84 ドラゴン襲来
ルージュが空に火の玉を撃ち上げてから、3時間程経った頃、空に巨大なドラゴンの群れが出現した。
その数はおよそ30体、率いているのはルージュの母親である竜王だ。ドラゴンの集団が舞い降りる。
「ルージュ、フェルス。これはどういうことですか?非常用の救難信号を出すとはいうことは、いたずらでは済まされませんよ」
「母上!!いたずらなどではありません。この子竜を見てくだされ!!場合によっては、国一つを滅ぼさなくてはならんと思って、救難信号を出したのです」
竜王は、アベル皇子が抱きかかえているピーコを見て表情が変わる。
「この子は・・・間違いありませんね」
竜王が引き連れているドラゴンたちがざわつく。
その一段の中から、緑色のドラゴンが信じられないスピードで、アベル皇子に向かって行った。
「貴様か!!愛しの我が子を攫いおって!!八つ裂きにしてくれるわ!!」
そのドラゴンは、前足を振り上げ、勢いよくアベル皇子に振り下ろした。
危ない!!
私は咄嗟にアベル皇子を庇った。
カキーン!!
「鋼鉄化」のスキルを発動させたので、私は無傷だった。
「ちょっと落ち着いてください。まずはお話を・・・」
「うるさい!!黙れ!!」
全く話を聞いてくれない。
「ルージュ!!何とかしてよ!!」
「仕方ない・・・母上!!ウィーラ殿を止めてくだされ」
竜王が言う。
「ウィーラ!!落ち着きなさい!!まずは弁明を聞きましょう」
竜王も止めるには止めてくれたが、目は笑っていなかった。
★★★
場所を会議室に移して、双方から事情を聞く。
まず、このピーコという子竜は、風竜でウィーラというドラゴンの娘だという。ウィーラによると5年程前に卵の状態で盗まれたという。
「いい風に当ててあげようと、草原に卵を置いておりました。しかし、草原に卵を置いたことを忘れてしまって、10日程放置してしまいました・・・」
それって、アンタが悪いんじゃないのか?
というか、現代日本でそんなことをすれば、育児放棄だろう。
しかし、そんなツッコミを入れることはできず、話を聞く。
アベル皇子が言う。
「5年程前に僕が管理している領地の草原でピーコを見付けたんだ。弱っていて、怪我もしていたから、可哀想だと思って保護したんだ。ピーコは賢く、将来は僕の騎竜として育てようと思って・・・」
二人の証言が一致する。
竜王が口を開く。
「ウィーラ、この少年を怒るよりも、ここまでこの子を育ててくれたことに礼を言うべきですね」
「そ、そうですね・・・少年よ、礼を言う」
そこからは落ち着いて話し合いができた。
ただ、問題もあった。
「もう名付けは済んでいるんですね・・・ところで、なぜピーコと?」
「それは・・・「ピーピー」と鳴くからだよ・・・」
ウィーラが激高する。
「何だと!!何と浅はかな・・・」
「ウィーラ、気持ちは分かりますが、この子も気に入っているようですし・・・」
「そうですね・・・この際、仕方ありません」
色々あったけど、誤解は解けたようだった。
「そこの少年。褒美は、また後日持って来てやろう。とりあえず、ピーコは連れて帰る。いいな?」
有無を言わせない迫力があった。
アベル皇子は、渋々ピーコを差し出した。しかし予想外のことが起こる。ピーコがアベル皇子から離れなかったのだ。
「ピー!!ピー!!」
ウィーラが言う。
「離れたくないですって・・・」
「ウィーラ・・・この子もこの少年に情が湧いたのでしょう・・・無理やり引き離すのは、忍びないですね」
「おい、少年。仕方ないがお前も竜の国に連れて帰ってやろう。すぐにここを発つぞ」
これには老騎士のセバスが声を上げる。
「それは無理です。こちらはライダース帝国第七皇子、アベル殿下であらせられます。そのようなことは・・・」
「うるさい!!国を滅ぼされたいのか?」
議論が行き詰ってしまった。
しばらくして、会議の参加者が私を見つめていることに気付いた。
私にどうにかしろと?
流石にそれは無茶ブリだろ・・・
私は、また適当なことを言ってしまう。
「色々あると思いますが、とりあえず、ここでしばらく暮らしてみてはどうでしょうか?こちらには、ルージュもフェルスもいますし、ドラゴンの方専用の施設も完成していますから・・・」
それは本当だ。
竜王の希望で、ドラゴンが宿泊できる施設を建設している。断れなかったんだけどね。まあ、建設費は、宝石で払ってくれたから、損はなかったけど。
竜王が言う。
「その案を採用しましょう。それに私もここにしばらくは留まります。温泉も料理も気に入ってますし、世界樹の近くでお昼寝をすると、本当に気持ちがいいし・・・」
アンタがここに居たいだけだろうが!!
というツッコミは、もちろん入れられない。この辺はルージュとよく似ている。
ミウが言う。
「もう何も驚かないニャ・・・アオイのすることは」
「ただ、ここは聖地だけでなく、ドラゴンの里にもなるのか・・・私には理解不能だ」
ミウとダクラも現実逃避しているようだった。
こうして、シュルト山は第二のドラゴンの里となっていくのだが、それはまた別の話だ。
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