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95 魔族からの依頼

 訳も分からずオーガの族長のオグレスと決闘することになってしまった。

 領主館に併設されている訓練所に移動する。


「散々待たされたあげく、こんな弱そうな奴を連れて来て、アタイは腹が立って仕方がないよ。まあいい。早く武器を持って、掛かってきな」


 武器と言われても・・・


「私は素手で戦いますので、このままで構いませんよ」

「舐めてんのかい!?だったら、後悔させてやるよ」


 素手で戦うと言っただけで、激怒させてしまった。

 オグレスはというと、巨大な棍棒を振りかぶり、私を殴り付けてきた。当然、「鋼鉄化」のスキルを発動させる。


 カキーン!!


 いつもどおり、ダメージを受けない。


「何だと!?」


 オグレスは驚いている。

 それでも、オグレスは私を殴り続けた。だが結果は同じだ。全くダメージは受けない。そして、オグレスの巨大な棍棒が砕け散った。


「そ、そんな・・・オーガ族に代々伝わる鬼棍棒が・・・」


 かなり思い入れのある棍棒だったようで、オグレスは茫然としている。


 チャンスだ!!


 私は全身の「鋼鉄化」を解き、右拳のみ「部分鋼鉄化」させる。


「聖女パンチ!!」


 私の右拳が、茫然としているオグレスの腹部に直撃した。

 予想していたことだけど、オグレスには私の渾身の一撃は、全く効かなかった。それはそうだ。オグレスは筋肉隆々だし、私のパンチ力が多少上がっているとはいっても、オグレスをダウンさせるほどの威力はないからね。


 しかし、予想外のことが起きる。

 いきなり、オグレスは跪いた。


 あれ?私の聖女パンチの威力が上がったの?


 そうではなかった。


「オーガ族族長オグレス、これまでの非礼を詫びる。助命感謝する」


 多分オグレスは、私にはいつでもオグレスを殺せる力があり、パンチを寸止めしたと思っているようだった。もう一度言うが、寸止めではなく、渾身の一撃だったけど。

 ただ私は、この勘違いを利用することにした。私もこういったことは慣れているからね。


「オグレスさんのパワーにはびっくりしました。これからいい関係を築いていけたらと思います」

「なんと慈悲深い・・・オーガ族は貴殿を友と認める」


 色々あったけど、オーガ族との外交は成功したようだった。



 ★★★


 場所を会議室に移して、オグレスたちの要求を聞く。

 その前にクルミやカリエスたちと打ち合わせを行った。


「多分、レンたち勇者が何か問題を起こしたんだと思います」

「我もそう思う。その場合の対処法は、チャールズ殿から授けられている。再度確認しておこう」


 勇者パーティーである高校生たちが何かやらかした可能性が高いということで、事前にその話が出た時の対策を練って来ていた。その対策というのが、全く知らないフリをするというものだ。


「大丈夫ですよ。知らないフリ作戦ですよね?それで文句を言ってきたら、持ち帰って検討する。最悪はザマーズ王国の元王族たちに責任を取ってもらうってことですよね?」

「その通りだ。アオイ殿のお陰でオグレスたちオーガとは、いい関係が築けそうだからな」


 クルミが心配そうな表情で言う。


「できれば、あまり悪いことをしていなければいいんですが・・・」

「心配だと思うけど、あまり表情に出さずにいきましょう。まずは相手の要求を聞いてからね」


 そして、いよいよ交渉に臨む。

 交渉が始まり、すぐにオグレスは魔族の集団を会議室に入れた。


「おい、入って来てくれ」


 入って来たのは、緑色の体色をした小柄な魔族の集団だった。

 身長はみんな小学校高学年くらいで、全員が怪我をしていた。


「コイツらはゴブリンたちだ。最近ゴブリンたちの商会ばかりを狙う盗賊が出現したんだ。それで相談に来たんだ」


 予想に反して、勇者が問題になっているようではなかった。

 詳しく聞くと、魔族の人口の7割はゴブリン族だという。魔族と言っても、ゴブリンは戦闘力は低い。ただ、集団行動が得意で勤勉であるため、魔族の国である魔王国の根幹を支えているそうだ。


「コイツらは戦闘力は低いが、コイツらがいないと魔王国は成り立たないんだ。魔物を狩ったり、荷物運びなんかは、アタイらでもできるけど、商売や国の管理なんかはゴブリンたちにしかできないんだ」


 怪我をしているゴブリンたちは、オグレスに褒められたことで、誇らしそうにしていた。


「それでゴブラス、詳しい事情はお前が話してくれ」

「分かりました、オグレス様」


 ゴブラスというゴブリンの取りまとめをしている男が言うには、ゴブリンたちだけを狙う盗賊が出現して困っているという。


「不思議なことにオーガたちが一緒にいる時には襲われることはないんですよ。襲われるのは、私たちだけで、魔王国に帰っている時です」


 更に詳しく聞くと、グレンザの町では襲われたことはないそうだ。

 領主が慌てて言う。


「魔族に手を出すような命知らずは、この町にはいませんよ。ゴブリンにそんなことをしようものなら、オーガを含めた戦闘力の高い種族がやって来て、ボコボコにされる。地元のスリだってゴブリンは狙いません。町を出てからも、ゴブリンを狙うなんて地元の盗賊じゃないですね」


 私が疑問に思ったことを口にする。


「対処療法でしかないと思いますが、オーガの皆さんが交替で護衛に就くのはどうでしょうか?」


「それはできないね・・・オーガは飽きっぽくて、大喰らいだからね・・・」


 オグレスが言うには、オーガは戦闘力は高いが気分屋が多く、更にみんなよく食べるので、護衛には向かないらしい。


「オーガたちを護衛にしたら、大赤字ですよ・・・採算が取れません」


「だったら、人間の冒険者を護衛にすればどうでしょうか?」


 少し考えて、ゴブラスは言った。


「盗賊はオーガには勝てませんが、その辺の冒険者なんかよりは、格段に強いんです。私たちも一度、人間の冒険者を雇ったことがありますが、結果は同じでした。もっとランクの高い冒険者を雇おうとも思ったのですが、そうなると結局赤字です。ですので、グレンザとの交易自体を停止しようという意見もあるくらいです」


 これには領主が焦り始める。


「そ、それは困ります。魔王国からの魔物肉で、この町の住民は飢えずにいるのです。買取り価格を上げてもいいので、交易停止だけは考え直してください。そうだ聖女様。何とかなりませんかね?」


 ここで私に振るのか・・・


 みんなが期待を込めた目で、私を見てくる。


「分かりました。少し考えてみましょう」



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