『追放者達』、話を聞かない電波脳に戦慄する
「止めて!私の為に争わないで!!」
そんな、見当外れも良い処なセリフが、彼ら以外に人影の無い公園へと虚しく響いて行く。
セリフと仕草だけを見るのであれば、自らを愛してしまった男達の争いを静めようとする健気な乙女、と言った風にも見えなくは無いが、アレスと四人の間で話題となっていた対象はあくまでもセレンであって、この少女では断じて無い。
なので、彼女の行動は、彼女の人となりを直接的に見たことの無かったアレスにとっては酷く滑稽なモノである様に見えていた。
その為に思わず
「…………おい、あんたらの処のツレが錯乱してるけど、アレって大丈夫なんだろうな?
キチンと治療してやるか、もしくは手に負えないのなら然るべき処置を施すか、ソレ専門の施設に預けるかした方が良いんじゃないのか?」
と、心の底から心配しながら言葉を投げ掛けていた。
そんな彼の言葉に、突然の少女による奇行にて荒んだ目をしていた四人は目を丸くすると、目元を抑えて天を仰ぎ、口許を覆って視線を地に落としながら落涙した。
「…………よもや、よもやこの様な言葉を悪漢から掛けられる事になろうとは、一生の不覚……!」
「…………ヤベェ、俺、アイツが聖女様に手を出そうとして無かったら、友達になれたかもしんないわ……」
「…………くっ!セレン様に手を出そうとする、不埒な輩でなければ、旨い酒を酌み交わせたかも知れんと言うのに……!!」
「…………あ、やっぱり、あんまり殺したくなくなってきたかも?
あのまま、セレンの事スッパリ諦めてくれないかなぁ?
諦めてくれたら、彼だったら赦して上げても良いんだけどなぁ……」
そんな、とてもとても扱いに困っている相手への苦労を漸く理解してくれる相手が現れた、とでも言う様な反応を返してくる四人組に、若干白けた様な顔をしながら背後に隠していたセレンへ と『アレ、ナニ?』と問い掛ける様な視線を向けるアレス。
しかし、その視線に応えが返されるよりも先に前方の気配に動きが在ったが為に、咄嗟に視線を戻して得物を構え直す。
先程の態度はこちらを油断させる為の演技だったか!?
そんな、若干の騙し討ちを受けた様な心持ちにて視線を戻した先にいたのは、初対面の相手にするには些か距離感が近過ぎる様な距離にまで詰めて来ていた、ピンク色の髪をした稀人の少女であった。
突然の事態かつ、一応は敵意も得物も携えてはいない相手の登場に、攻撃するべきか、それとも後退するべきか、と言う選択を咄嗟に選択する事が出来ず、その場で固まってしまう。
そんな彼へと、ソレまでの意味不明な憂い顔を一変させた笑顔を向けつつ、得物を構えた手に目掛けて自らの手を伸ばしながら口を開く。
「あの、わざわざ見ず知らずの私の事を心配して下さって、ありがとうございます!私、とっても嬉しいです!
でも、そうやって武器を構えているのは危ないですよ?ここには危険な事は無いですし、そんな危ない物を構えていたら怪我をしちゃうしさせちゃいますよ?ほら、下ろしましょう?ね?
それと、私を心配してくれたお礼に、これからカフェでも行きませんか?私、この辺りに来たばっかりで、あんまり詳しく無いんです。だから、近くで良いので案内してくれませんか?もちろん、二人で、です!
あ、後ろの人は彼らと話が在るみたいだから、わざわざ貴方が相手をしなくても大丈夫ですよ?ほら、早く行きましょう!」
「……………………はぁ……!?」
その、相手の都合を一切考えない予定の押し付けと、確実に親しい間柄の相手が近くに居ると言うのにソレを考慮しない物言いに、一瞬アレスの脳が理解を放棄し思考が停止する。
その隙に、彼の得物を構えた利き手へと手が伸ばされ、触れる寸前まで接近を許してしまうが、ソコは流石にそれまでの経験から半ば反射的な反応として咄嗟に振り払うと同時に身体を反転させ、セレンを抱えて後退り、急いでその少女から距離を取る。
しかし、一瞬だけとは言え、アレスの手が少女の手に接触したらしく、何故か嫌な感触が手に残されており、突如として沸き起こってきた生理的な嫌悪感によってその部分を服へと擦り付け、その嫌悪感をどうにか落とそうと試みる。
そして、その腕の中にて、彼の表情が嫌悪に染まったのを見た事から、彼を気遣って少しでも気を紛らわせられれば、との思いから、低位の回復魔法を宿した手で彼の頬や首筋へと手を沿わせるセレン。
そんな、本人達にとっては互いの為に行った事とその結果であったのだが、それらを目撃していたセレンの元パーティーメンバー、『新緑の光』のメンバー達には、彼女に許可無く触れた上に無理矢理そうさせている、と写ったらしく、またしても怨嗟と憎悪にまみれた言葉を口にしながら、下げていた得物を再度構え始める。
そして、振り払われた肝心の少女の方は、逃げられた上に触れた部分を拭われて居るにも関わらず
「…………もう、照れちゃって。隠さなくても、私が好きになっちゃってるのなんて、分かってるんだから、ね?
まぁ、そう言う意地っ張りな処が可愛くて、私は好きだよ?だから、ほら。私と、二人っきりで色々見て回りましょう?
きっと、そのオバサンと居るよりも、私といた方が楽しいハズだから、ね?」
と、形だけを見るのならば、まるで花が咲き誇っているかの様な、満天の笑みを浮かべて見せていた。
その姿に、思わず肌を粟立てながら、一歩後退るアレス。
しかし、その心の中に、ほんの一欠片だけでは在るものの、目の前の少女の言葉に従う方が良いのでは?と言った考えが発生するのが感じられた。
ほんの一瞬だけ、極々微かな感情だったとは言え、そんな考えが浮かんで来た事に戦慄すると同時に、何の理由も無くそんな考えが浮かんでくるハズが無い、ならば一体何故?と思考を巡らせたアレスは、唯一の可能性であると同時に、ソレだけは故意的に目を背けていた可能性こそが真実である、と判断する羽目になる。
(……考えたくは無いが、精神に干渉する系統のスキルを持っている可能性が在る、か……。
しかも、俺の耐性をぶち抜いて干渉してくるなんて、どれだけ強烈なヤツなんだ?流石に、危険度が高過ぎるだろうよ……?)
アレスの脳裏にそんな考えが過るが、この場にソレを否定する要素は無い上に、未だにアレスへと手を伸ばし続けているピンク髪の少女は、彼がその手を取るのを疑っていない様にも見て取れた。
その事から、自身の考えは間違ってはいない事を確信したアレスは、腕の中にいるセレンに対し、一言
「……悪い、少しだけ我慢して欲しい」
と声を掛け、構えていた得物を鞘へと納めると、右腕を彼女の膝の下へと回し入れ、左腕にて肩を抱き支えて横抱きの状態(要はお姫様抱っこ)にすると、突然の事態に状況を飲み込めていない様子で眼を丸くしている彼女を抱えたまま、その場から跳躍して近くの建物の屋根に着地する。
ソレに対し、四人組は憎悪の感情のみで人が死ぬのなら確実に何人でも殺せているであろう顔で何かを喚き、ピンク色の髪の少女は頬を染めてキャイキャイとはしゃぎながら『次は私がして貰うから』を口走っている様子だ。
そんな彼らを放置したまま、顔を赤く染めながらも、何故か嬉し恥ずかしそうしているセレンを抱え、ここ最近では初めて『逃走』と言う行動選択肢を選ぶ羽目になったアレスは、どうにかして背筋を走る悪寒を拭えはしないだろうか、と考えながら、恋人となったセレンを抱えた状態のままでパーティーハウスへと向かって駆けて行くのであった。
……なお、流石に距離に対しての声量が足らずに良く聞き取れなかったし、仮に聞き取れていたとしても理解する事を拒絶していただろうと言う自信がアレスには在り、ぶっちゃけあの段階で彼女が何を言っていたとしても無駄であったと言うのは、ここだけの話としておくのが良いだろうと思われるのだった。
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