、助けてアレス様ぁ!?
私が、貴方のシズカがピンチですっ!貴方の愛する私がピンチですよっ!?ほら、早く魔物を蹴散らして下さい!!」
「…………必死に生きてる一つの命で、守らなきゃならないモノなんじゃ無かったっけ……?」
「そんなの、私の命より大切なハズが無いでしょう!?
ほら、早く倒して私を守りなさいよ!?」
「だったら、さっさと盾役のブレットだけでも復帰させろってさっきから言ってるだろうが!?」
当てにしていたアレスが、自分達の事を省みる事も無く効率的に依頼をこなそうとしている姿に、それまで被っていた猫の皮を投げ捨てながらヒステリックに叫び出すシズカ。
そうして叫び喚く事により、周囲から目的の魔物が大量にひきよせられて来た為に、アレス達もわざわざ移動する事無く、再びその場で討伐を再開し始める。
「……んもぅ!!そうやって、わざと私のピンチを見過ごしながらも、何だかんだ言ってちゃんと助けてくれるって事は、やっぱり私の事愛してるって事でしょう?
もう、恥ずかしがり屋さんなんだから!でも、そんなに処も可愛くて好き!愛してる♥️」
「……あー、あー、聞こえなーい。俺には何にも聞こえなーい。
向こうで役立たずの『自称聖女(笑)』が何か喚いてるみたいだけど、俺には何にも聞こえないなぁ。
皆はどうだ?何か聞こえるか?」
「……いや?当方はなにも?」
「私も、何も聞こえません。えぇ、聞こえておりませんとも。
最愛の殿方に粉を掛けようとしている、貧相な小娘の戯れ言なんて、何一つとして聞こえておりませんとも、えぇ!」
「……まぁ、アタシも聞こえて無かった、って事にしておこうかしらね……」
「なのです?
皆さんは、あの必死な声が聞こえていないのですか?」
「……良いかい、ナタリアちゃん?こう言う場合は、ああ言う手合には反応しちゃいけないのさ。
そうでないと、向こうは獲物だと認識して骨の髄までしゃぶり尽くそうとして来るし、何よりこっちを自分よりも下の存在だと認識して接してくる様になるから、注意しないといけないよぉ?」
「…………成る程、なのです!
では、皆もあっちはあっちで任せておいて、こっちの獲物をさっさと倒してしまうのです!」
「「「「「「「「グォン!!」」」」」」」」
「ヴッ!!」
シズカからの呼び掛けを、わざとらしい程にまで大袈裟に『聞こえていない』と言うジェスチャーと共に無視するアレスに倣い、他のメンバー達もそちらを見ようともせずに襲い来る豪雪熊を討伐して行く『追放者達』。
そんな彼らの背後では、漸くシズカの回復魔法を受けて復活を果たしたブレットが戦線へと復帰し、次いで後衛たるロビンも回復して戦列へと加わった事により、一応は戦況の立て直しをする事に成功した『新緑の光』。
しかし、次から次へと豪雪熊の死体を積み上げて行く『追放者達』とは異なり、基本的に防御主体で行動する彼らにとっては鈍重ながらも高い打撃力とタフネスを誇る豪雪熊の相手は荷が重いらしく、シズカが時折思い出した様に何時もの調子で騒ぎ出す事もあって、一頭一頭を討伐するのにそれなりに時間が掛かってしまい、なかなかスコアを伸ばす事が出来ずにいた。
そんな理由もあったせいか、依頼に在った分の討伐指定数を大きく上回るだけの数を討伐したにも関わらず、そのキルレシオは『追放者達』:『新緑の光』で換算した場合、多く見積もっても8:2か、現実を直視した場合は大体9:1と言う大幅に偏ったモノとなり、何故か一人だけ元気なピンク頭を除いて彼らを大きく落ち込ませる結果となったのであった。
…………マジで使えねぇ、あの野郎共……(--;)
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