98 魔族の町
魔族の町デモンズタウンに到着した。
この町はオグレスが治めているようで、魔王国には、このような町がいくつもあるそうだ。
町は活気に溢れていて、オーガやゴブリンだけでなく、多種多様な種族が共存しているようだった。
「獣人もいるニャ」
「ダークエルフもいるな」
「ドワーフもいるッス」
オグレスが解説してくれる。
「魔族との混血が多くてね。あれはドワーフじゃなくて、ダークドワーフと言うんだ。見た目はドワーフとあまり変らないけどね」
「魔族は野蛮な種族」というのが、この世界の人間の常識だ。
それには全くあてはまらない。
カリエスが言う。
「統治方法が気になるな・・・」
私もそう思う。
シュルト山も多くの種族が暮らしているが、それなりにトラブルはある。それでも何とか上手くいっているのは、ほぼ全員が「鋼鉄の聖女教団」の信者だからだ。同じ宗教を信仰しているから、それなりに妥協もできる。
魔族はどうなのだろうか?
その疑問はすぐに払拭される。
領主館に案内されると、多くのゴブリンがせわしなく働いていた。その中の一人のゴブリンがオグレスに声を掛けてくる。
「オグレス様、現在のところ異常はありません。いくつか、サインをいただきたい書類があるのですが・・・」
「ご苦労。明日にでも目を通すようにするよ」
そう言って、オグレスはゴブリンを下がらせた。
「町の業務はすべてゴブリンがやってくれているんだ。ゴブリンがいないとこの町は回らない。魔王国のほぼすべての町はゴブリンの優遇政策を取っているんだ」
詳しく聞くと、戦闘が得意な種族の中で、一番強い者が町を治めることになっているようだが、形だけのものらしい。
「ゴブリンたちを守ることが、私たち戦闘力の高い種族の使命だよ。それで上手くいっているよ」
なるほど・・・
実務ができるゴブリンを優遇し、戦闘力の高い種族は戦闘力を高め、弱い種族を守るという政策のようだった。
クルミが言う。
「現代日本とは、全く違った統治体制ですが、それなりに理に適っていますね。今まで魔族たちと接した感じ、無理にこちらに攻めてくるようには思えませんね」
私もそう思う。
その後、歓迎の宴が開かれ、交流は上手く進む。
★★★
次の日、私の元にクルミが訪ねて来た。
「これまで魔族たちと接してきて、レンたち勇者パーティーのことを正直に言ってもいいと思うんです。実害も出ていないようですし、話せば分かってもらえると思います」
少し悩んだ私は、カリエスたちと相談することにした。
結論として、カリエスが代表で謝罪をするということになった。仮に怒り出したとしても、ザマーズ王国の元王族たちを生贄にすればいいからね。
機を見てオグレスに事情を説明した。
「ほう・・・人間は面白いことを考えるな!!少数精鋭を集めて、魔族に挑戦するとは気に入ったぞ。その勇者パーティーとやらの到着が待ち遠しいな!!」
怒りはしなかったが、何か勘違いをしているようだ。
クルミが言う。
「多分、もう勇者パーティーは魔王国には入っていると思います。この町や他の町に勇者パーティーが来たという話は聞きませんか?」
「聞かないねえ・・・とりあえず、門番に確認してみるよ。それでも知らないようなら、他の町にも聞いてみてやるよ」
「ありがとうございます」
とりあえず、この町の門番に聞くことにした。
門番は若いオーガのオーグという男で、オグレスを見て緊張を隠し切れないでいる。
「お、お疲れ様です!!オグレス様」
「おう。ちょっと聞きたいことがあるんだけどね」
「な、何なりと!!」
お付きのゴブリンに聞いたところ、門番は戦闘職の者であまり強くない者が務めるそうで、オーグにしてみたら、オグレスは雲の上のような存在で、かなり緊張しているという。
「オーグはまだまだこれからの若いオーガです。戦闘力はそうでもありませんが、頭はいいので、門番をしてもらっているんです。本人はオーガで一番弱いと思っていますが、実際は中級くらいの実力はありますよ」
また、この町に勇者たちが来ていれば、ちゃんとした応対をするだろうとのことだった。
「勇者パーティーって知らないか?」
「勇者パーティーは分かりませんね」
クルミが会話に入る。
「私と同じくらいの年齢の三人組で、男が勇者、女二人が魔導士と剣士です。心当たりはありませんか?」
「人間の若い三人組ですね?それなら一度来たことがあります。その三人は問答無用で襲い掛かって来たので、コテンパンにして叩き出しました。多分酔っ払いだと思い、そのように報告しています。それと、その三人のお供もいました。コテンパンにした三人を連れて帰って行きました。詳しい日付について、今は分かりませんが、報告書を見れば分かると思います」
間違いない勇者たちだ。
カリエスが言う。
「あのレンたちを一介の門番がコテンパンにするなんて・・・魔族の戦闘力が尋常ではないということは分かったな・・・」
つまり魔族にしてみれば、勇者なんてその辺の酔っ払いと大差ないということらしい。
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