88 帝国の使者
私たち「鋼鉄の聖女団」は、チャールズを中心に何とか外交的解決を試みようと奮闘している。
ライダース帝国の陣営にも、小国家群連合にも属していない国を中心に外遊する。意外なことにゴールデンサマスが大人気だった。なので、私たちの最近の仕事は、専らゴールデンサマス漁だ。聖女ではなく、漁師と言ったほうがいいかもしれないくらいだ。
外交努力の結果、何とか大きなトラブルは起きておらず、今日を迎えた。
今日は、アベル皇子の兄で第五皇子のカイン皇子が面会にシュルト山にやって来た。皇子であり、外交官という立場での面会だ。
応接室で応対をする。当然、アベル皇子にも同席してもらった。
「兄上!!」
「アベル、元気だったかい?」
「元気です。それに竜騎士にもなれましたしね」
「それはよかった・・・」
カイン皇子は、アベル皇子と母親が同じらしく、昔から仲が良かったという。カイン皇子は私に向き直って言った。
「聖女殿、弟が世話になり、お礼を申し上げます。しかし、仕事は仕事ですので、我が帝国の要望をお伝えしなければなりません。一言で言えば、属国になれということです」
「兄上!!それは、あんまりです」
チャールズも続く。
「カイン皇子、流石にそれは無理です。交渉の余地はないということですか?」
「帝国の要望は伝えました。ここからは独り言になるのですが・・・」
カイン皇子が語ったのは、深刻な事情だった。
「私とアベルを含め、帝国には7人の皇子がいます。それに加えて、叔父や従兄のような皇位継承権を持つ者も多くいますが、流石に7人いる皇子を差し置いて、皇位が転がり込むことはないので無視してもらってもいいでしょう。話を7人の皇子に戻しますが、アベルと同じく皇位継承権を放棄したのは、第六皇子、第四皇子です。この二人は属国の王女との婚姻が決まっています。私は皇位継承権を放棄してはいませんが、騎兵の才能は皆無で到底皇帝にはなれません。将来は文官として、帝国に貢献しようと考えておりますので、次期皇帝が決まった段階で皇位継承権を放棄しようと考えております」
アベル皇子が口を挟む。
「そんなことは、分かっているよ!!僕たちが聞きたいのは、そんなことじゃない」
「アベル、独り言なんだから、口を挟まないでくれるかな?それじゃあ、独り言を続けますね」
そう言うと、カイン皇子は話を続けた。
「今のところ、次期皇帝は第一皇子、第二皇子、第三皇子に絞られています。私を含めた他の皇位継承権を持っている者からすると、如何に高値で自分を売るかということですね。それで、現在の皇位継承権争いは、熾烈を極めています。三人に明確な優劣がなく、何とか手柄を上げようと三人とも必死です。そして、我がライダース帝国は侵略国家だ・・・となると、分かりますよね?」
つまり、三人の皇子が手柄欲しさにこちらの領土を狙っているということだ。
「父上・・・皇帝陛下の意向としましては、平和的な解決を望んでおられます。しかし、ここで下手に出れば、たちまち皇帝の座を奪われ兼ねません。ですので、私が参ったのです。先程、「属国になれ」という要望を伝えたのも、そのためですよ。当然無理でしょうから、何か落としどころを模索したいと思いましてね」
更にカイン皇子は続ける。
「私は根っからの平和主義者ではありません。帝国の利益を考えれば、戦争はしないほうがいいという結論に達しただけですよ。こちらの戦力を見れば、勝ち負けは別にして、我が帝国も大損害を受けますからね。当然、皇帝陛下も分かっています。しかし、ここで弱腰な姿勢を見せることはできませんし、三人の兄たちは、既に挙兵する準備を整えています」
私は意見を言った。
「つまり、三人の皇子たちに私たちの戦力を見せつけて、侵攻を諦めさせればいいということですか?」
「そういうことですよ。ただ、あまりやり過ぎると、こちらも引っ込みがつかなくなります。勝手なことですが・・・」
だったら、やりようがある。
ルージュに頼んで、ドラゴンをいっぱい集めて、威嚇してもらおう。
しかし、この作戦は却下された。
「妾たち古竜が、人間の争いに首を突っ込むのはご法度じゃ。その昔、大変なことになったようじゃからな」
ルージュが言うには、人間の争いに首を突っ込み、双方がドラゴンに協力を求めていたので、最終的には、ドラゴン同士の戦いになってしまい、多くの国が滅びたそうだ。
「それはやめたほうがいいニャ」
「ドラゴン同士の争いなんか、想像もしたくない」
ミウとダクラの言うとおりだ。
そんな時、スタッフからの報告が届いた。
「失礼します。ラドス王国、リドア公国、ルクレア共和国の国境付近に大規模なライダース帝国軍部隊が配備されたようです」
カイン皇子が言う。
「我々がよくやる手です。名目は軍事演習・・・そこから、偶発的な戦闘が起きるというシナリオですね・・・」
どうやら、情勢はかなり切迫しているようだ。
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