83 王子の事情
ミウとダクラに事情を聞く。
まず最初にライダース帝国の内情について、教えてもらった。ライダース帝国は大陸一の勢力を誇る国だ。建国以来領土拡大を続け、その原動力となったのは自慢の騎兵隊だ。機動力に優れ、打撃力もある。領土の大半が平原だったことも大きかったようで、瞬く間に大陸最大領土となったようだ。
それが元で、ライダース帝国軍は騎兵至上主義になっていったそうだ。
「魔導士も弓兵も騎兵隊のサポート要員という位置づけだニャ」
「騎兵にあらずんば、軍人にあらずという格言もあるくらいだからな」
そんな状態なので、皇位継承にも大きく影響する。
皇帝となるのは、騎兵としての能力が大きな評価項目になるらしい。
「それは分かったんだけど、何で一介の魔導士のミウと弓兵のダクラがアベル皇子と面識があるのよ・・・」
「それは・・・あまり言いたくはないニャ」
「私もだ」
そんなとき、アベル皇子が声を上げる。
「僕が教えてやるよ。この馬鹿どもの所為で・・・僕は・・・」
アベル皇子は第七皇子で側室の母を持ち、あまり期待されていなかった。それがジョブ鑑定で一変する。なんとジョブ鑑定で、伝説のジョブ「竜騎士」であることが判明し、一気に次期皇帝候補になったそうだ。しかしジョブは「竜騎士」だが、騎乗するドラゴンがいない。ライダース帝国騎兵隊には、馬だけでなく、小竜と呼ばれる騎竜に乗る部隊もあるらしく、その騎竜に騎乗しても大して他の騎兵と変わらなかったそうだ。
それでも何とか努力して、功績を上げようと積極的に軍事作戦に参加していたそうだが、ミウの誤射やダクラが勝手に討伐対象の魔物を討伐したことによって、出動する度に評価を落していった。そしていつしか、ポンコツ皇子や出涸らし皇子と呼ばれるようになったそうだ。
ルージュが言う。
「そもそもの話、小竜などドラゴンではない。ただのオオトカゲじゃ。竜騎士のスキルを活かせるわけがなかろう」
「そ、そんな・・・」
アベル皇子はショックを受けている。
伝説のジョブを得ても不遇な目に遭ってきたことに私は同情した。私だって、不遇なジョブということで、ザマーズ王国を追放されたからね。我儘で常識知らずだけど、少し優しくしてあげようと思ってしまった。
「なかなか結果が出ないから、ここに来たというわけですね?」
「そうだ。小竜も駄目、それに期待のワイバーンは僕を乗せるには小さすぎるし・・・」
何とかしてあげたいけど、どうしようもない。
「そんなことより、ライダース帝国の騎兵隊はどうするのニャ?」
「そうだ。私たちは、それをアオイに伝えに来たのだ」
そういえばそうだった。
「多分、僕が指揮している竜騎兵隊だ。僕が勝手に帝都を抜け出して、ここに来たからね。でもなぜ、ここが分かったのだろうか?」
「それは置いておいて、まずは騎兵隊と話をしてもらえますか?」
「分かった」
★★★
私たちは、急いで町の入口に向かった。
アベル皇子が拡声の魔道具で騎兵隊に伝える。
「アベルだ!!すぐに武装を解除しろ。心配するな!!」
すぐに騎兵隊から返答があった。
「殿下!!ご無事で何よりです。部隊はここで待機させます。私のみ、そちらに向かいます!!」
一騎だけ、小竜に乗った老騎士がやって来た。
「セバス!!心配をかけて、すまなかった」
「本当に心配をしたのですよ。てっきり誘拐されたのかと。それにここは敵国・・・ではなく、国交がありませんし・・・」
今、敵国って言ったよね?
多分、勢力が急拡大した私たちをライダース帝国は危険視しているのだろう。まあ、大国からしてみれば、得体の知れない集団なのは理解できる。
アベル皇子は、セバスと呼ばれた老騎士に事情を説明していた。
「お気になさらずに・・・何があっても殿下は殿下です」
「そうは言っても、僕がこのままだと、竜騎兵隊は解散だ。そうなれば、みんなも・・・」
「それは仕方がないことです」
アベル皇子とセバスの会話から推測するに、全く功績を上げず、役立たずのアベル皇子は辺境に近々追放される予定で、率いていた竜騎兵隊も解散。隊員は散り散りに他部隊に編成されるようだ。そうなると、隊員たちは、新たな配属先で不遇な目に遭うようだった。
「セバス、すまない・・・交渉は失敗した」
「そんな・・・お気を落さずに」
「ところで、どうして僕がここに居ると分かったんだ?」
「それは・・・」
セバスが言い掛けたところで、セバスの懐から子犬サイズの緑色のドラゴンが飛び出てきて、アベル皇子に飛びついた。
「ピー!!」
「ピーコ!!お前にも心配をかけてすまなかった」
「ピーコのお蔭です。ピーコがここまでの道案内をしてくれたのです」
ピーコと呼ばれている緑色のドラゴンについて、アベル皇子は誇らしげに紹介してくれた。
「怪我しているピーコを5年前に保護したんだ。すごく賢くて、可愛いんだ。ただ、小さいから僕は乗れないけど、自慢のワイバーンなんだ」
アベル皇子は、このワイバーンを育てて大きくして、騎乗しようと考えていたようだが、小さいままなので、その作戦も失敗に終わったようだけど。
そんな話をしていたところ、子犬サイズから元の大きさになったルージュが突然、怒りに満ちた声を上げた。
「おい!!小僧!!偉大なる古竜をワイバーンと呼ぶなど、貴様は舐めているのか!?」
「そ、そんな・・・ピーコはワイバーンだろ?」
「貴様、一度ならず二度までも、許せん!!」
なんか同じような経験をしたことがあったなあ・・・
そんなことは置いておいて、ルージュを止めないと!!
「ルージュ!!落ち着いて。まずは説明してくれない?」
「このピーコというのは、ワイバーンのような下等生物ではない。妾たちと同じ古竜。しかも行方不明となっていた風竜の赤子じゃ。そうじゃ!!こうしてはおれん。母上に知らせなければ!!」
ルージュは口から今までに見たことのないような、巨大な火の玉を吐き出した。
その火の玉は空高く上がり、上空で制止した。すぐに普段はのんびりしているフェルスが飛んでやって来た。
「ど、どうしたんだい?ルージュ」
「どうもこうもないわ!!見れば分かろう?」
「あっ!!この子は・・・」
「行方不明となっていた風竜の赤子じゃ」
ルージュとフェルスの態度から察するに、間違いなく大変なことになりそうな予感がした。
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