『追放者達』、呼び出しを受ける
アレスとセレンが『新緑の光』と遭遇した次の日の早朝。
彼ら『追放者達』のメンバーは、揃ってギルドへと向けて移動していた。
しかし、その表情は普段のソレではなく険しくしかめられ、装備も平素のソレではなく臨戦時のモノを纏っており、周囲へと殺気すら放っている様にも感じられた。
「…………それで、リーダーよ。今朝のアレは本当なのか?」
「……残念ながら、本当だろうさ……」
自身の額にシワを寄せ、不機嫌である事を隠そうともしていない様子のガリアンが投げ掛けた問いに対し、こちらも不機嫌さを隠そうともせずに返答するアレス。
双方共に殺気立っている様子に、道行く人々は遠巻きに彼らへと怪訝な視線を向け、同行しているナタリアはおろおろとした様子を見せながら、彼らを宥められるであろうヒギンズへと助けを求める様な視線をチラチラと向けて行く。
……が、残念ながら、普段であれば宥める側の行動に出ていたであろうヒギンズも、二人と同じく不機嫌そうに額にシワを刻んでおり、とてもでは無いが頼める様な雰囲気とは言えなくなっていた。
ソレにより、より一層おろおろとし始めるナタリアを目にしたタチアナが、彼らに囲まれる形で申し訳無さそうにしているセレンへとチラリと視線を向けてから、溜め息を一つ吐いて恋人たるヒギンズへと声を掛ける。
「……アタシは、さ?あんまりこう言う事に経験が在る方じゃないから分からないんだけど、何でアタシ達って『ギルドに呼び出されてる』訳?
そもそも、こうして呼び出されるのって初めてだったと思うけど、これって何か悪い事なの?」
「…………あ~、そっか……タチアナちゃんには、説明して無かったっけか……。
ゴメンゴメン。オジサン、ちょ~っとばっかり、嫌な予感と胸糞の悪い予測が先行しちゃってて、気分が荒れちゃっててねぇ。
今まで態度悪かったと思うけど、ちゃんと説明してあげるから許してくれないかぃ?」
「はいはい、アタシはそんなに気にしてないから、取り敢えず説明お願い出来る?」
「はいよぉ~。
と、その前に、二人ともその辺にしときなよぉ。今あんまりカリカリしたとしても、良いことなんて何も無いんだからさぁ」
「…………ぐっ……」
「……ぬ、ぬぅむ……」
タチアナに促されたが為に、険しくしかめていた額のシワを消し、顔を撫でて表情を解したヒギンズが、取り敢えず険悪な雰囲気を纏ってしまっていた二人へと声を掛けて宥めると、タチアナにねだられていた現状の説明を始めて行く。
「……取り敢えず、オジサン達が今されている『ギルドからの呼び出し』が良いことなのかどうか?って事だったよね?」
「うん、そう」
「まぁ、基本的には良いことだと思っても良いと思うよ?
余程アレな事をしている心当たりが在るって言うなら話は別だけど、基本的には実績が無いと回されない依頼の斡旋だとか、ランクを昇格するかどうかの審査に通ったとか、そう言った系統の事が該当するね。
まぁ、緊急依頼とかを押し付けられる、ってパターンも在るから、あんまり歓迎しない、って言う冒険者も結構いるみたいだけどね?」
「……ん?なら、何で皆機嫌悪そうだった訳?
基本的に、良いことばかりなんでしょ?」
「……まぁ、基本的には、ね?
ただ、そこに『国』だとか『組織』だとかみたいな、そう言うギルドに対して真っ向から立ち回れる様な規模の存在が絡んで来ると、話は変わって来ちゃうんだよねぇ……」
「……と言うと?」
「大雑把に言えば、冒険者ギルドからの引き抜きか、もしくは何かやらかして圧力を掛けられるか、それか政治的な取引の品物として扱われるか、の三択が多いかなぁ?」
「……え、ナニソレ!?」
「引き抜きはその通りだけど、圧力を掛けられた場合はギルドから干される可能性が高いし、政治的な取引の品物にされちゃった場合は何されるか分かったモノじゃないからねぇ。
下手をすれば、特異なスキルに眼を付けられて、何処ぞの研究所送りにされて実験台に……なんて事も、噂としては在ったりするからねぇ。
そして、オジサン達には、その手の行動を起こしてくる組織に心当たりが在る。でしょ?」
「…………あ!教会!?」
「その通り。
で、そんな心当たりが在りつつ、かつ確実に先日の件でセレンに再度眼を着けているであろう連中に対してオジサン達としては憤りが在った、って感じかなぁ。流石に、幾ら古巣だからって言っても、今はオジサン達の仲間なんだから、その手の干渉をされるのは不愉快に思っても当然だよね?」
そう言うと、再度不愉快そうに鼻頭にシワを寄せるヒギンズ。
この世界に於いて、実に人口の内の過半数近くを信者として抱える(残りは種族特有の信仰を持つ人達や、単に無宗教な人達となる)超巨大宗教組織である『ヴァイツァーシュバイン宣教会』、通称として『教会』とも呼称されるこの組織は、様々な分野にその手を伸ばしている。
何せ、農夫や狩人と言った生産者達や鍛冶師や細工師と言った職人達だけでなく、貴族や騎士と言った支配階級から一般市民まで幅広く信者を抱えた一大勢力だ。
その権勢は一国の王をも時に上回り、各地にて支部を作って治安維持や希少物資の回収、魔物素材の流通等をほぼ独占して勢力を維持している冒険者ギルドにも引けを取らない程のモノだ。
そんな組織と関わりの在る、有り体に言ってしまえば組織子飼いのパーティーと事を起こした上での呼び出しとなれば、自ずとどう言った内容のモノなのか、と言う事も見えてくると言うモノだろう。
引き抜きに、と言うのは恐らくは無い。
何せ、向こうは面子を潰されている。なら、排除する事は在っても抱き込みに掛かる事は無いだろう。
唯一可能性が在るとすれば、セレンだけを残して他のメンバー達を引き入れに、と来ることだろうが、流石にソレを快諾する様なクズでは無いのでそちらの心配は無用だろう。
では、取引の末に品物として渡される羽目になるか、と言う処だが、これも少し違うのではないだろうか?とも思える。
何せ、既に『聖女』は新しく擁立されている。であれば、実力が確かで実績も在って相手の選り好みもしない、実に傀儡に向いていないセレンの身柄を今更求めるのは、何だかしっくり来る感じがしない。
一番現実的なのは、ギルドが圧力に負けて彼らが干される事なのだろうが、彼らにとってはそれがどうした!と言うのが正直な話。
依頼を受けられなくなって資金が不足する、と言う事に関して言えば、ここ最近で稼いだ分はまだまだ貯蓄として残されているし、いざとなったら溜め込んでいる素材の類いを市場へと放出すればそれで事足りる。
何かしらの迫害を受ける事になるのであれば、腹いせにギルドや教会の一つや二つ破壊して見せればそれで黙るだろうし、彼らにはソレを可能にするだけの力も在る事を示せる。
それに、いざとなったら報復する事を一義とせずに、一層の事このカンタレラ王国から出奔してしまえば良い。国として『ヴァイツァーシュバイン宣教会』を国教としていない国も幾つか在り、彼らの実力を持ってすれば何処でも歓迎されるのは間違いないのだから、そちらに移住する手も在る。
それらの理由と見通しもコミコミでタチアナへの説明を終えたヒギンズは、目的地であったギルドの建物が見えて来た為に、最初よりは幾分かマシでは在るものの、それでもやはり険しい表情をその顔に浮かべ始め、再び雰囲気をピリピリしたモノへと変えてしまう。
そんな彼らの雰囲気から何かを察したのか、ギルドの入り口周辺から冒険者達が足早に去って行き、自然と彼らの前に空白が出来る。
そこへと無言のままに進んで行き、先頭にて扉に手を掛けたアレスは、背後にて憂い顔をしているセレンへと僅かに微笑み掛けながら、若干の不安と共に囁き掛けるのであった。
「…………約束の通り、俺がどうなったとしても、俺を信じてほしい。
裏切られた貴女には酷な事かも知れないけど、必ず戻ってくるから、信じて待っていてくれないか?」
「……はい、私の心は、貴方の側に……」
そうして囁きを交わしてから、セレンの過去の因縁が待ち受けているであろうギルドの扉を押し開け、建物の内部へと踏み入って行くのであった。
……うごごごご……物語が進まぬ……(--;)
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