『追放者達』、過去の因縁の一つに決着を付ける
読者様から寄せられた、割りと重要そうな質問に対しての返答となります
Q:パーティーメンバー八人って多くない?
A:あの世界でのパーティーメンバーの適正が多くても五~六人(前衛二人、後衛二人、遊撃or中衛に一人、運搬役等の補助役を適宜で一人が理想と言われています)なので比較的多い方になります
Q:今回みたいに名前を騙られた場合ってギルドはどうにかしてくれないの?
A:基本的には何もしてくれません
他のパーティーの名前を騙って受けた依頼で失敗する、と言った風な被害が報告されれば別ですが、今回の様に名前を出しているだけでは『基本的には』ギルドは何もしてくれません
ですが、名前を騙られたパーティーが報復したりする事も止めはしませんし、現時点でどの辺りにいるのかを懇意な受付嬢が漏らしてくれたりする可能性は在ります
Q:取り敢えず決闘のルールって『殺さない』って事でOK?
A:基本的にはそうなります
と言っても、今回に限って言えばアレス達に対して『頼むから殺さないで下さいよ?』と言っている様なモノだったりしますが(笑)
「……ば、バカな……!?
俺様の配下が、全滅、だと……!?
全員、Cランクの冒険者だぞ!?
それが、高々駆け出し程度で、素人に毛が生えた程度の連中に、全員負けただと……!?」
ヒギンズに投げ飛ばされ、訓練所の端へと強制的に移動させられた際に尻餅を突いた格好のままに、『闇を裂く刃』のメンバー達が蹂躙される様を目の当たりにしたネイザンが、呆然としながらそんな呟きを漏らす。
格下なのだから、勝てて当然なハズだった。
あの程度の粗末な身形しか出来ないのだから、駆け出しのハズだった。
ならば、地面に這いつくばって苦痛に呻いているのはアイツらのハズで、ソレを叩きのめして見下ろしているのが俺様達のハズだった。
そんな認識が何時までもネイザンの脳裏を駆け巡り、絶望的な迄に実力差の在る現実を直視する事を無意識的に拒んでいた。
認めてしまえば、己の矜持を、これまでの全てを、尽くを否定される事になる。
……ソレを、無意識的に悟ってしまっていたが為の、現実逃避と言うモノであったのだろう。
とは言え、そんな事は関係の無い上に、自らの意中の相手を脅かす様な真似をしてくれた存在を許すハズも無く、年甲斐も無く殺気立ったヒギンズが得物を手に一歩一歩ゆっくりとネイザンへと歩み寄って行く。
「……ひっ!?く、来るな!?
俺様は、俺様は『追放者達』のリーダーになった男だぞ!?
俺様が一言声を掛ければ、ドラゴンを撃退させた強者がテメェを地の果てまで追い掛けて、必ずグチャグチャの挽き肉にされて死ぬ羽目になるんだぞ!?
今なら、今土下座して謝るんなら、テメェだけは助けてやる!!だから、それ以上俺様に近寄ってくるんじゃねぇ!?」
流石に殺気を垂れ流しにした状態で近付かれれば呆けても居られなかったらしく、半ば強制的に正気に戻って命乞いとも呼べない『何か』を披露し始める。
しかし、そんな言い訳未満かつ、未だに自らの立場を理解出来ていないらしいネイザンの口調に、意中の相手を虐げられていた事で殺意を覗かせていたヒギンズは、更なる苛立ちを募らせて行く。
そして、半ば堪忍袋の尾が切れ掛け、本気で殺す為に得物を振り上げた正にその時。
彼の前に、観客席から一つの影が躍り出て来た。
「はい、それ以上はダメよ。一旦ストップしなさい」
「……なんで、止めるのかな?これは、君の為でも在るんだよ?
ねぇ、タチアナちゃん?」
何故か突然決闘に介入してきた、今回の中心人物にして己が想いを寄せている相手であるタチアナに対し、若干の苛立ちと共に問い質す。
既に九分九厘勝負に片が付き、後は首謀者たるネイザンの心をへし折りながら事を終らせるだけ、と言った段である以上彼女に迫る危険はほぼ無いと言ってもよいのだろうが、それでもこの決闘騒ぎの商品的な扱いを受けていた張本人なのだから、この様に突如として乱入してくる、と言った事態は、彼女の安全を鑑みれば許容できない、と言う、ヒギンズの保護者的かつ男性的な視点からすれば当然の指摘であった。
しかし、ソレに対して当のタチアナは首を横に振り、そうではない、と言いたげな表情と雰囲気を作り出す。
なので、不本意ながらも、ヒギンズがソレを聞き出そうとしたその時、二人の間を不快な程に耳障りな声が割って入って来た。
「……は、ははっ!そうか!そうだよなぁ!
タチアナお前、俺の事愛してたってことだろう?なぁ!?
そうでも無きゃ、こうして俺様が劣勢な勝負に割って入って有耶無耶にしようとなんて、する訳が無いものなぁ!!
いいぜ。お前の気持ちは良く分かった。あの時パーティーを抜ける、なんて言ったのだって、俺様の気持ちを確かめたかったからだろう?可愛いやつめ!
なら、この後でたっぷり可愛がってやるから、ソレを報酬として俺様の女にしてやるし、パーティーに戻ってくる事も許可してやるよ!!
だから、さっさとその化け物を下がらせやがれ!!!」
「…………はぁ……。
まったく、アンタは大きな二つの勘違いをしているって、何で気が付かないのかしらね?」
「…………は……?違う、のか……?
それに……か、勘違い、だと……?」
ネイザンによる、見当違いも良い処な迷推理を披露され、ソレをよりにもよってヒギンズに聞かれた事で、呆れの感情が色濃く感じられる溜め息を一つ溢してから腰に差していた短剣を抜き放ち、未だに尻餅を突いたままの格好であったネイザンの鼻先へと切っ先を突き付けてから彼女曰く『二つの勘違い』について口を開いた。
「……まず一つ。アタシは、アンタ程度の事なんて愛しちゃいないし、アンタの処のパーティーに未練なんて欠片も無いよ。
そりゃそうでしょ?だって、アタシを人間扱いしようともせず、奴隷か馬車馬の類いだと認識してパーティーの雑用まで全部押し付けてこき使ってくれた連中と、各自で出来る事をキッチリ分担して横槍を入れずに協力しあい、その上でアタシを一人の個人として尊重してくれたり、何だかんだいってその草臥れた背中でキッチリ守ってくれるパーティーと人の方が、余程愛着も湧くし心も奪われる、ってもんでしょうよ」
「…………ぐっ……!?
……だ、だか、お前が欠陥支援術士だって事は、覆らない事実だろうが!?
今なら、俺様の処に戻ってくれば、俺様が使ってやる、って言ってるんだろうがよ!?
お前は、女は!黙って俺様に使われてれば良いんだよ!!?」
「……そう。なら、遠慮無く『二つ目の勘違い』も正せるわね」
「…………あぁ!?」
「アンタがしてた二つ目の勘違い。
それは、アタシがこうして飛び込んで来たのが、勝負を止めてアンタを助けようとしている、って事よ。
アタシはね、アンタとの因縁に、直接この手でケリを付ける為に飛び込んで来たのよ!!」
「……なっ!?
……こ、このクソアマァ!?」
言葉と同時に踏み込んだタチアナによって放たれた、急所を狙っての横薙ぎの斬撃に、咄嗟に反応できずに背後に転がる事でどうにか回避したネイザンは、暫し事態が呑み込めていない様な表情を浮かべていたが、再度タチアナが刃を振りかざした事によって現実を正しく認識したらしく、怒りを再燃させて得物を手に立ち上がる。
そして、油断無く得物を構えながら、審判であるシーラと、タチアナの背後にいるヒギンズへと視線を向けるが、両者が介入してくる気配が無いのを悟ると、その表情に怒りだけでなく弱者をいたぶる事が出来る喜悦を浮かべて得物を振りかぶる。
しかし、そのタイミングを狙っていたタチアナが、自身に取っての唯一無二の武器であり、かつてネイザンに『不要』と称された力を行使する。
「『筋力弱化』『二重弱化』!」
「なっ!?急に、装備が重く!?」
大上段に得物である大剣を振りかぶっていたネイザンは、突如として倍近くの重量へと変化した装備に驚愕し、同時に自身の筋力を弱体化された事によってソレを支え続ける事が出来ず、かと言って振り下ろす事も叶わずに、装備の重量に引っ張られる形で体勢を崩されてしまう。
ソレを狙って起こしたタチアナは、その隙を見逃す事をせずに得物である短剣を構えた状態で距離を詰めて行く。
しかし、ネイザンも腐っても一人前として認識されるCランクを保持している冒険者。
原因は不明であり、一番得意としている大上段からの振り下ろしが使えなくなったとしても、タチアナが自らの間合いに飛び込んで来たタイミングで横薙ぎに振るう事くらいであれば、一度で良ければやってやれない事も無い。
そうして、火に吸い寄せられる虫の如く飛び込んで来たタチアナに対して得物を振り回したネイザンは、次の瞬間には真っ二つになって地面に転がるタチアナの姿を幻視する。
……流石に、殺してしまえば審判から物言いが付く事になるだろうが、だとしても俺様を馬鹿にし腐った生意気なクソアマに天罰をくれてやれるのだから、その後の事なんぞ知った事か!!
そんなネイザンの内心での決意を嘲笑うかの様に、確りとその目で振るわれた刃の軌跡を捉えていたタチアナは、口元に嘲笑を浮かべながら、再度自らの『武器』を行使する。
「『筋力強化』『四重強化』!!」
ザンッ……!!!
「……ば、馬鹿な……!?」
そうして行使された支援術により、爆発的に身体能力を強化したタチアナは、横薙ぎに振るわれていた大剣の刃へと後出しで短剣を振るい、何て事は無い、と言わんばかりの様子で見事にその刃を両断して見せる。
目の前で突然起きた、信じられない光景に呟きを溢す事しか出来なかったネイザンは、まるで目の前の現実を認識出来ていない様な表情を浮かべながら、再度踏み込んで来たタチアナの手によって装着していた鎧ごと袈裟懸けに切り払われてしまうのであった。
「……そこまで!勝者、冒険者アレス率いる冒険者パーティー『追放者達』!」
そして、対戦相手が誰も立って居なくなってしまった事により、審判であるシーラの手によって、アレス達の勝利が宣言され、ソレによって観客からもたらされた歓声が訓練所に響き渡り、彼らの勝利を祝福するのであった。
取り敢えず、お仕置き(第一段)は終了?
次回、追撃のお仕置き(第二段)、かも?
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