『追放者達』、不本意な干渉を受ける
ギルドにて下手くそな茶番劇に付き合わされてから数日後、彼ら『追放者達』のメンバー達の姿は首都アルカンターラから見て北側に暫く進んだ『レライエス雪山』の近くに在った。
あの後、向こうから出された同行する依頼と言うのが、この万年雪に閉ざされた北方にて跋扈している魔物を討伐してくる、と言うモノだったからだ。
半ば誘導され、最初に出された難題に対して比較的安易な条件を出す事で本当の狙いを呑ませる、と言った手口にて受けさせられた依頼とは言え、受けた以上はキッチリ片付ける。
そんな考えから、さっさと行ってさっさと戻ってくるつもりで彼らは首都を出発したのだが……。
「あ!アレス様!私、アレは初めて見ました!
あの可愛らしいアレは、一体何なのでしょうか?」
「…………さぁ、知らんよ。興味も無いし、知る気も無い。
それと、最初から言っているがあまり馴れ馴れしくするな。
俺自身が不快だし、恋人もいるのだから勘違いされたくない」
「……もう、アレス様ったら照れちゃって!
こうして、私達の同行を許可してくれたって言う事は、私に対しての『好感度』が上がって『攻略進行度』が進んだって事なんでしょう?
そうでなければ、あそこでボルクル大司教を説得する『イベント』が発生しないもの!なら、私に対しての好意も高まって来たハズなんだから、もう少し優しく扱ってくれないと拗ねちゃいますよ?
まぁ、こうしてツンツンしている間も私は大好きだから、全然見てられるけど!」
……したのだが、その道中で矢鱈とアレスへと距離感を無視して接近し、その上で意味不明な事を口走りながらスキンシップを図ろうとしてくるのだ。
これまでも、幾度と無く婉曲的にも、直接的にも『興味が無い』『寧ろ嫌い』『近寄るな』と伝えても、ソレを理解できないのか、それとも故意的に無視しているのかは定かではないが、それでも尚距離を詰めんとしてグイグイと迫ってくるのだ。
そんな彼女の態度に辟易しつつ、いつの間にか取られてしまっていた左手に残る生理的嫌悪を励起させる感触と、またしても心の内に沸き起こり掛けている『彼女の事をもっと知りたい』『彼女をもっと大切に扱うべきだ』『彼女以上に優先すべきモノは無い』と言った、冷静に考えれば嫌悪以外の感情が挟まる余地が無いハズの内心に沸き起こるそれらの感情を排除せんとするが為に、現聖女の保護者であるハズの『新緑の光』のリーダーであるらしいブレットとか言う騎士装束の男へと言葉を投げ掛ける。
「…………おい、あんたの処の聖女様、また訳の分からん事を言い出してるぞ。
いい加減、回収してくれ」
「…………いえ、残念ながらそれは無理かと。何せ、彼女が貴方との語らいを望まれておりますので。
何、心配なされなくとも、聖女様であれば我々がお相手しておきますので、貴方は彼女との語らいを心行くまでお楽しみ下さい。
ゆっくりと、ね……?」
……しかし、彼のそんな要請に応じるつもりが欠片も無いらしいブレットは、そんな白々しいセリフと共にセレンの近くに移動すると、何故か勝ち誇った様な笑みを浮かべながら彼女の肩を抱き寄せようとする。
が、そんな彼の行動を意に介する事無くスルリと自然な動作にて回避して見せたセレンは、恋仲に在るアレスの呼び声に応えるかの様に素早く、それでいて女性らしい楚楚とした所作にて、何故か嬉しそうにしながら彼の元へと移動して行く。
「お呼びでしょうか?アレス様。
……もしかして、また『アレ』でしょうか?」
「……あぁ、また、なんだ。
手間を掛けさせて悪いけど、またお願い出来るかい?」
「えぇ、お任せ下さい!何と言っても、私は貴方の恋人なのですから、この程度何の手間でもありません♪」
そう言って、微笑みを浮かべながらアレスの手を引いて他の面子から離れて行こうとするセレン。
今回の依頼に伴っての長期的な移動の最中に、幾度と無く行われて来たソレに対し、最早『追放者達』のメンバーは慣れたモノで、二人の様子を見て既に移動を一時中断し、早く戻れよ~、と言った風に声まで掛けていた。
が、これで幾度目か分からない程に互いに狙いの相手を掠め取られていた二人(正確に言えばシズカとブレット達四人の二組)は、ソレが面白く無い上に一々集団から離れて何をしているのかが気になって、二人の跡を着けようとする。
しかし、ソレを予期していたからか、もしくはそうする様に頼まれていたからかは不明だが、そうして踏み出そうとしたブレット達の方にはガリアンとヒギンズが、シズカの方にはタチアナとナタリアが向かって立ち塞がる。
「はいはい、そこまでにしておこうねぇ。ソレ以上は野暮ってモンだから、あんまりしない方が良いよぉ?」
「……うむ。彼らは、互いに想いを通じ合って結ばれた恋仲故な。多少の羽目外しも致し方無かろうよ。
……それとも、よもやわざわざ邪魔をしに行く心積もりでは無かろうな?流石に、それは不粋の極みであるからして、当方としても実力を持って防がざるを得ぬのだが……?」
「…………ぐっ!?し、しかし、こうも度々隊から外れられては、現地に着くのにどれだけの時間が掛かると……!?」
「そう言われてもねぇ?こうやってトロトロと歩いているのって、オジサン達のせいじゃないし~?」
「……うむ。そなたらが、まともに彼らが引く橇に乗れれば、恐らくは当に到着していたであろうし、当方らと同じ様な速度にて走れれば、もっと早く進めていたハズであろうよ?」
「…………くっ!
し、しかし、そうだったとしても、今回の依頼に当たっての優先権は我々に在る!であるのならば、今後はこの様な事は控えて頂く!確実に、移動速度に支障が出ているからな!」
「はいはい、じゃあ二人が戻ってきたら伝えておくよ~」
「……そこ、邪魔だから退いてくれない?私、あんた達じゃなくて向こうに居るハズの彼に用事が在るんだけど?
それと、一向に私に懐かない畜生も下げてよ。噛まれたら、たまらないんだけど?」
「ん?だから、何?アタシ、別にアンタの言う事聞いてやらなけりゃならない理由も義理も無いんだけど?」
「……はぁ?なにアンタ、態度悪いんじゃないの?私が誰だか、分かってるの?」
「……?教会が担ぎ上げた、新しい『聖女』なのです?ソレ以外に、貴女を『誰』と定義付けてるモノをボク達は知らないのですよ?」
「はっ!あっそ、じゃあ、憐れな『モブ』二人に教えて上げるわよ!
この世界の中心がいるとすれば、それはこの私!この世界を楽しみ尽くす事を許された、特別な存在。それが私なの。
だから、私が求めてれば、皆ソレを黙って差し出せば良いのよ。例えそれが、貴重な物資でも、高い地位でも、既に恋人の居る『攻略キャラ』だったとしても、関係無く、ね!
ほら、わざわざ説明して上げたんだから、さっさもソコを退いてくれない?名も無き背景AとBさん?」
「…………うわぁ~、一応聞いてはいたけど、コレは酷いわね。妄想とか言うレベルを軽く超越してる気がするんだけど、気のせいかしらね……?」
「……あんまり、こう言う言動で人を差別したくは無いのですが、流石にボクもコレは擁護出来ないのです……ちょっと危なすぎて、この子達も近付けちゃいけない気になってくるのですよ……」
「その方が良いと思うよ?
まぁ、でも、取り敢えず終わったみたいだから、もう良いんじゃないの?この子達も、下手に触られる前に下がらせた方が良いんじゃない?」
「なのです!
二人きりでいる時に、割り込ませて邪魔をさせない、って約束は果たしたのですから、何かされる前に引くのです。これ、冒険者の常識なのですよ?」
「は?アンタ達何を……って、アレス様戻って来ちゃったじゃないの!?
あぁ、もう!今回こそ、離れて何をしてるのか調べるつもりだったのに!
アンタ達!次また邪魔したから、この世界の中心である私が直々に酷い目に会わせて上げるから、覚えておきなさいよ!!」
「……はっ!そんなの、三秒で忘れたっての!」
「……まぁ、正直覚えていても、あんまり意味は無さそうなのですけどね?
どの道、地位だけある狂人の言葉よりも、友人や仲間の都合を優先するのは当然なのですよ?」
そうして、用を終えた二人が戻って来たのを切っ掛けとして移動を再開し、更にもう一日程掛けて目的の場所の近くへと到着するのであった。
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