『追放者達』、愚か者に正体を明かす
とある決闘騒動の熱が冷めやらぬギルドに於いて、併設されていた酒場は普段よりも早い時間帯から、盛大な盛り上がりを見せていた。
「だぁーっ、くそっ!負けちまったじゃねぇか!!」
「おう?なんだお前。
もしかして、あの阿呆共が勝つ方にでも賭けてたとか言わないだろうな?」
「あ?んなアホな事するヤツって居たのか?」
「そう言うお前は、どっちに賭けたんだ?」
「あん?そんなの、『追放者達』の連中に決まってるだろう?当然、あの阿呆共みたいな偽物の方じゃなくて、本物の方に、だけどな?」
「…………いや、流石にソレは当たり前過ぎるだろうよ。
俺が言ってるのは、アイツらの勝ち方の方だよ。彼処で灰になってるあの馬鹿みたいに泣きを見てる、って訳じゃなかったって事は、比較的近いのを勝ってたって事じゃないのか?」
「……へっへっへっ!応ともよ!
俺が賭けてたのは、『タチアナ乱入』と『協力しての撃破』だったからよ。
流石に二枚抜きは出来なかったが、『単独撃破』に賭けてるヤツが居なかったみたいでな?次賞って事で結構な払い戻しが在ったって訳よ!」
「まぁ、そうやって『どうやって『追放者達』のメンバーが勝つか』って形式の予想にしないと、あの阿呆共に賭けるヤツらが少な過ぎて賭けにならなかったらしいからなぁ。
もっとも、どんだけ酔狂な連中でも、あんな程度の連中が勝てるだなんて、賭けられるハズも無かったってもんかねぇ。
と言うか、あの連中、何を考えてアイツらに挑みやがったんだ?あの程度に過ぎないって言う事なら、ぶっちゃけ勝ち目は無さそうなもんなんだが……?」
「まぁ、アイツらの名前を騙ってた、って段階で既に意味わからん事やらかしてくれてた連中なんだから、最初ッからそんな事考えて無かったんじゃねぇの?
もっとも、今となっちゃどうでも良いさ。ほら、呑もうぜ?
こいつ大勝したみたいだから、ここの会計はこいつに押し付けても大丈夫だろうさ!」
「「「「よっしゃ!呑むぞーー!!」」」」
「あっ!?ちょっ!?馬鹿止めっ!!??」
散財して軽くなった財布を嘆く者、勝って太った財布が早速痩せそうな者、今回の間抜け達の行動原理に思いを馳せる者、と言った感じに、混沌とした空間になりつつある酒場のすぐ近く。
ほぼ同じ建物の中、と言っても良い程に近しい場所に、複数の影が集まっていた。
それらの影は、片方は跪かされて拘束された状態であり、各員が手当てされた痕跡が残されてはいるものの、未だに重傷と形容しても間違いでは無いであろう負傷を負ったままの七つの人影。
もう片方は、そんな跪されている方の面々を、フードの着いたローブにて顔と全身を隠した状態で見下ろしながら、無言のままに佇んでいる五つの人影。
誰も言葉を発する事をせず、部屋に唯一響く音は拘束された側の人影が時折漏らす苦痛の呻き声のみであり、物理的な重量すら感じさせられる程に重苦しい沈黙が空間を支配していた。
そんな中、部屋唯一の扉が開き、決闘にて審判を務めていたシーラと、既に部屋にいた面々と同じ様なローブを纏いながらもフードは下ろさず、一人だけ顔を顕にしているアレスが部屋の中へと踏み入って来た。
その音に反応してか、それまで項垂れる形で顔を伏せていたネイザンが怯えの色が混ざった視線を上げ、入室してきた二人の姿を確認すると、途端に強気になって二人を睨み付けながら怒鳴り声を上げ始める。
「……テメェ!!それに、このアバズレめ!!
一体、何の権限や権利が在って、俺様と配下共を拘束してやがるつもりだ!?俺様は、あのドラゴンも撃退した、次期Aランクを約束されている『追放者達』のリーダーだぞ!?
俺様が一言命令して、依頼を受ける事を拒否させれば、それだけでギルドにどれだけの影響が出るのか理解出来てねぇのか!?それが分かったんなら、さっさと俺様達を解放して、俺様の目の前にあのクソ欠陥支援術士を引きずり出して来やがれ!!!」
「……はぁ、まだそんな事を言えると言う事は、未だにご自分の置かれている状況が理解出来ていない、と言う事ですね」
「まぁ、ソレを理解できる様であれば、最初からあんなやらかしなんてしないし、こんな事にもなって無いでしょうから、言っても仕方無いでしょうよ」
「…………あ?一体、なんの話だ……?」
「……何の話って、あんたの今後の処分についてのお話に決まってるだろうよ?
ギルド職員への恐喝、殺人未遂が確定として、他のパーティーの名前を騙っての恫喝に、パーティーリーダーが交代したとの誤情報を拡散した上にその後釜を詐称した事は、名前を騙られたパーティーのリーダーが名誉毀損として訴え出ると言ってるから、そっちも追加される事になるだろうよ。
まぁ、確実にギルドからの追放とお前らみたいな犯罪者が送られる例の監獄への収監か、もしくは魔物の犇めく鉱山で一定量希少な鉱石を掘り出すまで鉱山夫をやるか、それくらいは選べるんじゃないのか?」
「まぁ、その前に、中途半端な事をやらかしてくれたお陰で不完全燃焼に終わってしまった方々や、皆さんの実力の一端を拝む事が出来るのでは?と期待していた方々、賭けに負けて大損して殺気立っている方々等が、無事に行かせてくれるとも思えませんが、そこはギルドが関与する範疇を越えているので知りませんけどね?」
「……はぁ……?お、お前ら、一体何を言ってやがるんだ……?
お、俺様が、犯罪者、だと……?
そ、そこのアバズレとのイザコザなんて、ギルドじゃあ日常茶飯事だろうがよ?そんな事で、罪に問われてるヤツなんて見たことねぇぞ!?
それに、パーティーの名前を騙った、だと?俺様は、あの時に説明してやっただろうがよ!?直接、リーダーを名乗るヤツから『追放者達』のリーダーとしての座を譲渡された、ってよぉ!?」
「…………はぁ。まだ、お気付きでは無いのですか?
彼は言いましたよね?『リーダーが名誉毀損として訴え出ると言っていた』と。
それはつまり、貴方が騙っていた『追放者達』のリーダーが自らの名乗り出て、そんな事はしていない、そう仰っていると言う事ですよ」
「……そ、そんな訳ねぇだろうが!?
俺様は、確かに本人から『リーダーの座を譲る』と、そう言われているんだよ!?
それが嘘だって抜かしやがるのなら、そう言ってる本人をここに連れて来て見せろよ!出来やしねぇんだろう?
何せ、そんなヤツはいないんだから!それに、そいつを本人だと証明出来る様なヤツもいないんだろう?他のメンバーも、今はギルドを通さないで受けた依頼で街を離れるって話だったからな!
だから、テメェが言ってる事は真っ赤な嘘で、俺様を嵌める為に言ってる事だ、って事だ!
そうじゃねぇって抜かすつもりなら、今この場に本人を連れて来て見せろよ!出来るもんならな!!」
「……え?良いけど?」
バサッ……!!
「………………は?」
シーラの言葉を受け、最初こそは冷や汗を流していたネイザンだったが、確たる証拠として本物の『追放者達』のリーダーを連れて来ていない事からソレを鎌掛けだと判断したらしく、途中からいきなり強気になり始めて行く。
しかし、そんなネイザンに対して、なんの事は無い、と言わんばかりの軽い様子で応じたのは、シーラでは無くその隣にいたアレス。
そして、自身にネイザンからの視線が向けられた事を確認した彼は、それまで纏っていたローブを床へと脱ぎ捨てる。
すると、その下からは、ド素人で無ければ嫌でも一目でソレだと看破出来るであろう神鉄鋼の輝きを宿した軽鎧を身に纏い、あからさまにそんじゃ其処らには無いであろう業物を腰に穿いた、明らかに高位冒険者であろう戦装束を顕にしたアレスの姿が現れる。
「……さて、お初にお目にかかる。
俺が、冒険者パーティー『追放者達』のリーダーを任せられているアレスだ。
昔タチアナが所属していた『闇を裂く刃』だ、と言う事は聞いているが、正直その程度しか聞き及んでいなくてね。
だから、一つ質問が在るのだが、俺があんたとあのギルド以前に会った事は無かったハズだが?
それに、俺がリーダーとしての権限を委譲した?ギルドを通さずに依頼を受けて仲間を向かわせた?
残念ながら、一切覚えがなくてね。だから、改めて質問させて貰おうか。
お前と、俺が、一体、何時、会ったんだったっけ?」
そうして、アレスが出した合図により、顔を隠していたフードを取り去って顔を晒した『追放者達』のメンバー達が、続いてローブも脱ぎ落とし、その下に隠していた本来のきらびやかな戦装束を、呆然とする『闇を裂く刃』のメンバーへと晒して行くのであった。
さて、断罪タイムの始まり始まり♪
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