99 魔王様
それからのことを話すと、私たちは積極的に魔族と交流を持つことにした。
というのもクルミの希望で、勇者たちの情報を集めるためだ。
「魔族と交流を持ちながら、レンたちの情報を集めます。無事でいてくれたらいいんですが・・・」
「分かったわ。ルージュたちドラゴンを使った交易から始めましょう。ゴブリンたちと話したら、こちらの商品にも興味を持ってもらえたし、魔王国の肉類や魔石類はかなり安いからね。一度シュルト山に帰って、商業ギルドの代表者と話をしてみるよ」
「ありがとうございます。それで私なんですけど、しばらくこちらに残ろうと思います」
クルミは何だかんだ言って、勇者たちのことが心配で仕方がないようだった。
それから魔王国との交易は順調に進んだ。
商業ギルドの関係者は、魔王国の商品の質の高さに大喜びし、グレンザの町にも支部を開くとのことだった。これで益々交易が活発になった。また、冒険者ギルドも恩恵を受ける。いっぱい護衛依頼が舞い込んだからね。魔王国の商品はどれも高級品扱いだから、護衛料も他の護衛依頼に比べてかなり高い。みんなが得をしたということだ。
しかし、勇者の情報は一向に集まらない。
今日は、定期訪問で私とミウとダクラはルージュに乗って、オグレスが治める町にやって来た。
特にこれといった仕事はないけど、オーガたちに瞑想と太極拳を指導している。オーガたちの指導が終ったところで、オグレスに声を掛けられた。
「実は魔王様がこちらに来られていてね。アオイに会いたいそうだ。会ってくれるかい?」
断る事なんてできないだろう。
「魔王ってどんな奴なのかニャ?」
「オグレスよりも強いとなると・・・かなりヤバい奴だろうな」
私もそう思う。
オグレスが言う。
「まあ、驚くことになると思うよ」
★★★
応接室で待っていると、魔王が到着したのとの報告を受けた。
身なりを整えて、魔王との面会に臨む。
「えっ!!ゴブリン?」
魔王として紹介されたのは、ごく普通のゴブリン少女だった。
「魔王をやっています、リンダスです」
私が呆気に取られていると、オグレスが説明してくれる。
「驚いただろ?リンダス様はこう見えて、魔族最強なのだ」
どういうことだろうか?
「少し勘違いされているようですが、私が強いのではなく、理由があるんですよ」
そういうと魔王は、懐から一匹のカメを取り出した。
これに一早く反応したのは、ルージュだった。
「クメールではないか!?」
「あれ?ルージュ・・・久しぶりね」
ルージュに事情を聞く。
「このクメールは、妾たちと同じ古竜じゃ。種族は亀竜。まあ、見た目は普通のカメと変わらんがな」
「カメって言うな!!私はこれでも由緒正しいドラゴンなのよ。ルージュだって、私に勝てなかったしね」
「妾が負けたように言うでない。あの時は引き分けじゃったはずじゃ」
「そうだね。私が水流ブレス、ルージュがファイヤーブレスを撃ち合って、勝負がつかなかったね」
そんな古竜たちの会話は置いておいて、全く意味が分からない。
魔王が解説してくれる。
「私自体には、何の力もないんですがクメールの竜騎士となったことで、魔王にまでなってしまいました。ただ、可哀想なカメを保護しただけだったんですけどね・・・」
「リンダスまで、カメって・・・まあ、いいわ。あの時は本当に困っていたからね」
詳しく聞くと、クメールも竜王候補らしく、修行でこの大陸にやって来たそうだ。
そして、どうしていいか分からず、途方に暮れていたところを魔王であるリンダスが保護したそうだ。
「これでも役に立っているのよ。特に農作業なんかでね」
「本当に助かっていますよ。クメールのお蔭で収穫量が倍になりましたからね」
これも詳しく聞くと、農地に水を撒いているだけらしい。
しかし、無尽蔵に水を生み出せるので、どんな場所に行っても重宝されるようだった。
「妾も凄いのじゃぞ。大陸の大半の国を従えたのじゃ」
「へえ・・・でも、私はもっと凄いのよ・・・」
ドラゴンの自慢合戦が始まってしまった。
私たちはというと、ドラゴンたちを無視して魔王と今後について話し合った。魔王は、常識的な人物だった。こちらの事情を話すと理解を示してくれた。
「そういう事情はでしたら、できるかぎり協力させていただきます」
クルミの表情が明るくなる。
「よろしくお願いします」
魔王との面会を終えた私たちは、用意された部屋に戻った。この後開かれる晩餐会の時間調整のためだ。
ルージュが言う。
「魔王という奴は悪い奴ではないぞ。クメールが認めたのじゃからな。ああ見えてクメールは悪い奴には従わんからな」
何だかんだ言っても、ルージュはクメールを認めているようだった。
「分かったわ。じゃあ、魔族と交流を深めてもよさそうね」
「うむ。それはそうと、晩餐会に出てくる料理も楽しみじゃな。不味い料理であれば、妾が指導してやるがな。料理の知識はクメールよりも妾のほうが上じゃろうからな」
何が何でもマウントを取ろうとするルージュは無視して、私は晩餐会に臨むのであった。
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