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97 魔族からの依頼 3

 結論から言うと、大成功だった。


 まず、領主を含めグレンザの町の住民がルージュたちが開発した魔物肉料理を気に入ってくれ、魔物肉の買取価格を倍にすることを決めた。そして、ゴブリンたちの護衛には領軍が就くことになった。これにはゴブリンたちやオーガたちも大喜びだった。今も目の前で、魔物肉料理にかぶりついている。

 ゴブリンの代表者であるゴブラスが言う。


「キラーグリズリーの肉が、こんなに美味しくなるとは思いませんでしたよ」


 不思議に思い聞いてみる。


「魔族の方は、あまりキラーグリズリーの肉を食べないんですか?」

「よっぽどのことがない限り食べませんね。その昔グレンザの町の領主に頼まれて、キラーグリズリーの肉を卸すことになったのですが、ずっと人間たちがキラーグリズリーの肉が大好きだと思っていました」


 そうなのか・・・


「魔王国ではキラーグリズリーは害獣として有名ですからね。肉も臭くて不味いし、処理に困っていたんですよ。だから、キラーグリズリーの肉が大好きな人間が喜ぶならと、私たちは代々この商売を続けてきたんですよ」


 領主が会話に入ってくる。


「そ、そうですよ・・・食べ方を工夫すれば、美味しくなるのですよ」

「勉強になりました。是非、料理法をご教示願いたいですね」


 領主は、これ幸いと話を進める。

 どうやら、本当のことを言わずにやり過ごすようだ。



 ★★★


 グレンザの町には10日滞在した。途中、シュルト山に何度か帰還したけどね。

 というのも、ルージュがシュルト山から一流の料理人を連れて来ると言って聞かなかったからだ。まあ、料理が更に美味しくなったから、嬉しい誤算ではあったけどね。


 それと、魔族との交流も進んだ。

 まずクルミだが、ゴブリンたちに大人気だ。怪我の治療をしたことで、ゴブリンたちに懐かれている。私はというと、武術の達人と勘違いされているようで、オーガたちに懐かれてしまった。今も多くのオーガから教えを請われている。

 仕方なく、瞑想と太極拳を指導している。


「心技体で一番大事なのは、心です。正しく強い心を持つことが一番なのです。そのためのトレーニングとして・・・」


 また適当なことを言って誤魔化している。

 それでもオーガの代表者であるオグレスからは絶賛されている。


「オーガは短気で、考えなしの奴が多いからね。アオイはその辺を改善しようと、このトレーニングを教えてくれているんだ!!しっかりやんなよ!!」


「「「はい!!」」」


 そんなつもりはないんだけど、効果は上がっているようだ。

 筋肉隆々で体の大きなオーガたちが集団で、瞑想や太極拳をしているのは、本当に異様な光景だ。


「つまり、何事も落ち着いて対処しろということだな・・・」

「落ち着いてみれば、攻撃を躱せるな」

「ああ、無理に攻撃を受け止めなくてもいいしな」


 ここまで来ると、「口から出まかせでした」とは言えない・・・



 そんな感じで、オーガとゴブリンと仲良くなったことで、オグレスが治める町に招待されることになった。危険だから、それとなく辞退しようという話もあったが、クルミがどうしても行きたいと言い出した。


「レンたちが心配です。どうしてもというなら、私だけでも・・・」


 そういえば、高校生勇者たちのこともあるからグレンザの町に来たんだった。

 すっかり忘れていたけどね。


 ミウとダクラに意見を聞いてみる。


「どっちでもいいニャ」

「どうしても行きたいわけではないが、行ってみてもいい」


 ルージュはというと・・・


「上手い物が食べられるのなら、わらわは構わんぞ」


 相変わらずだ。


「是非行きましょう!!聖女様が魔王国で活躍する姿を取材したいのです!!」


 えっ!!なぜ、アンさんがここに!?


 ノーリたちに聞いたところ、グレンザで取材しようと料理人に紛れ込んでやって来たらしい。

 迷惑記者だが、無駄に行動力がある。

 少し考えて、私は決断した。


「分かったわ。とりあえず、魔王国に行ってみましょう」


 こうして私たちは、魔王国に向かうことになった。



 ★★★


 グレンザから魔族の町までは5日程の行程だった。

 魔物が強力な以外は、特に変わりはなかった。オーガたちが強いから、特に危険なことはなかったけど、同行していた冒険者たちは、怯えきっていた。


「こんな強い魔物がゴロゴロいるなんて・・・」

「Aランクの冒険者でも、全滅するかもしれないな・・・」


 カリエスが解説してくれる。


「戦闘を見たところ、オーガは軒並みAランク冒険者以上の戦闘力があるようだ。奴らが攻めてきたら大変なことになるな」


 かなりの戦力か・・・だったら、外交で攻めて来ないようにしないとね。


 そう思った私は、魔族たちに愛想を振りまく。

 そうしたところ、魔族たちとの距離はどんどんと縮まっていった。なので、少し突っ込んだことを聞いてみた。


「ところで、魔王国に人間の勇者パーティーは来ませんでしたか?結構な実力者だと聞いたことがあるですが・・・」


「来たことはないと思うが・・・」


 一体、高校生勇者たちはどこに行ったのだろうか?


 私たちの会話にクルミも入ってくる。


「人間の冒険者とかは、魔王国に来たことはないんですか?」


「偶に腕試しに来る奴はいるぞ。ただ、門番にすら勝てないから、落ち込んで帰って行くがな」


 オーガたちが言うには、何年かに一度はそうした冒険者が来るらしい。

 落ち込むクルミに私は言う。


「もしかしたら、商人のフリをして町に入ったりしているかもよ?」

「そうだったら、いいんですけど・・・」


 その可能性はかなり低いだろう。

「俺強ええ!!」を地で行く彼らが、そんなことをするわけないしね。

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