『追放者達』、危険を周知する
セレンを抱えて近くの建物の屋根まで飛び上がり、自身が感じた『嫌な感情』に逆らう事無く、応戦する事をせずにそのままパーティーハウス目掛けて逃走を選択したアレス。
当然、追跡される事を考慮して、容易には着いて来れない屋根を逃走経路として選択し、その上でアレス本人が持つ複数のスキルを併用して追跡されている形跡が無いかどうかを確認しつつ、大幅に大回りしてパーティーハウスへと帰還する。
そして、急いで建物の中へと足を踏み入れると、相変わらず互いにいちゃついているヒギンズとタチアナ、ガリアンの頭部にしがみついてモフっていたナタリア達を、食堂へと緊急召集してセレンと共に出先で在った事を説明して行く。
「――――って訳で、下手をしなくてもあの連中がまた襲ってくる可能性が高い。各員、警戒は怠らない様にして欲しい」
「……申し訳ありません。私の過去の関係者が、ご迷惑を……」
「……いや、それは仕方ないんじゃないの?
誰も、追っ掛けて来るなんて思わないじゃない?まぁ、既に同じ様な案件で、皆に迷惑掛けたアタシが言って良い事じゃないだろうけど、さ?」
「そうだよぉ。オジサンは多分大丈夫だろうけど、他にも似た様な事して来そうな『過去のお仲間』に心当たりが在る人って、どうせまだ何人かいるでしょう?
だったら、前回みたいな事もまだまだ在りそうなんだし、そんなに気にする事無いでしょう?なんたって、オジサン達仲間でしょ?なら、頼ってくれて良いんだよ?」
「……うむ、ヒギンズ殿の言うとおりであるな。
当方らは、同じ境遇に在った仲間だ。なれば、その仲間が過去の因縁に絡め取られそうになっていると言うのであれば、手を差し伸べる事に否やは在るまい。
もっとも、多分当方は大丈夫であろうがな。あやつらの性格を鑑みれば、既に棄てた当方よりは、手にしたモノへと興味は移っておるであろうし、な……」
「そうなのです!ボク達は、仲間なのです!
なら、そうやって困っているのであれば、頼ってくれて良いのですよ?
でも、それでも頼り辛い、と言うのでしたら、友人として相談してくれるだけでも良いのですよ?
まぁ、ボクも多分大丈夫だと思うのですが。流石に、あそこまで言い切った上で代わりまで用意していたのですから、ボク程度を追い掛けて来る事は無いハズなのです!」
「…………ありがとう、ございます、皆さん……!」
そうして掛けられた皆からの声に感極まったらしく、湿っぽい言葉にて礼を述べるセレン。
しかし、それは彼女にとっては決して大袈裟な反応とは言えないだろう。
仲間なのだから、助けるのは当たり前。
何か在ったのなら、相談して欲しい。
そんな、当たり前と言っても良いハズの言葉ですら、前のパーティーで虐げられたり、変に崇められていたりした彼らの場合、それまで掛けられた経験が無かったり、そんな経験をした事が無かったりする為に、そう言って貰えるだけでも感極まる程に嬉しくなってしまったのだろう。
斯くして、迫りつつあるかも知れない危険についての周知を終えたアレスとセレンは、買い出ししてきたアレコレをアイテムボックスから取り出して、それぞれの保管場所へと仕舞い込んで行く。
殆んどが食料品の類いだが、極一部は不足してきた道具だったり季節に合わせた服だったり。
メンバーから頼まれて買いに行った趣味の品であったり、偶々見掛けて衝動的に手に取っていた品物だったりもするのだが、流石にその全てを同じ様な場所に放り込んでおくのは些か管理に問題が在る為に、それぞれで最適な保管場所・保管方法等にて保存するべく、こうして分別して仕舞い込んでいる、と言う訳だったりもする。
そうして、手分けして買ってきたモノを仕舞い終えた二人は自室へと戻ろうとするのだが、その際にアレスがセレンの手を掴み、その場に引き留める。
一方セレンも、突然とは言え恋仲になった相手であるアレスが、何の理由も無しにこんなことをする訳も無い、と判断してか、引き留められるがままにその場で振り返ってみせる。
するとそこには、何か言いにくいモノを口にしようとしているかの様に、口をモゴモゴとさせながらも、その瞳には真摯にして凄烈なる覚悟の焔を灯したアレスの顔が在った。
その様子に、心臓がドキリと跳ね上がり、脈拍が上昇するのがセレンには感じられた。
…………これは、もしかして『そう言う事へのお誘い』なのでしょうか……?
で、ですが、未だに太陽も高い位置に在る真っ昼間から、その様な事に耽るのは退廃的も良い処であり、私としては興味も在るしやってみたい気持ちも在るけれど些か急に過ぎる様な……!?
そんな、妄想とも取れない、なまじっか長く生きているだけに無駄に蓄積された知識によって構築された『あんな事♥️』や『こんな事♥️♥️』を二人で繰り広げる、若干ピンク色をした想像を一人で繰り広げていたセレンを心配しながらも、その耳元へと顔を寄せて
「……この後、俺の部屋まで来てもらっても良いか?話しておきたい事が在るんだ……」
と、他のメンバー達には万が一にも聞こえない様に囁き掛ける。
ソレにより、セレンは『そう言う事』なのだと言う確信を抱いてしまい、より一層赤面を強めてしまう。
「…………あ、あの、その……多少時間が掛かってしまいますが、大丈夫でしょうか?
さ、先にシャワーを浴びてきたいのです……!」
「……?いや、別にこのままでも良いんじゃ……?」
「……え!?アレス様、そう言うご趣味が!?
き、今日は、既に一度出掛けておりますから汗もかいておりますし、既に……と、ととととととととととと、……お手洗いにも立っておりますので流石にちょっと……。
……それと、下着の方も今日は地味なのしか着けていないですし、初めてはやはり綺麗な身体を見て貰いたいので……(ゴニョゴニョ)」
「……いや、言う程方々歩き回った訳じゃないし、今日はそんなに暑くもないから大丈夫じゃないか?汗臭いかも、って気にしてるのなら、俺は気になって無いから大丈夫だと思うけど?
……その、寧ろ良い匂いがして、逃げてくる間は大変だったと言いますか、何と言うか……」
「…………そっ、それは、ありがとう、ございます?」
「まぁ、そんなに掛からないハズだから、取り敢えずお願い出来ないか?
それと、さっき最後の方で何言ってたのか良く聞き取れなかったから、もう一度お願いしても良いかな?」
「それは、天井のシミを数えていれば終わる、と言うヤツでしょうか!?
それと、先程の呟きは何でも在りません!少なくとも、今は関係の無い話です、ええ!もちろん!
では、早く行きましょう?早速行きましょう!ほら、ほらほらほら!」
「……分かってる。分かってるから押さないで下され……」
そうして、アレスの背中を照れ隠しでグイグイと押しながら、彼の部屋へと向かって行くセレン。
その口元は、これから起きる事に対しての期待と、愛する相手から求められた、と言う事に対する嬉しさからニヨニヨと崩れ始めていたが、ソレをアレスが目にする事は無かったのであった。
…………なお、僅か数十分後に部屋から出て来た二人は、特に衣服に乱れが出る訳でも無く、距離感が縮まる訳でもまた無く、更に言えば風呂場に赴いて身を清める事もせず、セレンの機嫌が多少悪くなる、と言う結果に終わったのであった。
なお、その結果にアレスは首を傾げ、二人の様子を訝しんだガリアンとヒギンズが流れの話を聞き出した処、二人に揃って溜め息を吐かれた上に拳骨を落とされる事になるのであった。
ヤったか!?(違います)
二人がナニをしていたのかは後程、と言う事で
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