『追放者達』、過去の因縁と遭遇する・2
「そこまでだ、不埒者め!!彼女を離せ!!!」
そんな、怒りに満ちた声が二人へと浴びせ掛けられる。
ソレにより、二人の間の空気は『そんな事』をする様なモノでは無くなってしまい、それまで多くの成分を占めていたハズの甘ったるい何かは消え失せ、代わりに怒りや殺意と言ったモノが二人の周囲へと充填されて行く。
しかし、不粋にして不埒なる乱入者は、そんな二人の雰囲気が甘やかなモノであった事にも気付かずに怒声を浴びせて二人を邪魔するだけでは飽きたらず、物理的に抱き合ったままで互いの心地好い体温と鼓動を共有している二人をどうにかしてやろうと画策しているらしく、二人の他には誰もいなかった公園へと、荒々しい足音が複数響き渡り始める。
流石に、その段に至ってまで無視し続ける事も叶わなくなった二人は、互いを映す時には甘く蕩ける様な優しい光が灯る瞳からその光を消し、強い怒りの焔を灯した瞳を足音の聞こえて来た方へと向ける。
するとそこには、全身鎧を纏った『騎士と思わしき青年』と、軽装でまだ『少年にも見えかねない若者』、装備からして斥候職の類いと思われる『弓を背負った中年』、杖を手にしてローブを纏った『魔術師と思わしき男』と言った、顔に怒りの感情を昇らせつつ殺意を滾らせた表情を隠そうともしていない四人の男と、その後ろから彼らへと視線を固定している少女の計五名の姿が在った。
男の方は全員の顔立ちやスタイルと言った見目が整っており、それぞれで種類は異なるが、須くして『イケメン』と評しても間違いではないであろう佇まいをしており、全員が特徴からして只人族か、もしくはその血が強いのであろうと予測出来た。
少女の方は、この半ば『人種の坩堝』と化しているアルカンターラでも滅多にお目にかかる事の無い程に珍しいピンク色の髪と瞳をしており、顔立ちはセレンの『綺麗』系のソレとは異なりどちらかと言うと『可愛らしい』系統で、華奢で小柄なスタイルも相まってまるで妖精の様な外見をしていた。
そんな、見目の整った集団だったが、当然アレスには見覚えの在る連中では無く、その上で敵意を隠そうともせずに接近して来ていた為に、セレンを守る為にも、また前衛としての役割を果たす為にも、一応念のため、と腰からぶら下げていた得物に手を掛け、わざと鯉口を切る音を響かせて牽制としながら、セレンを背後へと庇い回す。
しかし、そんな彼にとっては仲間としても彼氏としても当然な行動は、乱入者達にとっては到底許せる様なモノでは無かったらしく、未だに一言も言葉を交わした事も無いハズの彼らは、俄にその殺気を高め、ソレまでは柄に添えるだけであったハズの利き手にて、ガッツリと得物を握り締めながらまたしても意味の分からない事を吠えたて始めた。
「貴様!!不埒にも、俺の聖女様の未だに穢れを知らない唇を、俺が貰う事を約束していたファーストキスを『無理矢理』奪おうと画策しておいて、その上聖女様の清らかな身体に触れる等、無礼千万!!
今すぐその首、我が聖なる刃にて叩き落としてくれる!神妙にソコに直れ!!」
「……お前、なに調子乗ってくれてるワケ?
大方、彼女がお前を傷付けない様に、って抵抗しないでいるのを勘違いしたんだろうけど、お生憎様、彼女が本当に愛しているのは俺だから。
お前程度の輩が、彼女みたいな高貴なる存在に、何時までも触れてるんじゃねぇよ!!」
「…………聖女様、もう安心だ。俺が来た。
直ぐに、そこの不埒な輩を排除して、そいつに触れられた不快な場所は俺が清めてやる。
だから、少しだけそこで待っていてくれ。な?」
「…………あのさぁ、何時まで勘違いして僕のセレンにくっついてくれてる訳なのさ、オタクは?
彼女と真に想い合っているのは僕で、君は偶々話し掛けたら上手く行きそうだと勘違いしたナンパ野郎なんだから、あんまり調子に乗らないでくれないかなぁ?
でないと、僕の魔法で骨まで残さず消し飛ばしちゃうよ……?」
どうやら、セレンと唇を交わそうとしたアレスへと敵意を向けて来ている様子だが、そもそもの話として目の前の連中にアレスは心当たりが欠片も無かった。
であるのならば、至極単純な推測として、恐らくは彼女の関係者なのであろうと予測したアレスは、瞳に狂気すら浮かべて彼を睨み付けている連中から視線を逸らさずに、小声にて背後の彼女へと問い掛ける。
「…………失礼を承知で聞くけど、もしかしなくてもアレって知り合いの類いだったりする?」
「…………えぇ、誠にお恥ずかしながら、元パーティーメンバーと、例の稀人の少女ですね。
何故ここに居るのか、何故私を探していたのか、等までは流石に推測しかねますが、一つだけ訂正させて頂いてもよろしいですよね?」
「…………疑問形の体を取ってる確定形ですよね?ソレって?」
「……一つだけ訂正させて頂きます。
先程、彼らが口にしていたアレコレは、全て私自身に覚えは無く、私が彼らとその……と、『特別な関係性』に在った訳ではありませんからね!?
私に取って、全ての『初めて』は貴方に捧げる予定ですので、その点だけは誤解無き様にお願い致しますからね!?本当に!!」
「……はいはい、分かったから。
そんなに必死にならなくても、言わなくても良い事を口走っちゃっても、それでもちゃんと信じるから、ね?」
半分アレスの背中にすがり付く様にして隠れながら、彼の耳元へと囁き掛ける様にして返答するセレン。
二人の位置関係からは、そうするのが最も効率良く会話出来る形であった為にそうしていたに過ぎないし、普通は見ていればそう判断する事は難しく無い。
……無いのだが、そんな二人の姿はセレンの事を勝手に自らの恋人(又は伴侶)として認定している四人には
『自分達に(セレンに無理強いしてやらせて)見せ付けている』
だとか
『嫌がる彼女に自分からやっている様に見せ掛けてやらせている』
と映っているらしく、その瞳により一層の憎悪と嫉妬と殺意を煮え滾らせながら、ソレまでは手を掛ける程度に済ませていた(普通はそこまで行っていたら『程度』とは言わないが)四人は、それぞれの得物を実際に手にとってアレスに対して威嚇する様に翳して見せる。
流石に、そこまでされては冗談の域を軽く越えてしまっている為に、アレスはアレスで自衛の為、背後の彼女を護る為に、腰に下げていた得物を抜き放ち、その不思議な煌めきを宿した白刃を白日の元に晒して行く。
「…………悪いけど、流石に四人も相手にしてたら手加減していられないし、セレンを護りながらだと本気も出せない。
だから、全員生かした状態で、って言うのは些か難しい注文だ、って事だけ覚えて於いて貰えないか?」
「……いえ、おきになさらず。
寧ろ、未だに彼女の色香に惑わされ、その上でアレス様に刃を向けているのですから、生かして終わらせろ、等と言った世迷い事を口にするつもりは有りません。アレス様のお身体こそを優先して、迷う事無くお斬り捨て下さい。
いざとなれば、未だにお見せしたことの無い、私の奥義を使えばそれでも済むお話ですので、お気にならさず」
そして、関係者であるらしいセレンに念のため確認を取り、数的不利から生かしての捕縛は選択肢から外さざるを得なかったが為に、最初から殺る気を漲らせて先手を取ろうと飛び出そうとした正にその時であった。
それまで、四人の背後に隠れていたハズの稀人の少女が、彼らの間をスルリとすり抜けて前へと踊り出し、アレス達と四人の間に割って入って来たのは。
突然の出来事に、思わず警戒心を顕にしたアレスは、急遽先手を取るための突撃を取り止め、何をするつもりなのか?と割り込んで来た少女へと視線を向ける。
すると、その大きな瞳に涙を湛えた少女は、何かに祈る様にして胸の前で両手を組み、両陣営に向けて訴え掛ける様にして言葉を口にするのであった。
「…………もう、止めてよ、皆!
幾ら私の事を愛してるからって言って、私の為に皆が傷付く必要なんて無いでしょう!?
だから、お願い!私の為に、争わないで!!」
…………後にアレスはこの場面について
『本気で何を言っているのか理解出来なかった』
と語っていたとか、いないとか……。
…………はて、何を抜かしているのやら……?
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