『追放者達』、愚か者達を蹂躙する
阿呆達、蹂躙
「じゃあ、手筈通りによろしくねぇ~」
そう、引き締められた表情からは想像するのが難しい程に軽い調子で言い残したヒギンズは、何気無い様な足取りにて一人仲間達の中から歩み出ると、先頭を突っ走って突っ込んで来るネイザンへと向けて近付いて行く。
対して、無造作に進んでくる中年の龍人族に面食らった様な表情を見せるネイザンであったが、見るからに草臥れた中年男性であった上に、装備も自分達が使っている様な高級品と言う事では断じて無い様に見えた為に、『アレス達が卑劣にも雇った助っ人』では無く『数合わせの為に雇われた芽の出なかった新人』だと判断し、口許に浮かべていた嗜虐的な笑みを更に深め、手にしていた得物である大剣を振りかぶり、目の前に空気も読まずに出て来た素人を排除しようと振り下ろした。
本人としては、別に死ななければそれで構わない、と言う心境であったのだろうが、自ら目掛けて振り下ろされた刃をアッサリと左手の指だけで挟み込んで受け止めると、驚愕によって目を丸くさてアホ面を晒しながら一瞬だけとは言え固まってしまう。
当然、その隙をむざむざ見逃してやる程に優しくは無いヒギンズは、敵と認識した対象であれば例え相手が格下であろうが、互いの力量差を理解できない程に鈍かろうが、自身の想い人の元パーティーメンバーだろうが一切の情け容赦を掛けてやるつもりは無いらしく、刃を掴んだままの左手を捻る様にして動かす事でネイザンの身体をその装備ごと中へと浮かせ、腕の一振りでシーラが待機しているのとは逆側の訓練所の端へと目掛けて投げ飛ばす。
当たり前の話だが、そんな事をされるとも、また出来るとも思っていなかったネイザンを含めた『闇を裂く刃』のメンバーは、目の前で起きた光景が信じられなかったのかその足を止めて呆然としてしまう。
が、そんな隙を見逃してやる程にお人好しでも無ければ、また彼らに対して思う処がない訳でも無い彼らがぼさっと見ているだけで済ませるハズが無く、ヒギンズ共々さっさと駆け出して各自で予定していた相手の前へと躍り出る。
重戦士の前にはガリアンが。
弓術士と軽戦士の前にはナタリアと従魔達が。
魔術師の前にはセレンが。
双剣士と槍術士の前にはアレス。
そして、ネイザンの前には、彼を軽々と投げ飛ばしたヒギンズが、それぞれ得物を構えたり、戦闘体制を取ったりして『お前の相手は自分だ!』と言う事をアピールして見せる。
ソレに対し、事前の打ち合わせでは、格下故に敵戦力全体で一人ずつ落とそうとしてくるハズだ、と言う事を前提に話し合っていた彼ら『闇を裂く刃』は、想定外の事態に目を丸くするが、起こっている事の意味を理解すると徐々に頭に血を昇らせて怒りを露にするかの様に顔を赤く染め上げて行く。
そうなれば、言わずとも想像出来た通りに、罵声を浴びせながら望み通りにさっさと片付けてやる!と言わんばかりの勢いで飛び掛かって行く『闇を裂く刃』のメンバー達だったが、当然そんな事でやられる彼らではなく、特に危うげもなく攻撃を受け止め、回避し、迎撃に移って行くのであった。
******
「……テメェ、舐めてやがんのか!?
テメェみてぇなド素人程度が、俺達二人の相手のを出来ると思ってやがんのか!?」
「……お前に恨みは無いが、これも俺達が上に昇る為に必要な事だ。
痛い目をみて貰うが、ソレは自らの力量不足だと理解しておけ!」
そう吼えて、双剣士が両手に携えた長剣を振りかざし、槍術士が腰だめに構えた槍を突き出して行く。
しかし、舞う様に振るわれる双剣も、岩を貫き通す様な突きも、心底詰まらない、と言った様子を隠そうともしないアレスによって、欠伸混じりに払い退けられ、身体を揺らすだけで掠りもせずに回避されて行く。
最初こそ、只の偶然だ、こいつにそんな実力は無い!と自らに発破をかけ、両者共に攻撃の手数を増やしてひたすらに攻勢を仕掛けて行くが、その尽くを回避されて行くにつれて二人の顔色が悪くなって行き、最後には攻撃の手が止まってしまう。
無理矢理攻勢を仕掛け続けたが為にスタミナが尽き、肩を上下させて息を切らせる二人に対し、涼しい顔をしたままで汗一つ掻くこと無く攻撃の尽くを回避して見せたアレス。
そんな彼に対し、最初とは打って変わって化け物を見るかの様な視線を向ける双剣士と槍術士に、抜いて手に持っていただけの得物を向けながら、嘲笑混じりにこう告げるのであった。
「……それで?お遊戯の発表会はここまでか?
なら、お前らのお遊びに付き合うのも飽きたし、もう終いにしようか?」
******
「おやおや、この様子では私の相手は貴女ですか。
残念ながら、私は女性をいたぶるのが嫌いでは無いのですよ。特に、貴女の様な美しい方ならば、尚の事、ね。
なので、諦めて私達の勝利を飾る凱旋の音楽を、貴女と言う楽器で奏でて下さいね!」
かなり倒錯的な事を口走りながら、余裕綽々で呪文の詠唱に入る魔術師。
その姿は堂々としており、自らが頼りにしている魔法が発動する事を疑っておらず、また相対したセレンの身形から魔術師では無いと判断してか、完全に魔法を発動させる事にのみ意識を集中させていた。
「『―――刃よ!偉大なる神鳴にして、全てを裂く刃よ!我が呼び声に応えてその力をこの現世に顕現させよ!『雷撃の『光輝の炸裂』―――』』なっ!?目が、目がぁー!?」
「…………はぁ、あの方とは違って、洗練さの欠片も無い、長ったらしい詠唱です事。
確かに、私と同じく完全な後衛型である様子ですが、だからと言って私とアレを同類として認識されるのは、正直少々困るのですが……」
詠唱に集中するあまり、彼女の放った無詠唱での魔法を顔面に受け、その閃光によって眼を灼かれて詠唱を途切れさせて地面を転がる魔術師へと、物憂げに溜め息を吐きながら歩み寄って行くセレン。
そして、普段は浮かべている柔和そうな微笑みを口許から消すと、魔術師の足を払って転倒させ、メイスの役割も兼ねている杖を振り上げてその柄頭を真っ直ぐ急所へと振り下ろす!
「……がっ!?あはぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああああ!?!?!?」
絶大なる苦痛に、終焉に対する絶望と、本能僅かばかりの恍惚を混ぜ合わせた様な断末魔の叫びを挙げ、瞬時に海老反りの形になってから動かなくなる魔術師。
そんな、元『彼』に背中を向けながら、セレンは手に残る嫌な感触を振り払いながら呟きを漏らすのであった。
「……全く、この程度で私の可愛い妹分を連れ去ろうとするだなんて、身の程を知って頂きたかったですね……」
******
「おらっ!!吹っ飛べや!!」
ガギィン!!!
口汚く罵声を浴びせながら、相対したガリアンへと盾を構えての突撃を慣行する『闇を裂く刃』の盾役。
自らの体重と盾役としての経験、そして加速によって得られた速度による突撃であれば、例え相手が重装備に身を包んだ同じ盾役だったとしても、吹き飛ばして簡単に無力化する事が出来ると信じられるだけの、会心の一撃であった。
「はっはぁ!お前らみたいな素人が、俺達みたいな戦闘のプロに逆らうからこうなるんだよ!覚えときな!!」
「…………ほぅ?では、逆に問うが、当方は何を覚えれば良いのかな?」
「…………はぁっ!?」
が、自身の会心の一撃を真っ正面から食らいながらも、その場から吹き飛ばされる処か寸毫足りとも動かされた様子の無いガリアンが、同じく構えたり盾にて完全に攻撃を受け止めてから何事も無かったかの様に問い掛け、そこ言葉に有り得ないものを見た、と言いたげな反応を見せる重戦士。
そして、そんな彼の様子に構う事もせず、またその場から動いて助走を付ける様な事もせずに、自らの腕力のみにて重装備の成人男性を文字の通りに吹き飛ばしながら、彼はお返しの様に呟きを溢すのであった。
「……まったく、盾役と言うのであれば、この程度は軽くやって貰わねば困るのだがな。
取り敢えず、これだけは言っておこうか。これが、本物の突撃と言うモノだ」
******
「…………ちっ!どいつもこいつもだらしねぇなぁ。
この程度の連中相手に、ああまでしてやられやがるなんて!」
「……だが、それも我らで挽回すれば良いだけの事だ。
ソレに、そうなれば我らに対するボーナスは天井知らずになるであろうから、むしろこうなって良かったかも知れないぞ?」
「……ははっ!成る程、なら、あんなだらしねぇ連中も、俺らの役に立ってくれた、ってことかね!」
二人掛かり、と言う事もあってか、他のメンバー達が倒されて行く様を見ながらも、余裕綽々な姿勢を崩さず、会話も途切れさせずに続けて行く二人。
そうして会話を続けながらも、弓術士は矢を放つ手を休めず、軽戦士も何処にそんなにストックを持っているのか?と問い掛けたくなる程の量の投擲物を、彼らと相対したナタリアと従魔達へと目掛けて射掛け続けて行く。
流石に、遠距離攻撃を持たない彼女と従魔達に反撃の手段は無く、ただただ一方的に攻撃を受け続け、その結果としてハリネズミの様な状態へと成り果ててしまう。
その光景を目の当たりにし、流石にやり過ぎて殺してしまったか?しかし、審判が止める様子も見えないって事は、まぁ大丈夫なんだろう、と判断した二人は、その光景に背を向けて他の相手の処へと向かおうとしたその時であった。
「……あれ?もう、お終いなのです?
なら、今度はボク達の番なのです!」
そんな声と共に、針山と化していたハズの従魔達が徐にその身を起こし、ブルリと身体を揺すって見せる。
すると、まるで埃か水でも被っていたのが振り払われるかの様に、バラバラと全身から突き立っていた様に見えていた投擲物の数々が地面へと振り落とされ、無傷のままである従魔達がその姿を露にする。
そして、子供にしか見えないナタリアの振るわれた指の動きに従うようにして、弓術士へは狼達が、軽戦士へは熊が、それぞれ恐ろしい形相を晒しながら咆哮を挙げて突撃して行く。
目の前で展開された光景に、思わず腰砕けになりながら、なけなしの抵抗を試みる二人であったが、弓術士の矢は狼達の高速機動によって尽くを回避され、軽戦士の投擲は熊の毛皮によって弾かれて効果を現す事が出来ず接近を許す事になってしまう。
そして、弓術士は得物の弓を破壊され、肘や膝の間節を狼達に噛み砕かれて地面に転がされ、軽戦士はなけなしの抵抗として抜き放った短剣で熊へと斬りかかり、立ち上がった熊の左前足によるフック気味の張り手によって意識を彼方へと吹き飛ばされる事となるのであった。
「……さて、タチアナちゃんを苛めた子達へのお仕置きは、取り敢えず終わったのです。
後は、ヒギンズさんの方と、『その後』次第なのです」
まぁ、こうなるな
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